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17-2・吉見くん

 宿に到着して吉見くんに個室一つと団体部屋を手配してもらい、お風呂で頭をよ~く洗って今に至る。吉見くんと沼田さんは帰宅が可能なんだけど、僕等を心配して残ってくれた。・・・と言うか、一息吐いてから、沼田さんが付いてきてくれた理由を理解した。沼田さんがいてくれなかったら、僕が真田さんと同じ個室で真田さんの看病をしなければならなかったわけだ。酔い潰れた女子と同室ってのはマズいよね。


 僕と吉見くんは、団体部屋で隣同士のベッドを確保して、向かい合わせに腰を降ろす。


「明日、みんながいるところで改めて話すけど、吉見くんには先に言っておくね」


 吉見陽輔よしみ ようすけ。出席番号38番。語学部。理数系は得意だけど文系は苦手だから克服するという理由で入部をした勉強の鬼。テストの成績はクラスで3番目なんだけど、それは学力が劣るわけではなく、大学入試や模試を優先させている為。たまに、授業中に別の勉強をしているのが見付かって、先生に怒られることがある。


「柴田くんのことなんだけど・・・」


 現実世界で、吉見くんは柴田くんと仲が良い。だから、目黒くんの裏切りは隠したまま、柴田くんと綿本さんが秘境者狩りで脱落してしまったことを説明する。


「そっか・・・俊一ならどこかで生き残ってると期待してたんだけどな」


 当たり前なんだけど、吉見くんはショックを受けている。


「僕、現実世界で柴田くんに会いたい。

 だからさ、過半数を取ってちゃんと帰ろうね」

「うん、そうだね」


 今の決意表明は、遠回しに「吉見くんがどっち派か?」を確認している。だから、肯定をしてもらえて安心した。


「吉見くん達の住んでるお屋敷、吉見くんが強奪作戦を立てたって聞いたよ」

「ああ・・・それね。

 藤原君が『持ち家が欲しい』って言ったからさ、

 手っ取り早くゲットするなら悪人退治が良いかな~って思ってね」


 吉見くんの特殊能力は【ストラテジー】。発動させると、勝つ可能性が最も高い戦略が脳内にイメージされる。ただし、敵味方の詳細なデータが必要。味方の能力を知らなければ有効配置ができず、敵の能力収集が雑ならば机上の空論の作戦となって破綻する。


「その能力で盗賊団をやっつけたんだ?吉見くん、凄いじゃん」


 秀才の吉見くんに相応しい特殊能力。使い方次第では最強クラスだ。


「僕は作戦を立てただけ。

 僕の特殊スキルは、実行してくれる人がいなければ、何の役にも立たない。

 悪人退治は近藤君と土方さんがメイン。

 お屋敷を上手くゲットできたのは、藤原君の交渉のおかげだよ」

「みんな、凄いってことだね」

「一番凄いのは、多分、藤原君だよ。

 彼の親分肌は、僕等みんなが頼もしく思っている。

 彼の統率力が無かったら、こんなに纏まれてない。

 僕自身、この世界に来るまでは、満足に話したことも無かったけどさ・・・

 藤原君の度胸は、みんなに『なんとかなる』って勇気をくれるんだ」

「・・・うん」


 吉見くんが付いてきてくれた理由、そして近藤くんが吉見くんを同行させてくれた理由が解った。2人とも、最悪のファーストコンタクトになってしまった僕と藤原くんの間を取り繕おうとしてしてくれている。


「でもさ、源君と真田さんだって充分凄いよ。もう少し自信持って良いと思う」

「・・・ん?」

東都市アーズマの北の森から西都市セイまで、

 外周を約半周したんだよね?」

智人トモや現地の人に助けてもらえなきゃ、途中で脱落してたけどね」

「そのアクティブな冒険譚を聞いた時は驚いたよ。

 僕や近藤君は、転移した直後にこの町を目指した。

 藤原君や土方さんや沼田さんは、この町の近くに転移した。

 そして、合流後は『寄って来る人待ち』で殆ど動いていないからね」


 吉見くん、それは買い被りすぎだよ。僕達は一昨日まで「帝都にいれば皆が集まってくる」って発想が無くて闇雲に動いただけです。


「えへへっ、そうかな?」


 だけど、僕なりに頑張ってる自負はあるから、ここは素直に喜んでおく。



 朝が来た。約束通り、藤原くん達のところに行かなきゃならない・・・んだけど、真田さんの部屋に顔を出したら、沼田さんが対応してくれて、真田さんはベッドの上で「頭が痛い」と唸ってた。


「どうしよう?早璃ちゃん、まだちょっと動けそうにない」

「そっか。・・・なら、沼田さんは、真田さんの傍にいてあげて」 


 真田さんには申し訳ないけど、藤原くんとちゃんと話すなら、多分、真田さん抜きの方が良い。


「ねぇ、源くん。ちょっといいかな?」

「・・・ん?いいけど、なに?」


 部屋から出た沼田さんに誘われて廊下の隅に行く。「まさか、いきなりコクられる」なんてことは無いだろうと思いつつ、少しドキドキしてしまう。


「急にどうしたの?」

「詳しいことは解らないんだけどさ・・・

 中学の時、藤原くんが早璃ちゃんにコクって断られたらしいんだよね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん??」

「早璃ちゃんと藤原くんがギスギスしてる原因、その辺にあるのかも」

「へぇ~・・・・・・・・そうなんだ?」


 その話、要る?僕にどうしろと?「2年以上前に真田さんにフラれたかもしれない藤原くんが可哀想だから優しく接してやれ」ってこと?それとも「真田さんと一緒にいると藤原くんに目を付けられるから離れろ」と警告されている?藤原くんって、そんなに過去のことを引き摺るタイプなの?まぁ、未だに初恋を引き摺っている僕も同レベルなんだろうけどさ。


「ちょっと、気持ちが解るかも」


 どう回答をすれば良いのか全く解らないので、感情移入をしてみた。


「はぁ?源くん、そんなんで大丈夫なの?シッカリしてよ」


 不安そうな表情の沼田さんにガン見をされる。回答を間違えたっぽい。


「・・・・・はい。頑張ります」


 今のアドバイスをどう活かせば良いのか解らず不安を抱えたまま、吉見くんと一緒に宿を発つ。



ストラテジー

使用者:吉見陽輔

 オートで目的達成の作戦を組み立てる。味方戦力、敵戦力、地形等の条件が詳細なほど、勝率を上げられる。例えば、漠然と「王様になりたい」という目的を立てた場合、それだけでは「不可能」という答えになるが、「王になる為にはどうクーデターを成功させるか?」と細かく検索をすれば、その為には「事前にどんな準備か必要か?」「どのタイミングでどう攻めるか?」の条件を提示する。


~~~~~


 沼田は「尊人は早璃の気持ちを知って一緒に行動をしている」と勘違いをして、尊人に「シッカリしろ」とアドバイスをしたつもり。だから、尊人に見当違いの返答をされて「コイツ大丈夫か?」と驚いた。

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