お宝さがし 霊廟編
「で、そのシャンガルっていうのとリアって人が戦ってるのか!? 独りで!?」
「悔しいけど……僕らじゃシャンガルには手も足も出ませんでした……」
「リアさんはすっごく強いからそう簡単には負けないわよ!」
「でも、女の人だろ!?」
「兄さんよりもずっと強いわよ!」
走りながら色々と話をした。
お兄さんはルーク。ルーク・マリオレット。
僕よりも背が高く、がっしりとした体つきだ。
フィオナと同じ金髪だが、随分とくすんでしまっている。
戦闘が得意で、愛用の武器はエーテルランス。長物が得意らしい。
閉じ込められている間、殆ど身動きが取れなくて体が鈍っているらしいけど、
そんな様子を全く見せず、息一つ切らさずに走っている。
食料も十分あったので、困ったのはトイレくらいだな! と笑っていた。
逞しい人だ……
この人がいれば、シャンガルにだって勝てるだろう! 待っててリアさん!
しばらく走って走って、ようやくあの部屋まで戻ってきた。
「リアさん!」
中に入ると、リアさんの姿がない……
辺りを見回そうとすると、何かを蹴飛ばした。
「レスト君、それって……」
それは、シャンガルの左腕だった。
鋭利な切り口、エーテルブレードで切り落とされたようだ
目線を先にやると、次は右腕と大刀。その先には両足。
さらにその先には両手両足を切り落とされたシャンガルが横たわっていた。
リアさん、独りで勝ったんだ! にしてもあの人の強さの底が知れない……
でも、肝心のリアさんはどこだろう?
「あ……嘘……」
フィオナが何か呟く。
フィオナの目線の先を見ると、そこにリアさんがいた。
お腹からすごい量の血を流して、横たわっていた。
「リアさんっ!」
「いやぁっ! ダメ、いやよリアさん! 嘘でしょ!」
リアさんに駆け寄る。僕らが近寄るとリアさんはゆっくりと目を開けた。
よかった……まだ生きてた……
「お~……お帰りぃ……お兄さん……助けたんだねぇ~……」
「喋らないで! 今、医療ジェルを……」
「あー、ダメだよ……間に合わないよ……傷深いしねえ……にへへへ……ごふっ」
リアさんが口から血を吐く。
そんな。嫌だ。嘘だ。
「おおっとぉ~……泣くなよレスト……」
「でも……でも……」
「……あいつっ! 許さない!」
フィオナがシャンガルのもとへ走る。
シャンガルの首根っこを掴むと乱暴に揺さぶっている。
「何とか! 何とか言いなさいよ! あんたが! あんたがっ!」
「……我は敗者だ。何も言う資格はない……」
「何よそれ! ぶっ壊して……」
「フィオり~ん……まぁまぁいいから……こっちきてよ……」
「うぐ……」
リアさんに促されると、フィオナはシャンガルを離してとぼとぼと歩いてくる。
僕と同じようにボロボロに泣きながらだ……
「あんたがリアさんか……すまない……俺のために……!」
「あー、いや……えっとねぇ~……」
ルークさんもボロボロ泣いている。
ルークさんは助けられたけど……これじゃあ……
「ナルちゃんっ! 何とかならないの!?
フィオナがナルに縋る。
でもこんなじゃあナルにだっていいアイディアは……
「1つ、リアさんを助ける方法があります」
「ホント!? ナル!?」
「何!? 何でもするから!早く言って!」
「それはですね……」
そこまで言うと、ナルが少し黙る。
あぁもう!
「ナル! 早く! 間に合わなくなるよ!」
「そうですね……フィオ、あなたのスタンロッドが必要です」
「……え? これでどうにかなるの……?」
「あっとぉ……ナルるん……?ナルる~ん……?」
「電気ショックの要領です。リアさんに食らわせて下さい」
「でもこんなので……」
「フィオナ! なんだか分からないがやれ! 何もしないよりはマシだ!」
「う、うん!」
フィオナがスタンロッドの電源を入れる。
半ばから断たれてはいるけど、相変わらずすごい勢いで電流が迸っている。
これで非殺傷武器だから驚く……でも今のリアさんに耐えられるのか……?
「リアさん……ちょっと我慢してね……!」
フィオナがスタンロッドを構えて振りかぶる。
「ごめんっ!」
「あ~ちょっと、ちょお~っと待った~」
「うわーっ!」
「きゃーっ!」
「うおおおおっ!?」
リアさんが普通に起き上がった。
し、心臓が止まるかと思った……
フィオナなんか驚きすぎて頭から床に突っ込んだ。
頭を押さえてうずくまっている。
「えっとねえ……」
リアさんが頭をポリポリと掻く。すごく気まずそうな顔だ。
この人ひょっとして……
「あー、ドッキリだ~い成功……なんて……ね?」
僕ら3人は顔を見合わせた。
ルークさんは訳が分からないといった顔で僕らを見る。
フィオナは……なんかすごい顔でこっちを見てる。見てるぞ。
僕は黙って頷いた。
「リアさん……」
フィオナがスタンロッドを構えてリアさんににじり寄る。
「あ~ごめ、ごめ~ん、ちょっとしたいたずら心で……レスト~、ダメ?」
「ダメです」
構わん、やってしまえ。
「えいっ」
辺りにリアさんの気の抜けた悲鳴がこだました。
・
・
・
「……我も焼きが回ったものだ……」
「おっも~い」
シャンガルが独りごちる。今はリアさんに背負われている。
話を聞くと、僕らと別れた後あっという間に決着がついたそうだ。
リアさんと打ち合って力負けして体勢を崩したところを、
あっという間に4本のエーテルブレードでダルマにされたらしい。
その後はシャンガルに道案内をさせようとリアさんが言い出した。
シャンガル曰く、勝者のいう事には従うらしい。
ただ、たちの悪い冗談を披露した罰で、シャンガルを運ぶのはリアさんの役目だ。
リアさんの鞄の中には、ジョークグッズがこれでもかというくらい入っていた。
シャンガルを負かした後、うきうきで準備していたとシャンガルは語る。
「シャンガル……本当にいいの? お宝貰っていっちゃって」
「くどいぞ。主からも仰せつかっている。
お前が負けるようなことがあれば、宝など全てくれてやれ!
お前が認めたやつらなら、何なら道案内でもしてやれ! とな」
「随分とおおらかな王なのですね」
「どうも嘘っぽいのよね……」
「嘘ではない。我はこの霊廟が荒らされなければそれでよい」
どうやらただの遺跡かと思ったけど、
ここはシャンガルが生きた文明の王族の眠るお墓らしい。
シャンガルはいわゆる墓守。
侵入者が来たらまずは迷宮で彷徨わせてドローンたちに排除させ、
それでもだめならシャンガルが直々に排除する流れだ。物騒な。
ただ、目立たない所にあるせいか実際は民が墓参りに訪れる程度で、
それもいつしかなくなり、メンテナンス用のドローンを残して
シャンガルを初め他のドローンはスリープモードに入っていたそうな。
なんか、墓荒らしをしているようで、いや実際にしてるのかな……
とにかく気が引けるけど、シャンガルがさっき言ってた遺言もあるそうで、
お宝をもらえることになった。
僕はなんかシャンガルに妙に気に入られて、
とっておきをやるから楽しみにしておけだってさ。
「にしてもリアと言ったな……何者だお前は。ここまで完膚なきまでの敗北は初だ」
「にへへ、しがないバーの店主さ~」
シャンガルは、元々王家に仕える守護隊長で熟練の剣士だったそうだ。
死ぬ前に王家への忠誠のため人格をアンドロイドの人工頭脳にコピーし、
永遠の墓守となることを選んだって言ってる。
ただ生身のシャンガルの生きた頃は、他の星ではそんな発想すら出ていない頃だろう。
成功したのはシャンガルだけで、後は数名失敗したので禁断の技術とされたそうだ。
どうせ死は近かったとか言ってるけど、僕なら怖くてできないなあ……
あ、ちなみにあの電磁牢、過去の文明の子供たちが作ったらしい。
墓荒らし対策に罠を仕掛けよう! と言い出した子がいたらしく、
大人たちに綺麗に加工した石細工と豪奢に見える台座を用意してもらい、
これに引っかかる馬鹿な墓荒らしを罠にかけるんだー! と
空き部屋の中に子供たちがせっせと作ったそうな。
部屋の入り口にはご丁寧に『墓荒らし用の罠!』と書かれているらしい。読めないけど。
シャンガルはその時の思い出をしみじみと語っていたが、
フィオナは体をプルプルさせながら顔を背けていた。
耳まで真っ赤になってたのは言わないでおいてあげよう。
ルークさんは苦笑いしながらフィオナを慰めていた。




