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プロローグ

「あなたは、お金と貧しさ――どちらか一つを選ばなければならないとしたら、何を選びますか?」


暗闇の奥から、不意にそんな声が響いた。


それは問いかけというより、まるで最初から答えを知っている者が投げかける確認のようだった。


男は一瞬きょとんとしたが、すぐに鼻で笑った。


「そんなの決まってるだろ。金だよ。わざわざ貧乏を選ぶような馬鹿がいるか?」


「では、あなたに百億ウォンを差し上げましょう。」


男の目が大きく見開かれる。


「……本当に? 冗談じゃないんですか?」


「もちろん、本当です。」


その声は静かだった。


静かすぎるほどに。


「その代わり、あなたに残された時間は二年です。」


男の笑みが凍りついた。


「二年……?」


「ええ。百億ウォンを受け取る代わりに、あなたは二年以内に死にます。」


しばらく沈黙が流れる。


相手はその沈黙を楽しむように、淡々と言葉を続けた。


「もし百億では足りないというのなら、一兆ウォンでも構いません。ただし、その場合に残される時間は一年です。」


男の顔から血の気が引いた。


「ま、待ってくれ……。じゃあ、貧しさを選んだら?」


相手はすぐには答えなかった。


ゆっくりと夜空を見上げ、一本ずつ指を折っていく。


五本すべてを折り終えると、今度は静かに指を開き、男へ視線を戻した。


「百歳まで生きられます。」


「百歳……。」


男は言葉を失った。


百年もの長い人生を貧しいまま生きるのか。


それとも、たった二年――あるいは一年だけ、誰もが羨むほど豊かに生きるのか。


どちらも簡単には選べなかった。


その様子を見つめていた相手の表情から、笑みがふっと消える。


「何をそんなに迷うんです?」


冷え切った声だった。


「今だって貧乏じゃありませんか。なら、百億ウォンを受け取ればいい。」


「ま、待ってください! まだ決めてません!」


男は慌てて叫ぶ。


しかし相手は面倒くさそうにため息をついた。


「金ですか。それとも貧しさですか。」


わずかな沈黙。


「早く答えなさい。でなければ、今この場であなたを連れて行きます。」


男はごくりと唾を飲み込んだ。


「もし貧しさを選んでも……努力して成功したらどうなる?」


その言葉を聞いた相手は、小さく笑った。


「努力?」


笑みには嘲りが混じっていた。


「運も成功も、私が与えるものです。」


一歩、男へ近づく。


「あなたは一生、貧しいままでいてもらいます。」


男は目を閉じた。


借金に追われる日々。


飢えに耐え、ゴミ箱を漁るような人生。


そんな未来を思い浮かべるだけで息が詰まる。


やがて男は静かに顔を上げた。


「……百億ウォンをください。」


「承知しました。」


相手は満足そうに微笑む。


「では――さようなら。」



男は望みどおり百億ウォンを手に入れた。


しかし二年どころか、半年も経たないうちに事故で命を落とした。


残された時間を好きなだけ楽しもうと焦った結果だった。


死は、約束の日まで待ってはくれない。


闇の中で、その存在は男の亡骸を見下ろし、小さく肩をすくめる。


「愚かな人間だ。」


呆れたような声が静かに響く。


「私は二年の命を与えると言っただけだ。二年間、生きられると保証した覚えはない。」


しばらく男を見つめたあと、彼はゆっくりと首を振った。


「『普通に生きたい』と願うだけでも、その願いくらいは叶えてやったものを。」


その口元には、やがて皮肉めいた笑みが浮かぶ。


「私が『貧しく生きろ』と言ったからといって、本当に何の努力もせず、

その運命を受け入れるつもりだったのか。」


深い霧が、再び彼の姿を包み込む。


「さて……次は誰の番だろう。」


欲深い人間は、尽きることがない。


今夜もまた彼は、誰かの夢の中へと静かに姿を現すのだった。


夢から覚めた者は、その選択を覚えていない。けれど、人生だけは確かに変わっている


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