10 視察と陛下への報告。
すみません。12/7に加筆修正を行っています。
08話あたりから手を入れています。
ランベルトの駄目さ加減がマシになるといいのですが・・・。
元々ルリィに関しては自信がないので、これ以上は如何もなくて。
堤防の上を駆けて、トリステリア砦に着いて、防壁を東の端まで走らせた。
アンサーレッツもオールベルトも、騎士寮も世帯用マンションも同じように区分けされて建っていた。
防壁の東の端まで行ってみたが、防壁はすべて黒の大理石のような防壁になっていた。
グリゴリア叔父上が、これは内緒だけどと言って、ルリィが防壁を九m程北上させたんだと言っていた。
ちょうど、山の頂上に防壁が来るように移動させたそうだ。
東西の端は山なので、山上から襲われやすい。
ウェイストと同様に、山頂に砦が作られていた。
建物としてはウェイストと全く同じで、水も出たし、エレベーターも設置されていた。
既に人は配置されていて、人手が足りないことが一番の悩みだとオールベルトでも言っている。
人手が足りないのだけは、どうにも出来ない。
最低でも十年の時が必要だ。
貴族の子弟に騎士になるように推進しているが、誰もが騎士になれる訳でもないし、人は簡単には育たない。
この山上砦のお陰で横から突かれる心配がなくなったとグリゴリア叔父上は喜んでいた。
ルリィは本当の俺以外を喜ばすことに精をだしている。
その日はオールベルト砦で一泊お世話になって、互いの要望を話し合い、翌日、防壁の上を西へと向かった。
クルイスト砦でビリリアと問題はないか話をして、やはりメキシアから逃げてくる貧民達がいるので、受け入れていると聞いた。
「なるべく防壁から離したところへ居を構えさせるようにしなければな」
「解っております」
「どっちにしろ、メキシアからの人材を受け入れないと、ヴェルトラムが立ち行かないんだけどな」
「辛いところですね」
「ルリィ様が畑にも土魔法を使ったのを知っておられますか?」
「ああ、報告書は読んだよ」
「ルリィ様が手を入れた土は植物がよく育つそうです」
「そうなのか?」
「はい。土もフカフカになっているそうです。これからの天候にもよりますが、今年はかなりの収穫が見込めるのではないかと皆喜んでいます」
「そうか!楽しみだな」
ウェィスト砦にはカンニバルが待ち構えていて、クルイストと同様に畑の収穫がかなりの量見込まれることと、隣国のカルフォヴィアから貧民だと思われる人間が助けを求めにやってくると、報告してきた。
ウェィストは山越えをしなければならないので、今までで三世帯ほどしかやって来ていないが、来たものは本当に痩せ細っていて、息も絶え絶えと言う状態だったらしい。
カルフォヴィアからの避難民はとりあえず閉じ込めておいてくれとカンニバルに頼んで、川の堤防の上を南下してシルズィーの下へやって来た。
二ヶ月ほど前、シルズィーが惚れた女のララベル夫人の婚姻解消が認められ、迎えに行ったその足で、シルズィーは婚姻届を出し、バリスト邸へ奥方を連れ帰った。
二人は幸せそうで、まだはっきり解らないんだけど、多分妊娠したと思うと顔を赤くして話してくれた。
私は妻に会うこともままならないというのに、羨ましすぎて涙が出そうだ。
他に問題はないかと聞くと、ここでもやはり隣国のカルフォヴィアから、貧民と思われる数人が逃げてきているとのことだった。
現状大人から子供まで十三世帯、受け入れているとのことだった。
「多いな・・・」
貧民達に話を聞いたところ、防壁を短期間で作れるほどジャイカル国は裕福で、税も軽いとカルフォヴィアから思われているらしく、逃げてくる者がこれから増えると言っていた。
「カルフォヴィアからの受け入れはちょっと陛下と相談しないと判らないな。陛下に相談してくるよ」
「お願いします。取り敢えず、今はまだ閉じ込めて逃げられないようにしていますので」
「頼んだ」
コルウェン邸に着いて、何も問題ないかと聞くと「私の嫁を探してください」とユーラシア・コルウェンに泣かれた。
ユーラシアはシルズィーが結婚してしまったので、側近の中で唯一の独身となってしまっていた。
「気には掛けておくが、陛下が認められる相手が居ないと言ってるから、当分は難しいかもな・・・」
酒を飲んでユーラシアは私にくだを巻いた。
私も負けじと、ルリィがなかなか帰ってこないと泣き言を言った。
今、ルリィはヴェルトラム邸に居るんだろうか?
ユーラシアはベロベロに酔っていたと思ったのに、翌朝しゃっきりしていた。
私は頭がガンガンしていたというのにっ!!
ユーラシアもシルズィーと同じくカルフォヴィアから川を渡ってくる者がいるとのことだった。
溺れて流されて行ってしまうのを見ても、川を渡ろうと必死になってやってくるそうだ。
この川には橋は掛かっていない。
川を渡りきる前に、帰るように声がけしているが、渡ってきてしまった者はどうしようもなくて、今は一つの家に全員を押し込めている状態だと言った。
カルフォヴィアから逃げてきた者達とも話をしてみたが、税が重く、生活していけない。助けて欲しいと同じことを言った。
ナルニアに着いて、ここから王都へ向かうと、ヴェルトラム邸へと使者を立ててもらった。
ハルロイ砦を素通りしてハルロイ邸へと馬で駆ける。
カルフォヴィアからの難民の話をして、無断入国に気をつけるようにハルロイ辺境伯へと忠告した。
どれだけ急いでも、ルリィが居ないと馬がもたない。
ハルロイ邸で馬を交換してもらって、各領地でも馬を交換してもらう。
急いで走って王都に着いた時には、くたくたになった。
陛下への謁見を申し出て、気を利かせてくれた陛下の側近が、聖人を呼んでくれて、治癒魔法と回復魔法を掛けてくれた。
治癒魔法と回復魔法がルリィと違うことに気がついた。
聖人に礼を言って、謁見室へと呼ばれた。
「どうした?」
陛下は挨拶も飛ばして本題を聞いてくる。
「カルフォヴィアから難民が女も子供も入れて百名以上ジャイカルへ入ってきています」
「何だと?!」
「話を聞いたところ、重税で食べていけないとのことでした。これからどんどん難民は増えていくだろうと、逃げてきたカルフォヴィアの者達が話していました」
「カルフォヴィア国はそんな重税を課すような国ではなかっただろう?!」
陛下は宰相や側近達に確認を取る。
皆が頷く中、一人の側近が声を上げた。
「メキシアと手を組んだということはないでしょうか?それかたまたま不作が続いて重税を課すしかならなくなったか・・・」
「いえ、話を聞いたところ、特に不作だったわけではないようです。例年通りの収穫はあったが、一気に税を倍に増やされたそうです」
「倍だと?!」
「はい。私も、気になりましたので、取り急ぎご報告に參りました」
謁見室にいる皆がうなり、カルフォヴィアの情報を集めるということでその場は落ち着いた。
「逃げてきた者達はどうしましょうか?」
「受け入れの余地はあるのか?」
「人はいくらいてもいいので、受け入れ余地は、あると言えばありますが、受け入れることに不安もあります」
「なるべく固めずにバラバラにして受け入れるしかないだろう」
「解りました。オートマルやガリアルトに頼んでみます防壁にはあまり近づけたくありませんから」
「そうだな・・・難民だという保証がない以上、受け入れるのも厳しいだろうが・・・そうだな、南へやるか・・・」
「南ですか?」
「チャルバト子爵家なら新参者に仕事を与えつつ、目を光らせることも出来るだろう?」
チャルバト子爵とは、我が国の最南端に領地を構えた、のんびりとした農地だが、子爵と領民の仲が良く、端々にまで目を光らせることが出来る人だった。
「いいですね。お願いいたします」
「ルリィに防壁作りを頼んでいいか?」
「カルフォヴィアとの国境にも防壁を設置するのですか?」
「あったほうがいい気がする」
「そうですね・・・。ルリィをハルロイ砦に行かせます。防壁を設置する場所を指示できる者をハルロイ砦へ向かわせてください。時期はどれくらいがいいでしょうか?」
細かい事を決めて、私は翌朝、出立した。
馬を交換してもらった所に寄って、馬を元通りに交換していく。
ハルロイ邸に着いて、やっと自分の馬に戻った。
ハルロイ辺境伯に陛下との話を伝え、カルフォヴィア近くの領地で引き取るよりか、チャルバト子爵に任せることになったと伝えた。
だがそれは簡単に崩壊してしまった。
逃げてくるものが多すぎて辺境伯でも受け入れざるを得なくなった。
ハルロイ砦でルリィと防壁作りの指示が出来る者と合流させることに決まったことも伝える。
また、長くルリィと会えなくなるなと思って、寂しさを感じるのと同じだけ、ちょうど良かったのかも知れないと思った。
ヴェルトラムに戻ると「直ぐにルリィの居場所を探し出してくれ」と皆に伝えた。
「奥様は居られます」
「どこに?!」
「この屋敷にです」
一瞬ポカンとしてしまった。
「なんで?居るの?」と言葉が無意識に漏れ出た。
ルリィが息を呑んだのが目の端に映った気がした。
ルリィはどこかに行っていると思っていたので、探すところから始めなければならないと思っていた。
「・・・ちょうど良かった。話がある」
何も言わなくても、ルリィは治癒魔法と回復魔法を全員に掛けてくれた。
やはり他の聖人とルリィの治癒魔法と回復魔法は違った。
ルリィの魔法は体の芯からの疲れを取り除くことが出来るが、王城で受けた聖人の魔法は上辺だけの疲れしか取れなかった。
思考を飛ばしているといつの間にか執務室に着いていた。
ルリィの顔色が少し悪い気がしたが、今はそれよりも急ぎの用があった。
ソファーに座るよう指示して、私はルリィの正面に座った。
「明日から、ウェイスト砦に行ってもらいたい」
「どうかしたのですか?」
「ああ。川向うの堤防を防壁に変えてもらいたい。カルフォヴィアから攻めて来られないように」
「カルフォヴィアが攻めてくるのですか?」
レイとロアも目をむいている。
「解らない。だが、万一ということもあるので、防壁を作ることになった。悪いが、カルフォヴィアの国境に越えられない高さの防壁を作ってきてくれ」
「解りました」
「川沿いに防壁が完成したら、ハルロイ砦で、待機してくれ。国境に詳しい者が来るからその人の言う通りにしてくれ。今回は領土欲は絶対出すな」
「解りました」
カンニバルとユーラシアとシルズィーにそれぞれに使者を立て、カルフォヴィアからの村民をチャルバト子爵家へ送ることに決まったと連絡を入れた。
バタバタとして、その日の夕食はルリィと食べることはできず、朝方まで書類と格闘して、眠らないまま、朝になり、ルリィにウェイストに渡して欲しい書類一式を手渡した。
護衛騎士達に「今回も長くかかると思うが、ルリィのことを頼む」としっかりと念押しをした。
護衛騎士達は「お任せください」と言って請け負ってくれた。
ルリィは私の何かを窺うように見ていたが何も言わず「行ってきます」と小さな声で目を瞑って言い、私は力強く「頼む」とだけ言った。
ルリィは何度かこちらを振り返りつつ、旅立っていった。
手を握ることも、夫婦としての会話の一つもする余裕がなかったなと思った。
私が居ない間にルリィが途中まで建てていたヴェルトラム邸を完成させていた。屋敷の準備が整い、いつでも引っ越しができますと言われた。
元々建てていた屋敷よりも一回り大きな建物になっていた。
屋敷と物見台が屋根付きの廊下で繋がっている。
「あの廊下、歩いても落ちないのか?」
「ルリィ様曰く、百人乗っても大丈夫。だそうです」
内覧していると、レイとロアが、一部商品が届いていないものなどがありますが、いつでも引っ越しは可能です」
「なら、引っ越しを始めよう」
屋敷が建った時にはルリィと手を繋いで一緒に入るとか話していたが、現実はルリィと次に会える日も解らない。
防壁が完成した時、ここに帰ってくるのかすら解らない。
ため息の増えた私をレイは心配するが、ため息が出る時は大概ルリィのことなので、心配するだけ無駄だった。
ルリィが居ないことが当たり前になった。
それはわたしだけではなく、屋敷の者達にとっても同じことだろう。
女主人の仕事はロアが全て執り行っている。
ルリィの執務室に報告書が積まれていくが、ルリィがそれらに目を通す日が来るのか解らない。
「ルリィが居た間、ルリィは必要な書類に目は通したのか?」
「最低限の書類には目を通されました」
「最低限か・・・誰にとっての最低限なのだろうな?」
ロアは何も答えず、執務室から出ていった。




