第87話:王命
かつて始祖は一つの祭典を開いた。
全ての魔法使い、魔術師、魔導士、魔剣師、結界師、再生師……全ての魔力を操る種族の中でその種の中で最高峰とされる者たちを選抜して集め、皆の前でこう宣言した。
今、この場で争い勝ち残った六人を弟子に取る。
その言葉は始祖以外の全員を奮い立たせた。
最高の魔法使い、始まりの魔女、魔を定めし者など数々の異名で呼ばれる始祖の弟子になれる。
そして始祖の弟子となった者が世界の中心、彼女の後継者となる。
魔法使い、魔術師、魔導士、魔剣師、結界師、再生師……全員が死力を尽くし争った。
たった六つの席のために。
こうして始まったのが、魔女の競技会だ。
六人の魔法使いが勝ち上がり、七家を超えた存在、六大高弟となった。
六大高弟を決したこの競技を以後、キングクラウンと名付けた。
その由来は、始祖という女王の後継者たるつまる所の王子、王女を決めたからだとされる。
そして今大会で、黒曜濡羽は王となった。
***
「だから、王となった濡羽にしてほしいことがあるの」
タリヤの語った伝承は学院でも学んだ事実であるが、回数を重ねるほどにキングクラウン優勝という証はただの証と成り下がった。
始祖も六大高弟から後継者を決めることなく、この世を去った。
都市伝説だが始祖には子供がおり、その子供が後継者になる予定だったと言う者もおり、その子供の血を受け継ぐ者には同等の権利が与えられるらしい。
「あまり、俺に出来る事はなさそうですけど……」
「ただのキングクラウン優勝者だったら、そうだったけど貴方は史上初の魔術師のキングクラウン優勝者。貴方の一挙手一投足、放つ言葉は魔法使いを動かすことは出来なくても魔術師を動かす事が出来る」
タリヤの言葉が響く。
単位を得るために取っただけの優勝。
そこにどれだけの思いが詰まっているのかを実感する。
「なんせ、貴方は魔術師という存在が生まれてから全ての魔術師が望み血反吐を吐きながら目指した唯一の始祖の王子。知ってる、六大高弟の次に最後まで残った七人目は魔術師なのよ、魔術師は可能性の塊——可能性の先に希望を掴む存在なのよ」
「希望を掴む存在……」
魔術師には大層な言葉に思えるが、俺には魔術師という存在に相応しい言葉に思えた。
「問おう。黒曜濡羽、貴方は何者?」
「俺はお前の言う可能性を掴む存在、魔術師だ。タリヤ、改めて俺は何をすれば良い?」
***
逃げられた者を除き、観覧席に居たほとんどの魔法使いは殺された。
ライターに雇われた魔術師の大半は次の指示まで待機していたが、その指示を聞かない者たちは特別観覧席の方に向かっていた。
観覧席の魔術師たちは魔法使いが無様に殺される光景を見終えたため移動しようとしたが武装した魔術師に制され動けず、退屈な時間を過ごしていた。
「クソ、何で移動させてくれねぇんだよ」
「あそこの光明の指示じゃねぇか」
「そうなら、結局あの魔法使いも俺たちのことを考えてくれないんだろ」
一つの欲望の達成が更に人を増長させ、貪欲にさせる。
その光景を武装した魔術師は内心笑っていた。
今、魔法使いは魔法が使えないが魔術師は魔術を使用出来る。例え武器を持っていたとしてもこの数の魔術師が抵抗してきたら厄介になる。
だから見える形で残虐に魔法使いたちを殺し、深層意識に逆らったら殺されるという恐怖心を擦り込んだ。
後は魔力奴隷技術の機材が来るのを待てば良い。
その時、突然放送が始まる。
アヴァロンの決まった時間に始まる島内放送で、中継局はここ競技場にあり、他の魔術師が占拠したはずの場所であり、放送が始まるなどあり得なかった。
『聞こえているか? これで起動しているはずだな』
それはキングクラウンを見ていた全員が聞き覚えのある声だった。
自信のある少年の声、島内放送で流れる聞き覚えるのある声ではない、それよりも若い声。
実況席に居る黒曜彼我見は驚きながら呟く。
「濡羽?」
放送は続く。
『知らない人も居るかもしれないが、今この島は傷跡というテロリスト集団に占拠されている。魔法使いは魔法が使えなくなり、街中にはテロリストの雇った魔術師が闊歩しているだろう。競技場に居た魔法使いはそいつらに殲滅された』
その放送を聞いていた魔法使いたちは絶句した。
自分たちの同胞が魔法を封じられ魔術師たちに殺されたのだ。
激怒する他なかった。
『これを聞いている、魔法使いたち。どうか魔術師を恨まないでくれないか? 魔術師たちも魔法使いを哀れに思わないでくれ。長年、魔法使いたちは魔術師を、誇りである魔術を踏み躙ってきた……けれど、だからこそ魔法使いを恨むべきではない。魔術師なら分かるはずだ、誇りを失った時の心の弱さを、そしてその弱さを耐え忍び乗り越えるために出来ること、その心の在り方を。その全てをどうか、魔法使いに分けて欲しい、誇りを失い弱りきった魔法使いたちを支えてほしい』
放送を聞いていた魔法使い、魔術師が絶句する。
彼はこんな公の場で魔術師に、自らを罵倒し侮辱してきた魔法使いを助けて欲しいと頼んでいるのだ。彼も魔術師のはずなのに、こんな状況で魔法使いを弱者を優先する。その在り方に魔術師たちは己の過ちを自覚する。
そして、ただただ少年の言葉を聞き続ける。
『敵が強大な事に変わりはない。島中の魔法使いから魔法を奪い、魔術師を扇動してこの島内限定で魔法使いと魔術師の地位を逆転させようとしている。魔術師の多くが長年望んできたことが叶おうとしている、だけれどもこんなやり方で魔術師の方が上だって認めたかったか、俺たちは? 違うだろ! 俺たちは魔術師、どんな苦境に立たされようが努力で、泥だらけになりながらも惨めにもどうにかしてきた。今、テロリストがしていることは惨めか? 素晴らしいか? 今の現状は、俺たちの望んだ世界か?』
観覧席で聞いていた一人の魔術師が立ち上がり叫ぶ。
「違う! 俺の望んだ世界はこんな血生臭い世界じゃない」
「そうだ。誰も笑顔になれる世界を望んだ俺たちは!」
武装した魔術師の中にも影響を受けた者がおり、自然と武器を落とした。
『俺がこの事態を解決する。俺が絶対に魔法使いも魔術師も平等に笑顔になれる世界を作り上げる! だから、皆んなもどうか諦めないでくれ、戦ってくれ!』
「俺たちは戦うぞ」
「ウォー、魔術師を舐めるな!」
魔術師たちが一斉に奮起する。
魔法使いたちも立ち上がる。
全員が一人の魔術師の言葉を信じていた。
彼なら本当にそんな世界を作ることが出来ると、運命に定められているように思えた。
『俺は史上初のキングクラウン魔術師優勝者、黒曜濡羽。テロリストは俺と俺の仲間に任せてくれ、だから魔術師、魔法使い関係なく支え合い、抗ってくれ!』
それを聞き終えたライターは怒りを浮かべながら呟く。
「やはり、君は最大の障害だ」
***
シカトリスと騎士もまた反応を示す。
「黒曜濡羽、この時代に似合わぬ傑物ですな」
「貴方が魔術師を評価するなんて珍しいじゃない」
「我輩とて人です。面白い者、殺し合いたい者に心を動かされるのは自然の摂理。シカトリス様も面白いと感じたのはではないですか?」
「ええ、そうね。黒曜濡羽、その名覚えようと思うわ」




