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さらば、迷宮都市

「いのち無き物を切り、いのち有る者を斬らぬ剣、主はそう言っていた」

「命……なんだって?」

「要は、生き物以外の何でも切り裂く剣だ」

「ふぅーん……すっごく切れ味のいい剣……なんでこんなに大事に納められてたんだろう」

「いえ、マスターこれは……」

「愚か者。これこそ我が主の最高傑作にして禁忌の業の結晶よ」

「物騒だなぁ……どういう事? ナル」

「マスター、剣を引き抜くときに転んだでしょう」

「う、うるさいな」

「台座の傷を見て下さい。マスターが転んだ時、

 剣が描いた軌跡がそのまま台座の傷と一致します」

「あー、あの時全く抵抗がなかった……けど……」


 そこまで言ってようやく合点がいった。

 これってやばいやつじゃないのか?


「ようやく気付いたか」

「マスター、この剣は既存の概念をひっくり返すものです」

「我が主は、敵を傷つけず勝利するには、常々そんな夢物語を考えていた。

 その思想をもって最高の技術で作り上げたのがこれだ。

 だが、出来てから気付いた。この剣は防御不可能。危険すぎるものだとな。

 だからこそ、一振りだけ作った後ここに封印した」

「なんでそんな物騒なもの、僕に渡すのさ!」


 こんなの、もし悪人の手に渡ったらえらいことになるぞ……

 試しに腕辺りに少しだけ刺してみる。ゆっくり……

 剣が防護服に触れた瞬間、一瞬で防護服が限界突破した。

 

「うそっ!?」


 びっくりして思わず剣を取り落とした。

 剣は僕の服だけを切り裂き、刀身が地面に吸い込まれた。

 部屋の中に、カツーン、と柄が床とぶつかる音だけが響く。

 怪我……はないけど、確かに刀身が僕の腕をすり抜けていった。

 

「お前はな、どこか主に似ている」

「主……ってこの部屋の?」

「そうだ。勇猛果敢とは言えなかったが、

 それでも護るべきものを護るときには、決して逃げないお方だった」

「ふふふ、そうでしょう」

「なんでナルが誇らしげなのさ……」


 シャンガルにぼろんちょにされた闘いだったけど、

 あれでどうしてシャンガル的には気に入ったらしい。


「レスト、お前、その剣をどうする?」

「え? うーん」


 しばし長考。

 そうだなぁ、これがあれば少なくとも接近戦では無類の強さを発揮するな。

 防護服に物を言わせて剣を振り回して、

 僅かでも相手の武器に刀身が触れれば勝ち、か。

 まぁ徒手空拳で制圧されたらどうしようもないけど。

 でもなぁ。


「うーん、出来るだけ使いたくないからポーチで眠ってもらうかなあ」

「ほう」

「こんなの存在だけでも知られたらまずいでしょ。万が一奪われたら、終わりだ」

「外のやつらにも言わんのか?」

「言え……ないなあこれは」

「……ふ、ふはっ、ふはははは!」


 シャンガルが笑い出す。外での待機組が何事かと部屋の中を覗いてくる。


「我が主も作ったはいいが、ずっと隠していたのだ。

 我ですら存在を知ったのは、ここに封印してくれ、と今際の際に頼まれた時だ」

「あー……なんか気持ちはわかる」

「だがな、お前が認める者が現れれば、託してみろ、とも言われた。

 お前であれば、正しく使える。そんな気がするぞ。

 レスト・スレインズ。臆病で勇敢なトレジャーハンターよ」


 妙に買いかぶられてるけど、使うべき時は使うよ? ……まぁいいや。

 はぁ、リューちゃんもそうだけど、表に出せないお宝ばかり手に入るなぁ。

 もっとこうさ……この防護服みたいに、どうだ凄いだろ! みたいな物を!

 まぁリューちゃんは物じゃないけど。


「お、出てきたな。何貰ったんだ?」

「レスト君、見せてよ!」

「あー……内緒」

「です」

「えー! 何よそれ!」

「ふ~む、見せたくないもの、かな~?」

「見せたくないというか、見せられないというか……」

「……そっか~、ならよし!」


 こういう時はリアさんも突っ込んでこない。

 フィオナとルークさんがぶーぶー言ってたが、リアさんに宥められている。

 さて、帰りましょうか。


「あれ……」


 と、宝物殿から出ると、あのロボットはだいぶ手前まで来ていた。

 僕らは近寄って作業を見てみる。

 お掃除も残すところ2つのお墓だけのようだ。

 へぇ、おなかの中に格納装置があって、中にお掃除道具があるのか。

 左手で乾いた布を取り出すとじわり、と布が濡れていく。

 どうやら、左手の掌に水を出す機構でもあるようだ。

 あれで花に水もやっているのだろう。

 お墓を拭き終えると乾いた布で水分を拭きとった。

 今度は右手を突き出すと、人差し指の先から塗料がじわり、と染み出してきた。

 便利だなぁ……色はあれで足してるってわけか。


「シャンガル」

「なんだ?」

「僕も、あれ手伝っていいかな?」

「無用だと…………ふ、まぁいい、手前の右端。あれが我が主の墓だ。

 挨拶がてら、掃除でもしていけ」

「あ、私も私も」


 せっかくの機会だし、お墓参りも兼ねて墓掃除を手伝うことにした。

 最後の王の墓石は、何とも色とりどりで、何ともいびつな形をしていた。

 これも、例の子供たちが作ったらしい。王様から直々にお願いして。

 さて、掃除するとは言ったけどどうしよう。ポーチに布なんて入れてたかな、

 なんて考えてると、いきなり僕の目の前に手が差し出された。


「うわ、びっくりした」

「あ、レスト君、それ」


 手を出してきたのはロボットだった。

 その大きな手には、濡れた布と乾いた布が一枚ずつ乗っている。

 手に取ってロボットの顔を見ると、丸い目を2、3回点滅させた後

 戻っていってしまった。


「後はお前たちに任せた、という事だ。丁寧に頼むぞ」


 なるほど、なかなか応用の効くロボットだ。

 僕が濡れた布で拭いて、リアが乾いた布で拭いていく。

 正直、すごく綺麗なので掃除の余地はなかったけど、

 出来るだけ丁寧に拭いた。

 その後は、みんなで手を合わせてお祈りして、僕らは霊廟を後にした。



「ここでお別れだ」


 霊廟からの帰り道はすごく楽だった。

 霊廟から出口まで直通。本来は、こうなっているらしい。

 でもシャンガルとはここでお別れ。

 ここから外に出ると機能停止するよう、シャンガルが技術者にインプットさせたらしい。

 手足だけ置いていけば、後はメンテナンスドローンが直すとか。


「……なんだか寂しくなるね」

「ふん……気が向いたらまた来るとよい。お前達であればまた案内してやろう」


 殺されかけたけど、話してみると案外気のいいおじいちゃんだし、

 シャンガルもどこか寂しそうだ。

 フィオナはまた涙目になっていて、ルークさんがポンポンと肩を叩いている。


「は? ガルガルは連れて帰るにきまってるじゃ~ん」


 は? って。いやこっちがは? なんだけどリアさん。


「なんて顔でこっちを見るんだよ~みんな~。

 店の高いところにあるやつ、取るの大変なんだよね~。にへへへ」


 この人は……もう何だろう。


「ナルる~ん、ちゃちゃっとさ、ガルガルの命令書き換えてよ~」

「あのですね、リアさん……私を何だと」

「我のプログラムがそう簡単に書き換えられるものか。

 ましてやそいつ、先ほどの戦いで何もできていなかったのだぞ」

「…………ほう」


 あーもう、どうしておじいちゃんもいちいち言動に棘を持たせるかなー。

 ちょっとナルがやる気になってるじゃないか。


「……私にプログラムが書き換えられないかどうか、やってみますか?」

「ふん、面白い。これも闘いだ。

 挑まれた以上、我からもそちらに侵食してやろう」


 あーダメだ。もうダメです、ダメですねこれは。


「マスター、早く私をシャンガルの頭に付けて下さい。電子頭脳はそこにあります」

「レスト、早くしろ。それとお前の相棒が使い物にならなくなっても恨むなよ」

「はいはい……」


 ナルを外して、シャンガルの頭につけてやる。ペタッとね。

 結果はもう見えてるけど、後は野となれ山となれ……


「なんだ、この程度のプロテクトですか。これであれば……」

「こいつ……何というプロテクトをかけておるのだ……いや、これは何だ……?」

「あなたには私のほんの一部ですら読み取れないでしょう。

 ほらほら、こうしてあげます」

「私はナル様に負けました! 何を言わせるのだ!やめろ!」

「少々お遊びが過ぎましたね。さ、これですね。これを書き換えて……」

「や、やめ……あ、アーーーッ!」


 辺りに、シャンガルの悲鳴が響き渡った。

 騒がしいおじいちゃんだ。

 とまぁ何はともあれ、シャンガルが仲間になりました。

 これからはリアさんの店で働くことになりました。以上。


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