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16-2・トロール

 森のなだらかな斜面を上がりきったら、視界の先には高い石壁で覆われた巨大都市の一部が見えた。まだ町までの距離は10㎞くらいあるんだろうけど、目標が見えるとテンションが上がる。


「町まで競走っ!負けた方が夕御飯おごりねっ!」


 真田さんは、僕以上にテンションが上がっていたみたい。


「えっ!?ちょっと待ってっ!」


 真田さんが一方的に勝負を持ち掛けて、緩やかな下りの道を駆け出した。僕は慌てて後を追う。だけど、これは100%無理ゲー。僕が勝てるわけが無い。革の鎧を着て長い剣と革の盾を背負ってる僕と、軽量の銀の胸当てと大きなナイフしか装備の無い真田さん・・・というか、長距離ランナーの真田さんとバスケ部の僕。いくら「体力には自信有る」たって勝てるわけがない。


「もう少しゆっくり走ってっ!」


 案の定、綺麗なフォームで軽々と足を出してグングンと前に進む長距離走の専門家に、ドンドンと差を付けられる。あっという間に200mくらいの差が付いた。

 足を前に出すたんびに、腰からぶら下がって股関節を守ってるプレート(タセット)が太股に当たって煩わしい。腕を振るたんびに背負っている剣と盾がガチャガチャとぶつかってうるさい。


「真田さんてばぁっ!」


 そもそも論として、所持金は個々で持ってるけど、共同支出みたいな扱いになっていて、クエストで稼いだお金は僕が管理をしている。競走で僕が負けたとしても(真田さんが途中でギブアップしない限り僕が負けるけど)、僕のおごりは成立しないのだ。


「あれ?」


 森を抜けた直後の真田さんが、急に振り返ってこっちに走ってきた。僕が可哀想になって戻ってきた?


「尊人くんっ!大変だよっ!」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・なにがっ!?」

「誰かが大っきいモンスターと戦ってるっ!」


 今までで真田さんが遭遇した大きいモンスターはホブゴブリンくらい。戦っているのがホブゴブリンなら、真田さんは固有名詞で呼ぶだろう。そうなると、それ以外の大きなモンスターになる。


「太いオッサン?鬼みたいな大男?どっち?」

「太いオッサンっ!」

「多分、トロールだっ!」


 ちょっと・・・というか、かなりビビってしまう。トロールとの戦闘経験は無し。ブラークさんが瞬殺をしたけど、あれはトロールが弱いんじゃなくて、ブラークさんが強すぎたからできたことだ。


「だけど・・・

 単独戦ならともかく、既に戦ってる人がいて援護をするなら・・・」


 懸命に走って森を抜ける!視界が開け、正面には北都市ノス西都市セイよりも巨大な都市が広がった!だけど帝都を一望して感動をする余裕なんて無い!

 街道から50mくらい外れた原っぱで、男の人2人がトロール1人と交戦している!


「・・・あの人達は」


 50mくらいの距離まで接近をして解った。着ている服がこの世界の物なので直ぐには気付けなかったけど、トロールと戦っているのは僕達のクラスメイトだ。トロールが振り回す棍棒の内側には入れずに攻め倦ねているっぽい。


「藤原くんと近藤くんっ!」 


 藤原くんは刀身がやや短くて幅広の剣(古代ローマのグラディウス)を、近藤くんは通常より長いツーハンデッドソードを装備している。

 隣を走ってる真田さんをチラ見したら、視線を合わせて頷いた。真田さんも2人を認識したらしい。


「僕がシールドアタックで隙を作るから、後ろから回り込んで電流攻撃してっ!」

「あんな大っきなモンスターに突っ込んで大丈夫なの!?」

「大丈夫・・・とは言えないけど、

 トロールは藤原くん達に集中してるだろうから、

 横から隙を突いて奇襲するっ!」

「気を付けてねっ!」


 真田さんには勇敢なことを言っちゃったけど、ホントはメッチャ怖い。棍棒を喰らったら、一撃で死んじゃうだろうな。

 だけど、目の前でクラスメイトが死ぬのは見たくない。藤原くん達のことは苦手だけど「見捨てる」って選択肢は無い。僕には盾と鎧があるから、ちゃんと身を隠しながら突っ込めば死なずに済むだろう・・・多分。


「わぁぁぁっっっっっ!!」


 トロールの大振りの攻撃を、藤原くんと近藤くんが後退して回避!直後に、真横から突っ込んだ僕が、トロールの脇腹に渾身のシールドアタックを叩き込んだ!


「なんだ?」

「源か?」


 突然の出来事に、藤原くんと近藤くんが呆気に取られる。

 ・・・で、少しくらいは体勢を崩してくれると思ったんだけど、巨漢&重量級のトロールは微動だにせず!「なんだコイツ」みたいな表情で、ジロリと僕を睨み付けた!


「げっ!」


 真田さんの突入を中止させないと拙いっ!


「やぁぁっっっ!!」


 しかし、時既に遅く、トロールの真後ろに廻り込んだ真田さんが、背中に両手を添えて魔力の電撃を発動させる!


「がぉぉぉぉっっっっっ!!」


 トロールが小さく悲鳴を上げる!だけど、一定の手応えはあるものの、タフなトロールの動きを止めるには至らず!上半身を捻りながら棍棒を振り上げ、真田さん目掛けて振り下ろした!


「くっ!真田さんっっっ!!」


 僕がトロールの体勢をちゃんと崩せなかったのが悪い!僕が直ぐに「中止」の指示を出せなかったのが悪い!「トロールは強いんだから、善戦虚しく真田さんが潰されるのは仕方がない」なんて絶対に嫌だ!ホブゴブリンの時は、真田さんが僕を守ってくれたんだから、今度は僕が真田さんを守る!


「わぁぁぁっっっっっっ!!」


 両手で革の盾を支えながら、横っ飛びで真田さんとトロールの間に割って入る!次の瞬間、トロールが振り下ろした棍棒が盾にぶつかった!


「きゃぁっっっ!!尊人くんっっ!!」

 

 真田さんが僕を呼ぶ声が聞こえたような気がした。衝撃が盾から全身に伝わって、視界が真っ暗になる。



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