表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
101/141

第89話:接敵

 シュッツの先導に従い、俺たちは大競技場を脱した。

 今は休憩のため、路地裏に居た。

 この先は観光街だ。

 大競技場から真南の海岸付近に位置する島外との唯一の移動手段、転移門まで広がる観光客向けの店舗が立ち並ぶヴィクトリア様式を基調とした建物群が並んでいる。


「シュッツさん、どこに向かっているんですか?」


「真南の通信塔だ」


 通信塔、確かこの島で1番高い建物で転移門の近くだったな。

 この島、アヴァロンの総面積は80〜100平方kmほどで直径は10kmほど島中央に位置する大競技場から通信塔まで徒歩で行くとすると1時間から2時間ほど掛かる。


「何で通信塔に?」


「君も知っていると思うが、通信塔はこのアヴァロン内で唯一島外と連絡が取れる場所だ。オジサンたちは通信塔に行かなくても通信塔を介して外部と連絡を取るために簡易通信機を持っていたんだが、何度も通信塔にメッセージを送ったが反応がなかった。通信塔は敵の手に落ちたと考えるのが妥当だろう。テロを警戒してルフィナと理差が所属する魔件局戦闘課の魔術師を配置していたんだが間違いなく彼らは……」


「シュッツ!」


 ルフィナの大きな声がシュッツの言おうとしていた事を制した。

 俺たちは驚き、足を止め、ルフィナの方を見る。


「あたしの同僚も舐めるな! あいつらは死んでなんかいない!」


 その顔は怒りで赤く腫れ上がっていた。

 シュッツは冷静にそして冷酷にその事実を淡々と告げる。


「死んでいるよ。彼らに魔件局の職員を生かして置く意味はない。それに戦闘課で1番強いのは君と理差だろ、君らより弱い彼らが敵にとっても重要な通信塔に居て生きている確証はない」


 その言葉をルフィナは爪が肉に食い込むほど拳を握り締めながら聞いていた。


「シュッツはさぁ、魔件局で大事な人がいるか?」


「さぁ、居ないな」


 ルフィナは唇を噛むと、ズカズカとシュッツに近づく。

 そしてシュッツの襟を掴み、引っ張る。


「あたしにとってあいつらは同僚であり家族だ。厳しい任務も、平穏な日常も、共に過ごしてきた。家族の死を簡単に受け入れられる訳もないし、あいつらの生存を願うのは当たり前のことだろ!!」


「ルフィナ、それくらいにしなさい!」


 理差が割って入る。


「こんな事態の最中に仲間内で争ってどうするの、私たちは魔件局の捜査官。市民を守り、平穏な日常を築くのが仕事、怒りで我を忘れるのは犯罪者の成すことよ」


「そうよ、ルフィナさん。今は冷静に行かなきゃ、生きてるかもしれない仲間を助けられなくなる」


 理差と琲李がルフィナを宥める。


「っ……理差が言うなら分かったわ。シュッツ、すみません……でした」


 ルフィナは掴んでいた襟から手を離し、シュッツに謝罪する。

 理差はルフィナが落ち着いたのを確認するとシュッツの方を向く。


「シュッツさん、助けはしましたけど貴方の言葉と態度を認めるわけではないことをご了承ください」


「ああ、分かってるさ。さて、移動を開始するか」


 敵の襲撃を警戒しながらも万が一のため、広めの道を選択して通信塔に進んでいく。

 観光街に入ると、血の匂いが漂ってきた。


「鉄臭い……結構な数、死んでいるわ」


 琲李の呟きと同時に見えてきた大通りには無惨な死体が何十体も転がっていた。

 魔法使い、魔術師、敵側の魔術師と関係なく殺されていた。


「これは……」


 シュッツが転がった学生の死体に近づき、軽く調べ始める。

 死に至った傷やどんな力を受けたのを探っていく中、シュッツは琲李を呼ぶ。


「死後、30分ほどって所だ。この傷、見てくれ」


 その傷は何かに貫かれたような傷だが剣にして丸く、槍にしては小さかった。


「これって……矢傷よね」


「ああ、そうだと思うんだが肝心の矢がない」


 矢のない矢傷、それが意味するのは。


「ああ、あれが通信塔よね!」


 ミアが指差す先には天高く伸びる塔があった。

 通信塔、アヴァロンで1番高い建物でありながらも魔法・魔術的影響である程度近づかなければ見えないようになっており、その高さにもちゃんとした理由がある。


「今から通信塔に行くのよね、向こうからの景色は最高よね?」


「ミア、遊びに行くわけじゃないぞ」


 ミアと俺の危機感のない会話を聞き流していたシュッツだが、そこで気付く。

 限界ギリギリの気付きだった。

 音を切る音と共に一本の矢が、ミアの額目掛けて飛来する。

 射られそうになっているミア本人ですら反応できない中、一人の人物が動く。


「『伏線破棄』! ぐっ……」


 ミアを庇うように立ったシュッツの横腹を矢が抉る。

 俺たちは一斉に建物の影に隠れたが、隠れることに専念した為に大通りを間に二手に離れてしまう。

 地面に突き刺さった矢は魔力となって消え失せる。


「シュッツ! 大丈夫!? 何で魔術は間に合ったはず」


 琲李がシュッツの傷の状態を確認する。


「大丈夫だ。魔力で止血はした、もう動ける」


「そう。何で伏線破棄で防げなかったの?」


「射手の腕が良すぎるんだ。完璧な射撃にミスはほとんどないから伏線破棄で完全に逸らす事が出来なかった。琲李、済まないがここを任せられるか?」


 敵は通信塔に居り、近づけば近づくほど危険になってくる。

 だから、ここで敵の目を縫い止めなければならない。


「奴はあくまで援護だと思う。向こうに撲殺された死体があるだろ……ってことは建物の影に隠れて狙えない者を殺すための存在も居るってことだ。そいつを殺して、のらりくらりといなしていれば、あの射手もこっちに来るはずだ。それに……」


「敵はこれだけじゃないでしょ。まだ、居るはずだし通信塔を占拠できる実力者が居る。大丈夫、私に任せて、あの射手を釘付けにしてやるわ」


 琲李は覚悟を決める。


「濡羽、ミア、ルナ、はオジサンと。ルフィナ、理差、ニトロ、ジェニーは別ルートで行ってくれ。ここは琲李が抑える」


「了解しました。行きますよ」


 シュッツの言葉に反対側に居る理差は二人を連れ、行った。


「さて、行くぞ」


 俺とミアは遠ざかっていく琲李を見ながらその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ