表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/79

16-5・テーレベールの夜

「ねぇ、早璃ちゃん。なんか有ったの?」

「何にも無いよ」

「藤原くん達のこと避けてる?」

「別に何とも思ってない」


 沼田さんが真田さんの隣に座って、不機嫌の原因を模索するんだけど、取り付く島も無い有様だ。

 真田さんの親友がいるんだから僕の出る幕は無い・・・と思いたいんだけど、さすがに、この状況はどうにかしたい。


「真田さんと藤原くんって幼馴染みなんだよね?」

「そーだけどそれがなに?」

「藤原くんのことを渾名で呼ぶから、仲良いのかな~って思って・・・」


 これ、僕が聞きたい質問じゃない。「仲良い」って言われたら少なからずショックを受けそうな気がする。それなのに、何でこんな余計な質問してんだろ?


「尊人くんには関係無いでしょ」

「・・・・うん・・・まぁ・・・そうだね」


 想定外の答えが返ってきた。これはこれでショックです。

 会話を繋ぐのが苦手な僕と自然な会話のキャッチボールをしてくれたり、険悪だった安藤さんと綿本さんをアッサリと仲直りさせた人と、今の真田さんが同一人物とは思えない。


「吉見くん達は、この状況をどう思ってんだろ?」


 ちょっと怖いんだけど、藤原くん達のテーブルに視線を向ける。吉見くん&土方さん&鰐淵くんが会話をしていて、藤原くんは明後日の方を見て、僕等を完全にシカトしてる。

 呆れ顔でこっちを見てる近藤くんと目が合った。いかつい顔を軽く動かして、僕に「こっちに来い」と合図をする。


「・・・マジか?メッチャ怖い」


 呼ばれたんだからスルーはできないので、椅子から立ち上がる。


「ちょっと、あっちに顔出してくるね」 

「いってらしゃい」


 真田さんに感情の隠ってない声で送り出されて、藤原くん達のテーブルへ。近藤くんの隣の椅子しか空いていない。


「座れ」

「・・・うん」


 近藤くんに催促されて椅子にかける。


「こっちは男子会ね。私、あっちで女子会してくるね~」

「ああ・・・うん・・・いってらっしゃい」


 途端に土方さんが立ち上がって、真田さん達のところに行ってしまう。席を空けるなら僕が到着する前に空けて欲しかった。そうすれば、安パイな吉見くんの隣に座れたのにさ。


「注文、まだでしょ?」

「うん」


 吉見くんがメニューを進めてくれる。


「何飲むんだ?酒か?ミルクか?」


 鷲尾くんがドリンクを勧めてくれる。皆の飲み物を見ると、吉見くんと鷲尾くんはミルク。藤原くんはほぼ間違いなくアルコール。近藤くんの前にある透明色の液体は水かアルコールか解らない。


「近藤くんのはお酒?」

「俺はゲコだ」


 今の情報で、近藤くんがお酒を飲めないことと、飲んだ経験がある(けど受け付けなかった)ことが解った。


「とりあえず、水でいいや」


 イメージ的には、藤原くんはコンビニの前や公園で仲間と輪になってビールを飲んでるタイプ、近藤くんは部屋で寡黙に日本酒を飲んでるタイプ。だから、近藤くんが飲めないのはチョット意外。


「勇敢だな。驚いたぞ」


 近藤くんから「勇敢」と評された。仰る通り、かなり勇気を振り絞って、この席に来ました。


「聞いたよ。トロールに突撃をしたんだってね」


 近藤くんがそれきり喋らなくなったので、吉見くんが会話を繋ぐ。


「ああ・・・それね」


 あれは「勇敢」ではなく「無謀」。しかも戦闘開始10秒くらいで失神しました。「トロール討伐」をクリアできたのは僕のおかげではありません。


「トロールとの戦闘経験はあるの?」

「今日が初めて」

「初見で突撃したの?」

「モンスターの本を読んだら、トロールは小技を使わないっぽいから、

 大振り攻撃で隙ができると思って突っ込んだんだけどね・・・」

「源君も持ってるんだ?モンスターの本なら僕も読んだよ」


「早璃とはいつから一緒に行動しているんだ?」


 トロールのことを話題にしていたのに、近藤くんが全く関係の無い質問をしてきた。


「・・・ん?」

「俺と史弥は、一緒に行動をして30日以上経つ」


 今の近藤くんの発言で驚いたことが2つ。1つは近藤くんと藤原くんの転移日が僕よりも10日くらい早いこと。もしかしたら、力石先生や安藤さんより早いかも。もう1つは近藤くんが真田さんを「早璃」と呼び捨てにしていること。そう言えば真田さんは、近藤くんを「こーちゃん」と呼んでいた。仲良く話してんのを見たこと無いけど、仲良しなのかな?


「え~~~と・・・真田さんと合流して15日くらい・・・かな」

「・・・15日か」

「・・・・・・・・・・・」

「源君はいつ転移したの?」


 近藤くんがそれきり話を広げないので、再び吉見くんが会話を繋ぐ。


「僕は・・・え~~と、20日くらい前かな」

「僕も同じくらいだよ」

「転移して直ぐに柴田くん達と合流してね・・・」


 会話の取っ掛かりができた。吉見くんは柴田くんと仲が良い。

 いいぞ、この会話の流れなら、「安藤さんも一緒だった」を経由して「安藤さんは西都市セイにいる」に話題を繋げられる。・・・と思った矢先、


「随分と立派になったな。・・・勇敢な色男さんよぉ」


 それまで、明後日の方を見て僕をシカトしてた藤原くんが、空になったマグカップをテーブルの上に置いて、バッキバキな目で僕を睨み付ける。


「とっくに脱落してると思ったんだけどな・・・大したもんだ」

「・・・・・・・・・藤原くん?」


 話し方で解る。「立派」「勇敢」「大したもの」、普通に考えれば褒め言葉なんだけど、凄く耳障りが悪い。藤原くんは嫌味を言っている。本心の言葉は「とっくに脱落してると思った」だけなんだろうけど、それにも驚いている。藤原くんの眼中に僕が入っているとは思っていなかった。


「再会の祝いだ!オマエも飲め!」

「・・・えっ?」

「酒に付き合えって言ってんだ!」


 藤原くんが、近くにいた給仕さんにアルコールを注文する。


「あの・・・僕達、未成年だよ」

「それがどうした?」


 アルコールなんて要らないのに、早々に2つ運ばれてきた。受け取った藤原くんが、一つを自分で確保して、もう一つを僕の前に置く。300㎖くらい入ってるかな?


「再会を祝して乾杯だ」

「・・・・・・・・・・・」


 藤原くんが威嚇モードに入った途端に、吉見くんと鷲尾くんは黙ってしまう。イメージ通りでメッチャ怖い。


「俺の酒が飲めないってか?」

「史弥。悪酔いしているぞ」


 近藤くんが止めるけど、藤原くんは聞く耳を持たない。

 ヤバい。藤原くんの気に障るような行動したっけ?合流して早々に目の敵にされるってどんな状況?今の僕、千幸せんこう高校の次期番長に絡まれてるよね?

※早璃がイラついて、藤原が尊人に絡むバックグラウンド。

 早璃と藤原(+近藤)は幼馴染み。藤原は早璃が好きだが、早璃にとって藤原は完全に恋愛対象外。「俺様系」「格好付け(大人への背伸び)」は嫌いなタイプ。

 転移前、早璃が尊人に率先して話す光景、及び、修学旅行で早璃が尊人達の部屋にいたのは不満だった。転移後、藤原は「非力な早璃では野垂れ死ぬか男の欲望の捌け口にされる」「自分が守らなきゃ」と案じていた。しかし、早璃は尊人と行動を共にして生き存えていた。しかも、目の前で早璃の危機が発生した時に、自分は見ているだけで何もできず、尊人が命懸けで早璃を守った。早璃が泣く姿を見て、「好いた女子の信頼が丸々尊人に奪われてしまった」と感じる。恋敵が口だけ達者な小者なら取り戻す自信がある。しかし、尊人は陰キャだが自己研磨を続けるタイプで、藤原はある程度認めている。今まで視野の外側にいた尊人が、いきなり強敵となって出現した。これらの苛立ちを、尊人の失神中に「尊人への悪口」で表現してしまい、飯場では不味い酒を飲んでいる。

 一方の早璃は、失神した尊人をディスられるのをずっと聞いていた。普段なら突っ掛かるが、泣いていたので余裕が無かった。尊人が目覚めたことでようやく気持ちが落ち着き、途端に藤原が言った悪口に腹が立ってきた。飯場に行ったら藤原は「俺様系」「格好付け(大人への背伸び)」を前面に出しており、この時点で「ムカ付くだけ」「話すことは何も無い」と無視をした。

 早璃のこの行動が藤原の神経を逆撫でする。最初は気にしないフリをしていたが、最終的には渦中の尊人が割を食ってしまう。

 作中で文字として表現できれば良いんだけど、藤原は内心を正直に語るタイプではなく、早璃は雄弁だが「尊人が悪口を言われて頭に来た」はさすがに言わない。それを話したら「藤原が尊人を嫌っている」と「自分は尊人が好き」を尊人に知られてしまう。尊人からすれば、知らないうちに早璃と藤原の関係が悪化しており、わけが解らない。一緒にいて状況を知っているのは、無口な近藤のみ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ