私情警察6 ~プロローグ~
目のまえに一匹の犬がいる。
犬種は紀州犬。まっ白な中型犬だ。
オレはこの犬を知っている。
「よろこべ、鳥嶋。今日から正式に配属になったぞ。特例でな」
「ワン!ワンワン!!」
「犬が警察官?おかしいでしょ!?」
同僚がおもわずツッコんだ。
「テレビで見たことないか?外国では警察犬っていって犬が捜査に加わることだってあるんだぞ?麻薬の取り締まりとか犯人確保に貢献したり…犬の嗅覚や身体能力は武器になるんだぞ」
「そりゃまぁ、知ってはいますが…」
「よかったな!ファンネル~!」
「ワン!ワンワン!!」
「……………え?なに?その名前?」
「おう、いろんな角度から咬みつき攻撃できるからな…いいだろ?」
「「「「へんなの~」」」」
みんなが口々に感想をもらす。
「そんな名前つけるなんて…動物虐待じゃない?」
「ロボットアニメの兵器みたい…」
「ど、DQNネーム…ってヤツ!?」
「鳥嶋……体術のセンスはあっても、ネーミングセンスはないんだな…」
「ま、まぁ鳥嶋に一番なついているから…。ちなみに4歳半だから…人間でいうと30歳くらいだな」
上司がスマホを見ながらみんなにつぶやくように言った。
「おいおいおい。俺らより年上かよ~」
「鳥嶋。おまえより階級は下だが、歳は上だ。最低限は敬うようにな…」
「はい!よろしくな!ファンネル巡査!」」
「ワン!ワンワン!」
オレはコイツに思い入れがあった。少し前に子どもたちが河原で子犬を見つけて、どうしていいわわからず、オレがいる交番に連れてきた。そのときはまだ、生後一年にも満たない子犬だった。オレは上司に必死に頼みこんで、交番で面倒を見ようと提案した。その結果、上司は快く許可を出してくれた。
あいつが死んだときは…人目を憚らず泣いちまったな…。
そこで、一瞬あたりが暗くなって…
「んぁ? ここは……?」
見慣れた天井……オレの部屋だ。
(ファンネル…やっべ、鼻がジンジンしてきた…)
机に置いてある一枚の写真を見て、オレは心の中でお礼を言った。
(夢でも会えてよかったよ。元気出たぜ、ありがとな!)
体の柔軟をして、洗顔。
軽く町内をランニングしてみたが…特に異常もないので家に戻ってきた。
(そういや、このへんをよくファンネルと散歩したな…)
いろんなことを思い出して、感傷的になってしまったが…。
オレは気をとりもどし、家に帰ってきた。
さっと朝食をすませ、マリの淹れてくれたコーヒーを飲む。
(……時間か?)
時間になったので、1階に降りた。
いつものように店の仕込みと掃除をさっとすませる。
加湿器の電源、室内の気温、外気温、観葉植物に虫の有無…。
ひとつひとつの行動にたいして指さし確認をする。
(………たぶん…ヨシ! あとは…スマイルだ!)
オレは開店時間ギリギリまで鏡のまえでスマイルの練習をしていた。
そして……
ガヤガヤ……ガヤガヤ……
時刻は午前12時。お客さんは…少ない。
(がらんどうじゃないか…なんでだ?この間までは結構いたじゃないか…!)
「やっぱ、近くの大手の喫茶店が原因なのか…」
「思い切って…アニマル喫茶とかにした方がいいかしら?マモルさん」
「い、いきなりなにを言いだすんだ!?マリ…?」
「いやね、わたしたちが動物の格好をして…」
「マリ、落ち着いて…考え直せ!………な?」
(う~ん、こうなったら…ロケットランチャーを購入して夜中にあの店を…)
…なんてことを考えていると、いちいち癇に障るヤローが店に入ってきた。




