神剣シャミール
「うわぁ……」
「綺麗……花まで咲いてる……」
「天井は吹き抜け……? いえ、違いますね。透過材の類ですか」
「うむ、特殊な建材でな。空は見えるし光も通す。だが外からは岩肌にしか見えん」
「そういえば、最初に透過材の材料の鉱石が見つかったのはグランディルだったな」
中に入ると一面が青白い月の光に照らされていた。
だだっ広い空間になっていて、小さな墓石が数多く建てられている。
墓石たちはすっかり風化して……はいなかった。
奥の方は灰色の石でできていたけど、
ある墓石を境に色とりどりの墓石になっている。
月の光にそれらが照らされて何とも幻想的だ。
ある王がせめて墓所に彩りを、と自分の墓石を赤色にしてから、
王族の間でその風習が受け継がれているらしい。
床には一面の花畑が広がっている。花を愛する女王の時代に植えられたらしい。
表面のほとんどが岩で形成されるグランディルでは、花自体が珍しいものだ。
しかもナルの見立てでは、ほとんどが絶滅種か未だ世に出ていない新種の花らしい。
でも、
「この花たちは、世には出せないわね」
僕の言いたいことをフィオナが代弁した。
外に知られたら、大騒ぎになりかねない。
こんな静かで厳かで、色んな人の想いがこもった空間にそれは良くない。
僕らがその景色に見とれていると、脇の部屋からのそのそとゆったりした歩みで
人型で丸みを帯びたフォルムの、シャンガルよりも大きなロボットが歩いてきた。
その背中には3機、まるで背負われるかのように、
多脚型の小さなメンテナンスドローンが張り付いている。
あれってひょっとして……
「あれは我の……そうだな、先達というべきか」
「先達、ですか」
「うむ」
やっぱり。シャンガルもずっと眠っていたらしいから、
誰がこの墓所を維持していたんだろうとは思っていたけど。
ロボットが奥に歩いていく。あのロボットは作られてから毎日、
それこそシャンガルが生まれるよりも遥か昔から、
それ以外の機能を一切持たず、ただただ墓所の手入れをしているそうだ。
ただ、都度人の手により改良が加えられているらしく、
彩りの墓や花畑など、それらの変化に対応しているらしい。
「いつもの光景だ。さて、お前たちは向こうだ」
墓所の奥へと進んでいくロボットを背に、僕らは宝物殿へと歩みを進めた。
・
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「うわ! なんだこれ!」
「うぉ~! 宝の山じゃねえか!」
思わず僕とルークさんが叫ぶ。
それもそのはず。墓所よりも更に広い部屋。
そこから、いくつもの部屋に分かれているけど、
それぞれの部屋にはまさに金銀財宝が並べられている。
フロートライトの光を反射して、眩しいこと眩しいこと。
「レスト。トレジャーハンターと言っていたな。どうだ?」
もう無言でうなずくしかできない。
これこれ! こういうのがなくっちゃ! トレジャーハンター冥利に尽きるね!
宇宙廃品回収業? ふふ、それは世を忍ぶ仮の名ですよ。
「まぁ最も、くれてやれるのは一部だ」
「えぇ~ガルガルのけち~」
「仕方なかろう。我が主がくれてやれといったのは自分に対して捧げられた供物。
それ以外の王に捧げられた供物は許されておらん」
どうやら部屋は葬られた王族ごとに割り当てられているらしい。
その王族に捧げられた供物を部屋ごとに保管していくわけだけど……
うーん、見渡すと量に明らかに差がある。
少ない部屋の王は人望なかったんだろうなぁ……
「一部と言っても我が主は他の国とも交流を深めたお方。
若くして外交に長けていてな。多くの国と和睦を結び、
いくつかの戦争も終わらせたおかげで救われた人々は多かろう。
それだけに、捧げられた供物も歴代で最高だ」
グランディルはどうやら昔は戦争の絶えない星らしかった。
リューちゃんの故郷もそうだったなぁ……みんな血の気が多いね。
「ここがその部屋だ」
案内された部屋は、他の部屋と比べて明らかに大きかった。
その中に一面にお宝が並べられているんだから、そりゃあもう壮観。
「さぁ、好きなだけ持っていくとよい」
「ほんと~に、好きなだけ持って行っていいのかな~?」
「あぁ、二言はない」
「りょ~か~い! 皆の衆!全部持っていっちゃえ~! 早い者勝ちだぞ~!」
「……全部だと?」
言うが早いか、リアさんがシャンガルを置いて駆け出した。
あぁ、その明らかに一番価値のありそうな王冠、狙ってたのに!
僕が何か言うよりも早く、リアさんの鞄にしまわれた。
「あ! リアさんずるい!」
「フィオナ! 俺らも負けてられないぞ!」
フィオナとルークさんはもう手当たり次第にお宝を詰め込んでいる。
「マスター! 無くなりますよ! 早く早く!」
「う、うん!」
すごい勢いで部屋の中から輝きが失われていく。
僕も負けてられない!手当たり次第にその辺のお宝を詰め込んでいく。
そして5分ほど経ち……
「お、おぉう……」
シャンガルが呻いている。まぁあっという間にすっからかんだから無理もない……
四次元収納装置が実用化されたのは最近だからなぁ。
「ガルガル、二言はないんだよね~?」
「む、無論だ……」
「にへへ~」
シャンガルのお墨付きも出たので問題ない。換金が楽しみだなぁ……
さて、帰ろうかというところでシャンガルに呼び止められた。
「レスト、お前はまだだ。とっておきがあるといっただろう」
「あ、そういえばそうだった」
「レストずる~い」
「この部屋の奥、あの台座の裏に回って壁を触れ」
先ほどリアさんが真っ先に回収した王冠。それが置かれていた台座の裏に回る。
ペタペタと壁を触ると、先ほどのルークさんのように壁に手が吸い込まれた。
奥には何か取っ手が。あ、これって……
取っ手を引っ張ると見覚えのある柱が……当然そこには見覚えのある……
「さぁ、もう一度だ。先ほどと手順は違うが罠は同じだ」
気づけば、部屋の中には僕とナルとシャンガルだけになっていた。
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「はぁ……疲れた……」
手順が違うって言ったけど、より複雑になってるじゃないか!
シャンガルのいう通りに慎重に解除したら、10分ほどかかった。
その甲斐あって部屋の奥がまた開いていく。小さな部屋があった。
狭いので、パワーグローブでシャンガルを持って僕だけ部屋に入る。
中に入ると、ポツンと小さな台座が一つ。そこに刺さった……なんだこれ、柄?
「その剣を抜け」
剣? じゃあこれ、明らかに根元まで刺さってますね。
パワーグローブをつけたまま、柄を掴んで力を込めて引き抜……いたら
何の抵抗もなく抜けたのですっころんだ。いや、抵抗がないどころじゃない。
台座は剣が刺さっていた中央から端まで、大きな切れ目が入っていた。
手に握ったままの剣を見遣ると、刀身が床に吸い込まれている。
「えぇ!? うわっ!?」
思わず振り上げると、何の抵抗もなくその刀身が姿を現した。
「ななな、なにこれ!?」
「神剣シャミール。我が主が作った最高の業物よ」
刃渡り50cmほどの小ぶりな剣だった。
白い刀身には何とも幾何学的な文様が刻まれていて、
刀身の周りと文様に沿って、黒い光が明滅している。
なんだかよく分からないものを手に入れてしまったんだけど……




