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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第110話:二対……一?

「はぁー」


 久刹は顔の右半分から垂れる敗れた皮や血を気にする事なく、刀を肩に掛ける。


「エリザはやっぱりダメだったか」


 その隙にルフィナの側に理差は寄り、耳打ちする。


「ルフィナ、私の読みだけど間違いなく彼……」


「ああ、大魔法使いレベルの実力者で近接戦闘もあんたと同等だろう」


 時差理差は、去年引退した黒曜家の分家に属する捜査官に教えをこいており、黒曜秘伝を修めた訳じゃないが魔術を絡めた近接戦闘では戦闘課で2番目の実力を誇る。

 そんな理差と同等に近接戦闘が出来ると思われる剣士であり、魔法使い。

 接戦は免れず、勝利出来るかも危うい。


「大丈夫。作戦は立てたわ」


「それならあたしは従うだけね」


 理差の立てる作戦は今まで失敗した事はなく、どんな相手でも捕縛するか葬ってきた結果がある。

 理差が久刹を殺すために立てた作戦はこうだ。

 第一に、ルフィナと理差が久刹を相手し、久刹の魔法能力を把握する。

 第二に、二人で久刹の隙を作り出す。

 第三に、その隙にジェニーさんの手で強化されたニトロさんの精霊術をぶつけ、殺す。

 精霊術は、タメは長いが魔法レベルの威力を出せる。

 勿論、ジェニーさんとニトロさんには作戦の共有は済ませてある。


「了解。後は、コンビでのらりくらりと行きましょう」


「ルフィナ。真面目に相手して下さい」


「……分かってるよ、真面目過ぎるとパフォーマンスが鈍るんのよね〜〜」


 ルフィナはタバコに火を付け、咥える。


「どっちが前衛する? いつも通り、コインで決める?」


「いいえ、私が前線を張ります。ルフィナは援護をお願いします。私が死んでも、あなたなら撃ってくれますよね」


「はぁ〜〜」


 ルフィナは煙を吐く。


「あたしは銃口から飛び出した弾丸よ。止まることなんてないわ」


 理差は一度、瞬きをしてからルフィナの顔を見る。


「その言葉を聞いて、安心しました」


「ちょっと! 僕の事、忘れてない」


 久刹はいつまで待っても戦闘が始まらないので急かし始めた。


「忘れてませんよ。少し、作戦を立ててました」


「作戦! 良いね、本気で冤罪の僕を殺す気なんだ〜〜」


「例えあなたが捕まった事件が冤罪だったとしても、あなたが先輩たちを殺したことには変わりはない。私はあなたを絶対に殺します」


「同意するわ……あんたの心臓に穴開けてあげるわ」


 久刹は自身の顔右半分を隠すように触れる。


「良いね、僕を殺せるものなら殺してみてくれ!!


 手を離した時には、傷はまるで初めから無かったかのように消えていた。

 理差は思考する。

 魔法、いや……魔力による回復と魔法の合わせ技。


「さてさてさてさて、僕と斬り合ってくれるのはどっちかな!」


 瞬き一つで、久刹は二人のすぐそばまで詰める。

 そして、刃を縦に振るった。


「『テンポラル・レイド』」


 先に反応したのは、理差だった。

 動作速度を一瞬だけ10倍にし、振るわれた刃を両手でいなし流した。


「けひっ」


 そのまま……


「『タイムギア・加速(サード)』」


 久刹を蹴り飛ばし、蹴り飛ばした先に移動する。

 これで前衛と後衛の距離が離れる。


「その調子だ」


 久刹は着地の瞬間から、迫ってきていた理差に刃を振るう。

 理差は回避するが、久刹は続け様に刃を振るい続ける。


「くっ」


 一歩踏み出す毎に三回刃が振るわれる。

 袈裟斬り、左袈裟斬り、真向斬り、逆袈裟斬り、左逆袈裟斬り、真向斬り……

 三撃目に真向斬りが来るのに、そんな事も気にしない軌道で刃が振るわれる。

 そして当然のように理差に追いついてくる。


「良いね、君」


 それは12歩進んだ久刹が漏らした言葉だった。


「……はぁはぁ」


 理差は息も絶え絶えだったが、無傷で全て回避したのは見てとれた。


「大丈夫かい?」


 久刹は平然とルフィナの発砲した弾丸を切り捨てながら、理差にも攻撃する。

 援護射撃が意味をなさない。


「はぁ、君と僕の勝負の邪魔だね」


 久刹は左手を広げ、その指を大きく広げながら不気味に動かす。


「起きろ、エリザ」


 理差とルフィナは思わず、エリザの方を見る。

 エリザの傷口、鼻、口、耳に薄く細い糸が入り込み、その体を人形のように動かし始める。

 二本足で立っているが、その上体は背中側に大きく曲がっており、髪は地面へと向かって垂れ、血と唾が顔に広がる。


「ルフィナ!」


「分かっているわよ! 『ファストバレット』」


 エリザを破壊するための弾丸が発砲される。

 弾丸は真っ直ぐ、エリザの額に向かうがそれよりも早く、エリザの口が動いた。


「ほ、ほ……細節魔法、『微瑕(マイナー・フロウ)』」


 どこからか飛んできた看板が弾丸を弾き飛ばす。


「魔法を発動した……!?」


 遺体を操る術は魔術にも魔法にもあるが、その上で遺体の魔法を発動させる術は少なくとも上位に位置する魔法だけが出来る。


「さてさて、これで僕と真剣勝負が出来るね」


 久刹は不適な笑みを浮かべながら構える。


「ルフィナ、任せて」


「了解」


 理差は久刹を、

 ルフィナはエリザを、

 睨み、眺め、そして構える。

 自分のすることを再確認する。

 ルフィナがエリザを停止させるまで、こいつ(久刹)を抑える。

 理差が久刹に敗れる前に、エリザをもう一度殺す。


「「背中は——」」


「任しなさい」「任せろ」


***


 ジェニーとニトロは少し離れていた所で術の準備に勤しんでいた。


「あの魔法使い、二人とも上位魔法持ちね」


「草」


「ええ、本当に危機的状況」


 上位魔法、最上位魔法の一個下に属する魔法区分で最上位魔法より理不尽ではないが、魔法使いとしては上位に位置し、その数は少なく。

 キングクラウンに出場したカールとキューピーは中位魔法持ちであり、それが一般的な魔法使いの上位であり、上位魔法持ち一人は中位魔法持ち三人に匹敵する。


「ニトロさん、精霊術の中で最も攻撃力が高い物を準備して下さい」


「桃栗三年柿八年ですよ」


「相応の時間と努力が必要ですか? それなら大丈夫です」


 ジェニーの周囲で魔力が舞う。


「私は賢者です。賢者の最も得意とする事は、知識で労力を簡単にする事ですから、貴方は私の指示に従っていれば良い」


「オリーブの言葉を」


 賢者ジェニーと精霊ニトロ、二人の象徴が今、協力する。

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