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9/22

09 陛下は防壁の上に立ち、何を思ったのか?

すいません。12/7にかなりいじりました。

久しぶりに会って、ルリィと全く会話をしなかったところを会話する方向に切り替えました。

一部切り取り、加筆しています。

ランベルトの駄目さ加減が少しでもましになっていればい良いのですが・・・。

 その次の日、朝食を終えると北西のウェイストへ向けて私も一緒に出立した。


 馬車の中で色々な話をした。

 ここまでゆっくり父と話をしたことは初めてだった。

 ブルータス兄上の話になり、父は目を伏せた。

「あれは、子爵家をも潰すかもしれん」

「なにか報告が上がってきているですか?」


「ああ。まず、今までの行いが行いだったので、婚姻相手が見つけられない。その上、領主としての仕事もまともに理解していない。知識はある程度あるようだが、実行力がまるでない。最悪なのは使用人、領民達に嫌われている」

「そうですか・・・」

「信用を取り結ぶことから始めねばならんが、ブルータスには難しかろう・・・」


 そうですねとは答えにくくて、私は黙るしかできなかった。



 中間の宿に二度止まり、宿の過ごしやすさに驚いて、ウェイストへ到着した。

 四ヶ月ぶりに見た、屈託ない笑顔のルリィに少し胸が傷んだ。

 ルリィはわざとなのか無意識なのか、私の方を全然見なかった。


 私はルリィの頬を両手でつねり「全く帰ってこないってどういうことなのかな?」

「ごめんなさい・・・帰ったほうがいいかな?とはおもうんだけど、魔法を使っているのが楽しくてついつい・・・」

「ついつい。じゃないよ。少しはわたしのことを考えてくれるかな?」

「陛下も見られてますし、この辺にしたほうがいいと思います!!」


 ルリィは涙目でそう言いながら頬をさすっている姿が可愛い。

「取り敢えず一旦帰ってきなさい」

「あー・・・えっと、まだ帰れません」

「なんで?!」


「と、取り敢えず陛下とご挨拶をさせてくださいね」

 父とルリィ達が挨拶をしているのを、眺める。

 帰れないってどういう事?ルリィが父と話しているのを一歩下がって聞いていた。



 私が知っている砦とは様変わりしていた。

 砦は土塊でできたものではなく、物見台と同じように大理石のような外壁をしていて、砦自体も大きくなっている。


 寮が完成していて、陛下の宿泊施設も完成している。

 防壁はいつの間にか黒々とした大理石のような物に変わっている。

 高さも上乗せされているように感じるのは気のせいだろうか?


 騎士達のためにと、水脈を操れるようになったのだと言って、大衆浴場という大きな温泉が作られていて、世帯を持っている者達用の建物も別棟で建てられていた。

 それは世帯用マンションと呼ばれ、二LDK〜五LDKまで用意されているとのことだった。

 LDKとは一体何なのだろうか?


 私はルリィと並び立っては小競り合いをしながら、ウエィスト砦へと向かうことになった。

 全く会えなかった日々のことを考えると、小競り合いでも楽しいと思えた。


 ルリィに「こちらに立ってください」と言われた場所に立つと、地面がせり上がっていき、階段を登らずとも防壁の上へと到着した。


 防壁の幅も広がっていて驚いていた。

 前来たときの倍の広さはある。

「防壁の上がこのように広いとは思わなんだ!!」

「ちょっと領土欲がでてしまいまして・・・西と東を山頂に砦を作ろうと思うと、メキシアへ移動させるしかなくて・・・」

 ルリィはクスクス笑って、陛下は目をむいてから、それはそれは楽しそうに笑った。


「ちょっと見ていてくださいね」

 そう言って、ルリィは防壁を前後へ移動させてみせた。

「なっ!!」

 またもや陛下が目をむいて口を開けたまま呆然としている。


「私が生きている間にメキシアと戦争になったら、防壁を移動させてメキシアの領土を接収してやります。但し、欠点として、畑や民家等が潰れていっちゃうので、それだけは目を瞑ってもらわなくてはなりません」


 陛下はルリィの説明を、咀嚼するようにゆっくりと理解した。

「わっははははははははっはっ!!凄いなルリィ!!いつ戦争が始まっても怖いものなしだな!!頼もしいぞ!!」

「ありがとうございます。試行錯誤して頑張りました」


 ウエィスト砦の一番西端は山の中腹にぶつかってそれまでだったのだが、今は山の頂まで伸びていて、山の頂上に砦が設置されていた。

「山の頂上から敵が侵入してくる可能性を考えて、頂上にも砦を作りました。残念ながら階段を登らなければならないのですが・・・」


 陛下はその山の頂上の砦に上がると言い出し、聖人に一度回復魔法を掛けてもらって頂上の砦の中に入った。

 見た目より中は広く、地下へと伸びていた。


 ルリィが話したのは、ウエィスト側からは人が通れるトンネル数カ所設置されていて、エレベーターという人や物を運ぶ、魔力で箱が押し上がってくるのだと言った。


 そのエレベーターという箱の中に入ると、かすかな振動が数十秒間して、扉が開くと地上に降りていた。

 またそのエレベーターに乗ると、先程乗った砦の上に降り立つことができた。

「すごいなっ!!階段を登らなくていいのか?!物見台にも付けてもらいたいな」


 父が興奮してルリィに城にも、物見台を作ってくれとお願いしていた。

 ルリィは「時間ができたら作りに行きます」と父と約束していた。


 砦の中には、不思議なことに水が通っていて、食料さえ貯蔵しておけば、籠城にも困らないとのことだった。

「どうやって水を上げているんだ?」

「井戸を通したと思ってください」

「そうなのかっ!」


 父は興奮状態が続いていて、ちょっと心配してしまう。

 聖人が背後から何度も回復魔法を掛けているのがちょっと可笑しかった。


 エレベーターや砦に水を汲み上げることを考えたのはルリィなのだろうなと思い、私の手はルリィに届かなくなったと思ってしまった。

 陛下はルリィに色々質問を投げかけては回答を得て、納得しているのを私はただ見つめていた。

 


「ルリィよ、昨日までは防壁は土色だったはずなのだが、何故急にこのような黒色になっているのだ?」

「今までの防壁だと、壁面が土だったので手や足がかりがどうしてもできてしまうので、夜営に紛れて砦を登られる可能性が少なからずあったのです。そこで建物と同じようにツルツルしたものにすれば、登れないのじゃないかと思って、急遽変更中なのです。まだ完成していませんので、陛下より先に出立して、防壁全てをここと同じようにしてこようと思っています」

「そうか!完成が楽しみだな」


 だから帰れないのか!!

 私はルリィを睨むと、ルリィは視線を彷徨わせてそっぽを向いた。

「終わったらすぐ帰ってきなさい!!」

「・・・・・・」

 返事しないよこの子・・・。

 私、泣いてもいいよね?



 陛下はその日、防壁の上を馬車でクルイストまで行き、ルリィが建てた陛下用の宿泊施設に泊まった。

 ルリィはクルイストでは泊まらず、その足でトリステリアへと向かった。

 私とルリィは結局一言も言葉を交わさなかった。


 翌朝、陛下と一緒にトリステリアへと向かい、アンサーレッツ辺境伯が父を出迎え、挨拶を交わした。

 私はここで父と別れることになり、アンサーレッツ辺境伯に父を任せることになった。


 私はヴェルトラム邸に戻ると、ロアが「奥様はお元気でしたか?」と聞かれて「ああ、元気だったよ。当分帰ってきそうにはないよ」と虚しい気持ちで答えた。

 陛下の視察で停滞していた日常業務を次から次へと片付けていく。


 私とルリィの未来を考える。

 あれほど結婚を嫌がっていたのだから、ここへ帰ってきたくない事を理解しなければならないのだろうか・・・?

 楽しそうに防壁で魔法を振るっているルリィの姿を思い出す。

 それだけで胸が痛くて仕方なかった。

「私は捨てられるのかなぁ〜?」

 小さなつぶやきが漏れ出た。


 ハルロイ辺境伯から連絡が来て、騎士の交換を開始することになった。

 ハルロイ辺境伯はヴェルトラムに、いや、ルリィに非常に好意的で、細やかに何かと力を貸してくれている。

 ルリィを守るためにと、騎士をヴェルトラムに派遣してくれたし、副団長をクルイスト砦に団長として派遣してくれている。


 ハルロイの騎士団は流石としか言いようのないほど練度が高く、寄せ集めの新興の辺境伯の騎士達を一つにまとめ上げるのに心血を注いでくれている。

 その御蔭でヴェルトラムの騎士達に弛んだところはなくなってきている。


 半年に一度ずつ騎士達を交換することが決まっていて、今回、初めての移動になる。

 ハルロイ辺境伯も必ずメキシアは攻めてくると確信があるようで、連携を密に取りたいと言ってくれている。


 それはヴェルトラムとハルロイだけではなく、アンサーレッツ、オールベルト、第二防壁の辺境伯の中央のオートマル辺境伯と東のガリアルト辺境伯、六家で契約された。


 ルリィが全ての領地に物見台を作り、砦に行かずともメキシア、味方の様子が見て取れるようにしてくれた事も大きかった。

 全ての領地がヴェルトラムに友好的なのだ。

 辺境伯の全員がルリィには感謝しかないだろうと思う。


 第一防壁の三つの辺境伯と、第二防壁の三つの辺境伯の仲はルリィによって結ばれていると言っても過言ではないだろう。

 この仲をもっと強固なものにしていかなければならない。

 我々六家が頑張らねばならないのはこれからだ。



 温泉の熱い湯に浸かりながらとりとめもなくそんな事を考えていた。


 ルリィは元平民とは思えないほど知恵が回る。

 書類仕事は得意ではないようだが、元平民だと考えると、出来すぎなくらいだ。解らないことはそのままにせず、レイ達を質問攻めにして理解していっていた。


 ルリィが言うには、ほんのちょっとだけ受けていた王妃教育が今のルリィを作っていると言っていたが、ルリィの地頭の良さと、努力と発想力が豊かなのだろう。

「我妻ながら素晴らしすぎて頭が上がらない」


 温泉から出て、冷たい果実水を飲んでリフレッシュした私は、真面目に執務にとり掛った。



 ルリィがヴェルトラム邸に帰ってきたのは、別れてから三ヶ月が経っていた。


「なにかあったのか?」

 と思わず口に出るほど、ルリィがヴェルトラム邸に居ることを不思議に思った。

 ルリィは少し顔を引きつらせて「ただいま帰りました」と尻すぼみな声で答えた。

 帰ってくるタイミングも悪すぎるな。


「ゆっくりしていくといいよ」

 まるで客を迎えたような事を言ってしまった。

 私はルリィにそう言って執務をこなすうちに、ルリィの存在を忘れた。


 夕食の時間になり、いつものように一人で食事をとる。

 食べ終わる頃にルリィが食堂に現れて、私は驚いた。

 あぁ、そう言えばルリィが来ていたんだったな。と思って、私は食事が終わるとまた、執務へと意識を飛ばした。



 明日からは視察に出かけなければならないので、手を付けておかなければならない書類が残っていた。

 深夜まで書類と格闘して、自室に戻った時には、くたくたになっていた。

 私室でグラス一杯の酒を流し込んで、私はベッドへと潜り込んだ。



 妻として一緒に居る時間のほうが短すぎて、正直、ルリィにどう接すればいいのか分からない。

 ルリィは私の下に戻るのが嫌だから戻ってこないのだろうし。

 結婚も嫌々だったしなぁ・・・。

 


 私はそのまま眠りについて翌朝早く、予定されていた視察へと出発した。



 今日から南東のケイント・ブリリアンのところから始まって順に回って行く予定になっている。

 ルリィが完成させた堤防の連絡が入っていて、その視察があったからだった。


 ヴェルトラム邸からブリリアンとの中間に二箇所、宿が作られていた。

 勿論ルリィが作った。

 宿はそのうち、人を入れて宿として機能させなければならない。

 騎士達が泊まれるように部屋数は多く作ってあった。


 場所代と建物の使用料としてヴェルトラムにお金が入って来ることになる。

 いずれ、この宿を中心に大なり小なりの村ができるだろう。

 発展する場所と、寂れていく場所にも分かれるだろう。

 私と護衛の一行は宿になる建物に一泊ずつして、ブリリアン邸に到着した。


 ケイントは奥様のワイスマリー夫人に首ったけで、恋の奴隷だ。

 間違いなく私よりワイスマリー夫人の方が大切だろう。

 私の言うことは聞かなくても、奥方を通してお願いするとケイントはよく動いてくれる。


 私もその辺はよく解っているので、ケイントには手紙を送らず、奥方に送って差配してもらっている。

 第二防壁のオートマル辺境伯にもその事は伝えてあり、オートマル辺境伯は大笑いしていたと聞いている。


 アンサーレッツ辺境伯は嫡男のコベルトンがケイントのことをよく知っていたので「言わずとも知っているよ」とこれまた笑われた。



 翌日堤防と川を視察して驚いたのが、橋が等間隔で掛かっていることだった。

 道のないところにも橋は架かっている。


 アンサーレッツ側にも宿が建設されていると聞いている。

 堤防の上から遠目に見える建物が多分宿だろう。

 ここと同じようなものが建っているのだろう。


 他の辺境伯は宿の建物をヴェルトラムから、安価で買い取った形になっている。


 ルリィは本当にやりたい放題にやっていたのだと良く解る。

 土魔法を使う度に進化していっている。

 領地のためだと解っているが、それで放っておかれるこちらの身にもなって欲しいものだ。


 アンサーレッツの嫡男、コベルトンも私の視察に合わせて来ていた。

 満面の笑顔でこちらに向けて手を降っている。


 川べりにある四阿(あずまや)に腰を下ろした。

「聖女ルリィには感謝してもしきれません」

 と、お馴染みの言葉を聞かされて「気にしないでください」といつもの言葉を返した。


 一休みしながら、今後の予定を打ち合わせた。

「正直、ルリィがこの先どうするつもりなのかはちょっと解らないので、そのことについては何も言えないのですが、騎士の移動はどんな感じでしょうか?」


「互いにいい勉強になっていると思います。連携の大切さを改めて感じました」

「ハルロイ辺境伯に感謝ですね」

「本当に私達は誰かに感謝してばかりですね」

「本当に、そうですね」

 と、私は苦笑した。


 細々としたことを決めて、私は堤防の上を北上しロウエンへと向かった。

 


 東のホゥリー・ロウエンの所についたのは二日後だった。

 ホゥリーの奥方はキュフィア。

 ホゥリーは典型的な関白亭主だった。

 それが今は見る影もない。

 つい先日、夫婦で大喧嘩してからは関白亭主を失敗したとこぼしている。


 凄く大人しく見えるキュフィア夫人は、怒ると誰よりも恐ろしい人だったそうだ。

 理詰めで責め立てられ、押されているうちにいつの間にか家から放り出され、目の前で扉が閉められ、鍵が掛けられたのだと言う。

 

 それを聞いて私は大笑いしてしまった。

「それでどうやって家に入れてもらったんだ?」

「謝り倒しました。暫くはキュフィアの顔色をうかがって生活しましたよ。ランベルト様も女性の怒りには気をつけたほうがいいですよ」


 ルリィとは喧嘩のしようがないからなあ。

 居ないんだから。

 そう思ってまたため息が出た。


 ホゥリーは奥方以外は特に問題はなく、アンサーレッツから来た騎士とメイドが恋に落ちたくらいだと言っていた。

 その二人はどうするつもりなのか聞くと、結婚して騎士の異動に付いていく。とのことだった。


 好きになってから結婚までが早すぎるので、ちょっと心配だ。とホゥリーは言っていた。

「まぁ、当人同士のことはこちらも口を出せないので、見守ります」と言っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 辺境伯に相談もせず、国王に言上もせず、勝手に領土拡張しようとするとか、何様? 聖女様か…… 陛下も笑ってる場合じゃないと思うよ。
[一言] 手紙をしたためる時間さえもなく気絶してたのかもしれないけど、メッセージカードの一枚、人伝に言伝一言でもあれば違うのに……
[一言] 帰りずらかったとしても、ちょっと旦那さんが可哀想。お互いにお手紙くらいの手間は惜しむべきじゃなかったね。
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