17-5・近藤くん
近藤くんに連れられて町の外に出る。ってゆーか、その辺の空き地に行く程度かと思ってたのに、町の外まで来てしまった。
「どこまで行くの?」
安全な街道を逸れて、森に向かって歩いて行く。
「モンスターと遭遇するまで」
「・・・へ?」
僕、手ぶらです。武器も鎧も準備してません。「近所のコンビニに行く」くらいの感覚で付いて来ちゃいました。
「俺の戦いを見ていれば良い」
「ああ・・・うん」
もの凄く不安です。会話が苦手な僕が言うのもアレなんだけど、近藤くん口数が少なすぎ。町の外まで連れ出すなら、事前にそう言ってほしかった。
近藤浩二。出席番号10番。剣道部。剣道で有名な大学から声が掛かるほどの実力がある。クラスで2番目に身長が高くて、顔は一番いかつくて、基本的に寡黙。要は、黙って立ってるだけでメッチャ威圧感がある。
藤原グループの№2なんだけど、他の人達とは違って藤原くんの傘下っていうより相棒。仲の良くて注目度の高い2人のところに、スクールカースト主義の人達(遠藤くんや加藤くん)が集まってグループ化をしたらしい。
「まぁ、あれでも良い」
森の奥に、軽装の鎧を着て剣と盾を持ったトカゲ人間を発見。3人いる。遭遇するのは初めてだけど、モンスターの本で読んだことがある。
「リザードマンだ」
丸腰の僕は掌に魔力を溜める。僕の魔法では倒せないだろうけど、動きを止めるくらいならできる・・・と思いたい。
「ここで見ていろ!」
「でもっ!」
「トカゲの3匹くらいどうってことない!」
近藤くんは、ツーハンデッドソードを抜刀して、リザードマンに向けて突進!
「富醒発動!アーマーファンブル!!」
生い茂った複数の木が障害になっているのもかかわらず、近藤くんはリザードマン目掛けて長剣を振るう!
剣の軌道を見た瞬間、僕にも解った。近藤くんは攻撃を焦りすぎてミスっている。刃は大木に当たって、リザードマンには届かない。・・・と思った直後!障害となる大木は切断され、リザードマン1人が胴から上と下に別れた!
切断された大木がリザードマン2人の上に倒れてきた!1人は大きく退いて、もう1人は半歩後退をして回避する!
「おぉぉっっ!!」
近藤くんは、倒壊中の大木ごと半歩後退したリザードマンを真っ二つにする!
「シャァァァッッッ!」
警戒をした残る1人が盾に身を隠した!だけど、近藤くんはお構い無しに突っ込んで、リザードマンを盾諸共に両断した!
「・・・すごすぎ」
大木斬りのインパクトが強すぎて、最初の2人が倒された時には気付かなかった。最後の1匹が盾を割られたことで、ようやく気付いた。「その鎧は薄紙で作ったの?」と思ってしまうような光景。3人のリザードマンは、全員、鎧ごと切断されている。剣が凄いの?それとも、さすが剣道部ってこと?
「これが俺の特殊能力だ」
「アーマーファンブル・・・ファンブル・・・失敗?」
「俺の剣の届く範囲では、全ての防御が無効化される」
つまり、僕が得意技(?)のシールドアタックで近藤くんに突っ込んでも、盾ごと真っ二つになるってことだ。
「・・・マジか?」
「俺の熟練度不足で、まだ、鋼以上の硬度や特殊な防具は斬れん」
鋼未満が丸ごと斬れるだけでも充分凄い。
「もしかして、昨日のトロールも、今の特殊能力で?」
「うむ、棍棒を振り回されて、なかなか長剣の射程圏に入れなかったのだがな、
源と早璃が作ってくれた隙を突いて仕留めることができた」
トロールはゾウと同じくらい太かった。そんなヤツでも真っ二つにしちゃうんだ?それなら、青騎士とか黒騎士を馬ごと切断できるってことだよね?なんかもう無敵すぎるでしょ。
「え?・・・でも、ちょっと待って。僕がその特殊スキルを?」
少なめに見積もって、僕の戦闘熟練度が近藤くんの半分とする。僕がレンタルする場合は、更に1/3の制限がかかる。それでも、「剣の届く範囲なら斬る」が有効なら、革の鎧や革の盾くらいなら切断できる?
藤原くんが剣で防御しない限りは藤原くんを真っ二つにしちゃう可能性がある。僕は、そんな凄い特殊能力を借りて、藤原くんと戦うってこと?
事の重大さに気付いて青ざめ、近藤くんを見詰める。
「互い命をかけると言うことだ」
この世界での「死」は本当の「死」ではなく脱落。「現実世界に戻りたい派」が多数を取って帰還すれば復活をできる。だけど、疑似死とはいえ、そこまでする必要があるのだろうか?
「だが、安心をしろ。
沼田の特殊能力があれば、即死をしない限りは無傷で復活できる」
「えっ?そうなの?」
「手足を失っても問題無いから存分に戦え」
バクニーさんは「回復魔法なんて無い」と言っていた。この世界の決まり事すら覆す沼田さんの特殊能力、便利すぎ。おかげで一定の安心はできた。だけど、僕が手足を失っても勇敢に戦う姿は、ちょっと想像できない。
アーマーファンブル
使用者:近藤浩二
武器が届く範囲ならば、遮蔽物や相手の防御を無効化して肉体に攻撃できる。熟練度が上がると全ての防御を無視できる。
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作中の人間関係については、後に親友になる関係でも、序盤はギスギスさせたい。・・・と言うか、簡単に仲良くなれるのは、友達ではなく、共通の趣味で表面的に繋がっただけの知り合いレベルと感じる。互いの価値観の違いをぶつけ合って理解しなければ、土壇場で信頼を押し通せる関係にはならないと思っている。




