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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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1.死?

現在、一日四回更新中です。

第1巻と第2巻のプロットはもうできているので、途中でエタることはありません!

「ライン、『逆矢(さかや)』をさっさと渡せ。そうすれば、苦しまずに殺してやる」


「ライン、もう無駄な抵抗はやめろ。聖騎士団はすでにお前を包囲している。今日こそ、俺たちがこの世から魔王を一人消してやる!」


「ライン、お前は一族の恥だ。この日が来るのを、僕は何百年も待っていた!」


「クソ外道め、『逆矢』を錬成するために、何人殺したか覚えているか? その罪、今日ここで死んで償ってもらう!」


……


ラインの真っ黒な長い髪は血で赤く染まり、黒いローブにには血の花が咲いていた。左腕はあり得ない角度で後ろに折れ曲がっている。


怒鳴り声が耳に痛いほど響き、山の麓には数え切れないほどの旗が並んでいた。

真っ赤な血が、全身にある数百もの傷口から流れ続けている。少し立っているだけで、ラインの足元にはもう大きな血溜まりができていた。


周囲は敵だらけ。もはや逃げ道など残されていない。

勝負は、もう決まっていた。

今日、ここで死ぬ。

ラインは、自分がどんな状況にいるのかよく分かっていた。死神の手が、じわじわと喉を締め上げている。


それでも、その表情は変わらない。

顔には何の感情も浮かんでいなかった。

その瞳は、波一つ立たない深い淵のようだった。どれほど覗き込もうとも、その底を窺い知ることはできない。


ラインを取り囲む、いわゆる「正道」の者たち。

数千年を生きた大物もいれば、若くして名を馳せた若き英傑もいる。


そんな者たちが今、ラインを何重にも取り囲んでいた。

怒鳴り声を上げる者。

冷たい笑みを浮かべる者。

目を細め、警戒する者。

傷口を押さえながら、恐怖の混じった目でラインを見つめる者。


だが、誰も動かなかった。

誰一人として、先に手を出そうとはしない。皆、恐れているのだ。

死を目前にしたラインの、最後の反撃を。


そのまま、三時間にわたる緊張した睨み合いが続いた。

夕日は血のように赤く、山際に広がる夕焼けは、まるで空そのものが燃えているかのようだった。


彫像のように動かなかったラインが、ゆっくりと振り返る。

その瞬間、ラインをじっと見つめていた正道たちは、そろって大きく一歩後ずさった。

その頃には、ラインの傍らにある骸骨の玉座も、すでに鮮血で真っ赤に染まっていた。

血を失い、青白くなったラインの顔を夕焼けが赤く照らす。その姿には、どこか妖艶な美しささえあった。


少しずつ西へ傾いていく夕日を眺めながら、ラインは小さく笑った。

「太陽でさえ、いつかは沈む。無常の来たることは、水火の攻むるよりも速かに、逃れがたきものを」


そう口にしたとき、不意にラインの脳裏に浮かんだのは、前世の地球で過ごした日々だった。


かつての彼は、ごく普通の日本の高校生だった。

ある偶然からこの世界へと渡り、それから四百年ものあいだ、行く先々で苦難をくぐり抜けてきた。そしてさらに百余年、世界を渡り歩いた。

五百年以上という長い歳月。


けれど今になって振り返れば、すべてがほんの一瞬のことだったように思える。

心の奥深くに埋もれていた記憶が、この瞬間になって次々と蘇ってきた。

忘れていたはずの光景までもが、まるで昨日のことのように鮮やかに目の前をよぎっていく。


「やっぱり、失敗したか」ラインは心の中でそう呟いた。


少しばかり思うところはあった。だが、後悔はしていない。

「永生という道を歩くのは……やっぱり簡単じゃないな」


外道とは、世間の決まりや常識に縛られず、誰かのために生きることもなく、ただ自分の目指すものだけに食らいついて生きる者。


そのためなら手段も選ばない。

他人が何と言おうと、自分で選んだ道を歩き続ける。


それが、ラインの生き方だった。


「もし『逆矢』が本当に効くなら……次の人生でも、外道でいるほうが面白そうだ」そう思った途端、ラインは堪えきれずに声を上げて笑った。


「クソ外道め! 何を笑ってやがる!」

「気をつけろ! 反撃してくるぞ!」

「早く『逆矢』を渡せ!」


その声を合図にしたかのように、周囲の者たちが一斉にラインへ攻撃を放った。

これまでで最も激しい、最後の総攻撃だった。


急に、一本の矢がラインの身体を貫いた。

矢は体内へ入った瞬間、二つに分かれた。


さらに二つ。


また二つ。


瞬く間に増えた無数の矢が、ラインの身体の中を駆け巡る。


肉を裂き、骨を砕き、内臓を引きちぎり――


次の瞬間、ラインの身体は無数の肉片となって四方へ飛び散った。


……

春の雨が、しとしとと降り続いていた。

音もなく大地へ染み込み、ヴェルデン山を静かに潤している。

夜はもう深い。


冷たい風が細い雨を揺らしながら、山の間を吹き抜けていった。

それでも、ヴェルデン山が闇に沈むことはなかった。


山の中腹から麓にかけて、淡い光があちこちに浮かんでいる。

遠くから眺めれば、山肌に一本の光の帯がかかっているようにも見えた。

その光は、山に建ち並ぶ家々から漏れているものだった。


ヴェルデン山は雨が多く、湿気も強い。

そのため、ここに暮らす者たちは何本もの木の杭で家を高く持ち上げ、地面から離して建てていた。

そうした家が、山には千軒以上も並んでいる。


ここは、ヴェルデン山に根を張るローデン一族の村だった。


血の繋がりがある者だけではない。

村の一員として正式に認められた者は、誰であろうとローデンの姓を名乗ることになる。


村の中央には、一際大きく立派な建物が建っていた。

今夜はそこで一族の祭祀が行われており、普段以上に多くの灯りがともされている。

雨の夜の中、建物だけがひときわ明るく輝いていた。


「どうか祖先の皆様、お力をお貸しください。今年の覚醒の儀でも、優れた素質を持つ子供たちが多く現れますように。この一族に、新たな血と希望をお与えください」


ローデン一族の族長は、見た目こそまだ中年だったが、すでに両のこめかみには白いものが混じっていた。

白一色の厳かな祭服をまとい、褐色の床に膝をついている。

額を深く床につけ、目を閉じたまま、静かに祈りを捧げていた。


その前には、全体が血のように赤い一台の卓が置かれている。

卓の上にあるのは、内側の見えない一つの珠だった。

珠は時折、脈打つように赤い光を放っている。


族長の後ろにも、十数人の者たちが膝をついていた。

全員がゆったりとした白い祭服を身につけている。

彼らは一族の長老たちで、それぞれが村の重要な役目を任されている者ばかりだった。


堂内には、物音ひとつ聞こえない。


しばらくして。

族長が何かを聞き取ったかのように、ふと顔を上げた。

そして最初に立ち上がると、祭祀の終了を告げた。


長老たちも静かに立ち上がり、厳かな祖霊堂(それいどう)をあとにする。


廊下まで出たところで、何人かの長老がようやく小さく息を吐いた。

張りつめていた空気も、少しだけ和らぐ。


「明日は年に一度の覚醒の儀(アウェイクニング)だな。今年十四歳になる子供は全員参加する。今年はどんな若者が出てくることやら」

「まったくだ。今年こそ、上等資質を持つ子が現れてほしいものだ。ローデン一族からは、もう三年もそのレベルの天才が出ていない」

「ベル一族もロア一族も、ここ数年は次々と優秀な若者を出しているからな。特にベル一族のシオン……あの子の才能は恐ろしいほどだ」


誰がその名を口にしたのか。


シオンという名前が出た途端、長老たちの表情にわずかな陰りが差した。


わずか二年。

シオンはすでに三環精霊使い(エレメンタラー)にまで達している。

同世代の中では、完全に頭ひとつ抜けた存在だった。

それどころか、このまま成長を続ければ、いずれ長老たちに追いつくのではないか。


「だが、今年の覚醒の儀に参加する子供たちにも、期待できる者がいないわけではない」

「もしかして、あの子のことか? 三か月で言葉を話し、四か月で歩き始め、四歳の頃にはもう詩まで作っていたという……神童と呼ばれている子供」

「ああ。ラインだ。今年で十四歳になる」

「惜しいのは、あの子の両親が早くに亡くなったことだな。二人とも二環精霊使いだったというのに」


「その後は、母方の叔父夫婦に育てられたんだったな。あの二人も、ラインのことはずいぶん可愛がっているらしい」


ローデン一族の族長は、最後に祖霊堂を出た。

ゆっくりと扉を閉めると、廊下の向こうから長老たちの話し声が聞こえてくる。

その内容を耳にした瞬間、彼らがラインという少年について話しているのだとすぐに分かった。


一族を預かる者として、優れた才能を持つ子供たちには自然と目を配っている。

その中でもラインは、同世代の子供たちの中で特に目立つ存在だった。


古くから、一族にはこんな言い伝えがある。

幼い頃から年齢に似合わぬ知恵を見せる者。大人顔負けの力を持つ者。そうした普通とは違う才を見せる子供は、精霊使いとしても優れた資質を持つことが多い、と。


(もしラインが上等資質なら、しっかり育てればシオンにも対抗できるかもしれない。中等資質だったとしても、いずれ一人で一族の一角を支えられるほどにはなるだろう)


だが、族長には中等資質とはどうにも思えなかった。

あの少年が幼い頃から見せてきた才は、あまりにも普通から外れている。

上等資質である可能性は、かなり高い。

そう考えると、族長の口元には自然と小さな笑みが浮かんだ。

やがて彼は軽く咳払いをすると、長老たちへ声をかけた。


「皆、もう遅い。明日は覚醒の儀だ。今夜はしっかり休んで、万全の状態で臨んでくれ」

その言葉を聞いた長老たちは、一瞬だけ動きを止めた。


そして互いに顔を見合わせる。


その視線には、わずかな警戒が混じっていた。


族長の言葉は遠回しだったが、何を言いたいのか分からない者はいない。

毎年、才能ある若者を自分の側へ引き入れるため、長老たちは激しく争う。

時には顔を真っ赤にして言い争うほどだった。


確かに今夜は、しっかり休んでおいたほうがいい。

明日になれば、またひと勝負あるのだから。


特に今年はラインがいる。

上等資質である可能性が高いうえ、両親もすでに亡くなっている。

もし自分の派閥へ迎え入れ、時間をかけて育てることができれば、それだけで今後何十年、場合によっては百年先まで、自分たちの力を保つ助けになる。


「ただし、先に言っておく」族長の声が少し低くなった。

「争うのは構わない。だが、正々堂々とやれ。裏で妙な手を使って、一族の仲を壊すような真似だけはするな。皆、よく覚えておいてくれ」


「もちろんです」

「肝に銘じておきます」

「では、我々はこれで。族長もどうぞお休みください」


それぞれ思うところを抱えたまま、長老たちは一人、また一人と去っていった。

やがて、長い廊下には静けさが戻った。


開いた窓から、春雨を含んだ風が吹き込んでくる。

族長はゆっくりと窓辺まで歩いた。

湿り気を帯びた山の空気が流れ込み、肺の奥まで冷たく澄んでいく。


ここは建物の三階だった。


窓から外を見渡せば、ヴェルデン山に広がるローデンの村の大半を見下ろすことができる。

すでに夜も深いというのに、今夜はまだ多くの家に明かりが灯っていた。


普段なら、とっくに暗くなっている時間だ。

明日は年に一度の覚醒の儀。

子供を持つ家にとっても、一族全体にとっても、大きな意味を持つ一日だった。

期待と緊張が村中に広がり、眠れずにいる者も多いのだろう。


「これが、一族の未来か……」

窓の外に散らばる無数の灯りを目に映しながら、族長は静かに息を吐いた。


そしてその頃。


別の場所でも、一対の瞳が、夜の中に浮かぶ無数の灯りを静かに見つめていた。

その目には、言葉では言い表せない複雑な色が浮かんでいる。


「ヴェルデン山……五百年前だと? 『逆矢』は、本当に成功したのか……」

ラインは窓辺に立っていた。

風と雨が体に吹きつけても、気にする様子はない。


傍らに置かれた鏡へ目を向ける。


鏡の中には、仕立ての良い白いローブを身につけた少年が立っていた。

黒い長髪は無造作に肩へ流れている。

顔立ちはまだ幼い。


だが、その瞳の奥だけは、少年のものとは思えないほど暗く、深かった。


『逆矢』は、ほかの精霊とはまるで違う。

戦いには一切使えない。

その力はただ一つ。

時間という名の矢、その向きを逆へと変えること。


簡単に言えば、過去へ戻り、人生をもう一度やり直すための精霊だった。


「『逆矢』を使って……本当に戻ってきた。五百年前に!」


ラインは片手を持ち上げた。

若く、まだ幼さの残る、少し青白い手のひら。

じっと見つめたあと、ゆっくりと指を握り込む。

強く拳を作りながら、その感触を確かめた。


間違いなく、本物だった。


耳元では、細い雨が窓を叩く音が静かに続いている。

ラインはゆっくりと目を閉じた。

しばらくそのままでいたあと、再び目を開く。


そして、小さく息を吐いた。

「五百年か……まるで夢だったみたいだな」


だが、ラインには分かっていた。

これは夢などではない。

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