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悪役令嬢になったので、反省して救国の勇者を目指そうと思います!  作者: プラム・ベル
序章:わたくし、勇者を目指してみようと思います
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3.わたくしもアレは苦手ですわね。

 これまで彼女はどのような鍛錬でも、睡眠時間を削るような過酷なスケジュールだろうと(一般的な睡眠時間を存じ上げず申し訳ないことをいたしました)、元気な笑顔でやり遂げていました。わたくしは不満や愚痴など、一切聞いたことがありません。


「わたし、勇者の才能があるって言われて、浮かれてたんだと思います。剣術も魔術も、どんどん上達していくのが楽しくて……ただそれだけで、その先にあるものなんて、何もわかってなかった。勇者になったら魔物と戦わなきゃいけないんだって……そんな当たり前のこと、今さら気づいたんです」


 ミラベル様の瞳が潤みますが、彼女は何度も言葉をとぎらせ、その度に深呼吸を繰り返し、泣き出すのを堪えている様子でした。


「ば、ばかですよね。だけど、魔物って凶暴だし、騎士様だって命を落とす方もいるのに、私なんかが戦えるのかって、いろんなことを考えれば考えるほど、怖くなってしまって……。そりゃ魔物にも弱かったり、可愛いのもいるけど、ぐちょぐちょで気持ち悪いのもいっぱいで……。と、特に虫っぽいのが……おっきくて黒くてカサカサ動いて……あんなのと戦うの、絶対無理…っ」


 魔物と戦う姿を想像したのか、ミラベル様は真っ青になって首を振ります。まあ、わたくしもアレは苦手ですわね。


 魔物については学院の授業で習いますが、王都で暮らしている分には遭遇することはほとんどありません。アッカーマン家は王都に本店を持つ大商会ですので、ミラベル様もきっとずっと王都育ちで魔物とは無縁の生活をされていたのでしょう。


「こんな大事になって申し訳ありません。アレクサンドラ様には本当によくしていただいて、成績も上がったのに、恩知らずと言われても仕方ありません。だ、だけど……わたし、どうして武者修行にでなきゃいけないのかなって」

「それは、あなたに勇者の才能が」

「――わたし、勇者になりたいわけじゃないんです!」


 勇気を振り絞った様子の告白に、わたくしは息を呑みました。


「い、いまさら、こんなこと言い出してすみません。アレクサンドラ様には感謝しています。下位貴族で成績もぱっとしないわたしにお声を掛けていただいて、才能があると言っていただいて、とても嬉しかったんです。で、でも、わたし学院を卒業したら結婚が決まっていますし、勇者になれと言われても困っちゃうというか……」

「けっこん」


 ヴィルヘルム様が愕然とした表情になりました。クリストフ様とエアハルト様が何かを悟ったように優しく肩を叩いています。


「それは……おめでとうございます。もしかして、お相手は幼なじみの伯爵家の方かしら」

「え、どうしてご存じなのですか?」

「いえ、お友だちから、ちょっと……」


 不思議そうに問いかけられましたが、わたくしは扇子で口元を隠し、ほほほと笑って誤魔化しました。


「伯爵家にお嫁入りされるから、礼儀作法や社交を頑張っていらしたのね」

「は、はい! グレブの奥さんになって、将来伯爵夫人となった時に恥ずかしくないように。この学院に入ったのも、上流貴族の方々の作法を学びたいと思ったからで――、あと、その……うちの商会のリサーチもできたらいいな、なんて下心もあって……」


 ……ノーマルエンドでしたかーーーーーー!


 ゲームで誰とも親密な関係になっていない場合、ヒロインは幼なじみと結婚するノーマルエンドを迎えます。成績が優秀であれば、卒業後の職業は女官長や魔道士長などに就く場合もありますが、彼女の場合は普通にお嫁入り志望のようですわね。


 もしかすると、これで当然なのでしょうか。ノーマルということは、通常の状態だということ。ゲームのように意図的な操作が行われないのならば、自然と彼女は幼なじみとの平穏な幸せを選ぶということでは――?


「で、ですが……」


 ミラベル様が勇者にならなければ世界が。いえ、他に手段がないことはありませんが、確かノーマルエンドの場合は勇者にならないと最良でも王都半壊コースだったような……。


 どうしましょう。滅亡の救済なんて、あまりに重いプレッシャーです。ミラベル様の細い肩に背負わせるのがお気の毒で詳しいことはお話ししていなかったのですが、いっそ打ち明けてしまった方がいいのでしょうか。

 でも、信じていただけるでしょうか。わたくし自身、いまだに夢の世界の話なのではないかと思うことすらあるのです。


 この世界にはない知識を得たことから本当だと認識はしておりますが、それとて正確なものではありません。例えばあちらの世界は魔術の代わりに電気というものが発達していましたが、その電気の具体的な利用方法がわかりません。


 電話、自動車、飛行機……あちらにあるさまざまな機械をこちらでも使えたらさぞ便利だと思うのに、どうも前世のわたくしは勉強嫌いだったようで、形やどういう性能かなどはわかっても、その性能を生み出すための仕組みを覚えていないのです。


 そもそも、こちらの世界にとっての未来の出来事があちらの世界でゲームになっていること自体不思議です。わたくしが転生したこととあわせて、何かの意図が働いているのか……。


 でも、意図があるとしても、何故“わたくし”なのでしょう。向こうの世界のわたくしは、特に地位もなく特殊能力もない平凡な一般人でした。こちらの世界のわたくしは、地位も能力もそれなりにあると自負してはおりますが、ゲームではあくまでヒロインのライバルで、ストーリーを動かすような立ち位置ではありません。それなのに――。

ヴィルヘルム様、失恋

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