第18話
蒼の魔弾はまるで汚物でも見るかのような冷たい視線を僕に浴びせていた。まぁ僕も見つめ返す。思いがけず視線を下げたが・・・。
「縞・・・なのか・・・。」
ふと口から漏れてしまった禁断の独り言。まぁ魔弾が聞いてる訳ないだろ。
「っ!!!」
彼女は自身の太ももに着けているナイフを音も無く僕に振り下ろす。
「うおぉ!?」
素っ頓狂な声をあげかろうじて避ける。よし逃げよう。
「死ねっ!」
怒りが濃縮還元されており大変危険。逃亡を試みるも彼女の狙いすました連撃に大敗北。三分後あざまみれの撃墜王が完成した。
「何か言うことは。少尉。」
多分これ以上ないくらいの侮蔑の視線を浴びせられている。そうだな、ちょっと気の利いたジョークでも言おうか。
「お粗末さまでsっ!!!」
「死ねぇ!」
おかしい、こんなことが許されるのか。僕の渾身のジョークで僕は二回目のリンチタイムを迎えた。
「ははは!おっまえバカだなぁ!」
降りてきたタカに爆笑された。メチャクチャ腹を抱えて笑っている。ここまで来るともうなんというか。そうだ、そうそう訓練中。続きやらなくちゃ。
「あんまり笑うと本気出すよ?」
ちょっと凄む。
「いいぜいいぜかかってこいや!」
なんだタカ。調子乗ってるな。そんなに僕が墜ちたのがうれしいのか。ふざけた戦友だ。
「上等。」
飛行具を履きなおして魔動機をもう一度始動させる。排気噴射で周囲に土煙を上げる。
「お前との対戦成績どうだったっけな!」
「24勝24敗2分け・・・だったかな?」
「今日こそお前をぶち抜いてやるさ。」
「不慣れな機体で勝負挑むとか相変わらず間抜け。」
いつも無茶というかなんというか。
「うっせぇほざけ。」
らしいといえばらしい。
「手加減しないよ。」
僕らの間に手加減なんて存在しない。
「上等。行くぜっ!」
分隊員とミーシャが呆気にとられる中。僕とタカは51戦目を始めようとした・・・・瞬間アラートがけたたましく鳴り響いた。
「っ?」
「警報?」
アラートともに通信が聞こえる。
「連邦軍強襲。連邦軍強襲。距離15000。敵は親衛狙撃旅団と思われる。航空戦力は現在確認できず。北西部より本基地に強襲。」
若草少将が僕らのもとに来る。
「貴様らの残飯共が動いた。さらに未確認情報だがまた戦線に動きが出たようだ。前回一転北部旧国境に主力を結集し突破包囲をかける動きだ。」
「ということは中部に属するここが陥落したら・・・北方軍は。」
「軍団司令部ごと全滅だ。更に言えば東北部にある浦路緒から天橋立までが陥落すれば本土を守るのは20に満たない師団と帝国海軍だけだ。現在派遣中の東方軍南方軍じゃあ端から連邦総軍と当たるのはきつすぎる。それに間に合わない。」
「ただ我が飛行場が持っているのは1個の対空砲旅団、貴様ら第1航空軍団と第100戦闘航空団だけだ。それと300未満の防衛隊。航空兵力には対抗できても連邦地上軍となると・・・。」
少将の顔が阿修羅のごとく厳つくなる。
「やります。」
最初に言ったのはミーシャ。
「今回ばかりは撤退も許可する・・・。対抗不能だ。」
「冗談じゃありません。」
タカも口を開く。
「司令、俺らは帝國最強の航空騎士ですよ?どんなときだって引くわけにゃいかないんです。それに帝國の航空騎士は諦めが悪いんすよ。そう教えたのは司令でしょ。」
「司令、僕らはどんな困難な作戦でもやり切って見せますよ。撃墜王が引くわけないじゃないですか。それに教官の教え子はそんなヤワじゃありませんから!」
そうだ、血反吐を吐くような訓練で僕らを鍛え上げてきたあの時の教官、現第362飛行場長若草テイ少将は僕らの恩師だ。今は荒れているがその昔は尊敬する航空騎兵だった。この豪胆な師の部下が、たかが何十倍程度の敵軍にビビるわけにはいかないのだ。
「はっ、貴様らの教育は間違ったみたいだな!その減らず口、敵に思う存分叩き付けてやれ!」
「Wir die Speer des Reiches!」
訓練兵時代からの合言葉。再び仲間と言う機会が来るとは思っていなかった。
「行くぞお前ら!世界一の航空騎兵だってこと、連邦に後悔させてやれ!」
「全騎第一分隊が地上攻撃班になる、第二第三分隊は防衛隊の重砲部隊を援護しつつ、出現するであろう敵親衛航空団に注意、対応せよ!第100戦闘航空団は第一分隊の援護、防衛隊主力の近接航空支援を行え!」
若草少将が珍しくまともな指揮を執っていた。昔の超優秀な指揮官に戻ってくれればいいけども・・・人間そう簡単にはいかないんだろうな。
「「「了解」」」」
号令の後に各員が各々の展開先へと急ぐ。