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悪役令嬢になったので、反省して救国の勇者を目指そうと思います!  作者: プラム・ベル
序章:わたくし、勇者を目指してみようと思います
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4.なぜそうなる!?

「アレクサンドラ様?」


 ミラベル様の声にわたくしははっと我に返りました。わたくしが物思いに沈んでいたのをどう解釈したのか、彼女はますます申し訳なさそうに縮こまっています。


「勇者になれば、たくさんの方のお役に立てるのだと思います。もしかしたら、わたしにはその才能があるのかも知れません。才があるならば伸ばすべきだと考えられるのもわかります。その期待に応えられれば、どんなによかったでしょう。でも、わたしにはそんなお役目、怖いばかりで……。魔物と戦うなんて、考えただけで震えが止まらないんです」

「ご令嬢であれば、それが普通でしょう」


 エアハルト様が慰めるように声を掛けますが、ミラベル様は首を振ります。


「アレクサンドラ様はご立派です。わたしのことなんかまで気に掛けてくださるのに、同時に広い視野をお持ちで国や世界のことまで考えていらして。でも、わたしは自分のことしか考えられない。お父さんやお母さん、グレブやご両親たちと仲良く暮らせたらいいなって、そんな身近な幸せのことしか考えられない、小さな人間なんです。わたしは勇者に相応しくない。…………勇者なんて、無理です……」


 我慢していた涙が、とうとうミラベル様の頬を滑り落ちます。ごめんなさい、と細い肩を震わせ、何度も謝る姿は痛々しく、わたくしは自分がこれほどまでにミラベル様を追い詰めていたのだと思い知りました。


 言い訳をするようですが、わたくしは勇者になれと言った覚えはありません。ただ、彼女には勇者の才能があることを告げて、共に励もうとお誘いしたのです。

 ……いえ、やはり言い訳ですわね。先ほどクリストフ様が言っていたように、高位貴族であるわたくしの申し出に、ミラベル様が逆らえるわけがないのですもの。


 それをいいことに、わたくしは勇者になれと押しつけ、過酷なスケジュールを課していたのです。

 なんという酷い所業でしょう。


 ゲームではライバルであったのに、わたくしは現実では悪役令嬢となってしまっていたのです。


 それでいてわたくしは“よいこと”をしているつもりだったのですから、恥ずかしくて仕方ありません。向こうの慣用句、穴があったら入りたいとは、こういうことを言うのでしょう。

 これ以上本人が望まない未来を押しつけるわけには参りません。たとえこの国の存亡がかかっていようと、どれほどの才能がミラベル様にあろうとも。


 ……向こうの世界やゲームについて彼女に打ち明けなかったことは、結果的に大正解でしたわね。わたくしは扇の陰でこっそりと安堵の息を吐きました。

 才能と資質はまた別の問題でありましょう。ミラベル様はお優しくて戦闘には向かない性格のようです。無理に戦えば、プレッシャーで壊れてしまうかもしれません。


 わたくしはミラベル様の前に立ち、涙に濡れた頬をハンカチでそっと拭いました。


「申し訳ありません、ミラベル様。わたくしの心得違いでございました。ミラベル様の未来はミラベル様のもの、わたくしが勝手に決めつけていいものではありませんでしたのに。ミラベル様の輝くような才能に目が眩んで、強引に修行させようとしたこと、どうか許してくださいね」

「いいえっ、わたしが不甲斐ないばかりに……」

「そうではありませんわ。ミラベル様にはもう心に決めた方がいて、その方と共に歩む未来を描いていらしたのに、わたくしがその上から余計な絵を付け足そうとしてしまったのです。悪いのはわたくしです」

「アレクサンドラ様……っ」


 ミラベル様がわたくしに抱きついて、激しく泣き出します。上流貴族ならば、人前でこのように感情を出してはいけませんよ……なんて、淑女教育はまた今度にいたしましょう。わたくしは彼女が落ち着くまで、ふわふわと柔らかなストロベリーブロンドを撫でていました。


 ヴィルヘルム様がどこか羨ましそうにわたくしを見ているのは気のせいでしょうか。

 その横で、クリストフ様が安心したような笑みを浮かべました。


「よかった、いつものアレクサンドラに戻ったな! お前が男爵令嬢に無茶なしごきを課していると聞いたときは驚いたぞ」

「お騒がせいたしまして申し訳ございません」

「いや、アッカーマン嬢にこれ以上無理をさせないというのならそれでよいのだ」

「令嬢を武者修行に行かせるなど無茶にもほどがあると思いましたが、思い直されたようで何よりです」


 エアハルト様も怒りの矛先を収めてくださったのか、怜悧な表情が笑顔になりました。ヴィルヘルム様は何故か少しばつの悪い顔をしています。


「あら、武者修行には参りますわよ」


 びくっと、わたくしの腕の中でミラベル様が震えたので、怯えを溶かすように背中を軽く叩きます。


「大丈夫ですわ、武者修行に行くのはわたくし。ミラベル様ではございません」

「なに!?」

「それはどういう――?」


 ミラベル様がわたくしから離れ、泣き濡れた顔を上げます。彼女の後ろには、驚きに目を丸くした殿方たち。わたくしは皆さまに向かってにっこりと笑いかけました。


「わたくし、勇者を目指してみようと思います」

「――なぜそうなる!?」


 夕暮れの生徒会室に、クリストフ様の声が響き渡りました。

こちらでプロローグ終了です。

次話は明日投稿します。

楽しんでいただけますように。

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