令嬢の行き先
そして。カタリナ嬢を囲んで俺たちは死んだような目をしていた。
聞いた話を理解したくないのは誰も同じだ。
カタリナ嬢も本来彼女が着ている金糸銀糸のドレスではなく。地味な灰色のドレス姿だったのでよもや彼女が公爵令嬢だとはだれも思わないだろう。
「こうなれば、カタリナ嬢は私が預からせていただきたい」
そう言いだしたのは好色で有名な男だ。深窓の令嬢を近づけていい相手では決してない。
「状況を考えろ。いざという時に使い物にならなくしてもらっては困る」
俺は牽制のために言った。
「もしもの時は、彼女を差し出す」
美貌の公爵令嬢はおそらく取引の駒として使える。もちろんいざという時だし、いざという時が来ないように俺は全力を尽くすつもりだ。
それにまあ、俺たちが命乞いに彼女を差し出したとしても、それをとがめる上層部はほとんど生き残ることはできないだろうから問題はない。
つまり敗戦の後為政者の血族は皆殺しになるということだ。
カタリナ嬢は目を伏せて何も言わない。
もしかしたらこれからの人生は理不尽しかないと思っているのかもしれない。
「それでは君が彼女の面倒を見るように、言い出しっぺだ。君が彼女を傷つけることはないと信じているよ」
そう言ったのはこの場では最年長の大将軍閣下。
軍での序列は上から二番目、それを考えればどれほどこの一戦が国に対して重要なのかわかりそうなものだが。
ほとんどさらし者となっていたのにカタリナ嬢はその表情を硬くしただけで一切取り乱す様子はない。
大した自制心だ。これなら将来の王妃陛下として立っていただきたかったのだが。
「私に何か言う権利など無いでしょう、私は自らの愚かさゆえに地位もすべて失った愚かな女です。私を犠牲にすることで誰かが命永らえるならば使っていただいても結構。ですが私は、私自身を買い戻したいと思います。ですから私ができることをここでやっていきたいのです」
カタリナ嬢は流れるようにそう言った。
地位を失って打ちひしがれているのではなく、それでも確固とした己を見失っていない。
「ええと、戦えますか?」
俺の後ろにいた副官のチュロスがそう聞いた。
「戦えません。私のできるのは乗馬とダンスだけです」
乗馬ができるだけましだろう。
「戦いとは剣を持つことだけではない。たとえ前線でも帳簿管理はある。それはできるだろうか」
「帳簿ですか、会計なら教養の一種として学びましたが」
「チュロス、後で見てやってくれ」
わかりました。
カタリナ嬢は会計補佐に就任することになった。
「後で軍服を支給します」




