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雪美条高校探偵部員たちの事件簿  作者: 香富士
File9 宝石と一緒に消えた真実
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24/56

File9-1 ~とある教師の夢~

5年前の12月9日。とある宝石店に強盗が押し入った。強盗犯の名前は青葉(あおば)桐人(きりと)と中松(なかまつ)房生(ふさお)。


これがこれから起こる事件の発端だった――



 ◇



「ゴメンね、慎ちゃん。待たせちゃって。もう買えたから行こ!」

その声で本から顔をあげると、理絵花はにっこり笑ってそこに立っていた。手には本屋の袋を持っている。そして白いダッフルコートに、もこもこしたマフラー。……やっぱりすごく可愛い。うん、すごく可愛いのだ。大事だったので2回言いました。

「あ……うん。ところで何買ったの? まあ、ミステリーなのは何となくわかるけど」

2学期の期末テストも終わった僕と理絵花は、「映画でも見に行こうか」ということになって鷲丘(わしおか)駅までやってきていた。映画が始まるまでの時間があったので、書店に寄っているんだけど。

「これよ、これ」

理絵花は自慢げに本を取り出した。

「菅松(すがまつ)小雪(こゆき)の新作、『~秋~ 白い密室』。菅松小雪はきっとそのうち大きな話題になると私は思うわ。まだ特段大きなヒット作はないけど、そのうちに何か起こると思うの」

理絵花のこういう評価は意外と的を射ていることが多い。中学生の時も、「きっと賞をとる」と言っていた小説家が本当に大きな賞を受賞したり、「そのうち忘れられる」と言っていた小説家は今では生きているんだか死んでいるんだかの状態。――ってことは菅松小雪も名前が広まっていくのかな?

たわいもない会話をしながら映画館に向かう。平日だし、サラリーマンっぽい人が行き交っている。そんな間にちらほらと僕らのような高校生の姿も見られる。

「……そーいえばさ、理絵花。さっき立ち読みしてた雑誌に書いてあったんだけど、雪美条市で起きた宝石強盗事件からもうすぐ5年だってよ。確かあの被害にあった店って中泉学院から割と近かったよね?」

「うん、確かにそうだったと思う。もちろん私はその時、中泉学院とは全く関係なかったけど」

「まあそうだろうけどさ……」

案外、理絵花のことだから何か知っているかも――そういう期待をわずかにしていたけどやはり何も知らなかった。

「あ、でも確かその宝石店オーナーの息子はうちのクラスの人よ」

「まじで?」

「うん。ま、彼ももちろん詳しいことは知らないと思うけどね」



 ◆



「んじゃ、大問5の(3)。『ゆめゆめ』の意味。え~っとじゃ、日野田」

村杉(むらすぎ)先生は私に視線を向ける。

「『決して』とか『断じて』です。後に禁止の語を伴って」

「ん、正解だ」

そう言ってカツカツと黒板に書き込む。今日はテスト返却&解説の日。中泉学院ではテストが返されるのと同時に先生が解説も行う。

「村杉先生って相変わらずだけどやる気なさげよねぇ」

隣に座る優里(ゆり)が小声で私に言った。

「……うん。今日は一段と、ね」

「確かにテストの平均も結構高めで、やる意味があんまりないからだれてるのかしら? もう今日は最後の授業だし」

何度も同じようなことを話し続ける先生の身となれば、こういうことをするのは疲れるだろう。しかもそんなに有意義なことではないし。

「……ちょっと話はそれるが」

突然、先生はそのぼさぼさな髪を掻きながら話し出した。眼鏡の奥の頼りない細い目は、いつものようにひょろひょろとしている。歳は30過ぎだったと思うが、大学生にもこんな風貌の人はいそうだ。

「もうみんな飽きてきているだろうし、ちょっとくだらない話をしようかね」

皆、くだらない雑談が始まったと思ってそっぽを向いている。でも私はこういう話にこそ、人の面白いところは出てくると思う。

「『ゆめ』と聞くと必ず思い出す話がある。確か5年くらい前のちょうどこの頃のことなんだが、夢を見たんだ。俺が古ぼけた神社だが寺みたいなとこででかい鞄を見つけて、中を覗くとそいつにはなんと宝石が詰まっていたんだよ」

その言葉で教室の半分くらいの人が先生の話を聞き出した。

「金欲しさに持って帰っちまったんだよ。その鞄を。んで家に着いて、床に就こうとしたところで夢から覚めたんだ。でもやけに鮮明だったし、あの日は記憶が曖昧なくらい酔って帰ったから本当のことだと思って、俺の妻に聞いてみたんだよ。でも知らねぇって言われちまって……」

「奥さんがどっかに隠しちゃったんじゃないですか?」

誰かが言った。村杉先生はあいまいな笑みを浮かべる。

「そうだ。確かに俺もそれを考えたんだよ。だが家中をひっくり返して探したのになくて、結局諦めちまったのよ。あいつも本当に知らんようだったし。んで今に至るんだが……」

村杉先生は教卓の上のテスト問題を手に取る。

「でも最後に1つ不思議なのは本当に強盗事件が起こっていたってことなんだけど……ま、今となっちゃどうでもいいか。いやぁ、でもこんな話、毎時間してると色々思い出しちゃうな。ほい、じゃあ次やるぞ」

授業は何事もなかったかのように再開した。でも私は何か、違和感を感じた。

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