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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第88話:犯罪者たち

 放送が終わった。

 覚悟を決めた為に静寂が大競技場に広がる。

 ライターはいち早くその雰囲気を感じ取り、観覧席の魔術師たちを見る。

 自分の用意した魔術師たちの多くが手にしていた武器を持っておらず、さっきまで退屈していた魔術師たちの顔に退屈などはなく自分を見ていた。

 ライターは瞬間、何が起こるかを想起した。


「はぁ、これだから魔術師は……」


 その手に二振りの光剣を生み出す。

 騎士もまた笑みを浮かべる。


「シカトリス様、どうか我輩の背後に」


 シカトリスは騎士の背後に移動する。

 すると騎士も担いでいた大剣の柄を握る。 


「掛かって来い、魔術師ども!」


 ライターの言葉に、触発されるように魔術師たちは魔術陣を手元に浮かべる。


「『火球』!」「『水流』!」「『風刃』!」「『土槍』!」


 一斉に百を越える魔術がライターと騎士に向かって飛ぶ。

 ライターはすかさず魔法を発動する。


「『光幕(トゥーフ)』」


 燦々と輝く光が幕となって、魔術を全て無効化する。


「ガハハハハ、まだまだ温い温い」


 簡単に大剣で斬り落としていた。

 ライターは一通り防ぐと光に乗って、魔術師たちの元に移動する。


「来たぞ、迎い撃て!」


 魔術師たちは魔術から単純に魔力で体を覆う身体強化へ移行し、素手で殴り掛かってくる。

 ライターはその様子に頭を捻る。

 僕の用意した武器を手放して、素手でやってくるか。

 誇らしいけど、理解出来ないな。

 迫る魔術師たちの頭を光の速度で斬り落としながら、進む。


「チッ、死体ごと撃て」


「「「「『火矢』」」」」


 4本の貫通力に特化した火の矢が仲間の死体を貫き、俺に向かってくる。


「遅すぎる。『光閃(シュトラール)』」


 火の矢がライターに到達する寸前、ライターの手元に生まれた四つの光球から四つの線が光となって魔術師4人の心臓を貫通した。


「火が光に勝てるとでも?」


 このまま行けば、殲滅するのは容易いな。

 はぁー、重い損失だ。


「星々よ、輝け『星落としの鈍光(レーゲン)』」


 ライターの背後と上空に無数の光球が生まれ、そこから流星のように光線が降り注がれる。


「土k……」「火y……」


 光速の圧倒的速度が魔術師に魔術名を紡ぐことを許さない。

 数分のうちに観覧席に居た魔術師総数569名の命が散る。


「はぁー、連絡するか」


 ライターは自分の足元に無数の死体が転がっていることを気にせず、懐から通信機を取り出す。


「こちら、明星。応答どうぞ」


【しもしも、こちら猫殺し】


 少し高めで陽気な言葉が返ってくる。


「想定より早く動いてもらうことになりそうだ。張る場所は——」


【了、ぼくもすぐそっちに行く】


 通信を切る。

 ライターにはこの作戦を始まる前から三つの懸念があった。

 一つ目は黒曜濡羽の存在。二つ目は魔術師の暴走。

 三つ目は二つ目の保険であり、雇った魔術師では対処不可能な存在への手札である魔法使いを連れてくる方法と裏切る可能性。 

 作戦上、強力な魔法使いは複数人必要だった。誰にもバレることなく連れてくる方法は……

 数少ない魔法使いの中にも犯罪を犯す魔法使いは少なからずいる。

 強盗、殺人、禁忌……その罪が軽くても重くても一度罪を犯した魔法使いは一人残らず千夜城と呼ばれる監獄に無期限収容される。

 キングクラウンのスタートと同時に、外部との接続を嘘の情報で塗り潰し、事態の露見を防ぐことで騎士に千夜城を襲撃してもらい、自由と引き換えに強力な魔法使いを複数人雇うことが出来た。

 雇った者たちは普通の魔法使いよりも殺害に特化した者たちで、こと戦闘においては期待できる連中。

 しかし犯罪者なのは変わりなく彼ら全員が異常者だった。


「黒曜濡羽。利き腕を失った君は果たして魔法使いに勝てるのかな?」


***


 中継室で魔法使い、魔術師たちの士気を高め、放送を切ったタイミングでどっと後悔が生まれてくる。

 これで良かったのか? 少し、命令口調過ぎだったかも……


「タリヤ、これで良かったか?」


 俺は背後に立つタリヤの方を見て確認する。

 終わってすぐのタイミングで振り返ったため、後ろに居た全員の顔が映る。

 全員の顔はどこか唖然としていた。


「どうした? みんな」


「いや、思っていたより上手かったなって……」


「そうですね。まぁ、あんな感じで自分の気持ちも伝えて貰えるとありがたいのですが……」


 ルナの言葉が俺の心に刺さる。


「ごめん」

 

 これは謝るしかない。

 結局、こんなことになって言えてないしな。


「良いですけど、早めにお願いしますね」


「え、何何? 良い感じの雰囲気じゃん、青春だね」


「タリヤちゃん、おばさんみたいなコメントしてます」


「貴方はオジサンでしょ、私はまだ若いから」


 シュッツの軽口にタリヤが怒った口調と顔で反論する。少しでも可愛いと思ってしまったのは俺だけじゃないはず、大の大人が頬を膨らませているから可愛いのだろうか……?


「早く移動しましょうか。さっきの放送でここに敵が来るかも知れないので……」


 あのライターなら間違いなく追手を送るだろう。

 まぁ、あの放送で魔術師たちが行動を起こしたのなら追手が来るまでの猶予はあるはず。


「そうだね。でも少し待とうか、まだ生き残っている人たちがここに来るかもしれない」


 確かにミアや織可とも合流したいし、仲間が増えればライターにも勝てるかもしれない。

 その後、安全のために敵の動線が把握出来る中継室に繋がる廊下で待機することになった。

 少しの間待っていると現れたのは、意外な人物だった。


「まだ居ましたか。まぁ、その方が良いですしね」


 青髪の女性と緑髪の女性で緑髪の方は副会長のニトロさんってことは分かるが青髪の女性の方は知らなかった。名前なら知ってるかもしれないが初対面の人かもしれない。


「師匠」


 ルナの師匠なのか。


「ルナ、この人は?」


「濡羽は会ったこと無かったわね」


「私は二十代目賢者『構築の単位』ジェニーよ。初めまして、魔術師唯一のキングクラウン優勝者の黒曜濡羽くん、弟子の二人がお世話になったね」


「あのジェニーさんですか! よく魔学の雑誌で名前を拝見してます」


 いや、あのジェニーさんが目の前に。

 魔力などに関する魔学の権威で、彼女の見つけた法則は役に立っている。

 弟子二人ってことはシェリーも彼女の弟子なのか。

 賢者の弟子なら二人の強さも納得だ。


「ここに居たのね、どれだけ私がアンタらを探したか」


 声のした方を見るとピンク髪の少女、ミアだった。


「ミア!」


 彼女は俺の無い右腕を見ると俺に向かって駆け出した。

 そのまま、俺の胸に飛び込んだ。


「ごめんね、アンタが危険な時にすぐに動けなくて……」


「いいよ、まだ本調子じゃないんだから怒っても恨んでもいない。君が無事でよかった」


「でも、魔法使いが魔法を使えないならこの傷は……」


「直せないだろうね」


 キングクラウンで負った傷の治療を行なっていた者は魔法使いで、回復魔法なら部位欠損も生やすという方法で治すことが出来る魔術師の回復魔術では部位欠損の治療は不可能だ。

 だから、魔法が使えるようになるまでは俺の右腕は治らないということだ。


「でも、ライターに勝って魔法が使えるようになればこの傷を治すことは出来る。ミアも俺や皆んなのために戦ってくれるか?」


「ええ、戦うに決まっているでしょ」


 ジェニー、ニトロ、ミアが加わり俺たちは移動を開始した。

 織可はミアの話では街の方に行き、領域魔術で魔法使いと魔術師の保護に向かったらしい。

 あいつならこの状況でも十分生き残れるだろう。

 シェリーも魔王だし心配は不要だし、キングクラウンに出場した者たちも実力的に魔術師相手ならほぼ負けることはないから無事だろう。


「止まって」


 タリヤの言葉に全員が歩みを止める。


「出てきなさい」


 静かにタリヤは廊下の奥を見る。


「気付くとは流石、現魔件局の局長だ」


 廊下の奥から紫色の髪を後ろに流した壮年の男性が姿を現す。


「皆んな、違う道で行ってシュッツに指示は全部してあるから」


 タリヤは一歩前に出る。


「皆んな、オジサンに付いて来て」


 俺たちはシュッツと共にタリヤを置いて離れる。


***


「久しぶりね、『青き血』」


「そっちもな、子猫」


「子猫って言うのやめてくれない。私にはタリヤって言う名前があるの」


「それなら俺にはセルヴィスという名前があるんだが?」


「知ってるわよ」


 セルヴィス・ディヴォース。

 初代魔件局局長であり、魔王を越えると名高い魔法使い。

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