18-5・負けない戦い
「沼田っ!コイツは処刑決定だ!コイツに特殊能力を発動させてくれ!」
「うんっ!富醒発動!ヒールっ!!対象は、藤原君と源君!」
沼田さんが掌を翳したら、僕と藤原くんの体が一瞬だけキラキラに包まれた。
「即死以外なら、1回は今の状態まで戻せるからね」
ダメージを回復させる特殊能力ではなく、ダメージ0の状態で発動させておくことで、ダメージを受けても今の状態まで戻せるらしい。
「ああ・・・なるほど、便利だね」
沼田さんのヒールは、この世界の「回復魔法は無い」という常識を逸脱した超便利な特殊能力。その為、他の特殊能力とは違って使用回数が限られており、沼田さんの体力が万全の状態でも6人同時使用が限界(熟練度が上がれば増える)。且つ、沼田さんが自分に使用した場合は肉体的ダメージは回復できるが、特殊能力を使用した消耗度は回復できない。
「沼田さん、ありがとう」
改めて剣を構えて、藤原くんに突進をする!
「わあぁっっっっっ!!」
剣を振るうけど、藤原くんの剣でアッサリと受け止められてしまった!
「フン、やっぱ、この程度か!
剣の振りが軽いっ!借り物の特殊能力じゃ制限がかかって剣は斬れない!」
藤原くんが瞬発的に発した蹴りが僕のお腹に炸裂!2mくらい弾き飛ばされて地面を転がる!
「優秀な特殊能力を持っていても、オマエじゃ使い熟せないってことだ!」
「・・・くっ!」
蹴られたお腹が痛い。食べた直後だったら吐いていたかも。これが現実世界での喧嘩だったら、きっと今の一撃で戦意を喪失させているんだろう。
「いや・・・これが現実世界なら、歯向かうことすら考えなかったんだろうな」
立ち上がり、今度は、背負っていた甲羅の鎧を装備して突進をする!得意技(?)のシールドアタックだ!
「オマエ、バカだろ!
盾に隠れてる奴なんて、恐くも何ともねーよ!」
アッサリと回避をされ、背中を蹴っ飛ばされて再び地面を転がる。
「くそっ!」
盾を手放して立ち上がり、ヤケクソ気味に剣を振り回す!だけど、全て藤原くんの剣で弾かれるか回避されてしまう!
藤原くん、やっぱり強い。戦い慣れをしている。言葉では僕を侮ったフリをしているけど、アーマーファンブルを警戒している。僕の振る剣の切っ先に集中していて、動きを全て見切られている。
「でもっ!」
僕が大振りした剣を、藤原くんは身を引き気味にして自分の剣で受け止めた!アーマーファンブルが発動しても、剣ごと自分が斬られない位置を、ちゃんと確保している!藤原くんは、僕ではなく、僕の剣先に集中している!僕のことなんて、ハナっから眼中に入れていないのがよく解る!
「だからこそ、そこが隙になるんだっ!」
ぶつかった直後の剣を手放し、藤原くんの懐に飛び込む!
「なにっ!?」
藤原くんは腕を伸ばして剣を突き出しているので、直ぐには手元に戻せない!僕ではなく僕の剣に集中していたので、僕の動きへの対応が遅れた!僕は、ずっとこのタイミングを待っていた!
「わぁぁぁっっっっっ!!」
退き気味だった藤原くんは踏ん張ることができずに、僕の渾身のタックルで仰向けに転倒!
マウントを取った僕は、腰に携帯しておいた小さい斧を装備して振り上げた!即死させなければ沼田さんが直してくれる!それを信じて、斧を振り下ろした!
「くっ!・・・富醒発動!ルーラーッ!!
退きやがれっ!!」
その瞬間、僕の体は藤原くんの威嚇に負けて動けなくなった!
「ヘタレが調子に乗るなっっ!!」
蛇に睨まれた蛙の状態になった僕に、藤原くんが剣を振るう!
「うわぁぁっっっっ!!」
鮮血が飛び、左肩から左胸に裂傷を負った僕は仰向けに倒れて、立ち上がった藤原くんに剣を突き付けられた!
「舐めたことしやがってっ!」
一瞬で形勢逆転。傷が痛すぎて、立ち上がったとしても、もう満足に動けない。藤原くんの特殊能力を警戒しなかったのは僕のミス。
「勝負あり!・・・それまでだ!」
近藤くんが割って入って、藤原くんが突き出していた剣に手を添えて、「引け」と合図をする。
藤原くんは舌打ちをしてから剣を納めた。近藤くんが、僕の傷を確認してから沼田さんに向かって手を上げる。
「命に別状は無いだろうが、元に戻してやってくれ」
「うん!ヒール発動っ!源くん!」
僕の全身がキラキラと輝き、みるみる傷が塞がっていく。痛みが無くなったので、上半身を起こして、傷口があった場所に触れた。服は切れたまんまだけど、体の傷は無かったことになっている。
「すごい・・・マジで便利」
近藤くんが手を差し出してきたので、掴んで引っ張られながら立ち上がる。
「何故、特殊能力を使わなかった?」
「え?気付いていたの?」
「ファンブルは俺の特殊能力だからな。剣のキレを見れば解る。
オマエは、デモンストレーション以外では、
俺だけでなく土方や鷲尾の特殊能力も使っていないよな?」
「・・・うん」
藤原くんの目的がハンデをもらった僕に恥をかかせることなら、そのハンデを使わずに勝って見返したかった。狡い手段を使わず、クソ真面目に挑む。それが、真田さんに指摘されてから考えた「僕らしい戦い方」だ。ただし、藤原くん相手に、最初から「特殊能力は使いません」を宣言しちゃったら、一切警戒をされずに、単に喧嘩の弱い僕が一方的にボコられるのは目に見えている。だから、あえてプレゼンテーションをして藤原くんに警戒をさせた。そのおかげで、藤原くんは、僕自身ではなく、僕がいつ発動するか解らないファンブル&ウインドミル&アジリティにばかり警戒して、僕は想定外の動きをしやすくなった。
「タックルをするとことまでは上手くいったんだけど・・・結局は負けちゃったね」
「いや・・・そうでもない。
史弥・・・どっちの勝ちか・・・解っているんだろ?」
「・・・・・・」
藤原くんは突っ立って僕を睨み付けたまま、ずっと不満そうな表情をしている。
「戦いは勝ったが、魂胆は全て崩された。・・・史弥、オマエの負けだ」
「・・・チィ」
僕の剣術は腰が退けている。それは一手目で見抜かれていた。人と争ったことなんて無い。もちろん、人に刃物なんて向けたことも無い。
いくらウインドミル&アジリティを駆使しても、土壇場でまともに剣を振れなくなる。だから、藤原くんは僕の剣を裁くことだけに集中していた。特殊能力を使っているのに僕の剣は藤原くんに届かず、藤原くんは特殊能力を使わずに勝つ。これで、僕は恥をかき、絶対的な力の差を思い知る・・・はずだった。
だけど、僕は特殊能力を使わず、藤原くんは特殊能力を使ってしまった。
「コキ使ってやるから覚悟しておけよっ!」
「うん・・・よろしくね」
「ふーみんの方が恥をかいたんでしょ!?なに偉そうなこと言ってんの!?」
真田さんが食って掛かる。
「うるせー、中坊!そーゆー約束なんだよ!」
藤原くんは、踵を返して立ち去っていく。
「はぁ?意味が解んないっ!!」
「いーのいーの。そーゆー約束なの」
なおも突っ掛かろうとした真田さんを止める。僕の提案は、知名度抜群の藤原くんが旗頭になって、この世界で散り散りになっている仲間達を集めること。彼は、その提案を受け入れてくれたみたいだ。
「真田さん・・・いつもありがとう」
「あたし、なんかしたっけ?」
「うん!」
真田さんの助言が無かったら、僕は藤原くんの演出に踊らされて、戦いと魂胆の両方で負けていただろう。いつも勇気をくれる真田さんには、感謝しか言えない。
ルーラー
使用者:藤原史弥
周りにいる者の行動を支配する。狭い範囲で強い強制力をかけて敵を味方にする、広範囲で発動して動きを止めるなど、状況に応じて使い分けが可能。熟練度が上がると支配範囲が広がる。
ヒール
使用者:沼田縫愛
対象を事前に干渉下に入れておくことで、対象が即死以外のダメージを受けてもダメージを受ける前の状態に戻すことができる。作中では便宜上「回復」の言葉を使ったが、「元の状態に戻す」が正解。モーソーワールドの理を覆す能力なので、使用制限がある。熟練度が上がると使用上限が増える。
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当初は尊人が惨敗する展開を考えていた。だけど、早璃が絡む戦いになったことで「一方的な敗北では無様すぎる」と感じるようになった。だけど番長に勝つってのも違和感しか無い。そんなわけで、尊人らしいクソ真面目っぷりで藤原の魂胆を覆して負ける展開にした。ハンデを与え、ハンデを潰して勝つつもりだった藤原は、尊人のプレゼン効果でハンデの部分にしか集中できなくなる。「策士策に溺れる」で、自分が与えたハンデに飲まれてしまったのが藤原のミス。普通に戦っていれば、尊人は全く良いところを見せられずに惨敗したと思う。




