約束したアレ 前編
浮気騒動も飛鳥さんの活躍で速やかに収束し、それからしばらく時間が経った。
凹んでいた護君も柊和の丁寧(意味深)なフォローによって次第に立ち直したり、気絶した雲ちゃんを柊和が介抱したり、それから飛鳥さんが護君だけじゃ不平等だからと柊和にも迫ったり──
『ははっ! ほれ、柊和も平等にだぁ! ちゅ~っ!』
『ぅぎゃああああああああ!』
──しかも柊和までぐったりした後は、何故かその場の全員に対し、矛先が向けられて……。
『今日のアタシは気分がいいんだよなぁ! 特別に皆サービスしてあげる!』
『『『えっ……?』』』
雲ちゃんに……。
『あ、あの……? あたしはもう柊和先輩にしてもらったので十分というか……!』
『遠慮しなくていいって! 減るもんじゃないし!』
『それ自分から言うことあるんですか!?』
詩葉先輩……。
『さっきのは一応、家族のキスだったのでは……? なら私にまでしてもらう理由は……』
『したいから!』
『み、未成年淫行に……! うわぁぁ(以下省略)』
そしてもちろん私も例外ではなく、頬に熱烈なキスをもらった。
『それじゃ最後は……』
『ば、ばっちこいです!』
『あはっ、やっぱ美咲ノリいいなぁ~! それならちゃんとかわいがっちゃる!』
『きゃあ~♡』
……飛鳥さんは、今まで感じたことのない包容力があったし、凄くいい香りがした。
ちょっと強引だけど頼りがいがあって、夏を感じる爽やかな……そういう元気印みたいなの、前までは私だけの領分だった気がしなくもないんだけどな。
そうして他にも柊和や護君が検査やリハビリに移動したり、飛鳥さんがまた話をしに行ったりと色々ありつつ、もはやいつも通りかのように院内で時間を過ごしていたら、いつの間にか学校が放課後を迎えるくらいの時間になっていた。
そしてやがて、病室の扉が再びノックされる。
やってきたのは予想通り、杏奈に千歳、それから相沢。
「こんにちは~……あっ! 本当に護君目を覚ましてるよ~!」
「よかった……柊和に続いて急に倒れるから、生きた心地がしなかったわよ」
「本当に……それに体もボロボロだったし、凄く心配したんだよ?」
「皆さんも、そんなに心配をおかけしてしまって、本当に申し訳ないです」
入ってきてすぐ護君を見つけて、三人もすぐに思い思いの言葉をかけ始める。
そんな三人に護君はまた真剣な態度で向き合った。
「ううん~。結果的に二人とも目を覚ましてくれてよかったよ~」
「終わりよければ全て……とまではいかないけど、この終わり方ならまだ取り返しはいくらでもつくもの。本当によかった」
「うん……でも、もしまた次に何かあったら、今度は私たちにも相談してね。また何もできないままなのは嫌だから」
今回のこと、あまり関われなかったことを後悔していた三人は、護君と柊和に寄り添うような言葉を掛けていた。生徒会の皆だけでなく、自分を心配してくれた人がいることをまた思い知って、護君はどこか嬉しそうな、でもやっぱり申し訳なさそうな……そんな複雑な表情を浮かべた。
……そして意外なことに、病室にはその三人に紛れるようにしてもう一人だけ新顔がいた。
酷く申し訳なさそうに落ち込んだ様子の巴が、どこかちっちゃくなりながら居心地悪そうにしていたのだ。
「護……」
「巴先輩、お久しぶりです」
「うん、その──」
「あの時は、すみませんでした。面倒事全部押し付けて、一人だけ消えてしまって……その後は、どうでしたか?」
「護が謝ることは……! あ、いや……あの後は、問題なく片付いたよ。護がお膳立てしてくれてたから、警察が来ても流れるようにアイツらだけ捕まって……聞いた話だと、リオ以外はしばらく外に出てこられないようになるって」
「そうですか……良かったとは、言えないですよね」
「いや……護が助けてくれなかったら、きっとアイツはずっと私を付け狙ってたと思う。そして、きっともっと酷い目にも……だから、ありがとう」
護君の怪我に関しては、巴はモロに当事者だった。
だからこそ、先の三人とはまた違った後悔を滲ませた表情だったし……そしてそれは、感謝を告げる時でも決して変わらないままだった。
「でもそれよりも……ごめんなさい」
「巴先輩……」
「私の面倒ごとに巻き込んだせいで、そんなボロボロになって……アイツら、信じられないくらい馬鹿だから手加減とか全然できなくて、あんな全力で頭とか殴るし……っ。でも、それも全部私のせいで……!」
「違いますよ」
遮るみたいに、護君は否定を被せた。
バッサリと切り捨てられた巴は一瞬呆気に取られて、けれどすぐに納得のいかない表情になる。
「あれ、もう知ってるかもしれませんけど、全部わざと受けてたんです。やり返しても正当防衛になるようにっていう事情は確かにありましたけど……本当は、無傷でどうにかやり過ごす方法なら、手段を選ばなければいくらかあったんです。あの程度の連中、一方的に下すくらいなんでもなかったけど……ただ、あの時は自暴自棄みたいになってて、丁度良いと思って、好きなようにさせたんです。ただ、ほんの少し、疲れてたから」




