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第十話 『合わせ鏡の呪い2』

 相崎由香は教室の隅で本を読んでいた。とある少女の介入により孤独な世界は開け放たれる。それが幸か不幸かは彼女にしか分からない。


「私は、ただ、友達のために役に立ちたかっただけなのに……」

 全てを知る前に、今回こっくりさんの被害者と、合わせ鏡の呪いの被害者の関係性について、説明しておかなければならない。

 彼女たちは、高校からだが親友と呼べるほどの仲の良さだった。

「まずは、私と翠の出会いから、話していかないといけないね」

 語り部は知っているが、周りにとっては気になるところだろう。『何故由香さんはこっくりさんで親友を呪ったのか』『どれほどの仲の良さだったのか』

 彼女は出会いから、語り始めた。


 みんなはがやがやと騒ぎクラスは五月蝿く騒がしく賑やかなのに対し、私は静かに本を読む。

私だけが、ある意味隔絶された世界にいた。まるで見えない境界線が引かれたように。誰も私に話しかけはしないし私から話しかけることもない。

「……あの、由香さん」

 しかし、その境界線を踏み越える人物も、このクラスには存在していた。

 その人の名前を由香ははっきりと覚えていなかった。いや、そもそも私は人の名前を覚えるのが苦手で覚えようとすらしなかった。

「……あ、えっと、なんですか?」

「その、ずっと本を読んでいるけど、何を読んでるの?」

「え、あ、えっと」

 彼女の質問に私は言いよどむ。なぜかと聞かれればその返答にすら困る内容の本だからである。

 言えない、言えないわ。実はBLに近しい本で男子の友情が色濃く書かれている本であるなんて、口が裂けても言えない。ど、どうにかして純文学っぽく取り繕う方法はないだろうか。この作家さんは今まで普通の本を書いていたのに急に路線変更したのかブームがやってきたのかは知らないがこの人の読者である私は買わないといけないという衝動に襲われてそれで思わず買ってしまったなんて口下手な私がどう説明できるだろうか。そうでなくても説明すらできずに縮こまることは決定している。

「……あ、もしかしてそれ」

「え?」

 悩んでいた私は思わず顔を上げ彼女の笑顔を見た。

 すると、話しかけてきたクラスメイトは耳元でそっとつぶやく。

 私はそれに少し恥ずかしくなりながらも頷いた。

「やっぱり。面白いよね、それ」

「そうだよね……。一線をちゃんと画しているところもいいと思うの」

「私は、どっちかというと越えてほしいんだけどな」

「でも、越えたら越えたで問題が……」

「そ、そうだね。うん、もやもやするけどがんばる。作者の人も流石にまずいと思ったのかな? でも創作上の話なんだから行ってくれてもいいと思うんだけど」

「あはは……。私も若干ここで幕引きはないでしょなんて思ったけど、この人らしい感じもするんだ」

 名前を覚えなくても、人と会話ができると知ったのはこの時からだった。

 話が合えば、他人でも話はできるし、盛り上がれる。自己紹介なんて必要などなかった。

「由香さん、私の名前覚えてる?」

「……ごめん、覚えてない」

「そうだよねー。私、自己紹介のとき名前かんじゃったし……。私はね、葉築山翠はつきやまみどりっていうんだ」

「自分の名前、噛んじゃったの?」

「うん。『あああ、あの、はちゅきやまみどりです!』みたいな感じで」

 そのとき、私は彼女の名前を思い出した。

 いや、正確には恐ろしいほどの挙動不審だったので、強く印象に残っていたというだけだ。

「そっか、翠さんだったんだね、思い出した」

「よかったぁ、覚えてもらってて。これで覚えててもらってなかったらさらに挙動不審になるしか」

「その発想は随分とおかしいからやめてね?」

「え、ああ、えっと、うん。ごめん」

「謝られることじゃないと思うけど、これからよろしく」

 そして、私と彼女の友人関係が始まった。


 それから数週間、私はよく彼女と話をしていた。

 最近彼女に声をかける男子がいるとかそういう話が多かった。

「モテるねぇ」

「あんまり嬉しくない」

「え、でも相手は付き合いたい男子ベスト5にいる人だよ?」

「私、そういうの好きじゃないから……。むしろベスト5の人のうち二組ほどカップリングされてればいいと思う」

「それは酷いんじゃ……発想的に」

「ううん! むしろそうじゃないといけないわ!!」

「おお、ここは熱弁だね……。でも、それは新聞部のネタになりそうだ」

「それに、最近『なんで一緒に帰ってくれないの』みたいな発言されて、手つかまれるし」

「うわ、それはそれは」

そんな話をしていると端のほうから舌打ちの音が聞こえてきた。

 ちらっとそちらをみると、同じクラスの女子が数人固まってこちらを眺めている。

 その瞬間、私の心の中に靄がかかった。

「ねえ、聞いてる?」

「聞いてるよ。でも、その話題あまりここでやらない方がいいね」

「な、なんで!? だって、こんな相談できるの由香しか」

「……うん。でも、ここでしないほうがいいよ。一部の女の子って、そういうの気にせずにうらんでくるのが居るから」

 私の言葉にグループの人たちは少し肩を震わせて目をそらした。

「……やっぱり、疎まれるのかな」

「恋は盲目だよ。気をつけないと」

「うん……」

 不安そうに俯く翠の頭を軽く撫でて、新刊の話に話題を変えた。

 それだけじゃなく、アイドルだったりバラエティだったり、色々な話をするようになってきている。

 こんな生活が楽しかった。でも、崩れるのも一瞬だった。

 恋は盲目だ。でも、故意も盲目で誰も気が付かない。そう、私は考える。

 そして、その言葉を口に出さず飲み込んだ。呑まずに吐き出していれば、救えたかもしれない後悔が後の私を襲う。


 翠以外の女子とも仲良くなった私は、あるひとつの噂話というか、七不思議の「こっくりさん」を行うことになった。

 誰をこっくりさんで落とすか、その人の名前は教えられていない。ただ、二人に「嫌いな人がいるから手伝って」と言われてこっくりさんを手伝ったのだ。

 黒い紙に白い文字列。赤い鳥居が不気味に見えて。私は二人の指先の乗る十円に自分の人差し指を乗せた。

 その瞬間、二人の声が遠くなる。意識がふわりと浮いて私は何か黒いものに包まれた。

 二人が誰を呪いたいのかを聞いた瞬間、意識が本当にブラックアウトしそうなほどの衝撃を受けた。吐き気がする。この浮遊感のせいだけじゃない、その呪う相手は私の友達、翠だ。私は翠を呪おうとしてる。早くとめなければ、早く、早く、早く!

 でも、私の肉体の腕は黒い何かが巻きついて十円玉から離そうとしない。

 助けて、助けて、助けて、助け、て……。

 黒い何かが、私の身体に入り込む。私の口を、動かす。

「こっくりさん、こっくりさん。呪いは、かかりましたか?」

「え、由香……?」

 岬さんが驚いたのも束の間。こっくりさんは動き出し「はい」の文字へ止まった。

「こっくりさんありがとうございました。おかえりください、おかえりください」

 その言葉と同時に、私の口から黒い何かが抜け落ちて、全身の力が抜ける。その時、何か、大事な記憶が抜け落ちた。

 『こっくりさん』を行った理由は、なんだ?

 私は、誰に、恨みを抱いていた?

 そもそも私は、誰を呪おうとした?

 その全てが。思い出せない。

「ゆ、由香! 由香!!」

「……あ、れ?」

「だ、大丈夫?!」

「う、うん……。岬ちゃん、私、ああっ!?」

 手を離したことに気づく。自分で返したというのに、覚えていないかのような反応だったのを覚えている。

「……こっくりさんは帰ったから大丈夫よ」

「そ、そう? よ、よかったぁ」

 はにかむ。冷や汗どころか汗まみれの私の額を奏の所持しているハンカチで拭い、二人はため息をつく。

「……呪い、どうだったのかな」

「確認したわ。かかったみたい」

「そ、そうなんだ……」

「今日はもう帰りましょう。この十円玉使わないと」

 呪いをかけたときに使った十円玉は、三日以内に使用しないと持ち主が不幸になるというジンクスがある。

 私と岬、奏は帰りにコンビニによって、ジュースを買ってその十円玉を手放した。

 次の日、私は呪った相手の名前を聞く。それでも、誰だったか思い出せない。

 その次の日、呪った相手が血を吐いて入院したことを聞く。それでも、呪った結果に恐怖しただけだった。

「…………嘘」

 その言葉が漏れだしたのは、偶然だったのだろう。

 そして、その翌日の放課後。私は岬と奏に『合わせ鏡』の場所で問い詰められた。

 あんな事になるなんて知らなかった、あんたが止めていれば。

 そんな訳のわからない言葉をさんざん言われ、そして、突き飛ばされ、私は、背後の鏡に飲み込まれる。

 背中にあったはずの壁がなくなり、浮遊感が私を襲う。黒い何かが私に巻き付き、無限の鏡の中を彷徨った。

 そして、黒い何かは嬉しそうに声を出す。

「『二度目』まして、山代由香さん。貴方からもらった記憶はそれはもう甘美でしたよ」

「な、なんの、こと?」

「いえ、こちらのことです。それではお礼に、その記憶をもう一度見せてあげましょう」

 その言葉を言い終えた後、私は無限の鏡の中を彷徨い、あることを思い出す。

 呪った相手、翠のことを。翠との、記憶を。

 喉が裂けるほど、叫んだ。そして、私は。

「……私も、共犯なんだ。でも、それでも、私は」

 翠のために、今度こそ、役に立ちたい。

 彼女を呪いから救う方法は今、翠の友人の一人である宮川さんが行っている。語り部君に言われたとおりの手順を踏んで、行ってくれている。

 それならば。

「あと二人を、引きずり込んでやる」

「良い表情と決意です。では、始めましょう。そうですね、貴方はこの鏡の世界を行き来し、未来と過去を見る権利を授けましょう。そのかわり、引きずり込んだ人間の記憶を、私によこしなさい。絶望ほど甘い甘い物はありませんので」

「わかった」

 黒い何かが何でも良い。私は、自分のけじめのために、復讐する。





 由香さんは、自分の両手を見て、涙をこぼした。

「なんで、私は、翠を、忘れたのかな……。なんで、私は、二人に裏切られたのかな……」

 そして、彼女は、嗚咽を漏らしながら、震える声でぼそりと言う。

「……私は、信じてたのに」

 その言葉に、語り部は真剣な顔で、否、無表情で言い放つ。

「言っただろ。『人を呪わば穴二つ』ってな」

 語り部の言葉に、由香は語り部を見上げ、笑った。

「……あ、はは。そっか、そうだよ、君の、言うとおりだ。友達を呪っておいて、私は甘い汁を吸おうなんて、なんて、馬鹿な考え、持ったんだろう」

「……由香、さん」

 雅は可哀想に彼女を見る。当然だ、本当の友達を呪った挙げ句、その記憶を奪われて大事な親友の事を忘れて、友達二人に拒絶され、そして、一番彼女の心に傷を負わせたのは呪った相手が親友だったとわかったときだろう。その彼女の心境は、想像を絶する。

「……くだらないな」

 そう吐き捨てる語り部の声が、暗くなってきた廊下に響き渡る。

「お、おいおい、ここでその言葉はないんやないの……?」

「呪っておいて、甘い汁を吸おうなんてとか訳のわからないこと言っているが、呪った友人のために何かしたのか?」

「え……?」

 その語り部の言葉に由香ではなく、雅が間に割って入る。

「そのために、彼女は同じ呪った相手を鏡の中に引きずり込んだんだろう」

「……はぁ、甘言や懺悔でだまされるなよ。復讐は自分のために行う物だ。友人が傷つけられたから? それは復讐じゃない。報復だ」

「だ、だが」

「毎日翠さんの病室に通って家に通って自分の過ちさえ話していれば良かったものを、逃げたな、山代由香」

「……っ!!」

 彼女のために。なるほど、それは良いことだ。

 彼女を思って。なるほど、それはなんと友人思いのことだろう。

 だが、語り部が気に入らないことは一つだけ。

「……友人を、自分の行いの逃げ道に使うな」

「あ……!!」

「あんたが友人にやらなければいけないことは一つだけだ。事情を話し、謝る。それだけだった。なのに、心配して駆けつけた宮川とエンジェルさんを行った関係者をもう一人引きずり込むとはな」

「……そ、れは」

「本当にあんたが呪われたのは心だ。記憶を奪われ、衝動的になり本当にやらなければいけないことを見失った。じゃあ、どうすれば良いかわかるな?」

「……うん」

 語り部の問いかけに、彼女は涙を流してうなずいた。

 それを聞いて、語り部は一息ついて面倒くさそうに時計を見る。

「……さて、今回はお開きだな。奥行部長、頼んだよ」

「こういうときだけ部長扱いするなや語り部。わーっとる、翠さんと同じ扱いでかまわないやろ?」

「ああ。さすがだ」

「たく、アイツになんて言えば良いねん……」

「俺から説明しようか?」

「私がやるからさっさと帰れ意地悪」

「ははは。そいつは失敬だな、的を射てはいるが」

「射てるんやったら敬うことは失してないんやからいいやろが。とっとと帰れ」

「了解」

 語り部が了承し、自分の上靴を取って履き直すと視界の端に赤い服の女の姿がちらついた。

それを確認した瞬間、語り部はこっそりもっておいた紙を地面に気づかれないように置いてから立ち上がる。

 そして、鏡に向き合った。

「……」

「おい、何をしている。こんな子もいるのだから早く帰るぞ変態」

「変態は余計だ。帰るぞメリー」

「はいなの」

 階段をゆっくりと三人で降りていく。

 奥行はその姿を見送ってから、面倒くさそうに溜息をついた。

「……あの馬鹿。また面倒くさいことに首突っ込んでるな」

「か、語り部君がですか?」

「語り部、ああ、私が付けた渾名は気に入ってるみたいやな。そうそう、語り部」

 ケタケタと笑う奥行は嬉しそうな反面寂しそうな顔をしていた。

「あいつを、気に掛けてやってくれへんか?」

「でも、彼は、私が気に掛けるまでもないのでは……」

「アイツが強く見えてるんやったら、間違いやで」

「え……?」

「アイツは弱い。弱いからこそ、その弱さを克服しようと努力してああなっただけや。弱くなけりゃ、あんなセリフは出てこんよ」

 その言葉に、由香は目を見開く。

 語り部の言葉を反芻し、ゆっくりと、目を閉じて。

「……気に掛ける、のは、なかなか難しいですけど」

「けど?」

「私も、彼のように、弱さを克服していきたい」

「そっか。性格までは真似しんといてや?」

「はい」

 由香の顔は、今日出会った中でも一番輝いていた。


謝罪から。本当に遅くなってしまい申し訳ありませんでした!!

様々なこと(大学入試やHDのブレイクなど)が積み重なりタイピングはレポートのみでもう、もう……(錯乱中)

今回は久しぶりに書いた物ですので話が面白いかどうか自分でもわからなくなっております。

感想を、感想をください!!

誤字脱字の指摘もいただけると嬉しく思います。

それでは、次のお話は 蒼井宗仁様のリクエストで『かごめかごめ』を書かせていただきます。

次の話は一年後、なんて事にならないようがんばります!!

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