宝の眠る地へ
「この部屋が、墓参りに来た者たちの食事の場だ。
我は料理が好きでな。昔はここでもてなしをしたものだ」
「へ~え、うちの店でも作ってもらお~っと」
「料理上手なのね、意外だわ」
昔は来訪者のために食べ物とかが用意されていたらしいけど、
今は当然そんなものはない。
けどシャンガルの手料理……ちょっとだけ興味がある。
それにしてもここは、墓にしてはやけに親しみがわくというかなんというか、
人が暮らすような造りになっているとおもったけど、実際にそうらしい。
墓参りに来た人たちの憩いの場だったようだ。
ただ、実際に王族が眠る墓や、
捧げものの納められた宝物殿はそうそう入れないそうで
来訪者は建物の中央にでんと鎮座する、黒光りするでっかい柱に祈りを捧げるらしい。
柱にはいくつも文字が刻まれている。葬られた人たちの名前だそうだ。
「シャンガル、僕らもお祈りしていっていい?」
「無用だ」
無用ですか。まぁ、墓荒らしだしなあ……
柱を初め、ここはメンテナンスドローンが欠かさず綺麗にしているおかげで、
千年もの間誰も来ていないとは思えないほど、整えられていた。
「一通りの部屋は見せてもらったけど、王さま達のお墓は?」
「まぁ待て待て……次の部屋が最後、その先だ」
「にへへ、やけに嬉しそうじゃ~ん、ガルガル~」
「ガルガ……まぁよい」
「ふふっ」
「笑うな!」
シャンガルもなんだかんだで千年ぶりの来訪者は嬉しかったようで、
墓に案内する前に、この場を一通り案内したらしかった。
確かに、この部屋はどう、あの部屋はどう、と説明する声は
いくらか弾んでいるように聞こえた。かわいいおじいちゃんだ。
墓荒らしとはいえ千年ぶりの来訪者。
しかもシャンガルからすれば女子供の集まり。殺すのは忍びなかったらしい。
「この先が先祖の眠る地、そしてお前たちの求める宝物殿だ」
「壁なんだけど」
「壁ですね」
「壁だね~」
「壁ね」
「壁だな」
シャンガルに案内された部屋に入ったけど、中は何もなかった。
それでも進めと言われたが壁にぶち当たる。あれ、前にもこんなことが……
「ルーク……と言ったか? お前が立っている所のちょうど目の前だ。壁を触れ」
「んん……? おぉっ!? 手が!?」
「そこだ。中の取っ手を掴んで引き出せ」
ルークさんがペタペタと壁を触っていたが、
急に壁の中に手が吸い込まれた……ように見えた。
ホログラムの一種かな? 壁に偽装しているようだ。
ルークさんが壁の中から周りの景色とは不釣り合いな、
いやに古めかしい柱を引きだしてくる。
「よし。絵の描いたパネルがいくつかついているだろう。
我のいう通りに押していけ。一度も間違えるなよ……正しい手順でだ」
「間違えるとどうなる?」
「スタンロッドとは比較にならん電流が流れて死ぬな。部屋の中にいるもの全員。
一度でも間違えるとそうなる」
「パス! パァース! レスト頼むっ!」
「えぇ!? い、嫌ですよ僕だって!」
「情けない……まぁよい、お前の鎧……いや防護服と言ったな。
それであれば間違えても一度くらいは大丈夫だろう」
いやいやいや、物騒すぎるでしょう。
普通は3回以上間違えると、とかそんなのでしょ。
仕方なくシャンガルの言う手順通り、かつてないくらいに慎重に入力していく。
パネルは3×3の9つだけついているけど、
あくまで機械式の原始的なものなのでナルのハッキングの余地がない。
最初は順番通りに押す、とか言う単純なものだったけど、
だんだんと異様な複雑さになってきた。
どのパネルを5秒押す、ただ3秒経過した時点で他のパネルを何回押す、
それが終われば次は時計回りに指を滑らせて……次は……といった具合に。
「これ作った人頭おかしいよ……殺す気しかない……」
「マスター、慎重に、慎重にですよ……」
とか言いながら押してると、どうもシャンガルの自信作らしい。こいつ……!
気づけば部屋には僕とナルとシャンガルだけ。みんなは部屋の外から見学中だ。
リアさんですら、シャンガルを床に置いて避難していた。こいつら……!
「よし、間違えなかったな。上出来だ。最も、我以外の誰かが入力したことはないが」
「いや、そりゃあそうでしょ……」
「興味深い対策法でした」
無事に解除完了。壁がゆっくりと開いていく。
それを見てみんなが部屋に入ってきた。なんか釈然としないんだけど。
「昔から隠されていたのだが今ほど厳重ではなかった。
だが墓荒らしをしようとする不届き者もちらほらいてな……」
「まぁ、王族のお墓にはつきものだよね~」
「ふふ……だが我も何度か子供らに乞われてこっそりと墓を開いたものだ……
その時も、あやつらは部屋の外で我が墓を開くのを見ていたな……」
シャンガルは、意外と子供に弱いお茶目なおじいさんらしかった。
さぁて、いよいよ王族の眠る墓に入るぞ!
と思ったけど中は暗く、明かりもないのでポーチからまずは明かりを取り出した。
フロートライト。エーテル体で形成された、頭上をふよふよと漂う光球。
結構な光量があり。辺りが柔らかい光で照らされる。
今はありふれた技術だけど、シャンガルは驚いていた。
中は一本道になっているようだ。
「…………あやつらは年老いても墓参りは欠かさなかった。
最後に墓参りに来たのは、あやつらの中で最後に逝った者だ」
道すがら、シャンガルがポツリポツリと語りだす。
「体が弱りきってまともに歩けないくせに、『あそこは家族でも入れられない!』
と一人きりで来て……慌てて背負ったものだ……」
僕らは誰も、リアさんですら口を挟まずにそれを聞いていた。
「墓を拭きながら『王様よりずっと年上になっちゃった。もうすぐ会いに行くから』
などと縁起もないことを言うので叱ってやったら、
『昔を思い出す』と子供の時から変わらん笑顔をしながら言いおってな……
すまん、辛気臭い話であったな」
そこからは、誰も一言も話さなかった。
時折、フィオナとルークさんの鼻をすする音が聞こえるくらいだった。
しばらく行くと、またしても壁にぶち当たった。
けど、シャンガルに言われて左を見遣るとあからさまなスイッチがあった。
流石にここまで来て即死トラップはないよねぇ。
ずずず、とゆっくり音を立てながら、壁がせりあがっていく。
ちょっとしんみりとしたけど、いよいよお宝の眠る地へ!




