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雪美条高校探偵部員たちの事件簿  作者: 香富士
File8 凪沢と残されたメッセージ
22/56

File8-3 ~4人の動機とアリバイ~

冷川 邦広(40) 『forest』副店長

市木 高文(38) 『forest』店員

遠原 良子(44) 『forest』店員

仙石 大将(30) 『forest』店員

鳥目 進(45)  『forest』店長  〔被害者〕

「それじゃあまずは昨日の夜、ここを出たときのことから聞かせてください、冷川さん」

「は、はい……」

顔を強張らせつつも、彼は話し出した。

「私、というより鳥目店長以外が店を出たのはのは皆同じで10時15分くらいです。することも終わったので4人で春木原駅まで。遠原さんは駅前のマンションに住んでるのでそこで別れましたが、私と仙石君は鷲丘わしおか駅方面、市木さんは泉堂せんどう駅方面の電車に乗って帰りました。電車で多少仙石君と立ち話してたんですが、彼は秋水野あきみずの駅で降りていました。それで私はそのまま電車で蒼園あおぞの駅まで。家に着いたのはそうですね……確か11時15分くらいでしたかね」

「では今度は今朝から何をしていたかと、遺体発見時のことについてお願いします」

冷川さんは大きく息を吸い込んでから話し出す。

「さっきも言いましたが昨日の夜、店長から今日は臨時休業だというメールが来たので1日中家にいました。特にやりたいこともなかったので、前から読みたかった本を読みながらね。妻は友人の結婚式のために地元に帰っているので、アリバイの証人はいませんが。それで昼過ぎに忘れ物に気が付いて……後はさっき話した通りです」

「つまりあの女子高生たちと会って彼女らと店に入り、財布を取るためにロッカールームに入ったら遺体を発見した、と。そういう訳ですね」

冷川さんは小さく頷く。すると吉峰警部はスッと腕をテーブルの上に乗せ、さらに聞く。

「鳥目店長を恨んでいる方って誰かいますかね……」

冷川さんは苦笑いして、小声で答える。

「それは遠原さんじゃないですかね……。店長と遠原さんは元夫婦なんですよ。でも遠原さん、うちの常連の万田まんださんって人と結婚することになったんです。それで店長、遠原さんと何か揉めていたそうで……。もしかしてその結婚のことで何か口論になって思わず殺しちゃった、とかじゃないですかねぇ。まあでも、遠原さんの方も悪いところはあるんですけど……」

「そのところ、詳しく教えてもらえますか?」

吉峰警部のその言葉に冷川さんはさらに顔を強張らせた。が、やがて諦めたかのようにさらに小声で言う。

「遠原さん、こっそり店長のパソコンを見たんですよ。目的はよく分かりませんが。そのこともあって、最近あの2人の中は最悪でしたよ。店長は店長の方でパスワードを変えたりして遠原さんが見れないようにしたんでけどね。でもまたそのうち、問題は起こりそうでしたが」


 *


「昨日は10時15分ごろにここを出て春木原駅前のマンションに帰った。昨日の夜の動きはそれだけです」

遠原さんはサラッと答える。

「それでは今日、何をしていたかを教えてください」

「今日ですか?」

ちょっと疑問の表情を浮かべたものの、遠原さんは答えた。

「今日は昨日の夜、鳥目から臨時休業のメールをもらっていたので朝から近くの喫茶店で読書していました。春木原駅前の『探究堂』です。マスターに聞いてみてください。警察の呼び出しを受けるまでそこにいたことがわかるでしょうから、それでアリバイは証明されますよ。なんで今日のことが知りたいかはわかりませんけど、どうせそういうことでしょう?」

遠原さんはにたりと笑う。……なんか怪しいぞ。冷川さんの話もあったし。いや、先入観はいかんな。

「では遠原さん、最後にお聞きしますが鳥目店長を恨んでた人っていますか?」

「そんなの私に決まってるじゃない」

遠原さんは即答した。吉峰警部も驚いたようだ。

「……どういうことでしょうか」

「私、うちの店の常連の万田まんだ宗近むねちかって人と結婚することになったんですよ。でも私は鳥目と元夫婦。それであの人、私になんか難癖つけてきて……。この前は大喧嘩よ。だからもしかしたら他の人、私が殺したと思ってんじゃないかしらね。ようやくつかめそうな結婚を邪魔されて殺す――な~んてことはありそうじゃない? ま、でも今回は私じゃないわ。信じて頂戴。それにあの男を殺す動機なら冷川もあるんじゃない?」

「それはどういうことですか?」

吉峰警部が間も置かずに聞く。遠原さんはまたもニヤリと笑う。

「冷川は正直鳥目との仲が良いとは言えなかった。な~んか鳥目の経営の細かい部分が気に入らないようでね。それでさっさと店を自分のものにしようとして、鳥目を殺した。もしかしたらそういう事なのかもしれないね。そうそう、あと市木も動機があるかもしれないよ」

一呼吸置いてから遠原さんは続ける。この人、なんでも知ってんな……。

「市木は少し前、店の金をこっそり使いこんでたんだよ。それが鳥目にばれて、大目玉。でも市木は鳥目の遠縁でね。なんとかまだ働き続けられているけど、もし鳥目からそのことで何か言われてたとしたら……動機になるんじゃないかね。それかまた金をこっそり使って、鳥目に何か言われて殺しちまった、とかもあり得るかもね」

最後にまたニヤリと笑った。


 *


続いて市木さんを呼びだす。

「昨日の夜は他の3人と一緒に春木原駅まで行って、遠原さんは駅前のマンション、仙石君と冷川さんは鷲丘行き、私は泉堂行きの電車に乗って帰りました。それで自宅のある終点の泉堂駅まで行きまして、そうしたら偶然大学時代の友人、長木ちょうき大熊おおくまの2人と会って、近くの居酒屋へ。私は今日、元々の休みの日でしたしね。結局解散したのは1時過ぎ。グデングデンになりながらもアパートに着いて、あとはずっと自分の部屋に。起きたら朝の10時過ぎで、警察から呼び出されるまではずっと家で録画したドラマとかを見ていました」

「なるほど。そのご友人と行かれた居酒屋の名前、わかりますか?」

「『石の光』でしたかね。泉堂駅前に行けば分かりますよ。すぐのところなんで」

市木さんは「ふぅ」と小さく息を吐いた。なんとなく何かを隠している感じなんだけどな……どことなくせわしないし。

「では後程、確認させてもらいます。最後になりますが、鳥目店長を恨んでいた人っていますか?」

市木さんの眉がピクリと動く。

「……せ、仙石君じゃないですかね。この間、なんだか店長にこっぴどく怒られていましたし……。そ、それに仙石君は度々店長に店のやり方に意見を言ってたんですけど、店長は全然聞き入れなくて……。それで不満が溜まって思わずこ、殺してしまったとか……」


 *


最後は仙石さんを呼びだした。

「昨日は他の3人と春木原駅まで行って、駅で皆さんとは別れました。あ、でも冷川さんは僕と同じ方向なので秋水野駅まで一緒に。僕はそこで降りましたが、冷川さんは蒼園駅まで行ったんですかね。それで僕がアパートに着いたのは大体10時45分くらいだったと思います」

「そうですか。では今日の行動についても教えてもらえますか?」

一瞬戸惑いの表情を見せた気もしたが、仙石さんは普通に言う。

「今日は臨時休業だったので、鷲丘駅まで行って映画を見ていました。『蝶舞う家』と『薔薇一家の恋』の2つ。僕、映画が好きなんでその2つを。それで『薔薇一家の恋』を見終わって帰ろうかなって思ってたら呼び出しがきたんです」

「映画の始まった時間と終わった時間はわかります?」

吉峰警部が聞くと、彼は鞄から財布を取り出してさらにそこから半券を出した。

「え~っと、『蝶舞う家』は9時40分から11時30分。『薔薇一家の恋』は12時から13時45分。念の為、映画館にも聞いてみてください。それで『薔薇一家の恋』が終わって、ちょっと駅前をうろついてから駅に向かってる途中で警察からの呼び出しが来たって訳ですよ」

「そうですか。それでは最後にお尋ねしますが、鳥目店長を恨んでいた人っていましたか?」

「そんなの全員じゃないですかね」

遠原さんのように仙石さんも即答した。

「言いにくいですけどそうです。みんな何かしら店長を殺す動機はあります。冷川さんは店長のやり方が気に食わなくて、店を自分のものにしたがってましたし、遠原さんは結婚の問題。遠原さん、うちの常連さんと結婚することになってるんですけど、元夫の店長がうるさかったようですし。市木さんはお金の横領。店長の遠縁だからってことでなんとか働き続けられてますけど、何かそのことであったんなら動機につながります。そういう僕だって、正直店長の店の経営が気に入らなくて結構意見してたのに、全く聞き入れてもらえなかったという動機がありますからね。この店はそういうとこなんですよ」



  ◇



「結局のところ皆さん動機はあったようですし、アリバイはなさそうでしたね。市木さんにアリバイがあったようでしたが」

吉峰警部は腕を組み、じっと考え込んでいる。すると、吉峰警部のスマホが鳴った。

「はい、吉峰。あら、蓑下さん。……ええ、そう。わかった。ありがとう」

電話を切るとこちらの方も向かずに言った。

「やっぱり車谷由実さんは入院中のようよ。どっかの神社の石段から落ちて骨折。足が動かないから、そもそも病室を抜け出すことすら困難。つまり、アリバイは完璧ってことね」

……やはりそうか。でも、だとしたらなぜ鳥目さんはあの名刺を?

ふと吉峰警部を見るといつのまにか俺の方に向き直っていた。

「ね、網倉君。さっき市木さんにアリバイがあるって言ってたけど、それって裏は取れたの?」

「え、あ、はい。『石の光』と彼の友人の2人にも聞きましたが、証言通り深夜1時まであそこにいたそうです」

「他の人の今朝のアリバイは?」

「それは警部が樽川たるかわ警部補に頼んでいたので……」

「あ、そうだったわね」

そんなことを話していると、樽川警部補が俺らのいる部屋に入ってきた。

「おう、網倉もここにいたのか」

樽川警部補は30代後半。背は高めだが、どこか頼りない見た目をしている。原因はとろんとした目だろうか。でもいざという時は頼りになる。

「店員4人のアリバイの裏を取ってきましたので、報告いたしますね」

「ええ、お願い」

「コホン」と1度咳払いして、樽川警部補は話し始める。

「まず、冷川さんに関しては特にありません。遠原さんは『探究堂』に電話して聞いたところ、間違いなく朝9時ごろから警察に呼び出されるまでいたとのことです。何度かトイレに行っていたようですが、いずれも5分くらいで戻ったそうなので、そんな短時間で『forest』とは往復できません。よって彼女の今日のアリバイは成立。市木さんは今朝のアリバイは無し。仙石さんは映画館に聞いたところによると、彼が映画の途中で抜けたことはなかったそうです。仙石さんは結構特徴のあるがっしりした体つきなので、抜け出せばすぐにわかるだろうとのことでした。今日は映画館、そんなに混んでいなかったようですし。それから2本の映画の間の30分じゃ行って戻ることは不可能。よって仙石さんのアリバイも成立です」

樽川警部補の報告が終わると、吉峰警部は「ふ~」と大きく息を吐いた。

「とりあえず現場に戻れるのは市木さんか冷川さんってことね。そして犯行が可能なのは市木さんを除く3人。でもこれだけで犯人が冷川さんと決めつけるのはちょっとね。それに冷川さんならわざわざ凪沢さんたちを店に入れたりはしないし……」

「あ、警部。まだ1つ報告することがあったんですよ」

「え、何? さっさと言ってよ」

吉峰警部は樽川警部補の方を鋭い目つきで睨む。吉峰警部は昔からこうだ。何か自分の意にそぐわないことをする人がいると、こういうことをしてくる。頭の回転は速いから、素早く色々なことを済ませたいからだろう。

「あの棚の下にあったのは写真だそうです。鳥目店長は写真を撮るのが趣味で、色々と撮っていたみたいで。だからもしかしたら犯人の写真を握っていたから奪ったのかもしれませんね。それで念の為あそこにあった写真すべてを持ち去った――そう考えるのが自然かもしれませんね。

あ、あとそれから冷川さんが言っていたんですが昨日の夜、家に着いたときにお隣の掛井かけいという方と会ったらしいんですよ。もし何かアリバイになるなら……とさっき話してくれたんです。時間は掛井さんの奥さんが見ていたドラマが丁度始まった時間、11時15分だったそうです。

あと仙石さんもアパートに着いたときに隣の部屋の小貝こがいという人と顔を合わせているそうなんです。時間は10時45分だったみたいです」

樽川警部補がそう言うと、吉峰警部は何かを閃きそうな、そんな表情だった。



  ◆



「…というわけさ。何か質問があれば言ってくれ」

凛花ちゃんは下を向き、考え込んでいる。たこ焼きの串をツンツンいじりながら。

「……犯人はわかるんですけどダイイングメッセージがわかんないんですよ……」

「え、犯人はわかるの? その時点でもうすごいと思うんだけど」

「ええ。あの鷲丘線のことがわかれば……」

凛花ちゃんはあっさりと言った。

「鷲丘線ってあの容疑者たちの使った線のことでしょ? それのどこでわかるのよ!」

「所要時間ですよ。春木原駅とそれぞれの最寄りの。それからあの情報を足せばもう犯人はあの人しかいませんよ。凪沢先輩も見ますか?」

凛花ちゃんはいつもの笑み・・・・・・を浮かべながら、鷲丘線の所要時間が書いてあるページを出す。

え~っと、春木原駅から泉堂駅までが20分、秋水野駅までが8分、蒼園駅までが40分、鷲丘駅までが45分。んで急行は……と思ったけど確か22時以降は急行は無いんだっけ。でもこれで何がわかるんだかね……。


*鷲丘線路線図(一部)*

挿絵(By みてみん)


「あの~ちょっと良いですか?」

私、凛花ちゃん、網倉刑事は一斉にその声が聞こえてきた方向を向く。

それはたこ焼きを焼いていた天音さんの声だ。天音さんはコツコツとこちらに歩いて、私たちの目の前にある網倉刑事が書いた、話に出てきた人の名前が書いてある紙を見る。

「……なるほど。ダイイングメッセージはこういうことなんですね。なら全てわかりました」

天音さんはそう言い放つ。凛花ちゃんも天音さんと同じようにその紙を見る。そして数秒後には言った。

「私もわかりましたよ。天音さん」

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