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9.第一章[彼女の闘い]



俺は携帯ゲームをしながら霧島さんが帰ってくるのを待つ事にした。


最近は色々なゲームが出ているが、今ハマっているのはクイズ形式のRPGだ。

なかなか強いカードが手に入らないから先に進めず、同じステージを何度も繰り返している。

その為、少し飽きてきて集中力も無くなっていた。

まだ帰ってこないよなーと思いながら霧島さんが向かった方向を見てみる。


すると遠くで男性と話している姿が見えた。

遠いのでもちろん何を言っているかは分からないが、どうやら警察手帳を見せているようだ。

という事は素性を明かしても問題ない人だって事か、と一安心してゲームに戻った。

すると…………なんとランクSSのカードをゲット出来た!

ついつい「よし!」と声に出してしまった。

霧島さんと自分の身に、危険が迫っている事も知らずに。



(2分後)

幸成さんは犯人に気付いていない!

早く知らせないと、、

まずは目の前の大男か、あの犯人かどちらを優先するか考えなければ……

ただ、時間はない、決断は一瞬でしなければならない。


正面の男は距離も十分にあるし私を襲うかわからない。

それに比べあの犯人は確実に幸成さんに気付いている、そしてまた襲うに違いない。

私の使命は高柳さんを守ることだ、考えるまでもない。


そう一瞬で判断し、振り向き幸成さんの待つベンチに向かおうと走り出した瞬間。

後ろからまわりの空気が重くなるような圧迫感を感じた。


身体が勝手に反応し、次の瞬間には刀を抜き振り返っていた。

すると先程まで40mは離れていたはずの大男が、10mの所まで一瞬で近づいて来ていた。


大男は一直線に私に向かってくる。

狙いは分からないがやるしかない。

気合いを入れ、刀をいつもの中段に構える。


男は躊躇なく右手の刀を振り下ろす。

風切り音は甲高く鋭い、ただの力任せではない。

うち下ろしの瞬間もブレることなく振り下ろされている。

鋭さと力強さがあり、まともに受け止めたら私の刀が折られるかもしれない。

その為、右に躱しながら刀で受け流し、透かさず右斜め上からの袈裟斬りを放つ。

【袈裟斬りとは斜め上から斜め下へ降り下ろして斬ることを言う。左右は問わず、斜め下から斜め上へは逆袈裟と言います】


男の左肩を掠めたが致命傷にはならなかった。

男は警戒したのか一歩大きく飛び退いた。

「あぶないあぶない。きみー、女のくせに強いんだ」と大男は話しかけてきた。


会話している暇はない、こうしている間にも後ろでは幸成さんが襲われているかもしれない。

早めに終わらせる。


鷹柳流(たかやなぎりゅう)剣術一ノ形雨水(いちのかたうすい)

刀を中段から無行の位(むぎょうのくらい)にし、脱力する。

【無行の位とは刀を持ったまま立ち尽くした格好の事を指し、一見は無防備に見える構えのこと】

すると相手は間合いを掴めず探りながら近づいてくる。

その瞬間に、左右に不規則に素早く動き、相手を一瞬自分の狙いを定める事に集中させ、そして一気に間合いを詰め連続の突きを浴びせる技だ。

いつまでも左右の動きばかりしていると狙いを定められる危険もあり、また意識が狙いを定める事だけではなくなる為、左右の動きはほんの一瞬で良い、相手の思考が斬ることから見ることに変わった瞬間に踏み込む。


私は突きはあまり好きではない。

当たり所によっては相手を即、死に至らしめる可能性があり、避けられた時の隙も大きいからだ。

ただ、一瞬で決着をつけたい時や、身体が大きい相手の急所を狙うとき、そして屋内での斬り合いには重宝する。

師範の教えでは、突きを打つときは迷いを消すように言われてきた。

迷った心では突きも歪み、本来の力が出せないからだ。


「よし」

気合いを入れ直し無行の位に構える。


「ん?……降参のつもりか?……止めるつもりはないから無駄けどな」と喋りながら間合いを詰めてきた。

相手が間合いに入りかける寸前に技を繰り出した。

思惑通り相手は一瞬身体が止まり、それを見逃さず大きく踏み込み、3段の突きを両肩と心臓に突き立てた。

息の根を止められなかった時でも両肩を破壊し、戦闘不能にする師範オリジナルの雨水。

これで立ち上がれる者は居ない。……はずだった。


突きを打ち込んだ時に違和感を感じた、生身の人間の感触をそれほど経験した訳では無いが、先程のはそれとはまったく違う感触だった。


恐らくは服の下に刃物を通さない何かを着込んでいるに違いない。


ただ大男は無傷では無かったようだ。心臓は守れたみたいだが、流石に両肩を守るには鎧でも着ない限りは不可能だ。


「いてぇじゃねーか」と大男は静かに怒りを露にする。

大男の両肩からは血が滴り落ちている。やや右肩への突きが浅かったようで、奴の右腕は動いていた。

ここでとどめを差さなければと、奴に向かって踏み込もうとしたその時、右脇腹に凄まじい衝撃を受け吹き飛ばされた。


体重のせいもあるが、おおよそ5mは飛ばされ建物の塀に体を打ち付けた。

その衝撃で左肩を脱臼、右脇腹を負傷したようだ。

痛みに耐えながら吹き飛ばされた方向を確認すると、そこには自分と同じ高校の制服を着た男が立っていた。


見覚えがある。それも今日見た男だ。

たしか 石倉高校3年で生徒会長の加納勇喜(かのうゆうき)

彼がやったのか?……そうに違いない。

只者では無いとは感じていたが、まさかこれ程とは。

だが何故彼が私を…………


それよりまずは肩を戻さないと、壁に自分の肩を打ち付ける。

「ゴキッ」

「あぁ"っ!!」痛みで声を押さえられなかった。


肩は戻ったが痛みで感覚が鈍い、そして右の肋骨も何本か折れている。

まずい…………


「兄さん、なにをやってるの?ぼろぼろじゃないか」

加納勇喜は長身の男に話しかけた。


「あぁ……女だから少し油断した。ただ助かったぞ勇喜」


「というかこの人は何者?殺されそうになってたから取り敢えず蹴り飛ばしたけど、やって良かったんだよね?」


「あぁ、いい、こいつは警察だ。タダシが殺したがってるガキの連れみたいだから始末するつもりだった」


「なるほど、タダシさんと互角だったっていう人ですね。兄さんがやられる位だから相当強いみたいですね……ってまさかそれが今蹴り飛ばした子ですか?」


「そうだ、じゃなきゃ俺もやられねーよ」


「なるほど、ではタダシさんが殺したがってるのはさっきの少年なんだよね?」


「あぁ多分そうだ、俺も見てねーから知らねぇが、タダシは自分の手で始末したいって言うから俺がこっちの担当になったって訳だ」


「なるほど、それでこうなったと」

兄の怪我を指差しながら微笑で問いかける加納勇喜。


「うるせぇ」

2人は不適に笑いながら話している。


「まっ、じゃ兄さんは動けなそうだから、僕がもう少し痛めつけとけばいい?」


「そうだな、足の1本でも壊してくれたら後は俺でも殺れる」


「了解」

そう言うと加納勇喜はゆっくりと近づいてきた。


さっきの少年?

幸成さんはやはり襲われているんだ……

くっ、まだ左腕は動きそうもない、私の刀は?!

吹き飛ばされた衝撃で離れた場所まで飛ばされている。


まずは体制を整えるのが先決だ。

痛みを堪え瞬時に刀を拾いに行く。

相手の攻撃より先に刀を拾い、後ろから向かってくる加納勇喜に構える。


果てして右腕1本で、しかも負傷したこの身体で彼と闘えるのか……


「刀ね…………武器を持っていれば有利だと思ってるんですか?」

加納勇喜は不適な笑みを浮かべながら尚も近づいてくる。


「あんな法令が出来たから、僕らみたいな素手で闘う人が不利になっちゃったじゃないか……どう考えても素手と武器持ちじゃこちらが不利ですよ。

だからこれを誰かが見ても僕は悪にはならないんですよ。

僕は君に襲われているんだ。

貴方だけじゃない、今のこの羅国の人達全員は僕より強者であり、僕は弱者なんだ。

その関係があり続ける限り僕は自由、この法令のおかげでね」

そう話し終えた彼の顔は、笑顔の筈なのにどこか歪んで見えた。


「さっ、はじめましょうか」

そう言うと、一瞬消えたかと思う様な速さで私の目の前まで来た。

すぐさま刀を振るが、片手であり、右のあばらへの激痛でいつもの半分も力が出ない。


「遅っ、(笑)いいんですか?」と笑いながら私の刀を避け、左即頭部への上段蹴り。

寸前で避けたが、凄まじい風圧で目が眩んだ。

とその一瞬の間で私は再び後ろへ吹き飛ばされていた。

上段蹴りの後、瞬時に反転し、左足での後ろ回し蹴り。

微かに見えた光景だった。


蹴りは回し蹴りだが、左からの蹴りではなく、私の身体の中心、ミゾオチを真っ直ぐ貫いた。

吹き飛ばされた私は数秒間息が出来ない状態が続いた。

汗が、涙が吹き出る、苦しい……


「あぁーあ、もう終わりですね。実験する暇も無かったです」


「勇喜、実験って、やっと人間でやる気になったのか?」と大男がニヤニヤと話しかける。


「あぁそうです兄さん。今日で動物実験は終わり。

だってこんなに沢山の被検体がいるのに、わざわざ動物を買ったり捕まえたり、そんなの面倒ですからね」


「そうか、なら兄ちゃんも実験台を捕まえるのを手伝ってやるよ」


「助かります……でも最後は兄さんにちゃんと譲るから安心して下さい」


「あぁ期待しているよ」

そう話してる2人の表情はもはや人間には見えない、悪魔そのものだった。


あんな人間が羅国にもいたなんて……アルメントでもサイコキラーはいるが、平和な筈の羅国にも……

彼らは今回の法改正で変わったのではない、今までの悪からより凶悪に進化しただけだ。



「そこの君たち!!何をしている!!」

突然そう叫んだのは、恐らく近くを警備していた自衛隊員だ。


「君たち、これはどういう事だ?!

そこの倒れている君、大丈夫かい?この男に襲われたのかい?!」


「自衛隊員さん、それは違います。

よく見てください、僕は刀を持っていません、襲われていた兄を助けただけです。

悪いのはあの女の方です」

そう言うと私を指差してきた。


「なに?!……そうか、君!彼はそう言っているが本当に君がわにゅ『バキッ』…………」


?!

隊員の首は90度以上回転し膝から崩れ落ちた。


「どんくさすぎて笑えない。

正悪の区別もつかないような人が人を護る事なんて無理なのに」と言いつつ自衛隊員を見下ろす。



打つ手が無くなった。


こうしている間にも幸成さんは……

なんて不甲斐ないんだ私は。

高柳さんどころか自分すら守れない。


ボヤける視界で幸成さんが座っていたベンチを見る。

痛みで視界がボヤけてよく見えないが、幸成さんはもうベンチには居なかった。

犯人に気づき無事に逃げれたのか、

それとも……


「それじゃもう終わりにしてもいいですかね。取り敢えず足を折らせてもらいますね」

そう言いながら私に近づいてくる。


まだ諦めない、こんな所で死ねない。

幸成さんを守らないと。


気持ちとは裏腹に身体が言うことを聞かず、立ち上がれたが足下は覚束ない。


「頑張るねお姉さん、でも無駄ですよ。ほらっ」と言い、彼は私に足払いをして再度地面に打ち付けられた。


そして私の足を掴み「では、失礼します」と笑みを浮かべながら私を見下ろす。

「やれ勇喜!」と後ろでは大男が弟をけしかけている。


もうだめだ…………

足に物凄い力が伝わってきたと感じた瞬間……一瞬にして足への締め付けを感じなくなった。


神経まで絶たれたのかと思ったがそうでは無い、足にはなんとか力が入る。


薄ボヤける視界で辺りを見渡すと、さっきまで私を見下ろしていた加納勇喜の姿は無く、大男だけが少し離れた場所で立ち尽くしていた。


その男の表情は異様で、驚きに満ちているようだった。

「お、おまえ何だっ?!! 」


どうやら立ち尽くしている男の他にもう1人いるようだった。

それは加納勇喜ではなく、話の感じから奴らの仲間でも無さそうだった。


「霧島さんをこんなひどい目に……」


痛みで意識が薄れていく中うっすらと見えるのは…………「ゆ、きなりさん?……」


「霧島さん、大丈夫?……じゃないよね。

ごめんね……もっと早く助けてあげられれば。

でももう大丈夫だから救急車が来るまで休んでてね」

そう言い、彼は私の手を握った。

そこで私は意識を失った。





kogetora_suguです。


高柳くんの第一章も佳境に入ってきました。

何故突然彼は現れたのか、二人はどうなるのか、是非楽しんで頂けたら嬉しいです。


引き続き宜しくお願いいたします。

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