ボスがいました
「そ、そんな……リアさん……」
フィオナの顔がさぁ、と青ざめた。きっと僕の顔もそうだろう。
あんなだけど、リアさんはすごく頼りになる。
リアさんがいてくれるだけで、意味もなく万事うまくいくと思い込んでいた。
あぁ、どうしよう、どうしよう。
「ター……マスター!」
「はっ!」
ナルの声で我に返る。
そうだ、さっきも言われたじゃないか、落ち着け。手はある。
ドローンたちともまだ距離はある。
なんかすごい撃たれてるけど……防護服もまだまだ余裕だ。
「いくよ! ナル!」
「了解!」
ポーチを指ではじく。目の前にメニューが展開される。
条件検索……攻撃ドローン! ドローンにはドローンだ!
いくぞ! 全排出!
ポーチの中から全ての手持ちの攻撃ドローンが飛び出す。その数15。
「接続……完了!」
全部、ナルが接続しやすいようにカスタマイズ済だ。
1秒も経たないうちに15のドローン全てにナルがアクセスする。
数だけで言うと圧倒的に不利だけど、
「いっけぇナル!」
「お任せください!」
ナルのドローン操作の腕前は神業だ。
複雑な動きで相手を攪乱しつつ、確実に数を減らしていく。
相手のビームも、チャージの具合から発射タイミング、
発射角から着弾点を予測し、的確に撃ち落としていく。
人間業では不可能、ナルだからできる芸当だ。
ものの5分ほどで決着はついた。こちらの被害はゼロ、相手は全滅だ!
「サンキュ、ナル!」
「ナルちゃん、すごいすっごい! ありがとーっ!」
「ふふ、ふ、それ、ほどでも、あ、の、フィオ、ちょっと」
「あ、ごめんね」
フィオナが僕の左腕を掴んでブンブンと振る。ナルが喋りにくそうだ。
「……ふぅ、疲れました、マスター……」
「お疲れ、ナル。休んでて」
「え、ナルちゃんって疲れるの?」
「疲れると言いますか、まぁ……」
機械なのに疲れるとはこれいかに。
だけどこれをやった後は、ちょっとの間ナルの能力が落ちるのは事実だ。
操作は神業だけど、あれでナルはドローン操作が苦手らしい。
更に複数を別々の動きで戦闘をさせるとなると、
複雑な並列思考が必要で、処理が多くて大変と前に言っていた。
ファ○ネルみたいにはいかないね。
だからものの5分、とは言ったけどナル的には長い時間だったはず。
『本気を出せば優に100はいける』と豪語してたけど、
『でも30秒も持たないでしょう』とも言ってた。
でも、苦手と言いつつ15のドローンをそれぞれ違う動きで動かすのはすごいと思うよ。
正直、ずーっといくつかのドローンを動かしてもらっていたいんだけど、
そうなると何かあったとき、秘密兵器であるドローン一斉攻撃の精度が落ちる。
というわけでナルを戦闘に駆り出すのは本当に最後の手段と思っていい。
「そういえばレスト君! リアさんは!?」
「そ、そうか! 携帯はつながるはず……」
急いでリアさんの安否を確認するためのメールを打……とうとしたら
既にリアさんからメールが来ていた。
『レストにフィオりん、大丈夫?(。-`ω-)
まぁナルるんもいるし、大丈夫だよね(^_-)-☆
あの溝は一区画ごとにあるみたいだね。
侵入者排除用に、通路の構造を組み替えてるのかな?
あ、こっちも攻撃ドローンが来たけど全部撃ち落としたよ!
すごいだろ~まともに攻撃すらさせなかったよ(≧▽≦)
でもそっちは二人が分断されると危ないだろうから、
なるべくくっついて行動したほうがいいね。
くっつきすぎて恋が芽生えるかも(〃^▽^〃)
まぁ、そのうち合流できるでしょ。頑張れよ~(^_^)ノシ』
緊張感ねぇーッ! なんなんだこの……なんだ……あぁまぁ、いいか。
ん、画像もついてる。なんだ?
すごくいい笑顔のリアさんが残骸の前でピースサインをしている写真だ。
うおぉ、よく見るとドローンの残骸が山のように……
僕らの方より多くないかこれ……
とりあえず返信。
『アドバイス有難うございます、後で会いましょう』
お、返信だ。早い。
『もっと心配してよ~。・゜・(ノД`)・゜・。』
……………………
あぁ、心配いらないな……
フィオナが心配そうにしてたのでとりあえず写メを見せた。
顔が引きつっていた。
・
・
・
そこからは、二人とも離れないようにして進んだ。
時折、様子でも見るかのように攻撃ドローンが出てきたけど、
遠くのやつは僕が撃ち落とし、壁から突然出てきた丸鋸とかついてるドローンは
フィオナがスタンロッドで的確に動作を停止させていく。
僕ら二人が分断されることはないけど、時折先の通路が他の通路に組み変わる。
まるでどこかに案内されているようだ。
そうやってしばらく進むと、ようやく部屋があった。
大きな部屋だ。正方形になっているようで、
僕らが来た通路の反対側にもう一つ、通路が伸びていた。
今まで通ってきた通路とはどうも雰囲気が違うようだ。
「あの壁の色……!」
「どうしたの、フィオナ」
「間違いない、私たちが最初に来たとき、この遺跡はあんな感じの壁だった!」
「という事は、あの先にお兄さんがいる可能性は高いですね」
部屋の天井の中央には大きな丸い穴が開いている。
ここにきてそれなりに時間が経っているようで、青白い月の光が差し込む。
なかなかに幻想的な光景だ。
「で、レスト君」
「うん」
「あれ、どうしよう」
「どうしよっか」
月の光に照らされて、人型のロボットが胡坐をかいて座り込んでいる。
左手には大刀が握られている。明らかにボスじゃんアレ!
鞘に納められた刀身を半ばから握り、大刀を床に立て、こちらを向いている。
威風堂々、いかにも門番といった佇まいだ。
幸いにして、ピクリとも動く様子がない。
「自然光で充電するタイプのアンドロイドでしょう」
「うーん、常に侵入者に備えてるってわけかな」
「近づいたら動き出しそうよね」
「そうだなぁ……」
全く動く様子がない。
けどドローンが生きてるんだ、あのロボットだって動くとみていい。
だとしたら部屋に入ったら反応するんだろう。
あ、今僕らは部屋の外で作戦会議中です。
しばらく話し合った結果、結論が出ました。
「お願いね! レスト君!」
「ま、任せて!」
「マスター? 脈が速くなりました。落ち着いて下さい」
「あ、え、武者震いだよ!」
「そうですか」
フィオナを背負って、スプリントブーツで駆け抜けようって結論になりました。
リアさんには、ボスがいることと僕らの作戦をメールで伝えておこう。
『大きな部屋に出るとボスがいます。部屋に入ると動くようです。
僕らはスプリントブーツで部屋を駆け抜けます。
リアさんも、出来ればボスをすり抜けて先で合流、
無理ならボスとはやりあわずに待機してて下さい』
っと。あの人ならこれでなんとなく分かるだろ。
それにしても、フィオナって意外と胸大き……いやなんでもない。
ペルシャと約束したおんぶして走るってのは、先にフィオナとしてしまうなぁ。
知られたらペルシャ拗ねるかなぁ……まぁ今はそんなこと考えてる場合じゃない。
落ち着いて……深呼吸……さぁ行くぞ!




