175.原初の血が族長を驚かせ、過去の影が心を蝕む
「シュタールさん、どういう意味?」
ライルは、わけが分からず尋ねた。
アキラは人差し指を伸ばし、壁を指した。
「見てください、ライン・ローデンを!平静すぎると思いませんか?自分は下等資質と判定され、実の弟は上等資質だった。普通なら、多少なりとも心が揺れるはずです」
映像の浮かぶ壁の前へ歩み寄った。
画面の中のラインを見上げた。
「でも、彼は?少しも動揺していません。周囲の称賛も嘲笑も、彼の心を動かさない。不思議だと思いませんか?初めから終わりまで、あまりに平静なんです」
映像が再び戻され、一同の視線が、壁に映るラインへ集まった。
ラインは人々の中に立ちながら、ひどく孤独に見えた。
影が、その体の大半を覆っていた。
対岸の光景は、それとは鮮やかな対照を成していた。
実の弟、ライル・ローデンが、一歩ずつ前へ進んでいる。
希望の精霊の白い光を、全身に浴びていた。
この瞬間、兄弟の立場は一変した。
兄は高みから転落し、人生の底に沈んで、闇の中にいる。
弟は運命に選ばれ、光に照らされ、高峰へ登ろうとしていた。
「十四歳の少年が、これほど大きな人生の変化を経験しているんです。それなのに、落胆も、迷いも、嫉妬も見えない。ただ平静なだけです。人々の中に立ち、静かに見ている。まるで、部外者として芝居を眺めているみたいに」
アキラの声が、ちょうどその光景に重なった。
そうだ。
ラインは、ただ静かに見ていた。
体の大半を影に隠し、表情は冷めていた。
顔には、少年特有の青白さがあった。
ハクは映像を見つめ、黙って考え込んでいた。
ライルは、心の底から冷たいものが湧き上がるのを感じた。
(兄さん、いったい……)
「自分の資質をあらかじめ予想していたとしても、十四歳の少年が、本当に少しも心を揺らさずにいられるでしょうか?」
アキラは振り返り、一同を見た。
「先ほど、智道の精霊、賢者一筆を使いました。その示した『資質』とは、ほかの人のことだと、ずっと思っていたんです。でも、考える方向を間違えていたのかもしれません。指していたのは、ライン自身である可能性が高い!」
「シュタールさん、いったいどういうこと?だんだん分からなくなってきたよ」
ライルはいっそう困惑した。
「ラインがあれほど平静でいられるのは、人に知られていない頼れるものがある場合だけです。嫉妬しないのも、さらに強い切り札を持っている場合だけです」
アキラは少し間を置き、続けた。
「二人で道を歩き、一人が霊石を一個拾ったとします。もう一人が嫉妬もせず、平静なままでいられるのは、自分は十個、百個と拾っている場合だけです。ラインも、まさにそれと同じです」
「ラインが不正をして、本当の資質を隠したと?実際は下等資質ではないというのか?」
ハクは、言外の意味を読み取った。
「だが、中等や上等なら、なぜ堂々と示さなかった?」
「ラインは、幼い頃から天才と呼ばれていた少年です!」
アキラの口の端が、少しずつ上がった。
自信に満ちた表情が、彼女をひときわ輝かせていた。
「ここ数日、幼い頃の詩もいくつか読みましたが、とても面白いものでした。父上さえ感嘆したほどです。詩に込められた気迫は、とても少年の作とは思えません」
指を鳴らした。
「これほどの天才が、何もせず、下等資質という運命を静かに受け入れるとは思えません。たとえ本当に下等資質だったとしても、きっと変えようとするはずです」
ハクは首を横に振った。
「それだけでは、何とも言えぬ。資質を隠すのと明かすのでは、受ける待遇がまるで違う。以前は知らなかったとしても、学堂に一年いれば、分かっているはずだ」
「ラインは当然、分かっています。だからこそ、なおさら明かせないんです」
アキラは、きっぱりと言い切った。
「それは、どういう意味だ?」
ハクも、いくらか戸惑った。
「ローデンの族長殿」
アキラは向き直り、真剣な目で彼を見た。
「人祖の九人の子をご存じですか?」
ハクは一瞬、呆気に取られた。
だが、すぐに彼女の真意を悟った。
瞳孔が大きく開き、口も開いた。
族長として普段保っている落ち着きは、跡形もなく消えていた。
ライルが、そんなハクの表情を見るのは初めてだった。
人祖には、十人の子がいた。
第十子の名もなき祖を除き、長子の天照彦命、第二子の娘である望舒ら九人には、生命の真髄を悟った人祖の血が流れていた。
九人の資質は、あまりに完璧だったがゆえに天地に憎まれ、一人として長命ではなかった。
精霊使いの伝説において、その名は九種類の最高の資質を表している。
それが――原初の血!
「伝説では、第十子の名もなき祖が二つに分かれ、そこから無数の人間が生まれました。だから、僕たち一人一人の体にも、名もなき祖、つまり人祖の血が流れているんです!」
アキラは話しながら天井へ目を向けた。
関連する記述を思い返しているようだった。
「ただ、さまざまな血脈が薄く、互いに抑え合っているため、表に出ない人もいます。生まれたときから、一つの血脈だけがとくに濃い人もいます。年齢を重ねたり、修行を続けたりするうちに、体内の血脈が次第に極端な状態へ傾き、一つがほかのすべてを抑え込む人もいます。それが表に現れたものこそ、原初の血です!」
「それで、原初の血って、いったい何なの?」
ライルが尋ねた。
「まさか、ラインに原初の血が流れているというのか?!」
ハクが、驚愕して言った。
「その可能性は、極めて高いです!原初の血だからこそ、ラインはあれほど平静でいられ、修行の資源も多くは必要としません。九割九分の上等資質さえ超える、資質十割の原初の血。それでなければ、ライルに嫉妬も羨望も抱かずにいることはできません。人前に出すことを恐れ、芽のうちに摘まれまいと、不正をしてまで隠したのも、原初の血だからこそです!」
アキラは、一気にまくし立てた。
レオンでさえ、時を遡って人生をやり直しているとは思い至らない。
少女なら、なおさらだった。
さまざまな偶然が重なり、真実とは正反対の結論へたどり着いてしまったのだ。
その言葉が終わると、ほかの者たちは呆然としていた。
アキラの推論は、確かな根拠があるように聞こえ、信じずにはいられなかった。
そうでないなら、ほかにどう説明できるというのか?
(そうだ、そうに違いない!原初の血、原初の血……望舒の血のはずだ!)
ハクの胸は高鳴り、興奮で全身が震えた。
ほかの者には、分からないだろう。
だが、一族の秘史を握る彼は、人に知られぬ秘密を数多く知っていた。
数百年前、初代先祖はここで基盤を築き、集落をローデンと名づけた。
実のところ、それ以前はローデン姓ではなかった。
もともと、何という姓だったのか?
それは謎だった。
だが、死を前にして、長く嘆息したことがあった。
「血脈、世々に伝はりて絶えず。百年の大計、ここに在り。望舒の血、天下を震慄せしむ!」
遺言を残し、いつかローデンの集落に、原初の血の一つである望舒の血を持つ精霊使いが現れると予言した。
その者は天下を驚かせ、ローデン一族を栄光へ導くという。
遺言には、もし一族に望舒の血を持つ者が現れたなら、祖霊堂の奥へ連れていくようにも記されていた。
族長であるハクは、もちろん原初の血の欠点を知っていた。
だが、遺言を詳しく調べると、初代先祖は、その欠点を克服する手段を持っていたらしい。
その手段は墓所の棺の中に遺され、先祖とともに眠っている。
もし、望舒の血を持つ天才が現れたなら、祖霊堂の奥へ連れていく。
そこには、初代族長の棺が安置されていた……
(まさか、ラインこそが望舒の血を持つ、予言の天才だったとは!)
ハクは心の中で叫んだ。
両拳を握り締め、声を漏らさぬよう、懸命にこらえていた。
「あり得ない。大勢が見ていたのに、兄さんがどうやって、みんなの目の前で不正をするんだ?」
ライルは動揺し、何度も首を横に振った。
この推論を、どうしても受け入れられなかった。
アキラは憐れみの目を向けた。
「ほかの人が不正をできるなら、なぜラインにはできないんですか?原初の血には、想像もつかない、限りない神秘があります。ラインは、儀式より前に空界を開いていたのかもしれません。愚直竹を欺けたのも、原初の血のためかもしれません。ルイス・ベルナーが殺されたのも、偶然ラインの秘密を知ってしまったからかもしれません」
「シュタール家の小娘、口には気をつけることだ」
ハクは不機嫌な顔で、低く言った。
「軽々しく言うものではない。ルイスを殺したのがラインかどうか、まだ分かっておらぬ。ラインは一族の者だ。たとえ本当に殺していたとしても、ベルナーにどう説明するかは、こちらの問題だ。お前たちは、事件を調べるだけでよい」
その態度は、瞬く間に一変した。
先ほどまで、ハクにとってラインは下等資質にすぎず、投資する価値もなかった。
ところが、望舒の血を持っているとなれば?!
初代先祖の予言と遺言が関わるなら、その価値はまるで違ってくる。
守らねばならない。
たとえベルナーを敵に回そうとも、構わない!
(しまった。このローデンの族長、あっさり手のひらを返した。何て厚かましいんだ。態度を変えるのが早すぎる!原初の血のことを、こんなに早く話すべきじゃなかった。原初の血は上等資質を超えている。どうやら、ラインを庇うつもりだ。これでは捜査の大きな妨げになる。父上、どうすればいいんですか?)
アキラは不安を覚え、歯を食いしばった。
無意識に、父の姿を探した。
「あれ、父上は?」
少女は呆気に取られた。
鉄血探偵は、つい先ほどまでここにいた。
それが、いつの間にか姿を消していた。
その事実に気づき、ハクはたちまち緊張した。
よりによって、このときに立ち去ったレオンは、どこへ向かったのか?
自然と、ラインに考えが及んだ。
「ライル、先にお前の兄を捜しに行く。お前はほかの長老たちに知らせ、ただちに集まって合流するよう伝えろ!」
そう言い残すと、ハクは精霊を働かせ、窓から一直線に飛び出した。
アキラは冷ややかに鼻を鳴らし、すぐに部屋を飛び出した。
ラインの住まいへ向かった。
広間には、ライルだけが残された。
「どうして……どうして、こんなことに?!」
様子はひどかった。
顔は真っ白で、体は今にも倒れそうに揺れ、支える背骨を抜かれてしまったかのようだった。
目に映る世界は真っ暗で、空まで崩れ落ちてくるようだった。
どうして、こんなことに?
(兄さんの資質は、原初の血だったの?僕の上等資質なんて、原初の血とは比べものにもならない。屁みたいなものじゃないか!)
考えるうちに、涙がこぼれた。
この瞬間、気力が根こそぎ抜けてしまったようだった。
ずっと、資質でラインに勝っていることこそ、最大の誇りだった。
自信は、すべてその一点の上に築かれていた。
だが今、自分の資質は兄にはるかに及ばないと、告げられた。
最も誇り、自信を持っていた部分でさえ、ラインに上回られていた。
ようやく築いた自信が、この瞬間、完全に崩れ落ちた。
「兄さん!」
顔を上げ、涙が流れるに任せた。
(初めから終わりまで、ただ芝居を見ていたのか!僕がはしゃぎ回って、道化みたいに演じるのを、ただ見ていたのか?!)
胸の内で、なすすべもなく叫んでいた。
視界の隅で、壁の映像はまだ移り変わっていた。
人影が交錯し、対岸のライルを称える声が、無数に響いている。
ただラインだけは、人々の間に立ち、静かな顔で見ていた。
ただ、静かに見ていた……
ライルは不意に、希望の光を浴びる映像の中の自分が、ひどく幼稚で、目障りに思えた。
一方、心の中では、ラインの静かな黒い瞳が、神にも似た眼差しを帯びていた。
兄の姿は次第に大きくなり、ますます高くそびえ、ついには天に届く、越えることのできない山へ変わった。
その静かな双眸が、山頂から、麓のちっぽけなライルを見下ろしていた。
その目は、こう言っているかのようだった。
(ライル、私の滑稽な弟よ。お前には無理だ。無理だ、無理だ……)
谷のこだまのように、その言葉が胸の内で繰り返し響いた。
圧迫感。
比べようもない圧迫感に押し潰され、呼吸さえ苦しくなった。
完全に振り払ったはずの感覚が、今日、戻ってきた。
しかも、以前の百倍も強く!
「ああああ!死んでしまう、死んでしまう!」
ライルの顔がひきつり、額には青筋が浮き上がった。
自らの幻想に囚われたまま、片手で喉をきつく締めつけた。
どさりと、床に膝をついた。
酸欠で顔が赤くなり、舌が突き出て、両目が次第にせり出していった。
「嫌だ!死にたくない、本当に死にたくない!!」
もう片方の手は床の石板を掻きつかみ、力を込めすぎて爪がめくれ、裂けた。
血が流れ、刺すような激痛が、猛然と生きようとする欲求を呼び覚ました。
本当に彼を打ち砕いたのは、心の致命的な傷だった。
もう立ち上がれなかった。
支えとなっていた誇りが、完全に砕かれていた。
人に合わせる顔などない。
現実にも、兄にも向き合えない。
自分は、とんだ笑いもの、痛烈な皮肉そのものになってしまったのだと感じていた。
心は、燃え尽きた灰のようだった。
だが、その灰の中には、まだ消えきらない暗赤色の火種が、点々と残っていた。
(原初の血があったって、それが何だ?兄さんは間違ったんだ。人を殺した。あんなことをするべきじゃなかった!そうだ、そうだ!人を殺せば、命で償わなきゃいけない。兄さん、あのベルナーを殺したのは、兄さんなんだろう?道を踏み外して、間違ったことをしたんだ。どれほど資質がよくたって、それが何になる?!)
ぼっ……
耳元で、かすかな音がしたようだった。
深紅の炎が、ライルの胸の内に燃え上がった。
死灰が、再び燃えた!
喉を締めていた手が、少しずつ緩んだ。
ライルは全身汗まみれのまま、まだ床に膝をついていた。
片手を床について体を支え、その指の下の石板は、血の痕にまみれていた。
汗が頬や鼻先を伝い、石板に一滴、また一滴と落ちた。
恐ろしいほど歪んだ顔が、少しずつ平静を取り戻していった。
開け放たれた戸と窓から、風が広間へ吹き込んだ。
夜の冷たい風に、身を震わせた。
「ひひひひひひ……」
ほとんど床に伏せるような姿で、ライルは笑い声を漏らした。
その声は甲高く、不気味だった。
灯火が風に揺らぎ、少年の端正な顔を照らしていた。
そこに温もりも明るさも見えず、光と影の中で、悪魔が踊っているかのようだった。




