受け継ぎ
夕方の6時。店の暖簾を外しながら、奥にある居間で生徒たちの宿題を見ている慧音と男性が話している。
男性「なぁ、聞いてくれよ。今日変な夫婦みたんだ」
慧音「ほう、つまり私以外の女を見たんだな?」
男性「いや…まぁ…うん。そうだけど…。しょうがないじゃないか。お客なんだから、顔くらい見るよ。じゃないと愛想悪いって噂流されちゃうじゃないか」
慧音「そんな心配はしなくていいって言ったじゃないか。全部私が解決してやる」
本を閉じる慧音は、立ち上がってウーンと背伸びをする。そんな慧音を見ることもなく、店仕舞いの作業を淡々とこなす男性。
男性「そんな慧音に頼ってばっかりじゃダメだよ」
慧音「頼られるのは好きなんだが…それより、変な夫婦とはなんだ?」
男性「団子をお互いに食べさせてた」
慧音「ん?」
片手で肩を揉んでコリを解す慧音は、不思議そうに返事をする。
男性「嫁さんの方が一旦食べて、旦那さんに口移しで食べさせてた。旦那さんも…」
慧音「うーん…行儀が悪い食べ方だな…。どういう環境で育ってきたんだろう…」
男性「さぁ…?でも、すっごい仲良かった」
慧音「…そうか、じゃあ私達もしてみるか。物は試しだ」
男性「え、行儀悪いって…」
慧音「確かにそうだが…ちょっとしてみたくないか?」
慧音の言葉に驚く男性が後ろを振り向くと、慧音がゆっくりと迫っている。
男性「いや、別に…」
慌てて作業に戻る男性の肩をガシッと掴み、笑顔で言う。
慧音「いいじゃないか。減る物じゃないんだ。丁度売れ残った団子も少しあるし、試してみよう」
その頃、人里の宿屋で浴衣を着てくつろいでいるヤマメとケンは、ボーっと鈴虫の無く夜景を居間から眺めていた。ケンは団扇を持ってパタパタと自分を仰ぎ、その風を相殺するようにギュッと横から抱き着いているヤマメは、二人の仲の良さを表している。
ケン「よく鳴くよな。虫って」
ヤマメ「そうね、騒がしいくらいね…」
ケン「その態勢って、キツくないの?」
ヤマメ「アナタを支えにしてるから以外と楽よ」
ケン「人をつっかえ棒みたいに使うなよ」
ヤマメ「私の倒れる所にアナタが居たの。だからくっ付いてるだけよ」
ケン「…そうか」
ヤマメの愛情に答えるようにそっと片手でヤマメを抱き寄せる。安心したように目を瞑るヤマメと、虫のざわめきを堪能する。
ケン「…うるさいな」
ヤマメ「そうね…」
ケン「そういえば、まだ風呂に入って無かったな…行くか」
ヤマメ「歩き回って疲れちゃった…一緒に入りましょ」
しかし、そんなヤマメの提案は、男性用・女性用と別れた銭湯の入り口に防がれた。
ヤマメ「そんな…。ケンと離ればなれになるなんて…」
ケン「はは、しょうがないさ…」
ヤマメ「しょうがなくなくないわ!嫌よ!ケンと一緒に居れないなんて!」
ズカズカと番台にいる店員に歩み寄り、鬼の形相で胸倉をつかむ。
ヤマメ「どういうことよ!私達を引き離そうっていうの!?」
ケン「ちょ、落ち着けヤマメ!」
ヤマメ「落ち着けないわ!」
ヤマメと店員の間に割って入り、ヤマメを制止する。しかし、ヤマメの怒りは収まらなかった。
ヤマメ「ケン、どいて。私はコイツに話があるの」
結局、ヤマメの威圧に負けた店員は男性用銭湯にへの入浴を許した。
ニコニコと嬉しそうにケンの腕を引くヤマメは、意気揚々と男性用の浴場に入っていく。
幸い、客は数える程しかおらず、ヤマメの姿を見て驚き、ヒソヒソと影で話をしている。
ケン「やっぱり、不審がられてる…」
ヤマメ「いいのよ。気にしなくて。さ、背中流してあげるわ」
慧音「ん…ぷはっ。はぁ、はぁ…。どうだ?」
男性「んん…、お…美味しい」
慧音「本当か?」
男性「うん。なんか美味しくなった」
慧音「じゃ、じゃあ。これを商品化すれば」
男性「人様に言えるような事じゃないよ。嫁の唾を品物に混ぜるなんて…」
受け継がれし口移し。ですね…。人里の方は、ヤンデレキャラは少ないみたいで、銭湯は男性・女性と別れているんですね。
しかし、慧音先生の口移し…。羨ましい。
読者様につかの間の安らぎを
「kanisaku」




