89:異端の吸血族
■ダミアンの脅迫
「ただいまぁ」
玄関を開けると、二階からルナの姿のダミアンが猛スピードで駆け下りてきた。
√ 無事か?
「えっ、あぁ、まぁ……」
ダミアンはホッとしたように息をつく。
「なんだよ、そんなに慌てて」
√ 海岸で事件が起きただろ。SNSで大騒ぎだ。
そういえば、あっくんにスマホを向けてる人がたくさんいたな……
√ 貴様が吹き飛ばされる映像も拡散されているぞ。
「マジで?」
ダミアンに促され、真っ暗な両親の部屋へ向かう。
シャッターの閉まった部屋の押し入れの中、ノートパソコンの画面には、おれらしき男が女の子と一緒に吹き飛ばされる映像が映っていた。
「顔もよく見えないのに、よくおれだとわかったな」
√ 吾輩が作った水着だ。貴様の貧相な体とセットなら、すぐに見分けがつく。
こいつ、いきなり喧嘩売ってきたな。
最近鍛えているから筋肉もついて、そこまでは貧相ではないはずだ、と思いたい。
「吸血鬼の姫様の下僕だって言ってたぞ。確か名前は――」
√ サマエルだ。
「あぁ、それそれ」
√ 自分を姫とか呼ばせるのは、あのクソ意地の悪い女しかいない。
「やっぱり、お前と仲が悪いのか?」
√ 良いと思うか?
「思わない」
√ なら訊くな。
ダミアンはくるりと回って、人の姿へと変化する。
「サマエルは手強いぞ」
パソコンの前でどかっと座り、デスクの上であぐらをかく。
妙にイラついてるのがわかった。
「そのサマエルってやつ、お前より強いのか?」
「そんなことはない。ただし、吾輩がこのような姿でなければの話だが」
猫サイズではさすがに不利らしい。
「前々期…… つまり、吾輩がこのゲームに初めて参加したとき、サマエルは次のG-eyeに最も近いとされていた。それだけの魔力量を持っているということだ。以前、一般的なプレイヤーを100とすれば、吾輩は300だと言ったろう。サマエルは200以上というところだ。魔力切れ寸前だった、パズスなんかとは比べものにならん」
「……200以上か」
それだけの魔力があれば、何人も吸血鬼に変えられそうだな。
ダミアンはパソコン画面を見ながら続ける。
「この下僕は、魔力つぶてのようなものを使っている。下僕に攻撃系のギフトが与えられることも珍しいが、それをこれだけ連発出来るということは、サマエルの下僕としては珍しく、かなりの魔力を与えられたに違いない」
「それって……」
「こいつはヴァンパイア並の魔力を持っている。つまり、下僕としては破格の存在というわけだ」
「サマエルってやつは、こいつに何をさせようとしてるんだ?」
これだけの破壊力を持った下僕が昼間でも活動している。
もう日中だからといって安心はできない。
「サマエルはな、吸血族の中でも異端だ」
お前よりも変わったやつがいるのか?
と思ったが、突っ込むと話が脱線しそうなのでやめておく。
「やつは虐殺を好む。人が集まる場所に矢の雨を降らせたり、火を放ったりと、人が苦しむところを見て興奮するのだ」
「なにそれ、ヤバすぎ……」
どんなやつかは理解したが……
なんか規模がでかい攻撃だな。
「そんなの一人で実行するのは大変なんじゃ?」
「よく気づいたな。やつの厄介なところは、徒党を組むことだ。最小限の魔力で下僕を量産し、ギフトも与えず、身体強化もほとんど施さない。それでも数を揃えて組織を作り、人間を混乱させようとする」
たしかに、弱くても数で攻めてくる相手は厄介そうだ。
ダミアンはノートパソコンのキーボードを叩く。
「新しいニュースが出たな。この騒ぎで五人が死んで、二十一人が負傷したそうだ。貴様は運が良かったな。やつの攻撃が魔力切れ寸前でなければ、頭が吹っ飛んで死んでいたかもしれんぞ」
おれは思わず、自分の頭と首を撫でた。
それにしても、死傷者が出たという事実が重くのしかかった。
その場に居合わせた分、吸血族の脅威をより身近に感じる。
「……おれ達に、なにかできることはないかな?」
「なにか、とは?」
ダミアンがジロリとおれを睨みつける。
その目には明らかな警戒心が滲んでいた。
「ヴァンパイアの存在をSNSで拡散する…… とか?」
恐る恐る口にすると、ダミアンは無言で鋭い爪を伸ばし、ノートパソコンの横に積まれていた本をドスッと刺した。
串刺しにした本をおれに見せつける。
上の本のタイトルをおれに見せたあと、爪をおれに向け下の本のタイトルをおれに見せた。
「ひっ……!」
おれは小さく悲鳴を上げ、尻餅をついた。
本のタイトルは――
『美人女子大生の姉は、僕の夜の家庭教師3』
『幼なじみの女子高生がボクを寝かせてくれない3』……
――これは脅しだ。
ヴァンパイアの存在を世間に明かそうとすれば、姉ちゃんと心優の命は無い。
――いや、この本の存在を二人にバラすということか?
姉ちゃんには続編を見られている。
この上3巻目まで持っていることが知られたら…… もう、誤解は解けないだろうな。
いずれにせよ、ダミアンはおれがヴァンパイアの存在を世間に漏らすことを、心底嫌がっているのはよく分かった。
そして日が沈むころ、仕事から帰った姉ちゃんが、おれと心優の心配をして大騒ぎしたことは言うまでもない。
第三章、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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