進軍
「伝令だ、先ほど国境を敵軍が越えた」
鳥を使った伝令は最近始まった。鷹に襲われなければ便利なものだ。
灰色の鳥を鳥係に渡す。鳥はくるくると喉を鳴らしていた。
鳥は砦の一角で飼われている。伝令役はその中の二三羽を鳥かごに入れて運んでいく。この鳥は自分のしばらく過ごした巣の場所を覚えている。だから放せばこの砦まで帰ってくるというわけだ。
「便利な世の中になったものですね」
隣の事務官がそう呟く。
そして、事務官と一緒にやってきたのはカタリナだった。カタリナは丸めた地図を机の上で広げた。
カタリナは地図を指さした。国境の位置から指を滑らせる。
「ここからどこに進むかですね」
そして眉を寄せて考え込んだ。
「確か百年前はここで二手に分かれたんですが砦に来たのは本体そして砦から離れた街が襲われたはずです」
国境のラインからこの砦までまっすぐに伸ばした後、もう一度別の場所に指を滑らせた。
「そうですか」
私はそう言って地図を見た。
「その街は今どうなっていたのか」
「その後城塞が築かれたはずですが。私もそのことはあちらに提出した書類にしたためておきました」
「そうか」
その書き込みは周りの事務官たちにも確認したが、念のためということで受け入れたという。
「さらに百五十年前だと崖に無理やり橋を作ってわたってきたこともありましたね。真正面からくると思っていたら側面からでそれなりに被害が出たそうですが」
私はしばらく考え込む。
「君はこの辺りの歴史に詳しいのか?」
「過去五百年分の我が国並びに近隣諸国の歴史はすべて暗記しております」
カタリナは何でもないような顔をして答えた。
「それは、王太子妃としての教育の一環というわけか?」
「まあ、そうですが、私自身歴史の授業は好きでしたから」
かなりたっぷりとした情報を叩き込まれている。やはり王妃教育って過酷なんだな。
「そうですね、まっすぐに来るなら」
「実はこの辺りにトラップを仕掛けてある」
私は砦にたどり着くあたりに複数落とし穴を仕掛けておいた。
すでに戦争がはじあまるという噂が広がった時点で商人や近隣の住人はあちらに行かなくなっていた。だから敵軍以外に被害が出ないだろう。
「そうですか、まあ、いつでも確実に通る場所は決まっていますしね」
カタリナはそう言って地図を指先でつついた。
そこが私がわなを仕掛けた場所だった。




