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目を覚ますとお家だった。寮じゃなくて。
起き上がると喉が痛くって咳が出る。風邪よりは酷い感じする。
くそぅ、と自分に魔法をかけようとしたら「お嬢様!」とリズベットが駆け寄って来た。
「お医者様をすぐに呼んで参ります。それまで魔法で勝手に治したりしないようお願いします」
頷いたり返事をする前に走って行ってしまった。リズベットは昔っから私のお世話をしてくれるので素直に言うことを聞いておく。
そういえば私池に落ちたんですけど臭うのでは?ちょっと自分で臭いを確かめるとそうでもなくてちょっとホッとした。多分リズベットが身体を拭いたりしてくれたんだろう。
お医者さんに見てもらって、お薬の処方をされた。魔法はやめとけって言われた。体調悪くて暴走した時に結界が発動しちゃったらヤバいらしい。治療できないし結界をなんとかできないと死ぬ可能性あるらしい。言うこと聞いといてよかったと思いながらお礼を言った。
お医者さんが帰るのと入れ違いでお父様と右頬が真っ赤に腫れたアルヴィンお兄様が入ってきた。何事だろう。
「ああ、ああ!目が覚めたんだね、よかった…!!三日も眠っていたんだよ、大丈夫かい?」
「フィン、」
「アルヴィン、口を聞いて良いと言ったか?」
お父様のあまりの声音の変わりようにピシリと固まる。何がどうなってるのとお父様とアルお兄様の顔を交互に見る。
もしかしてだけれど、その腫れた頬ってお父様にやられた?えっ、うそ。
「グリンディア侯爵家にはきちんと報復しておいたよ」
「え」
「あの性根の腐った小娘は一生良い目には遭えないようにしてきたし」
「え」
「お前があの愚か者に懐いているなんて思っていたバカも殴っておいたよ」
お兄様が気不味そうに目線を逸らした。お父様は笑顔である。こ、怖……助けてお母様。
「フィンが許せないようなら見る目のないアルヴィンは廃嫡するけどどう?」
「アルお兄様が悪いわけではありませんわ。お父様がもう一度見る目を鍛えて差し上げてくださいまし」
「結構重症化していたんだよ?グリンディア侯爵家も潰しておこうか」
「悪いのはエメルダ様だけですわ」
自分より怒っている人がいると逆に冷静になるな。お父様今回の件ガチギレだったらしいけど、今までのってこれがあるから私お父様に相談しなかったの?
自分に問いかけながら記憶を辿るものの、私が言わなかった理由は「自分の劣等感」と「大した被害になってなかった」という点だということに思い当たったので、おそらく関係ない。
「フィンが目覚めたと聞いたのだけれど!」
お母様が入ってきて、溜息を一つ吐いて「大丈夫?」と聞いてきたので頷いた。
「そう、よかったわ。けれど、今度からは早めに報告、連絡、相談なさい?でないと…ギルが暴走してアルが市井に放り出される可能性が出てくるわ」
「そういたします……」
いくらアルお兄様がわたくしのこと好きじゃないからって廃嫡とか求めていないよ!と遠回しに告げると、安心しかけていたアルお兄様の表情筋が固まった。
「ふぃ、フィン。私がいつお前を嫌いだなんて言った!?」
「……?違いましたの?」
死にそうな顔で「そんなことはない」と縋る兄に「なんじゃこれ」とお母様の顔を見ると引いていた。お父様もなんか哀れなものを見る目でお兄様を見ていた。
「だいたい、フィンのような愛らしい妹を嫌うわけがないだろう!立場がなければ我が儘だって全部可愛い!!」
「は、はぁ……」
結局、お兄様はお父様に引き摺って行かれた。けほ、と咳をするとお母様が背中を撫でてくれたのでちょっぴり甘えてみた。
なんかこの感じだとヒューお兄様が私に興味ないというあれも何かある気がしてきたな。
本編フィーネより魔法が上手ではないので「死ぬぞ!!」と強めに止められています。