戦場に行く
ここは私の戦場。
私は背筋を伸ばし、毅然として立つ。
私の今の身分は新人の軍人。たとえ書記業務だとしても軍人。それならばそのようにふるまうべき。
私は見よう見真似で軍人としての礼をとる。
胸に右拳当てるしぐさをしている。
普段はカテーシーだけれど今はズボンをはいているのでつまむスカートがない。
私はそんな姿を脳裏に浮かべた。
目の前の相手はそんな私を何やら微妙な目で見ていた。半ば白くなった髪を撫でつけた父と同年代の大柄な領主様は咳ばらいを一つして私に声をかける。
「公爵令嬢」
そう呼ばれたが、その呼び名はお断りしておこう。今現在父が何を考えているのかは不明だ。
先日届いた手紙にもこちらに命じるような内容は書かれていなかった。
父が何を考えているのかわからないがこちらはこちらで動くしかない。
「もはや私にはふさわしくない呼び名でございます。軍付き事務官カタリナ、それが今の私の身分ですもの」
しっかりと背筋を伸ばして立つ。こうしているとずいぶんとコルセットに頼っていたのだと分かる。最近やっと腰痛が治まった。
「ご挨拶は省略してもよろしいでしょうか、今は非常事態ですもの」
私はあえて表情を作らなかった。あるかなしかの笑みを浮かべているのが貴婦人の礼儀だがそれはなしにした。
「こちらが、私が預かってきた戦況報告の書類です」
私は持参した書類入れを手渡した。
書類入れには封蝋がされている。その封蝋を割る音がやけに大きく響いた。
「いつも通りだな」
領主は書類をぱらぱらとめくっていた。
私はしばらく考え込んだ。隣国は何度も我が国に戦を仕掛けてきている。十数年ごとに。
たとえ十数年ごととはいえあの物資の消費を考えれば根本解決をしなければならないと思う。
「王都のほうがきな臭いな、まったくもって状況が分かっていると思えん」
「そうですか、確かにあの方たちはどう考えているのかは私にも」
王宮の方々もかつての私と同じように現場ということがわかっていないのだろう。
だから私の状況も驚きはしてもそのまま流された。
「君はこれからどうする?」
「仕事を続けるだけですが」
私はここでの仕事を精一杯務めるつもりだ。たとえ微力でもそれが私のできることだけだったから。
「それでは勤めたまえ」
その場を辞去した後エミアに迎えられた。
メイドを連れた事務官っていないわね。




