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雪美条高校探偵部員たちの事件簿  作者: 香富士
File9 宝石と一緒に消えた真実
31/56

File9-8 ~語り始められる真相~

事件関係者

・榊田幹彦(55)  榊田宝石店従業員

・赤岸美佐枝(34) オーナー秘書

・関根麻雄(54)  榊田宝石店従業員

・藻川梅子(56)  榊田宝石店従業員


・村杉育也(33)  中泉学院非常勤講師  

            音呂部西公園で殺害されているのが発見される

・柳野里実(31)  喫茶店店員  (育也の元妻)

            楠鳩中央公園近くの藤巻ビルから転落死

・柳野和繁(34)  自動車整備工場勤務  里実の夫


過去の事件の関係者

・榊田伸彦(51)  榊田宝石店オーナー 幹彦の兄

            事件の3か月後に病死

・竹井長治(42)  榊田宝石店従業員

             事件の年の8月に榊田宝石店の裏で死亡しているのが発見される

・青葉桐人(37)  榊田宝石店強盗事件の犯人 

            事件の1時間後に事故で死亡

・中松房生(35)  榊田宝石店強盗事件の犯人

            事件の1時間半後に自殺(?)

・P          青葉と中松の仲間

           榊田宝石店襲撃事件があった年の前年に火事で死亡(?)

私たちはリエちゃんの報告を受けて再び榊田宝石店に戻っていた。

「関根……麻雄です」

「……藻川梅子」

少し前にはオーナーの座っていたソファにさっきリエちゃんの指名した2人がいる。関根さんは眼鏡をかけた爽やかな風貌の人。40代くらいかな? 藻川さんはいわゆるオバサンという感じ。顔のしわや、少し白っぽい髪からそれがよく感じられる。でも何かその場にいる人を圧倒するオーラみたいなのがある。

「お仕事中申し訳ありません関根さん、藻川さん。あなた方の14日の午後からのアリバイをお聞かせください」

「良いですけど……」

藻川さんは明らかに不審そうな顔を私たちに向けている。

「なんでアタシたちだけなんですか? さっき、オーナーは呼び出されてましたけどこの店の長としてでしょう? それだけじゃ済まなかったてことなんですか?」

「ええまあ……捜査上の秘密ということで詳しくは言えないんですが、お2人にお聞きしたいんです」

まずは藻川さんが話し出す。

「14日は店に出て接客してましたよ。休憩していた30分間以外はずっとね」

「時間は覚えてらっしゃいますか?」

「いや……」

藻川さんが言葉に詰まると横から関根さんが言う。

「確かその日は5時前後からだったと思いますよ、藻川さん」

「あら、なんでそんなに覚えてんの?」

「あの日、私が休憩室に置きっぱなしにしていた万年筆を取りに戻ったら丁度入ってきたでしょう? 確かあれ、私が外に行く直前でしたから5時くらいかと。私が店を出たのは5時少しすぎだったので」

「……だそうよ、刑事さん。まあ防犯カメラを確認すれば帰宅するまで1歩も出てないことは分かると思うけどさ」

そう言いながらおもむろに煙草を取り出す。

「……あ、吸っても良いかい?」

「ええ、まあそのままお話を続けていただけるのなら」

右手に持ったオイルライターで煙草に火をつける藻川さん。煙がホワホワと立ち昇る。関根さんは少し嫌そうな顔をした。別に気にする様子もなく藻川さんは続ける。

「え~っとどこまで話したか……あぁそうか。んでその後は6時半過ぎに帰りましたよ。そういや帰るときにもあなたに会ったわねぇ」

そう言われ関根さんは眉をピクリと動かした。

「あ……あぁそうでしたね。榎谷えのきや様のお宅から帰ってきたときでしょうね。刑事さん、ついでだから言っておきますが5時過ぎに私、店を出たんです。それで5時半から榎谷様というお客様のお宅で商談を。それで藻川さんの言う通り、6時半過ぎに店に戻ってきたんです。それでその日は6時45分くらいには帰宅しましたかね。家はすぐ傍なので7時前には着いて、その後は家族といました」

「アタシの方は一人暮らしだから証明はできないけど、6時45分くらいに家に着いたね」

藻川さんはふぅ~っと煙を吐き出す。関根さんがせき込んだが、藻川さんに火を消す素振りは見られない。

「……では翌日の15日の話をお聞きしたいのですが、確か会議をされていたとか」

「えぇそうですよ」

口を開いたのは関根さんだ。

「オーナー、赤岸さん、藻川さん、私の4人で会議を。ここに疑う余地はありませんよ」

「そうですか。では16日のことを教えてください。確か定休日だったそうですね?」

「あぁ、そうだよ」

煙草を灰皿に押し付けながら今度は藻川さんが答える。

「だからその日は地元に帰ったんだよ。父がちょっと病気なもんでね……」

「地元というのは?」

「美霧日市の春紅町。7時半には家を出て、9時くらいには春紅大学病院に着いたね。父や病院の人に聞いてもらえば証明されると思うけど。11時くらいには病院を出て、あとはほとんど自宅にいたさ」

藻川さんは随分とあっさりと答えた。今度は関根さんに視線が移る。

「……私、ですか。16日の午前中は家で仕事を。まあ妻は仕事に行っていて、息子も学校でしたからアリバイはありません。それで確か11時前でしたかね。楠鳩図書館に行ったんです。調べ物をしたかったので」

「わざわざ図書館まで?」

「ええ。家が図書館のすぐ傍ですし、気分転換のついでに。そういえばその頃ですよね、楠鳩中央公園の傍で人が亡くなったの。物騒ですよね……息子の高校は中泉学院で、結構近いから心配ですよ。まあ図書館も公園から割と近いですから、少し外が騒がしかったですね。それで昼過ぎに家に戻って、あとはそのまま自宅にいました」

「……分かりました。お忙しいところありがとうございました」

「い~え」「構いませんよ」

そう言いながら立ち上がる2人。ドアの方に向かっていく。

……ん? 私は何か少しだけ変な感じがした。2人の立ち去る姿に。

「関根さん」

「はい?」

少し気になることがあり、関根さんを呼び止める。藻川さんも一緒に歩みを止めた。

「足、怪我されているんですか?」

そうだ、なんだか左足を引きずっている感じがしたのだ。

「あぁ……」

関根さんは左脚をさする。

「確か7、8年前でしたか。交通事故で怪我しちゃったんですよ。結構な怪我でしばらく車椅子だったんですが、しばらくリハビリ続けていたら何とか回復したんです。右はほぼ完治したんですが、左は今もたまに違和感が出るので全力で走ったりはできないんですよ」

「そういやあの時は大変だったねぇ」

藻川さんが口を挟む。

「アタシもあの頃に怪我してほら、肩がまともに上がらなくなっちまったんだよ。まあ、それは今もだけど」

「そういえばあの頃はみんな怪我してましたよね。オーナーが目の手術したり、伸彦さんが肺を悪くしたり……あ、すみません刑事さん。変な話をしちゃって」

「いえ、引き留めちゃって申し訳ありません」



 ◆



「ありがとうございました、網倉刑事」

僕らは網倉刑事に礼を言い、車を降りる。そして目の前には榊田宝石店。

「まだサヤ姉ちゃんは中にいると思うけど……」

そう理絵花が言いかけるとドアが開いて江木畑刑事が出てきた。

「あ、リエちゃん! 今関根さんと藻川さんの事情聴取が終わったところで、関根さんのアリバイ確認のために楠鳩図書館に行くところなんだけど……」

「真井田警部は店内に?」

「え? ええまあ。榊田オーナーと赤岸さんのアリバイを確認するために、警備室に行ってるはずだけど」

すると理絵花は何もためらわずにこう言った。

「私もそこで確認したいことがあるんだけど、入らせてくれない?」


 ◇


「し、失礼します……」

江木畑刑事はおずおずと警備室のドアを開ける。中にはモニターに向き合っている、真井田警部と警備員さんが1人いた。

「ん? 江木畑、何かあったのか?」

「いえ、実は……」

何か言いたげな表情で僕らを入室させる江木畑刑事。僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、隣の少女からそんな気持ちは伝わってこない。

「真井田警部。1点ここで確認したいことが」

「な……」

真井田警部は目を丸くして口をパクパクさせる。そしてしばらくの後に、

「なんで君の都合に付き合わなくちゃならないんだ! こういうことは警察の領域だ! 一般人であるあなたが関わるべきではない!」

真井田警部の怒りがひしひしと伝わってくる。うん、当たり前だね。

「警備員さん」

まるで真井田警部などいないかのように続ける理絵花。

「ここの警備システムは5年前の強盗事件から変わっていないんですか?」

「え?」

警備員さんもどちらの味方になるべきか戸惑っているようだ。何度も真井田警部と理絵花を見比べる。

「ま、まあ防犯カメラが増えたのと、鍵が複雑になったこと以外はあまり……」

「ちょっと柏田かしわださん!」

「す、すみません……あ、あの子の……圧力が……」

どうやら警備員さんは気弱な性格らしい。真井田警部に睨まれ縮こまっている。

「つまり警備体制とかも変化はなし?」

「ええ、まあ……そうですね……」

「今日も別に異常はありませんでした?」

「は、はぁ。映像もくっきり映ってますし、時計のずれもない。まあ毎朝7時に時間は合うようになっているから当然ですが。それに不審人物も確認されていませんし……」

理絵花の態度に嫌気がさしたのか、真井田警部は諦めたように小さな丸椅子に腰かけた。江木畑刑事の方は不安そうな顔のまま上司と従妹の顔色を窺っている。

その時だった。


パッ


と電気が消え警備室は闇に包まれた。

「な、何事だ!」

真井田警部の怒声が響き渡る。部屋の外からもざわめきが聞こえる。

「わ、私、様子を見てきます!」

江木畑刑事がタッタと駆け出す音がした。

「あ、ブ、ブレーカーは警備室ここに……」

「だったら速く戻してくれ!」

真井田警部がせかす。懐中電灯を手に、柏田警備員が椅子を動かしてそれに乗り、ブレーカーをあげる。するとすぐに電気がついて光が戻った。目の前のモニターの映像も異常はないようだ。

「おい、何があったんだ」

警備室にスーツをピッシリ着た男が入ってくる。確かオーナーの榊田さんだったと思う。

「――ってちょっと、刑事さん。この子達は?」

「ちょっと色々ありまして、ね」

冷たい視線が僕らに向けられる。が、隣に立つ少女はそんなのまるで気にしないようにモニターの映像を見つめている。

「……ねえ、慎ちゃん。今何時?」

「へ?」

「時間よ、時間! 何時何分何秒か聞いてるの!」

「え~っと……」

僕は左腕の腕時計を見る。

「今丁度5時になったところだね」

「それって正確?」

「うん。電波時計だし、ずれることはないと思うけど……」

「じゃああれは?」

理絵花の指さす防犯カメラの映像の時計は4時59分を指していた。だがやがて、それは5時になった。

「……やっぱりね。5年前の真相はここにあったのよ」

理絵花はフフッと笑った。どうやら彼女の中で線は繋がっているようだ。この笑みはそんなの時の笑みだ。

「悪ぃねぇ、警備員さん」

慌てて警備室に50代くらいと思われる女の人が入ってくる。そもそも狭い警備室はもう満杯だ。

「ちょっと給湯室で漏電しちゃって……大丈夫だったかい?」

「あ、はい、大丈夫でしたよ、藻川さん」

「なら良かった。すみませんねぇ」


 ◇


「……で、君らに言いたいことを私が持っていることをご存知かね?」

真井田警部は僕らを別室に連れて行き、やけにまどろっこしい言い方――ヘタクソな英文の訳し方みたいな問いかけを投げかける。

「申し訳ありません、真井田警部……」

僕が謝っても、理絵花は無言のまま押し通そうとしている。すると真井田警部はさらに言った。

「君はもう少し立場を考えてくれたまえよ。確かに君は何かの才能みたいなものがあるのかもしれない。だが領域という物があるだろう? 君はあくまで高校生なんだ。こんなこと、本当ならば許されたものじゃ……」

「報告致します!」

場違いな声が部屋に響く。声の主は貝崎刑事だった。

「え、あ、あのぉ……お邪魔でした?」

さすがに場の空気に気が付いたのか縮こまる。

「……いや、続けたまえ」

「では」

コホンと咳ばらいをして貝崎刑事は話し出した。

「楠鳩図書館の司書さんや利用者の話で確認できた関根さんの姿は、10時50分と11時10分でした。その間に藤巻ビルへ行き、柳野里実を殺害することはギリギリ可能だと思われます」

「実際にお前が確かめてみたのか?」

「はい、実際に突き落としたりする諸々の時間込みでも走ればなんとか20分で収まりそうです。

それから江木畑からの伝言で、春紅大学病院に問い合わせたところ、藻川さんは9時丁度にやってきてそれから11時まで確かにいたとのことです」

「ほぉ……」

するとコツコツとわざとらしく足音を立て、理絵花の目の前に真井田警部は移動する。なんだかいつもより彼は長身に見えた。

「もしかするとなんだが……」

「はい、なんでしょう?」

「全てが見えたのかい、日野田さん?」

理絵花はフフッと微笑んだ。ここ1番の可愛さで。



 ◇



僕の目の前に並ぶのは真井田警部、江木畑刑事、貝崎刑事、見たことのないボブカットの女性の刑事さんの4人。全てを見通した少女は、道端の小さな花のように微笑んでいる。彼女の口から発せられる言葉こそ、皆の望むものなのだ。

「まずは5年前、何が起こったのかお話ししましょうか。

動機などは置いておいて黒幕の犯行の話から。黒幕は青葉と中松に対して殺意を抱いていたんです。そこで犯行協力のふりをしながら彼らを殺害しようとし、自分のよく知る榊田宝石店を襲わせたのです。

では最大の疑問。なぜ村杉育也は本物の盗まれた宝石を手に入れられたか。答えは簡単なことです。スタートを後ろに、つまり犯行時刻は黒幕の手によってもっと前にさせられていたんです」

理絵花はビシッと言い切った。が、誰も――僕も含むが、その趣旨を理解していないらしく、顔を見合わせている。

「簡単に言いましょう。事件当日、店は定休日。つまり宝石は誰の目にも触れられていなかったのです。だから事件の前日、盗まれていても問題はないのです」

「じゃあ青葉と中松の盗んでいたのはなんだったのよ?」

江木畑刑事が誰もが思っていたツッコミを口にする。

「そうだ。確か防犯カメラに2人の宝石を盗むシーンがあったじゃないか」

「もちろん2人は盗みました。ではこう考えましょう。彼らが盗んでいたのは偽物だった――とね」

……あ! 僕には1つ見えたものがあった。村杉さんが宝石を手に入れられた理由。それは――

「黒幕が春紅町に本物の宝石を隠したってこと?」

「そう、正解よ慎ちゃん。黒幕はあらかじめ宝石を移しておいた。それを村杉先生が見つけてしまったことによって、宝石が短時間で移動したように見えたって訳ね」

「でもなんでそんなことを?」

「それはね……」

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