苦悩する准将
目の前の彼女を俺、ウォルターズ准将はただ見つめるしかできなかった。
それはとても美しい女性だと思う。
軽くまとめられた髪は奇麗な金色で艶のある白い肌。そして美しい菫色の瞳。それを地味な灰色のドレスで包んでいる。
表情は硬い。当たり前だ。彼女は理不尽な婚約破棄をされたばかりなのだから。
彼女、カタリナ・リモーネ・メルティ公爵令嬢。この国の宰相のご息女だった。
彼女の婚約者は最上級の王族。王太子だった。
身分と年齢の釣り合った二人は幼いころからの婚約者同士だった。
そうすでに過去形だ。
カタリナ嬢は王太子の婚約者として真面目に公務に励んでいたのだと思う。
そのあたりの詳細を俺は知る立場になかったが勤めていなかったらたちまち悪評が飛び交うのが社交界という場所だ。
カタリナ嬢に悪い噂が立ったことは一度もない。
そんな彼女がなぜ婚約破棄されたのか。それは王太子がある男爵令状に惚れてしまったからだ。
王族からすれば、男爵令状など平民とさして変わらない。一応貴族の端くれではあるが、王宮の端、ほんの入り口あたりをたむろするのが関の山だ。
俺はもともと子爵家だったので男爵家は貴族だと認識しているが。それ以上だと本当に貴族だと思われていない。
そんな女がどうして王太子に近づけたのか謎だ。本来なら視界にすら入らないはずなんだが。
そして、何故だか視界に入ったその男爵令嬢はそのまま王太子のお気に入りとなってしまった。
そして、そうなったならばその男爵令嬢にきっちりと話をつけねばならないのが婚約者としての立場だ。
自分の婚約者を格下にちょっかいだされて泣き寝入りなど立場が許さない。
貴族も軍人もなめられては終わりなのだ。
だから彼女がちょっとばかり脅すような言葉をその男爵令嬢にかけたとしてもそれは当然なのだ。むしろそこで泣き寝入りなどしたら公爵令嬢としての資質に欠けるとすら言われる。
なのに、そのことを罪に問われ辺境の国のはずれの場所に追いやられた。
むしろ王太子の頭に何があったと言われそうな話だ。
そして、今とても俺は困っている。なぜなら今隣国との開戦を控えている。だから今俺たち士官の動揺が激しい。ものすごく激しい。
この非常時に何をやっているんだあの阿保王太子。
状況を考えろ、何でよりによってここに連れてきた。
もうあの男爵令嬢隣国の工作員じゃないのかという噂さえ出ている。
もし、下級兵士にこの情報が洩れたら冗談抜きで戦争どころじゃない。こっちが兵士の暴動で殺されかねない。




