目には目を 中編
「飛鳥さん! どうしてこんな遅れて!」
「あ、違うんです美咲さん。飛鳥さんは……」
「アタシ、三人より一足先に護ともとっくに再会してたよ? ただお医者の先生と少し話さないとで、一旦席外してたんだって」
遅れてやってきたヒーローに、理由を問いただす。
私たちより到着が遅かったのはどうしてだろうと思っていたけど、既に再会は果たして、改めてこれからの話をしに行っていたとのこと。
そう軽快に事情を語りながら、飛鳥さんはニカッと嬉しそうな笑みを浮かべて見せた。
「アタシは保護者だから当然として、三人はまーた不登校かましてこっち駆け付けてきたな~? 本当は良くないかもだけど、二人の保護者からすれば嬉しいばっかだわ~! ありがと!」
柊和が倒れた時から、力強く笑みを浮かべてくれていた飛鳥さんだけれど、今の笑顔を見るとそれも全ては私たちを励ますために無理に浮かべたものだったのだとわかってしまって、なんだか泣きそうになってきた。
──っていや、今はそれどころではなくて……!
「って、それにしても……なーんかおかしい空気だな? 折角の再会のシーンじゃなかったん?」
「あ……!」
幸いにも、飛鳥さんは病室の中の有様を見て違和感に気付いてくれた。
柊和にベッタリの雲ちゃんに、それをいつも以上に甘やかす柊和、そして余裕のない私と護君……ついでに、何処にも属せなくてしょんぼりしている詩葉先輩。
まぁ、この様子を見れば、違和感を覚えない方がおかしいだろう。
「そ、その、護君との再会だけならもう済んでて、今は切り替えた後なんですけど──」
「ふむん……?」
それから私と護君で何があったか説明する。
ありのままの事実だけ伝えたので、柊和も大人しく私たちに説明を任せて黙っていた。
そして、あらかたの事情を理解した飛鳥さんは楽しそうにイタズラな笑みを浮かべて見せた。
「ックク……なるほどなぁ? 護は相変わらず柊和を妬かせるのが上手いみたいだなぁ? 色々あって成長してると思ったんだけどなぁ」
「うっ……言い返したくても言葉がない……」
「でも、柊和も悪い女だ。自覚がないから良いってわけじゃないし……むしろ無自覚な奴ほど性質が悪いんだよなぁ~?」
意味ありげに護君の方を見ながらそういう飛鳥さんに、やっぱり護君はよくわかってないような表情を浮かべていた。
それを見て肩を竦めた飛鳥さんはため息を一つ吐くと、すぐに切り替えて私と護君に笑いかける。
そして、柊和たちに背を向けて私と護君の肩を抱き込んで小さな声で作戦会議を始めた。
「ふっふ~ん……ここは任せなさいって! アタシにいい考えがありますとも!」
「ほ、本当ですか……⁉」
おそらく、今の私の飛鳥さんを見る目はキラキラと輝いているだろう。
か、カッコイイ……!
こんなに頼りがいのあるお姉さんに対して『だらしない人』なんて言う柊和と護君が信じられないくらいだ……!
「……こう見えても、あの姉さんを相手取って手玉に取ることが稀にありますから、多分信じられると思います」
「言い草ぁ!」
いつも温厚で優しいのに、やはり明らかに他の人と比べて棘のある口ぶりな護君。
こう見えてとは言うけれど、私には最初から頼りになりそうにしか見えていない。
「人一倍賢くて利口な姉さんも、真面目なところが飛鳥さんと相性が悪いみたいで、飛鳥さんの破天荒な行動を読み切れないんだと思います」
「なるほど? 言われてみれば確かに……」
詩葉先輩相手にたじたじな柊和も、まさにそんな感じだ。
自分の常識に当てはまらず、その相手が色んな意味で規格外だと流石の柊和もカバーできないらしい。
規格外というのは、例えば詩葉先輩なら柊和に負けず劣らずの頭脳と、柊和を上回る狡猾さ。
飛鳥さんの場合は……純粋なパワーとタフネス、そして無尽蔵かつ誰よりも前のめりな行動力だろう。
「いいか~? この策には護の協力がいる。アタシを信じてされるがままでいてくれるなら、この状況、アタシが全部綺麗に解決してやろう!」
「……わかったよ。ここは飛鳥さんを信じて頼むから」
少し不安そうにしながらも、自分達だけではジリ貧だと理解している護君は全てを飛鳥さんに委ねた。
「ふふ……ま、こればっかりは美咲にはちょいと荷が重いと思うし……それに、アタシも柊和に負けず劣らず反動ってものがあるし、これを機に発散させてもらお……!」
「「???」」
少々不穏なことを呟いたような気がするけど、その声が何と言っているのかは聞き取れなかった。
大事な時だけ突発性難聴になる疑いがある護君はともかく、私の耳にも届かなかったくらいには小さな声だった。
「よしっ、じゃあ早速はじめるか! 護とアタシは護のベッドに! 美咲はそこで華麗に柊和を打ち負かすアタシを見てな!」
「はいっ! やっちゃってくださいっ!」
「応っ! それじゃ──」
宣言通り護君を引っ張ってベッドに腰かけた飛鳥さん。
雲ちゃんの頭を撫でながら、柊和はそんな飛鳥さんに警戒の目を向ける。
そして、遂に飛鳥さんは動いて──。
「──護、寂しかったぞ~‼ 護まで倒れて流石のアタシも寂しくて死んじゃいそうだったんだからな~‼」
「なっ──!」
猛烈に、それこそほっぺた同士をくっつける勢いで護君にひっついた飛鳥さんは、くっついた頬をぐりぐりと擦りながら護君に甘えた声を投げかける。
私と護君ですら呆気に取られて、そして何もかもが急だった柊和はそれ以上に目を剥いて飛鳥さんと護君を眺めていた。
「な、急に何を……!」
「いーから……大人しくアタシのされるがままにしてなって……な?」
「……わかったよ」
小声で囁き合うと、護君は諦めたように渋々と抵抗を止めた。
囁いた内容が聞き取れない柊和には、それすらも二人がいちゃついているように見えたことだろう。
「いやぁ~柊和は今、他所の女の子に夢中で護のことは眼中にないらしーし……この上ないタイミングで滅多にない絶好の機会だわ~」
「……っ⁉」
にやにやと、悪い笑みで柊和を横目に見ながら挑発するような物言いをする飛鳥さん。
それを受けた柊和は「やられた」と悔しそうに歯を食いしばって──。
「なぁ護ぅ……アタシと、浮気しよーぜ?」




