表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/79

17-3・藤原くんと現実世界へ

 藤原くん達が住む家に到着した。

 土の壁、入って直ぐ大きい部屋、その左右に2つずつ(計4つ)部屋があって、藤原くんと近藤くんが1室ずつ、沼田さんと土方さんで1室、吉見くんと鷲尾くんで1室を使っている。

 僕は広間のテーブルの1席に座り、吉見くんが藤原くんを呼びに行った。しばらく待たされるかと思ったけど、藤原くんは直ぐに出てきてくれた。


「おう、来たか。

 浩二、土方、鷲尾、出てこい!」


 やはりこのグループのリーダーは藤原くんなのだろう。大きな一声の招集で、仲間達が部屋から出て来て広間に集まる。


「おはよー!」

「おっ!ちゃんと来たんだな」


 藤原くんが上座、他の人達は空いている席にランダムで座った。


「早璃は?」

「頭が痛いって寝てる。沼田さんに付き添ってもらってる」

「二日酔いか。バカがムキになって飲めもしねーもんを一気飲みするからだ。

 ・・・で、話ってなんだ?

 食い扶持が欲しいってなら答えはイエス。ただし、俺の指示で働いてもらう」

「・・・うん」


 目的の半分は共同生活に加えてもらうこと。話が早くて助かる。ただし、真田さんの意見を聞いてから決めたい。


「みんなが持ってる情報と、僕が持ってる情報・・・

 現状を把握する為に情報交換をしたくてね。

 ・・・でも、その前に確認させて。

 僕と真田さんは『現実世界に帰りたい派』なんだけど、みんなはどっち?」

「はぁ?『帰りたい派』に決まってんだろ」

「帰りたくない人なんているの?」

「みんな、こんなわけの解らない世界に永住なんてしたくないだろ」

「お父さんやお母さんに会いたい。

 沼田さんなんて、時々、家族が恋しくて泣いてるよ」

「同意だ」


 寡黙な近藤くんの「同意だ」が微妙なタイミングなので、「家族が恋しくて泣いている」に同意なのか、「現実世界に帰る」に同意なのか解らない。強面の近藤くんが「お父さんとお母さんに会いたくて泣いている」光景を想像したら、チョット笑いそうになった。


「みんな『帰りたい派』で良かった」


 宿で吉見くんと話した時点で決めていた。藤原くんのことは、まだちゃんと信用できていないけど、吉見くんは信用できる。だから、吉見くんが信用している藤原くんのことを信じたい。


富醒フセイっ!レンタル!・・・リターン」


 立ち上がって、皆の前で現実世界への入口を開く。直径1.5mくらい。無理をすれば3人くらいは入れるかな?


「藤原くん。一緒に来てもらって良い?」

「・・・あ?なんだ?」

「僕達が忘れそうになってる現実。来てもらえば解る。

 みんなにも見てほしいけど、入れる定員が決まってるし、

 時間浪費がハンパないから、時間に余裕がある時にね」


 藤原くんは一瞬だけ面倒臭そうな表情をしたけど、直ぐに応じて、僕と並んで穴の前に立つ。詳しい説明をしていないのに藤原くんが信用してくれたのが嬉しい。多分、人の上に立つには、こ~ゆ~器の大きさが必要なんだろうな。


「いくよっ!」

「おうっ」


 脳裏に沼田さんの意味不明なアドバイスが過ぎる。現実世界に戻った時、藤原くんは、僕と真田さんが密着しているのを見たら怒るのかな?余計な悶着を避ける為に、直ぐに真田さんを退かすべきかもしれない。


「同時だからね。遅れないでね。いっせ~の~せっ!」


 藤原くんに大枠を把握してもらう為の行動なのに、僕自身が個人的事情に拘るという情緒不安な状況で、並んで現実世界の入口に飛び込んだ。



 他の仲間達を待たせてしまうので、現実世界の滞在時間は30秒程度。「ちゃんと見たいなら後日改めて」ってことにして、帰還をする。


「あっ!戻ってきた」

「どうした史弥?何があった?顔色が悪いぞ」

「あ・・・あぁ・・・。朝っぱらからあんなモンを見せられちゃ・・・な」


 藤原くんの言う「あんなモン」とは、言うまでも無く僕と真田さんが重なって倒れている光景ではない。・・・直ぐに真田さんを退かしたから、多分、見られてないよね?クラスメイト全員が死にかけている状況なんて見たら、誰だって青ざめるだろう。


「今日の日銭稼ぎ(ギルドで仕事を請け負う)は中止する。

 現状を把握すんのが優先だ」


 藤原くんは上座の椅子に座って気持ちを落ち着けてから、僕に視線を向ける。


「全員が解るように説明をしろ」

「うん」


 僕が知るだけでも既に柴田くんや力石先生を含めた10人がこの世界から脱落をして瀕死状態になっていること。救う為には多数派を得て帰還するしかないこと。目黒くんが言った「残りたい派は帰りたい派を潰す」を説明する。


「源君・・・そんな修羅場を潜り抜けてきたんだ?」

「僕等は、剣術や魔法ではこの世界の人達に劣るけどさ・・・

 真田さんや柴田くんの特殊能力・・・

 それから、昨日聞いた吉見くんの特殊能力・・・

 どれも使い方次第では、どんな相手でも初見殺しをできちゃう能力なんだよね」


 だからこそ、諸公の騎士団は僕等の能力を恐れ、且つ、欲している。そして、僕等は、どの組織にも属す気が無いのなら、秘境者狩りを恐れなければならない。


智人トモはパルー騎士団に所属して、西の英雄って呼ばれていたよ」

「西の英雄チート・・・やっぱり、私達が知ってるチート君のことだったんだね」

「うん・・・それからね」


 改めて藤原くんを見詰める。


「僕はずっと真田さんと2人きりで行動してたわけじゃないよ。

 途中までは安藤さんも一緒だった。

 でも安藤さんは柴田くん達の脱落を目の前で見て怖い思いをしちゃって、

 安全を望むようになって、今は智人トモの所に居候してる。

 藤原くんに会いたがってたから、迎えに行けば来ると思うよ」


 藤原くん、近藤くん、吉見くん、沼田さん、土方さん、鷲尾くんで6人。それから僕と真田さん。安藤さんを呼べば計9人。多分、グループ的には最大数だろう。


「隣のクラスの脇坂君と我田さんはどうなったんだろう?」

「会ったの?」

「脇坂と我田が喧嘩を吹っ掛けてきたから、俺と浩二と土方で返り討ちにした。

 そのあと生きてんのか野垂れ死んだのかは知らん」

「3人とも、逞しすぎ」


 藤原くん達6人は比較的早い段階でこの地に落ち着けたので、脱落者は把握していない。

 脱落者が僕の把握する10人だけなら生存者は41人。その過半数は21人。さすがに、僕が把握してる人数以外は全員生存してるってことは無いだろうから、あと5人が脱落していると仮定すれば、過半数越えは19人になる。


「ここにいるみんなで知恵を出し合ったり手分けをしてさ、

 もう少し『帰りたい派』を集めようよ」


 生存者の正確な人数は、時間を消耗させる覚悟があるなら、リターンで現実世界の戻って瀕死者を確認すれば把握できる。計9人で過半数越えは無理だろうけど、あと5~6人集めてから現実世界の状況を確認して、過半数が確保できた時点で多数決を強行する。


「これで、こんな変な世界とはお別れできて、脱落しちゃった人達は助かる」


 この場合の最大の問題は、多数派の主導権争いが起こること。意見を纏めた1人だけが願いを叶えてもらえる。誰だって願いを叶えたいけど、統率者が誰からも認められるくらいの圧倒的な発言力の持ち主なら、皆が「彼がトップなら従うしかない」と文句は言えなくなる。そう仕向ける為に、真っ先に藤原くんを現実世界に連れていった。


「僕は、藤原くんの指示に従うよ。

 生活を確保してこの世界で生きる為じゃなくて、現実世界に帰る為にね。

 藤原くんには『帰りたい派』を纏めるリーダーになって欲しい!」


「悪くない作戦だね」

「2日前の時点で、セイの町には智人トモと安藤さんしかいなかったはず」

「さすがは、修羅場を潜り抜けてきた男だ。発想が頼もしいな」

「ペイイスの村とノスの町とアーズマの町は、多分、秘境者狩りが盛んだよ。

 だから、居たとしても息を潜めてると思うから、探しにくいかも」

「優先的に探すのは、南の町、南西の村、南東の村、北西の村ってことだね」

「あとは西以外の宿場町ね」


 この場に居る皆が藤原くんをリーダーとして認めている。だから、願いを叶える人=藤原くんに文句は出ないってのは想定済みだ。


「気に入らねーな。オマエの言うことは綺麗事すぎる」

「だよね!賛成してくれて・・・・・・・・・・・・・へ?」

「誰が『僕は後回しでいいです』なんて情けねー意見を信用すんだよ?」


 僕は、「藤原くんに願いを叶えてほしい」と言っている。藤原くんが真っ先に賛成してくれると思っていた。だけど、張本人が反発をしてきた。この展開は想定していない。


「源は俺に言われたことだけをやって終わりかよ?腰抜けっ!」


 藤原くんが、酔って絡んできた昨日とは違う怒った目で、僕を睨み付ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ