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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第112話:コンビ

 身動き一つせず血を流しながら倒れる理差を気にかけながら、ルフィナは久刹を見る。


「あんたの魔法が分かったわ」


「さっき理差殿が君に指文字で伝えたのかな。嫌なことをしてくれた」


「あんたの魔法は時間と空間を縫い止める魔法」


「正解だ。で、分かった程度で僕を殺せるとでも?」


 ルフィナは右手に例えた拳銃を構える。


「『ファスト・バレット』」


 真っ直ぐ、銃弾は向かうが途中で地面という空間に縫い付けられる。


「無理さ、君の魔術じゃ俺を殺すことは不可能だ」


「それはどうかしら」


 ルフィナは一拍置き、魔術の行使準備をする。


「手だけじゃ、足りないのなら……」


 思い出せ、自分の原点を。

 弾丸のように真っ直ぐな意志と銃のような精密な行動を。


「銃例魔術——」


 ルフィナの固有魔術、銃例魔術。

 自身の体またはその一部を銃として例えることで、その部位から魔力を弾丸として撃ち出すことを可能にする魔術。


「あたし自身が銃になれば良い——『オール・ウェポン』」


 ルフィナがこれまで”手”を銃に例えていたが、これはそれを”肉体”そのものへと拡張する技。

 骨は銃身、関節は排莢機構、筋肉は激鉄、心臓は装填装置。

 ——と、全身を一丁の銃火器群として再定義する。


「男なら女に敗れることなんてないよね」


 ルフィナは駆け、久刹へと拳を振るう。


「銃では無理だからと打撃か。僕の見当違いだったようだ、理差殿以上なら、いざ知らず君程度なら何の楽しみもない」


 久刹は拳を回避し、斬り返す。

 だが、刃はルフィナを切り裂く前に引かざるを得なくなる。


「っ!」


 振るわれた拳の側に突如として生まれた散弾。

 一斉に、細かな破片となって久刹の体を抉——り、切る前に久刹は地面を蹴り、離れる。

 しかし、破片は久刹の体に突き刺さり、血が流れる。


「なるほど、確かに銃になったようだな」


 ルフィナのあらゆる動作は「発砲」として成立し、弾丸を生成し放たれる。デメリットとしてはその反動が体全身に来ること。


「厄介ですね」


 時間と空間を縫い止める魔法=縫時魔法は、行動から結果という因果を先に処理する魔法とも言える。

 そして縫い止めるには行動から結果の間に縫い目という名のは他の結果が入り込める余白が無ければならず、動作=即結果で至近距離から放たれた弾丸を縫い止める事は困難だ。

 ルフィナが一歩踏み出した瞬間、床が砕ける。

 踏み込みそのものが発砲。

 踵、膝、腰、肩——そして両腕。

 肉体の各部位が同時に銃として機能し、空間に連続した衝撃波を叩き込む。


「逃げ腰ねぇ、久刹!」


 笑いながら、彼女はさらに距離を詰める。

 右腕を振る——ファスト・バレット。

 ルフィナの魔術の技は、銃撃を応用したものなので詠唱なしでもある程度の効力と威力は確実だ。

 高速弾が雨のようにばら撒かれ、回避という行為そのものを削り取る。

 それでも久刹は後退しながら、左手を走らせた。


「『時縫(ときぬい)』」


 弾丸の一部が、空間ごと空中で縫い止められる。

 時間を止められた衝撃が、空間を通して透明な糸に吊られたまま震えている。

 だが、止まったのはあくまでも一部だけだ。

 反動が、体を軋ませ、次の発砲を生む。

 止められた瞬間内圧が逃げ場を失い、別の角度で爆ぜる。


「縫っても無駄よ。あたし、撃つ前から壊れる前提で撃っているもの」


 久刹の足元へ滑り込むように、ルフィナは踏み込む。

 踏み込みと同時に、腹部からマグナム・クラッシュ。

 圧縮された魔力が、砲撃として解放される。


「……未来を縫う」


 久刹は刀を抜く。


「『時刃縫(じじんぬい)』」


 ルフィナが次に受けるはずだった切断結果が、先に縫い込まれる。

 彼女の肩口に、遅れて裂け目が走る。


「っ……!」


 血が散る。

 だが、ルフィナは止まらない。

 痛みと同時に、反動。

 反動と同時に、リコイル・ジャンプで加速。


「良い刃じゃない……でも、遅いわ」


 久刹は後退を続けながら、視線を細める…


「『裂時(れつじ)』」


 彼女の突進、その未来に起こる破綻。

 体重移動のわずかなズレを先取りし、空間を裂く。

 ルフィナの足元が崩れ、体勢が揺れる。

 その瞬間——

 久刹の糸が、無数に走った。


「『九連縫(くれんぬい)』」


 一針が、九箇所へ。

 時間、関節、反動の流れ。

 全銃化によって暴れていた結果が、連鎖的に縫い止められていく。


「……チッ」


 ルフィナの動きが、僅かに鈍る。

 久刹は、最後の一手を行う。


「『遅縫落(ちぬいらく)』」


 今までルフィナが受けてきた反動、裂傷、内圧。

 それらが“来る時間“だけが、縫い遅らされる。

 一拍。

 そして——

 一気に、落ちる。


「——ぐっ……!」


 全身を、遅れてきた痛みが貫いた。

 膝が揺れ、銃声が途切れる。

 久刹は、静かに刀を構える。


「撃ち過ぎると、自分を壊しますよ」


 ルフィナは歯を食いしばり、笑った。


「……それで? まだ、撃てるし立ってるけど」


 オール・ウェポンは、まだ解けていない。

 つまり敗北の撃鉄は、まだ落ち切っていない。


「確かにそうだけど、首を落として仕舞えば何も出来ないだろう?」

 

 久刹は刀を八相の構えを取り、ルフィナの横へ移動する。

 そして、彼女の首元目掛けて刃を振り下ろす。

 ルフィナが死を身構えた瞬間、久刹の隣に人影が生じる。


「速さは——重さ!」


「ぐはぇ」


 現れた人影、理差の左拳が久刹の腹を殴り、飛ばす。

 久刹は建物に突っ込む。


「はぁはぁ……相棒、私を置いて死なせませんよ」


「……先に負けてたのはどっちよ」


 ルフィナは何とか立ち上がり、構える。


「ジェニーさんとニトロさんの準備は済んだみたいなので、後は私たちだけです」


「そう、それじゃ……やっとコンビらしく戦いますか」


 理差は魔術を行使する。


「『レイト・ブースト』」


 痛み・疲労・負傷の進行を極端に遅延させ、その反動で時間感覚速度に常時上乗せし、移動・反応・思考速度を大幅に強化する。


「ハハハハ、良いですね」


 久刹は建物から出てきて、刃先を下に向けながら構える。


「縫時魔法、『九針加護(きゅうしんかご)』」


 久刹は自身の姿勢、魔力循環、集中力、呼吸、テンションを最大値にするとそれが疲労から下がらないように縫い止める。


「さて、これで全員。バフは済みましたね」


「ああ、あんたを撃ち抜く準備は出来たさ」


「私も準備出来ました」


「それじゃあ、存分に殺し合おう」


 三人が同時に動いた。

 オール・ウェポン状態のルフィナ、レイト・ブースト状態の理差、九針加護状態の久刹。

 三人の戦いは更なる高みへ。

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