ヘタレ→マモル→ヘタレ
呪文を唱え終えると僕は最低限の家具が揃った部屋にいた。そして壁にかかっている額縁の中の一つには洞窟の入り口が映っていた。そこには取り乱したヘタレの姿が映っている。その後も額縁はヘタレを映し続けていた。
額縁を通して見る洞窟の中はただ一本の洞穴がひたすら伸びているだけだった。そして中を少し歩くと光も入口後ろの滝に阻まれて入ってこない洞窟は伸ばした手の先すら見えない位暗かった。
しかしヘタレは構わず進んでいく、壁に体をぶつけても壁を触りながら前へと進む。こうして必死に僕を探してくれるなんて結構うれしい。そして洞窟の入り口の方から突然光が差し込んできた。シャインが魔法で光を生み出し洞窟を照らしたのだ。
シャインはマモルに駆け寄り腕を後ろに引っ張った。マモルは転びはしなかったが立ち止まることになり、後ろを振り向いてシャインを見る。
「またー、落ち着いて。多分アルちゃんは洞窟の中にいるよ。いなくなったわけじゃないから大丈夫だよ。だからちゃんと歩いていこ」
「……そうだな。…だけどやっぱり心配なんだよ。あいつは何も言ってなかったし、失敗したんじゃないかとかな」
そう言ったマモルはさっきよりスピードを落とし魔法によって歩きやすくなった洞窟を進んでいく。その後ろをシャインもついていく。すると分かれ道があった。右か左か単純な分かれ道だ。とりあえず左を選択すると行き止まりだった。行き止まりには宝箱があったが中身は下級ポーションが数個だった。
また分かれ道まで戻るともう一つの道を行く。そのような分かれ道がいくつかあったがモンスターも出ることもなく、しばらく歩くと彼らは大きな広間に出た。
そこにいたのは直径が1m、長さは10m以上ある大きなミミズだった。ジャイアントワームと呼ばれる魔物で初期ダンジョンのボスや高レベルダンジョンの雑魚モンスターとして探索者にはお馴染みのモンスターだ。
彼らの手にかかるとそんなモンスターも一瞬で蹴散らかされてしまった。そのとき僕の体は自然にある部屋へと移っていった。そしてそのある部屋の扉が開く。そこにはさっきジャイアントワームを倒したマモルが入ってきた。そして僕を見るなり駆け寄って抱き付いてきた。
「アルティ! 無事だったのか、突然消えグボッ」
「抱き付くなヘタレ。やっぱりヘタレは変態だ!」
抱き付いてきたマモルを剥がすためにとっさに鳩尾に一発入れてしまった。足元で悶絶している。しかし顔を上げて
「だけど…良かった。アルティが無事で、突然消えたから心配したんだよ」
「うん奥で見てた。だけどあんなに心配してくれるなんて僕のことそんなに好きなの?」
「そうだよ。好きだよ」
その言葉を聞いて体温が上がり鼓動も早くなったが
「俺はテイムしたモンスターは全員好きだ。勝手にいなくなることなんて俺が許さない」
体温が下がり、鼓動も落ち着いた。いまの僕は普段より冷静だと心の奥底から感じることができる。
「やっぱりヘタレはヘタレだね。女心がわかっていない」
自分が出しているとは思えないくらい冷たい声が出た。
「それでどうなってるんだ? アルティは今までどこにいたんだ?」
聞こえていなかったらしい。まあ、ヘタレの質問は今回の騒動の原因のこともあるしすぐに答えてしまおう。
そして僕はダンジョンを生成したらある部屋に飛ばされたことと、ヘタレがボスを倒したらこの部屋に転移したことを教えた。だからヘタレ達と会うためにはボスを倒してもらわなければいけなかったことも説明した。
そしてある部屋というのはコアルームのことでさっきの額縁のあった部屋がそうだった。更に探索者がボスを倒すとそこからこの宝物庫に転移するらしい。そしてコアルームは宝物庫にある隠し扉があり、ダンジョンコアの許可を受けたものだけが通れることも。
「へぇ~、じゃあそのコアルームに連れてってくれよ。そこでダンジョンを造るんだろ」
「わかったヘタレ。この奥に隠し扉があるんだ」
ヘタレが入ってきた扉の反対側の壁の右に寄ったところにある壁に手を当てると通路が現れた。そして僕が先頭を歩きコアルームに案内する。
コアルームも黒い壁に白い家具が必要最低限並んでいるだけであって飾り気が一切なく無機質な印象だった。そして何より無機質なのは黒を映した額縁であろうか。1つならまだしも壁の一面がこれなので異様な雰囲気を放っている。
「ここがコアルームだよ。それでヘタレはどんなダンジョンを造るの?」
「そうだなとりあえず……」
ヘタレの意見を聞き、それに合わせるにはどうすればいいのかを考えていた。
結局ダンジョンの内部をいじるのは入口から少しずつやることにして、とりあえず今のダンジョンのマップを見てヘタレに解説した。