3
起きたあと、なんとなく察していたことがおこった。正確には寝ている途中にその出来事はおこり、ようやく夢ではない自分が察していたことがおきたと認識できたから起きたあとと考えた。
あの夢をまた見た。同じ夢を二日連続でみるなんて異例だ。そして、夢の情報量がほんの少しだけ増えた。俺が夢の中で藍を呼び続けると、昨日に比べ少し早く振り向いた。そして聞こえなかった一言ではない、別のことを言った。「私を忘れないで」と。今回増えた情報はこれだけ。まだ分からないことの方が多い。夢の理由を知るという謎の目標を今日から掲げ、学校にいく準備をした。今日は涙で濡れていなかった。
学校についた瞬間、急激に眠気が襲ってきた。夢を見た日はきちんと寝れてないみたいなことだれかが言っていた気がする。俺の場合は二日連続だし、内容も夢の中ではきついから疲れがたまる。
霞はまだいなかったから他にいたクラスの男子に話しかけ、時間を潰す。これは俺にとって当たり前の行為なのだが、昨日の姉の言葉を思い出した。変に意識してしまい、不必要に周りを見る。自分が女子の中で上手くやっていけるとは到底思えない。自分を卑下しているわけでも周りを侮蔑しているわけでもない。想像ができない。本当に分からないことは、疑問をもつことでも諦めてしまいそうな努力の先にあるものでもなく、想像が全くできないことだと俺は考えている。だから姉の要望には答えられない。
昨日と引き続き姉不孝みたいな考え方だが、姉も見返りを求めて俺の姉をやっているわけではないので大丈夫だと変な納得を自分でする。
学校では特になにも起こらなかった。悪い意味では決してなく、いつも通りの日常と呼ぶものだったということだ。
衝羽から家に来いと誘いというより催促をされていたので暇だったし向かう。俺の家から歩きで十分ほどの近い距離にあるのだが、その途中で俺の姉を呼べと今度は命令が来ていたので姉に「今日暇?」と友達同士のようなラインを送る。あっちは一文字「暇」とだけ送ってきたので衝羽が家に来て欲しいという内容を送ると、即答で俺たちの家の近くのコンビニで集合しようという提案ではなく、宣言をしてきた。どうやら俺の周りの女性は俺を炎天下に置いておくのが好きらしい。そして俺の事を自由に使える駒だと思っている。
文句は言わずに今きた道を引き返し、コンビニへと向かう。姉の自転車が停まっていた。俺は距離が近いから歩きだ。
店内に入ってアイスクリームが置いているコーナーの前にいた姉に声をかける。
「おお、遅いじゃん」
「悪かったな、飲み物買うから待ってて」
「昨日奢ったんだからアイス奢れ。差し入れで買ってく」
どうせ反論したって無駄なので仕方なく従う。適当に選んだ炭酸飲料を手に取り、姉が三個、アイスを選んで俺に渡してきた。しっかり高めのものを選んでいる。店を出ると姉が自転車にまたがった。
「案内してくれ」
横断歩道を通り、しばらく真っ直ぐと伝える。姉は信じられないことに自転車を漕ぎ、走れと言ってきた。流石に怒っていい頃合いだと思ったが、アイス溶けるだろという謎の理由に従った。俺は体力はない方なので、息を切らしながら走る。曲がり角では右だの左だのそのまま真っ直ぐだの指示しながら「頑張れ頑張れ」と煽って来る姉に追い付くように走った。この気温の上で五分でも走れば汗だくだ。
「もうちょい運動しろ」
「うる、さいっ」
にやつきながら余裕そうに俺を鼻で笑ってくるので受け流す。衝羽の家にやっとの思いで到着し、勢いよくドアに手を掛けると既に開いていたのでお邪魔しますときちんと言って靴を揃える。姉もこういうことはきちんとする。
衝羽の横にいる人物をみた瞬間、変な息の吸い方をしてしまいむせる。まさか、ここでまた上春がいるとは思わなかった。
「うわっ、アイス一個足りないじゃん」
そういえば三個しか買ってないなと共感したのも一瞬だ。俺はそんなこと気にできる状態ではないので、黙っていた。落ち着いてから炭酸飲料を一口飲む。
よく考えると俺は上春のことが別に嫌いじゃない。面倒事が起こるわけでもないし、ただ、意識してしまうだけなのだから、大丈夫だと自分を落ち着かせることができた。涼しい空気に小さく深呼吸する。
「衝羽ちゃんと、藍ちゃんだよね?久しぶり~」
「茜ちゃん久しぶり!来てくれてありがとー!」
「お久しぶりでーす」
女子たちが嬉しそうに騒ぎだしたので、遠慮なくソファに座らせてもらう。姉は弟とは違い歓迎され、衝羽と藍を両隣にした。左から衝羽、姉、上春、俺の順になる。ちなみに俺の姉の名前は茜。
アイスがあるという事実だけで盛り上がり、それぞれが好きな味を選んでいた。
「丹花は?食べないの?」
「あーそいつは大丈夫。藍ちゃんいるの知らなくてさー三個しか買ってなかったんだよね」
俺は甘党で本当は食べたかったのだが、ここで張り合うと学校で絶対いじられるのでやめた。家だったとしてもやっていないが。
その代わりではないだろうが、ポテトチップスやらいろんなお菓子を衝羽が運んできた。自由に食べて良いと言われたので迷いなく甘いものを手にする。
「茜って名前可愛いね!」
「ありがとー!花の名前なの。私を思ってっていう花言葉で、いろんな人から想われる人になって欲しいって理由でつけられたんだー」
「へー!なんかいい由来だねー可愛いし」
「茜の花言葉、他には媚びとか依存もあるから気を付けろ」
俺が横から口を挟む。俺の姉は自分の名前を心底気に入っていて、よく人に紹介している。姉がきっかけで茜の花言葉を調べたら今言った言葉もでてきた。更に誹謗、中傷という問題の言葉もある。
姉からしっかりと睨まれ、「せっかくいい話してたのにさあ」と言われた。
「実はこいつの名前も花が由来なんだよ」
「丹花が?聞いたことないよそんな花」
「クササンタンカっていう花なんだけど、花言葉は希望が叶うとか博愛」
俺が暗記していた数式を待ってましたと言わんばかりに説明する。待っていたわけではなく、姉は自分の名前の説明をしたあと、近くに弟がいればそっちにも話を回す。だからこの流れは何回もやっているので淀みなく話すことができる。
「花言葉素敵~」
「姉弟そろって花の名前とかおしゃれー!」
「そうでもないよ」
「こういう時は謙遜すんなよ、ありがとうでいい。二人ともありがとう!」
切り替えが早い姉と姉の言葉を半分も聞いていなかった弟の名前の話題が終了したあとは、女子三人で格闘ゲームをやっていた。愉快なパーティーゲームなのでそこまで物騒なものではない。
俺はこの隙にスマホを横向きにし、ゲームをする。小学校のころからゲーム好きで、視力は下がったが、日常生活に支障をきたすほどではないし、眼鏡もかけるときはたまにあるが、かけなくても不自由なく生活ができる。
十回戦ほどカードゲームの試合をまわし、二連敗したところでテレビを見あげる。ちょうど女子三人の殴り合いは終了していた。姉が三位だったのでいじってやると小突かれた。
姉が丹花もいれると我儘を言ったことで俺も女子の中に参戦する。このゲームは得意だったので簡単に一位が取れた。こういう場合はどういう反応をするのが正解なのか、まだ交友関係が浅い俺は何も言わずリザルト画面を終了しようとする。
「女子相手に手加減もできないの?姉として恥ずかしい」
「してるよ、一応」
またもや姉の我儘でチーム戦に変えた。俺は上春と同じチームで、仕組まれてるのではないかと思ったが、ゲームのチームの色をランダムで変える機能でチームを決めたので文句は言えない。
「前から気になってたんだけど、こいつって学校でどんな感じなの?」
姉が俺に対抗しようとボタンをがむしゃらに連打しながら尋ねる。この中で姉からこいつなどと呼ばれる人間は一人しかいないのでその対象である俺は耳だけ意識を向ける。視線はテレビのゲーム画面だ。
「えー、本当のこと言っちゃっていいんですか?」
「大丈夫。ヤバイやつエピソードとかめっちゃあったらおもしろいから」
「本人には失礼だけど、コミュ障ですねー」
棒読みで言われると更に腹が立つ。今のはもちろん上春ではなく衝羽だ。
姉のニヤニヤしながらこっちを覗き込んでいる顔が左目で確認できたので、ゲームで姉に攻撃する。上春が姉と一緒に視界にうつってなぜか焦った。
「私とは普通に話しますよ。男子と話してる時はこいつ上手いなって感じるときもある。でも女子と話してるときが明らかにおどおどしてて面白いです」
俺は人によって態度を変えることを厭わない。小学校の道徳の授業でそれはダメだと教わったが、俺の中での理由と少しの反抗心で正当化している。もちろん、天と地の差ほど態度を変えるわけではなく、仲いい人と話したことない人でテンションやノリが同じだったら相手は困るだろうと思っているからだ。あと、人それぞれ好きなタイプの人間は違うのだから、その人と俺にとってちょうどいいように俺は接する。それは正しいと思っている。女子相手は朝にも考えたが、想像ができないから自分にとってちょうどいいだとかが分からない。かといって特別避けているわけではない。当然失礼のないように、自分ができる範囲内のことはするし、自分にとって無難な対応を行う。これはおどおどなんてものでは談じてないはすだ。
「やっぱそうじゃん。同い年の女の子からこんなこと言われて恥ずかしくなくないの?」
「逆にききたいけど弟に慈悲の心とか無いの?だいたい誰も損してないじゃん」
「そうかもだけど面白くもないぞ」
「別に良いだろ、面白くなくても」
「あんた折れないねえ」
言葉通りあきれた顔をしながら言ってきた。その鼻につく動作をやめてほしい。
上春はずっと笑っている気がする。衝羽のいつものへらへらから咲いたように笑う笑顔とは異なり、上春は誰かと話しているときは大抵笑っている。どんな相手だろうと相手が何かを言うと笑う。やかましさはなく、人を元気づけ、笑顔を伝染させるような笑顔だ。
「藍ちゃんはどう思うの?こいつのこの態度について」
彼女はこんなくだらない質問にもうーんと考える。ふりかもしれないし、時間稼ぎかもしれないが、とりあえず彼女は頭の中の言葉を探す。
「そうですねー確かにコミュ障みたいだなって思うときはあるけど、それでもいい人だなって分かるぐらいの人だから私は現状を変えなくてもいいと思いますよー」
つい、彼女の方をみてしまう。なんだ、今の感覚。ただの言葉として表せば肯定された。冗談や、この場に適した言葉を混ぜたものだとはいえ。ただ、それだけ。それだけが俺の中で大きく感じて埋め尽くしてしまった。だから、姉の言葉も衝羽の声も聞こえなかった。いきなり来たこの感覚は逃がしちゃいけない。そう感じて必死に追う。でも、正体は分からなかった。だから周りの音は戻ってきた。
「藍優しいな、気遣わなくていいのに」
「今もなんかぼけっとしてるし考え事が多いぞ」
「周りの女が厳しいからってのもあるかもしれない」
「昨日いったじゃん、なにかに夢中になって欲しいって」
「いい姉ちゃんじゃん」
「それを理由に俺をいじめないでくれ、だいたい俺が学校でどうしてたっていいだろ」
「良くない良くない。いつもは冷静沈着みたいな感じなのに女の子にでれでれしてるとかだったらだめじゃん」
「それはそれで目的達成とはいかないんだ」
「いかない」
衝羽は大笑いして、藍も笑ってはいるが、この不毛なやり取りは家に帰ってからでも十分にできてしまうため、一時停戦だ。ゲームに集中する。喜ばしいことにこれから一時間ほどはだらだらとゲームをしていただけなので俺に対する精神的攻撃はなかった。
「衝羽ちゃんは好きな人とかいるの?」
まったく、そういう話しかしないな。俺は心底呆れつつ耳では会話内容は聞いておく。テレビ画面は格闘ゲームからサイコロを振っていくパーティーゲームに変わっていた。暇な時間がそこそこできるため、スマホのカードゲームも起動し、隙を見てプレイする。
「正直なところいませんねー」
「藍ちゃんは?」
「私もいませんね、茜さんは?いるんですか?」
ニヤニヤしながら上春が探りをいれる。姉の聞いて欲しいオーラを汲み取ってくれたのだろう。姉は顔を少し赤くして、高らかに自分の彼氏のことを饒舌に話した。年下から歓声が飛び、持ち上げられしっかりと調子にのった姉はゲームでも一位だった。こういう時には運がいい。
俺はこの時間でほんの少しの間だけ先ほどの感覚について考えていた。やはりあの夢が関係あるに違いない。私を忘れないでってなんだ。さっきの俺を肯定した上春の言葉に感じたものってなんだ。ていうかさっき、俺は心の中で上春のことを藍って呼んだ。いきなり変わったのはなんでだ。疑問が多すぎる。そしてそれは多分、上春に聞いても分からない。自分で見つけるしかないんだろう。
その後も少しゲームをプレイした後は時間も時間で、帰ることにした。上春は俺と帰る方向がここから一緒なので、三人で帰ることにする。
まだ浮かれ気味の姉と、それに合わせる上春、その横で無言で歩いている俺という並びで歩く。
「ほら、やっぱ彼氏いると幸せだよ~作れば?」
清々しささえも感じる物言いに俺はこの人物と血が繋がっているのかと本気で思った。
「そうは言ってもあんまモテてないのでー」
「え~こんな可愛いのに!こいつ含め見る目ないな」
少し間延びした酔った人間の声みたいなものをだす姉を白けた目で見る。確かもう酒は飲める年齢だっけ。
「私が男だったら、藍ちゃんは間違いなく狙ってたね」
「うふふっ、ありがとうごさいます」
姉のだる絡みをくぐり抜け、やっと俺らの家の前に来れた。藍もこんな怪獣である姉と接するのは大変だっただろう。
「またどっか遊びに行こーまたね~」
「是非是非!丹花もまたねっ」
「じゃあね」
ここから女子がまた数回別れを言った後、上春は背を向け俺らは家の扉を開けた。
両親にただいまと伝え、手洗いうがいなどを終え、用意されていた夕飯を食べる。姉はまだ食卓にはいなかった。部屋でなにかしているのだろう。
食べ終わった後は自室に戻り、パソコンを起動し、イヤフォンを装着する。暗黙の了解となった夕飯後に父と通話しながらゲームをする。会話の内容はほとんどゲームの内容で、特に言うことはないのだが、たまには世間話ぐらいはする。父子というより友達のような関係性だ。一時間ほどプレイした後は風呂に入らせてもらう。父は寝るのが遅いため、風呂も遅い。俺が寝た頃に入ると言っていた。
風呂に入っている間は男友達といるときのようなほとんど何も考えていない時と、衝羽や上春といるときのような何かしら考える時がある。今は考えている時だ。夢を見たあの日から二日、上春と過ごしている。そして、彼女と過ごしているとたまに胃から喉に細い針をすうっと通されたような感覚がある。言い表すのが難しい感情がする。心地よいような不快なような、癒されるような激痛のような感情だ。俺はこれを擬似的だが味わったことがある気がする。だが思い出せない。この感情の正体を掴むことが夢の意味を知ることだと今日で感じた。
そういえばもう少しで学校は夏休みに入る。夏期講習とやらはあるが、基本暇な俺は、男友達との遊びをメインに過ごすことにしている。そいつらの予定が合うかどうかなんて考えてなくても、俺含め十人ほどは暇人なので問題ない。
今確定している予定は、俺らの高校の近くで行われる祭りにいくことだ。部活かなにかで遅れて来るやもいるが、暇人のLINEグループで予定を確認し合う。当日の朝十時半に俺らの高校の最寄駅に集合ということになった。今週の土曜日だ。
ちなみに、今は登校中で今日の朝も夢を見た。三日目にしてもう慣れたが、進展は聞き取れなかった言葉の一部が聞けるようになっていた。「私の存在で苦しませたくないの」だそうだ。昨日との情報を繋ぎ会わせたとしても何かを訴えているということぐらいしか分からない。
まあいい。夢の意味はゆっくりと考えていけばいい。だいたい、意味なんてなくいきなりこの夢を見ないなんてことがあっても全く不思議ではない。むしろ平常に戻るだけだ。
夢のことはほどほどに、祭りのことについて戻すと、その祭りは俺ら暇人だけでなく俺らのクラス、学年、更には全生徒の七割ほどが来るイベントだ。去年行ったときも周りは学生が多く、見たことがあると思う上級生もそこそこいた。会場は公園で、屋台が並んでいる。広さはそこそこあるものの、人数の多さによって少し窮屈に感じることが多かった。祭りだけだと特にやることは少なく、去年は近くのショッピングモールで飯を食いながらゲームをやって盛り上がった。祭りの最後は抽選会のようなイベントがある。楽しみだ。俺は家族や周りの一部からおとなしいイメージをもたれているが、個人的に別にそんなことはない。衝羽などから言われるコミュ障とやらが影響してそのイメージとなっているんだろうが、結構こういうみんな集まるイベントは好きだし、友人と遊ぶのは好きだ。
今日も問題なく学校に到着する。日常ってやつだ。まだ子供なので大人たちが言っている当たり前や日常の有難さというものはまだわからないが、楽しめてはいる。
一気にパスして祭り前日の金曜日まで行くが、ここまでの一週間、夢は見なかった。やはり、夢に意味なんてなく、理由なく謎に見ていたものということか。そうなると少し物足りなさを感じた。俺の場合は喪失感ともいえる。俺は大きい目標に向かう派ではなく、小さい目標を一つ一つ遂行していく派なので意図的ではなく不意にでてきた得体のしれない目標を達成しようとすることは珍しく、これに対して何かしらのプラスの感情を抱いていた。向上心ともいえるものだったから、俺は夢ごときでそこそこがっかりした。夢を見なくなった日も含めこの一週間、上春とはなにもなかった。話しても挨拶か数語ほどだった。その代わりとは言えないが、衝羽が話しかけてくる時が多くなった。これは理由は特に知らないが、押田とクラスで話さなくなって居心地が悪いのか、単に話し相手を増やしたいだけなのか、俺には想像がつかない腹黒い理由なのかは知らないが、別に困るわけもなく、友人でもあるので話していた。
「霞って明日の祭り行く?」
霞は例の暇人グループに入ってる一人だ。部活もあるらしいし、高校生らしい勉強や、衝羽との関係でいろいろ忙しいのに入れられているので不満らしい。
「あー部活終わったら行くよ」
「衝羽も来るってよ」
衝羽と話していて一番のメリットはこの情報を知れたことだった。これで霞はほぼ確定で祭り会場に連れていくことができる。成り行きで関係を変えるチャンスだってあるかもしれない。俺はかなり応援している。
「絶対行くわ」
霞にこんなことをまるで秘密の情報みたいに伝えたが、俺の言葉なんて聞かなくても女子なんて特にたくさん来るし、あの衝羽が学校の人が多く来るイベントに来ないわけがなかった。それは本人もわかっているだろうが、彼はいつも何かに不安そうにしている。大抵は衝羽のことなので俺が不安を取り除くことができないことはない。
ようやく生徒全員が学校から解放か追いだされる時間がやってきた。俺は教室から出て、人を探す。昨日グループで明日の前夜祭をやろうといったやつだ。同じクラスの三人と別クラスの六人を集めて今からの予定を話し合おうと人が多い廊下を探す。今日は霞は来ない。
「丹花って祭りくるよね?」
同じクラスの三人と肩を並べながら歩いていると右端の俺の右に衝羽がいた。その周りには複数の女子がいた。上春もその中にいた。
「うん、行くよ」
ついさっきまで明日は帰さねえぞなんて言ってた奴のテンションじゃねえな。自分自身に笑えてくる。
「ほらほら!どうする?」
なぜか周りの女子と小声で話し合っている。俺の耳が悪いのか、この距離なのに俺はほとんど聞こえない。だが女子の間ではコミュニケーションが取れていたそうだ。こういう能力あるよな。
「一緒に回らない?霞とかも一緒に」
衝羽ではない他の女子が言った。俺はこういうとき何も考えない。
「ごめん、俺こいつらと回るから。時間あったらで」
横で待ってくれている友人たちを見ながら言う。この女子の狙いも考えていた。狙いは俺を利用して霞か、俺が連れてくることにかけた暇人グループのモテてる一人か。それはわからないがどれにしろ返答は一つだ。霞には少し申し訳ないな。彼は本音を言えば衝羽と回りたいだろうから。私情を優先してしまい、反省する。だがよく考えればこの女子以外は絶対俺らと回りたいなんて思ってないし、内心安堵してるんじゃないか。ならいいことをした。霞も衝羽が余計な気遣いをせずに済んだと知れば喜ぶだろう。
とりあえず話は終わったので前に進む。前方に目的の人物を二人見つけたからだ。笑顔で近づき、声をかける。先ほどの件でなぜか少し苛ついてしまった俺は、こいつらといるときはいつも使わない思考回路を加速させる。なんだあいつ。俺が断った瞬間、明らかに嫌そうな顔をした。期待外れ、悔しさ、妬ましさ全部あった。欲しいものを買ってもらえなかった子供が駄々をこねるときのような表情だった。小学三年生ぐらいまでしか許されない表情をしていた。一言でいうなら我儘なのか。だとしたら姉にほとんど苛つかない俺の思考は矛盾していることになる。長年一緒にいるからか、姉のはもう慣れたからなのか、単純にあの女子が以前からあまり得意ではなかったからか。まあどうでもいい。こんなの夢の意味以上に無意味なことだ。
「悪い、トイレ行ってくるから下で待っといてくれ」
「あいよー行こうぜ」
友人たちに伝え、トイレに向かう。待っておいてとは言ったが、用を足すのには本当に一分もかからず、すぐに外にでた。その時、上春が丁度俺と同じタイミングで女子トイレからでてきた。少しは意識するが、自分のペースでかばんを背負い、すぐに友人たちのもとへ行こうと一歩、進んだときだ。
「丹花も祭り来るの?」
さっきのグループにいたので分かっているだろうが一応の再確認ということで聞いてきたんだろう。これになんの意味があるんだろうなんて思ったけど意味なんてないことももちろん大きかれ小さかれあるのでこたえる。
「うん、行くよ」
衝羽に伝えたときと全く同じ言葉、テンションで言えたはすだ。
「おお!やっぱそうなのかーやったねっ、ごめんそれだけまた明日~」
流れるように言葉を伝えてから颯爽と去っていった。俺は一秒だけ出遅れた。まただ。あの針を通されたような感覚。針というよりしなりがある糸か。実に一週間ぶりのその感覚は俺を惑わすほどの力があった。上春といるときではない。もっとピンポイントだ。上春が俺に話しかけたとき?条件はそれだけじゃないはず。なんなんだ本当に。目の前にあると分かっているのに目がぼやけているせいでよく見えないような痒いところに手が届かないような。
ひとまず歩きだす。止まってちゃ駄目だ。止まることではない。だが心の中の俺はこの感覚を探るのに必死だった。久しぶりに来た夢の意味を知れるかもしれないチャンスが。だが分からない。時間をかけても無意味だと悟った。仕方ない。今日の夜に賭けてみよう。前も思ったが焦ることではない。
うまく自分が落ち着いたのでその調子で歩く。一瞬廊下の隅で上春が女子と話しているところとすれ違ったがなにも感じなかった。やはり何かしらの条件があるということか。考えても分からないので頭の片隅において、階段を下りる。
やってきた。祭り当日が。前日は前夜祭とか言っておきながらいつも通り学校から近いファミレスでゲームをしていただけだった。勿論悪くはなかった。
今日は久しぶりに夢を見たが、内容が前回のものと全く同じだった。つまりは進展なし。少しがっかりしたが、祭りが今日ということを思い出し、気分が上がる。
こういう興奮しているときであろうと休日であれば俺は起きるのが早くない。午前八時二十分。自室からリビングにいくと母だけがいた。姉の行方を尋ねると彼氏とどっか言ってるらしい。彼氏さんも朝早くから暴君と一緒に過ごすのは大変だろう。
俺は気ままに用意してくれた朝飯を食べる。母は料理がうまい。何かの比べての評価ではないが、個人的に必要最低限以上の味のものを提供してもらっていると思っている。だが、姉の母なだけあって結構似ている。顔もそうだし、話す内容とかも。つまり少し面倒くさい時があるということだ。
「丹花、今日祭り行くんだっけ?」
名前で呼ばれているのかあんたと呼ばれているのか俺の家の女から呼ばれるときは紛らわしくなる。イントネーションが似ている。
「うん」
「はい、お金。衝羽ちゃんからお世話になってるんだろうからなんかしてあげなさい」
そういって祭りをいくにしては多めに渡された。衝羽の存在は姉から知っている。衝羽より世話になっている男友達がいるといっても金は追加で渡されなかった。交通費はほんの少しだしICカードがあるため支給は必要ないのだが、有り難く受け取っておく。俺は世話になっているわけではないのでなにかするとしてもジュース奢るぐらいだと思う。
朝飯を食べ終わった後は歯磨きをして、そういえば着替えていなかったので着替え、寝転がりながらスマホのゲームをする。九時半と少しの時間になり、短い身支度を終えたら家から出る。
俺は十時半の二分前に着いた。いつもは五分前行動を心がけているが、この面子だと緊張感が無さすぎてつい遅めの行動になってしまう。この時間に着いたのに関わらず俺を合わせて四人しかいなかった。その十分後にようやく全員集まった。笑いながら文句を言い合い、祭りの会場へ向かう。まだ祭りは開かれておらず、ショッピングモールに移動し、ゲームをする。俺らでいるときはほとんどゲームしてる。だったら家でそれぞれやれば良いとは言わせない。直接会って騒ぎながらやるのがいい。この馬鹿みたいな面子でこんなこと思うなんておかしい気がするけど、実際そうなんだ。
ゲームで最下位だったやつが一位だったやつに今日の夕飯を奢るという罰ゲームを賭けてプレイしたところ、俺が一位で夕飯代が浮いた。ありがたい。
奢りが確定したやつをいじり倒しながら祭り会場へと向かう。すでに屋台が開かれており、ここで定番の唐揚げを割り勘で四パック購入する。一パック五個入りなのでちょうど一人二つ食えた。
こういうときは全員金銭感覚が麻痺するのか雰囲気か流れかで射的をやった。一回三百円なので俺らだけで運営側は三千円稼げたことになる。大した景品は貰えず、参加賞のお菓子ぐらいだったが一人だけいたそこそこ上手いやつと下手なやつをそれぞれ笑った。
抽選会の番号が書かれたリストバンドをそれぞれ受け取り、水風船かなんかを釣る店でまたもや店に合計三千円を提供した。一人だけ金の消費量に嘆くやつがいたが、そいつへの慈悲なんてない俺らは夕飯を食べるところの話をした。奢るやつ以外は冗談で高い店の名前をあげ、奢るやつは全力でこの面子でいつも行く安くて腹が満たされる結構美味いチェーン店の名前をあげた。そこは先ほどまでいたショッピングモールの中にあるため距離も近い。俺は最初からそこに行くつもりだったし、奢るやつの味方ではないが、奢られる俺に決める権限があったらしく、そこの店にすることにした。
ゴミ捨てのじゃんけんに負けた俺はコンビニに一人で寄った。あいつらは笑いながら心のこもっていない感謝を伝え、先に並んどくと言ってショッピングモールに戻っていった。心の中で微量の悪態と笑顔を浮かべながらコンビニでごみを捨て、何か買おうか迷ったが飲み物はあっちで頼めば飲めるし、食べ物も奢ってもらえるのだからここで腹を満たすと損だ。結局何も買わずに店を後にし、ショッピングモールに向かう。到着し、人数が多いため二手に分かれることにした。どうせゲームでもチームを分けるので机でのチームになるようにメンバーを調整する。調整を終えてそれぞれ一息ついて座る。同じ席の一人が全員分のドリンクバーを頼んでくれる。スマホで読み込んで注文する系の店なので各自自由に注文ができる。俺はすぐにいつも食べるものを頼んで皆とやるものではないゲームをする。
意味のある会話なんて本当にない。どこに向かっているのか向かっている場所なんてあるのか始まりがどこか分からないような会話を俺らは行う。一見未来がなく無意味で浅はかだ。
ドリンクバーでいろいろ混ぜたものを提供されたり料理を食べたりゲームをしたりにして適当に過ごした。人の金で食う飯は美味かった。
長居をする予定だったが意外と食べ終わって少したったら店を後にした。もう一方の五人は先に祭り会場に行っていたようで、俺らの中の一人がグループにメッセージを送った。ここから合流してもどうせバラバラになるのだが一応だ。
ショッピングモールから歩いて祭り会場に向かう。奥に抽選会を行う場所がありその近くにいるのかもしれない。どちらにせよ歩く。途中で五人だけだが写真も撮った。横向いてるやつがいたり笑ってないやつがいたりとなかなか面白いものが撮れた。
前方に衝羽と、前の一緒に回ることを提案してきた女子だ。女子を怪物のように表現するのは気が引けるが突進のように俺らの方を向いて歩いてくる。
「藍見なかった?」
口を開いたのは衝羽の方だ。提案女子は衝羽と手を繋ぎつつ黙っている。
「もうちょいで抽選会あるからそっちいるんじゃね?」
適当に返して歩きだす。その二人は俺らと同じ方向に歩き出したのに一瞬で距離が開いた。慣れない浴衣と下駄みたいなのを履いてるからかもしれない。音が普通の靴じゃない。俺の今いるやつらは女子よりも男子で興奮するやつらなので話に上がったのはクラス女子の浴衣じゃなく近くを通ったイケメンだった。確かにめっちゃイケメンだった。いじり合って目的地に到着して周りを見渡してみても他の五人は見つからなかった。別に後で合流できるため探しはせずに少し近づいていい場所を探すために歩く。そのついでに合流できるかもしれない。
そうやって歩いていたら藍と複数人の女子がいた。俺からは別に何も言わなくていいだろうと思ったのだが、向こうが衝羽はどこかと聞いてきたのであっちも探していたことと、たぶん近くにいることを伝えた。
基準は分からないが俺らにとっていい場所を見つけたのでそこで立ち止まり抽選会の開始を待つ。立ちながら一緒にゲームをする。三十分ほどたつと司会のような女性が台の上に立ち、マイクで何かを話し始めた。話しながら聞くが周りの音によって何を言っているかあまり分からなかったが、とりあえず当たったら手を上げて台の近くにいけばいいらしい。
四桁の番号を女性がくじ引きを引いて決め、読み上げるという方式だった。景品は洗濯機や炊飯器などの家電や自転車、スポーツ選手のグッズなどだった。案の定当たったやつはおらず、最後に下一桁が当たっていたらお菓子の詰め合わせが貰えるというもので一人だけ当たりを引いた俺は参加賞のティッシュをいらないだろうにわざわざ貰いに行くやつらとは違う列に並ぶ。
小さい子供がお菓子で喜びながら去っていくところや仏頂面で明らかにいらなそうにしている大人たちを見ながら列に並ぶ。
「よっ、当たったのか」
右から声がしたことに驚き、左に飛びのいてしまう。なんとか勢いを殺した。他人だったら恥ずかしいなと思ったが、衝羽と上春だったので安心する。それじゃあもっと恥ずかしくないか。
「びびったー、当たったぜ0737」
「他の人たちは?」
「絶対いらないのにティッシュ貰いに並んでた」
「じゃあ丁度いい。ちょっと誘拐させてもらうよ」
「何言ってんだ」
本当に誘拐された。お菓子を貰った後は俺は男子との合流を許されず、三人でコンビニに向かうことになった。飲み物が欲しかったので否定はせずに向かう。
「丹花にちょっとお願いがあるんだ」
真面目というより少し緊迫した声で衝羽が言う。なんともいきなりだ。上春は説明は衝羽に任せたと言って店内を歩き回っている。
「それでさー今から話すことは提案でもあるんだけどいい?」
「内容による」
「本当に誰にも言わないで欲しいんだけど」
周りに知り合いは他に誰もいないのに、声を潜め、少し顔を近づけながら衝羽は言う。
「なら言うな」
俺の口がいくら固いからって。固いからお前は霞の想いを知らない。
「え、何誰かに言うの?」
「言わないよ」
「ならいいや、沙恵奈っているじゃん?」
例の提案女子だ。クラスは衝羽と一緒で仲がいい印象がある。
「沙恵奈、横井のこと好きなんだよ」
今がコンビニの中で俺が飲み物を選んでいる最中で良かった。もしコンビニをでて、俺が飲み物を口に含んでいる時だったら思いっきり吹き出していた。
「え、はあ?」
いきなりの宣言に俺は心底驚く。なにか面倒くさいことに巻き込まれたかもしれないと直感で感じた。
「なんで、俺に言った?普通にだめだろ」
疑問と真っ先にでてきた思いを衝羽にぶつける。俺はもちろん誰かに言いふらしたりはしないが、何でいきなり。
「そりゃあ信頼があるからだよ」
信頼されているということは嬉しいが、だからと言って。複雑な気分だが、横井は暇人グループの一人で、内心、少しだけ興味があった。だから俺とまわろうとか言ってきたのか。横井連れてくることを期待して。やっぱそういうことか。
「一年のクリスマスぐらいに教えてきて、その時は普通に応援してたんだけど、私と横井結構しゃべってたじゃん?だからそれをやめてだとか結構要求が多くて」
「うん、それで?」
俺は霞からそんなことをされていないから本当に素直に応援できるが、強く要求や制限されるとあまりいい気分にはならないだろう。衝羽の声から鬱陶しく思っていることが分かる。
「私の誕生日二月じゃん?その時のカードこれ」
ラインのバースデーカードが友人間で送れるものだ。俺が誕生日おめでとうとしか書かなかったやつだ。
内容としては俺の偏見で女子特有の表現が使われている祝いの言葉と、その下に自分の恋愛をもっと手伝って欲しいという内容の文章が書いてあった。
「手伝うことは文句ないんだけどさ、せっかくの誕生日のカードにも非公開にしてまで送ってくるってちょっと嫌になっちゃって」
「確かにこれはちょっとな」
「友達としては好きなんだ。でもこういうとこはちょっと気持ち悪い。今日もそういうこと言ってきたし」
こいつの愚痴がなかなか止まらない。いつも仲良く見えていたのは嘘だったのか。いや友達としては好きって言ってるな。なら違うか。
「私も協力してって言われてるけど横井とほとんど関わらないし衝羽みたいにはなってない」
一旦会話の休憩を挟むような良いタイミングで上春が一周して戻ってきて、情報が入る。人気者は困るなととても他人ごとに思った。
「でさ、私は、あーえっとここまでいい?テンポ速かったけど」
「大丈夫。続きいこうか」
「それでね、私と藍で話して、告白させたいなって思ったわけ。結果はどうあれ告白してくれれば私への鬱陶しいことは終わる」
「本人もそろそろ行こうかって感じで、私はその背中を押したいなって。衝羽も困らなくなるし」
今、あれが来た。糸を通されるあの感覚。なんで今。深呼吸をするときの息を最大まで吸ったあの瞬間のようなきゅっと引き締まる感覚だ。だんだんこの感覚のことが分かってくる。表現する言葉が変わっていくのはしっくり来ている感じがするからだ。だがまだ分からない。分からないというより掴めない感じだ。
ちょっと性格が荒れた衝羽と相変わらず優しく全員が良い思いをする言葉を使える上春、それぞれの言葉を聞いて横井のこととかもふまえて俺は言葉を選ぶ。
「で、俺は何をすればいい?そいつに話しかけにいくとかは無理だぞ」
「話が早くて助かる。丹花は横井側にいろいろやってほしい」
「例えば?」
「そりゃあ横井一人にして沙恵柰と二人きりにさせれば最高だけど」
「うん、まあ無理だな」
「まあ私たちで沙恵柰ちゃんに押せ押せするから特別横井側はしなくてもいい気もする」
そう聞いて安心する。面倒なことになるのは避けたい。この二人なら俺いらないんじゃないかと思ったが、横井と俺抜いた八人をうまく納得させ、馬鹿みたいに誘導できるのは俺だけらしい。んなわけあるか。てか馬鹿みたいにってなんだよ。
単純に他のやつらは衝羽と接点がないから、頼みやすいパシリが俺だっただけだろう。
スマホで時間を確認しようとした時ちょうど電話が掛かってきた。暇人の一人だ。
「うい」
『霞着たぞー、ハーレムしてないで早く』
「二人しかいねえよ。おっけー向かうわ」
『は!?二人きり!?それはエロいわ』
「違えって女子二人と俺ってこと」
『じゃあやっぱりハーレムじゃねえか』
女子と下ネタがイコールで繋がっているやばいやつがよりによって電話をかけさせたあいつらに呆れる。
「がちでお前な。で、どこいる?」
『霞がまだ飯食ってねえからまたさっきのとこ』
「また!?金飛ぶって」
『奢って貰ったからいいだろ。来いよー』
そう言って返事を待たず電話を切った。
「霞来て、飯食ってないらしいからまた行ってくる」
「おお、分かった。横井もそこいる?」
「たぶん。そこで横井と二人きりにさせれるぞたぶん。そいつ次第だけど」
「おっけー、じゃあまた」
「丹花よろしくっ、合流できたらしよう」
二人はやる気満々で颯爽と去っていった。展開が速すぎて着いていけているか分からない。やっと霞が来た。抽選会は終わってしまったが祭りはまだ終わっていない。とりあえずもう一度ショッピングモールの例に向かう。店内に入り、奴らを探す。
ドリンクバーのところを通ったところにちょうど横井がいた。
「さっきぶり」
「こっちこっち」
席の人数を確認すると俺含め五人だった。俺、横井、服部、本口、そして群撫。霞の名字だ。群撫霞。画数が多くて大変だそうだ。
「さっきぶり。霞は久しぶりだな」
「やっと終わったー腹減ったー」
霞はそういいながらドリンクバーのジュースを飲んだ。他のやつらはデザートを一品ずつ頼んでいた。ジュースも飲んでるのでドリンクバーもか。俺もこいつらにならって同じようにティラミスとドリンクバーを頼む。そういえばほかの六人がいない。
「他のやつらは?」
「連絡も来てねえし知らねえ」
「自由だなあいつら」
衝羽と上春という悪い意味ではないが神経を使うメンバーではない空気に落ち着く。
一応俺と何かしないとなとは思っているのでこの役目は頭の片隅においておく。こいつらは霞の想いを知らないが、俺が衝羽と先ほどまでいたことはなるべく知られたくはなかった。沙恵柰とかいうやつみたいなダルいことはしてこないだろうし、嫌な反応もしないだろうが、ハーレムだとか言われると気まずくなる。だから絶対言うなよ横井と本口。
誰かから着信が来たのでLINEのアプリは開かずに言葉を見ると、今から五分後ぐらいに俺らがいる店にいくそうだ。そこで出待ちして告白する予定らしい。なるほど。俺は横井を理由をつけて店の外に出せば良いわけだ。時間を気にしつつ霞と会話し、十分ほどたったところで「誰かトイレ行こうぜ」と呼び掛ける。これで横井が立ち上がった場合はそのままいけるし、そうじゃなくてもなんとかなるだろ。
ここで横井だけが立ち上がったのは都合が良かった。
店の外に出るといた。三人。あとはここに来て沙恵柰とかいうやつが怖気づかなければ俺らの計画は成功だ。別に俺はここにきて怖気づいたとしてもいい。俺には、実害がないからな。
不自然なぐらい出入口の方をみていたのでそいつの行動は早かった。
「ねえ、横井ちょっといい?」
横井は女子にあまりいい対応ができるやつではない。顔と能力の高さでモテてはいるものの、ここで変な返しをしたり断り方もきつい可能性はある。こいつには良い意味と悪い意味で変な信頼がある。
「先にトイレ行っていい?」
まあ断れないだろうから俺と横井はトイレに向かう。特に会話もせずに速攻で終わらせてまた三人のもとへ戻る。
そいつは横井が来たことを確認してすぐに横井を連れてどこかに行ってしまった。
「ここで連れてくるはナイスすぎる」
上春が興奮気味に言う。疲れたのか衝羽は声をあげながら思いっきり伸びをした。
「二人とも本当にありがとー」
「後始末が面倒くさい可能性もあるから頑張れ」
「丹花お前嫌なことばっか言うな。でもそれもそうなんだよな」
「振られたのは告白を後押ししてきた私たちの責任とか言われたらどうする?」
冗談半分で上春が言って、彼女自身が言ったことに笑う。少なからずあの感覚がくる。
「俺に言ったことバレたらどうなるだろうな」
「まじで勘弁してくれー」
「私も共犯だからさ一応、成功してくれないと困るー」
自分に責任を感じていることが分かる声でダウナー気味に言う。別にそんなこと感じなくて良いはずだ。衝羽はまあ責められても仕方ないだろうけど上春は別に。むしろ協力したから感謝をするべきだ。
上春は自分を下げるではなく、対等な位置にいながら人に優しさを与えてる。たぶん今は与える相手が目の前にいないのに優しさを心から取り出してこぼしている。だから何かしらの後ろめたさ?後悔?を抱えてしまっている。俺と合わせてしまうけど喪失感を感じているのかもしれない。
「私はもう一仕事ありそうだからさーめんどくせー」
「一人だけ期限が分からない宿題増えてんじゃん」
俺がうまくもないことを言うと上春は高らかに笑って、衝羽につっこまれていた。
「記念に写真撮ろうよ」
衝羽が謎の宣言をしたので二人とも首をかしげる。
「え、なんの記念?」
「友達と面倒なことが起きそうになった記念じゃない」
「うるせえ。とりあえず!」
衝羽がスマホを片手に近づいてくる。俺は左、真ん中上春の右衝羽の位置にたってスマホに視線をあわせる。衝羽は俺にまで肩を組もうと頑張っていた。二人はピースやらなんやらしているが俺は突っ立ってるだけにした。こういうときのポーズって難しくないか。これは言い訳で単に女子がすぐ近くにいることに少しだけ緊張してしまっただけだ。俺がこういうのって珍しいななんて他人事みたいに思った。
「じゃあ後で送っとくねー、てか丹花顔死んでるって!」
「少しは笑ったって。お、横井」
横井だけがここに戻ってきた。俺は心の中から結果はどうでもいいのでお疲れとだけ言って一緒に店に入った。二人の女子に別れは伝えなかった。
「どうしたトイレ長くね?」
「なんか告白された」
「なんだよそれ」
苦笑いをしながら真実を伝える横井と、余計な詮索ではなくふざけた調子で笑ったこいつら。少し不安そうだが笑みは浮かべている霞、そして俺。気楽という感情を全員でつくっている。
冗談で霞を急かしながら、俺らはドリンクバーのジュースを飲む。
霞が食べ終わり少ししたらすっかり暗くなった空の下を歩いた。道は街灯や三日月とも満月ともいえない月で明るい。祭り会場はもう片付けを始めていた。ここでおとなしく帰るわけないので出入口付近で止まり、今後どうするか決めるため話し合う。とはいいつつもゲームをする。本口は座りながらやってる。
てきとうに三十分ほど居座って、他のやつらと合流、または別れを告げて帰るという方針に決まった。とりあえず会場の中を歩きながらあいつらを探す。衝羽、上春、そしておそらくだが振られたやつの近くを通りかかった。俯いていて、もしかしたら泣いてるかもしれないやつと、まるで心の中から友人の失恋と呼ばれるものを悲しんでいるようなやつ。そいつらよりも俺は、衝羽が必死に慰めているところのそばにいて二人を見ていた上春に視線がいった。衝羽が話しているときはじっと、会話を聞いていた。たまにスマホで時間を確認しているのか一瞬だけ見てまた閉じたり、周りを見渡したりしていた。俺が見たなかでこういうことはあったが、何かに耐えているような空気を感じられた。上春がなにかを言っているときは、短く言葉と想いを伝えているように見えた。会話の内容は分からないが二人には憂いでお疲れといいたくなった。
俺らはグループの残りの自由人たちを探しに行くために重くもない腰を重そうに上げて歩き出す。思ったより速く見つかったので合流し、そいつらも帰るらしいので駅に向かう。電車内で迷惑にならないぐらいの会話をする。とはいっても人はほとんどいなかったので声を潜めるまではいらない。最低限はもっているこいつらにはぼやけた信頼がある。
俺の家の最寄駅に到着し、まだ電車に乗っている霞や他のやつらに短く別れを告げ、改札を通る。一人の時はなにかを考えているか、どの道がいいかと判断していることの二択をしているので今は何かを考えていた。まだ喪失感はない。先程まで友人たちといて楽しかったし、いろいろできて楽しかった。去年よりも楽しめた気がする。その満足感の方が今は強かった。
明日は予定が特にないから朝起きてなんとなく明日という日に適応してしまったら喪失感を感じるんだろう。家まであと五分ぐらいの場所まで来たとき電話がかかってきた。霞なので安心する。
「丹花ー?」
「どしたー」
「明日暇?」
「暇ー」
「明日衝羽の家行くから着いてきてくれない?来て欲しい人誘ってって言われたから」
「せっかくなら一人で言った方がいいんじゃない」
「いやあっちも誘いたい女子いたら誘うって言ってたし男子一人はきつくなる」
「おっけーじゃあ行くわ」
「ありがとー。じゃあおやすみー」
「おやすみー」
短く、無駄を省いたような会話だ。俺の感情を読み取れてるわけではないだろうが、予定ができた。ラインを見ると姉からメッセージが来ていて母親に今日はネットカフェで夜を越えることを伝えて欲しいそうだ。何かあったかと聞くと本当は彼氏の家に泊まるらしい。それを母親に言うのが恥ずかしくてわざわざ俺に伝言役を頼んだそうだ。了承を伝え、ちょうど家に着いたので鍵を開け、母親の姿が見えたらただいまと伝える。手洗いうがいを済ませ、父の部屋をノックする。この時間には絶対寝ていない。だが反応はなかったのでヘッドフォンでもつけてなにかしているのだろうと思ったら風呂にいた。ありえない速度で忘れたことを思いだし、母に姉が言っていたことを伝えた。正直に彼氏の家にいると伝えてもよかったがやめておいてあげた。
風呂までの暇な時間は部屋でスマホを触りながら過ごした。特に意味をあることもせずに三十分ほどがたった。そろそろ風呂入れるかと思い、部屋をでて風呂に行き服を脱ぐ。俺の風呂は長い方だと思っている。なにかすることが多いからではなく考え事をしているときが多く、その内容によっては結構な時間がかかる。
思考や意思、感情は不意に襲ってくるものだ。スイッチさえ入れば一瞬で回路の電流が流れるみたいに。それが俺の場合は風呂から出て、服を着終わった後に髪を乾かしている時だった。
霞と衝羽が話してる時は俺は一人でゲームでもやっていよう。話しかけられたらそれが霞だったら仲の良さを全面に押し出したような反応を、衝羽だったら意識が霞にいくように短くてきとうに。どちらもこんな理屈は考えずやっているが、他人から見たらこんな感じかという推測だ。
でも衝羽も誰かを誘うか。沙恵奈とかいうやつはこないだろう。これでさらっときていたらそれはそれで笑ってしまうが、来るとしたら上春がいい。俺の一定数話せると思っている数少ない女子の一人だし勘がよさそうだから察して霞と衝羽の二人の空間をつくりだしてくれるかもしれないし、俺が一人で死んだ顔でゲームをすることもなくなるし、一番自然な形になるだろう。
髪が乾いたのでくしで整え、まだ少し濡れていることに気づいた。日常の行動は無駄ではないができるだけ費やす時間は少なくしたいと思っているのでこういう大雑把でてきとうな時が俺はある。ドライヤーをもう一度コンセントに突き刺し、髪に温風を浴びせる。
鈍感なのか勘が鋭いのか分からないが今、気づいた。
感じた。俺は、上春の事をよく思っている。それの違和感に気づいた。別に女子のことをよく思っているという言葉だけなら別に違和感は感じない。あの女子可愛いだとかいい人だなとか感じている様子はまわりのやつらでもある。俺も少なからず優しいなだとか感じることはあるにはある。衝羽は向こうが友達だと言っていて、俺はこの関係性は友達と呼んでも遜色ないだろうと判断し、自分の感情も特に否定をしなかったので友達という形に俺の中でしている。こういう例外みたいな存在はまあいる。だが、それよりも上の、俺もコンロールするのが難しい感情を抱いているかもしれない。俺の思考回路は小説の語り手のようだと思っている。主人公ではない。ただ目の前の事象のことを自分の中で言葉に自動的に置き換えたり、独り言のように心の中であーだこーだ口にしている。どちらかというと底辺YouTuberの配信かもしれない。それはどちらでもいいとして、俺は俺自身と時に対話する。この感情をもつ危険性とこの感情の真偽について、片方は経験から、もう片方は感情と直感で議論し合う。結果は感情と直感が勝利し、この感情に一旦、名前をつけておく。だかこれは仮だ。別の名前になるかもしれないし、がらっと変わった形になるかもしれない。
とりあえず、この感情の名前は『恋』にすることにした。
現実と夢が、加速していく。




