交渉
これは馬なのかしら。
私は目の前の馬を見てそう思う。形は間違いなく馬だけど大きさが違いすぎた。
「お嬢様、お嬢様が今まで乗っていた馬は仔馬です」
エミアは諭すようにそう言ってきた。
「仔馬、じゃああれはとても小さい馬だったのね」
周囲を見回してみても踏み台はなかった。
「これ、どうやって乗るのかしら」
鞍を見上げた。とても高い位置にある。
私は馬に乗れると思っていた。だけどあまりにも大きさが違いすぎた。上までどうやって乗ればいいのかしら。
エミアが軽々と飛び上がり馬の鞍に座る。そして手綱を捌くと馬が座った。
「お嬢様、これなら乗れますか?」
座ったらさすがに今まで乗っていた馬より低い位置になった。
「私の後ろに乗ってください」
馬も大きいけれど馬の鞍も大きいので二人乗っても余りある。
私は普段馬に乗るときの横乗りではなく、跨って乗った。
今はいているのはズボンなのでそのほうが合理的だ。
馬が立ち上がると一気に視界が高くなった。
「これから私は」
そう呟いたとき馬が走り出した。
私は馬に乗れると思っていた。しかし今現在私の身に起きていることは今まで知っていたこととは程遠かった。
私の後ろに兵士たちが同じように馬に乗ってついてくる。
私のしなければならない仕事、それはこの地の領主に対しての報告とあちらからの返事を持って帰る。
ただのお使いではない。私は貴族としての礼儀や、駆け引きがいちばん上手にできるのが私だと判断されたのだ。
どう考えても買いかぶりだと思うがやるしかない。
私が着ているのは不格好に縮めた軍服だけ。化粧気のない素顔に布紐でくくっただけの髪。
かつて身にまとっていた周囲を圧倒する豪華なドレスはここにはない
私は私の言葉だけを武器にこの任務を成功しなければならない。
砦にほど近い場所に領主の屋敷がある。基本的にここを収める領主はこの地を守る軍人貴族だった。




