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リオンハルト殿下、復活したらしい。何故か闇の魔法使いになっているけれど。
なんか、内緒らしいけれど、本当はちょっとだけ光の魔法も使えるみたい。そうなっているのでしょう。魔法って謎が多いです。
とはいえ、クラウス殿下が王太子であることに変わりはない。だって、元々年齢はどうあれ、王位継承権は正妃の息子が優先される決まりですしね。
最近では陛下が体調を本当に崩しておいでの様で、クラウス殿下は先王陛下よりかかりきりで指導を受けながらその業務を代行している様です。レティシア様も一緒に走り回っています。たぶん、このままですと2人の結婚が早まる気がします。
そして、我が家ですがレオお兄様がある日いきなり怪我人を私に押し付けてきました。
長い黒髪に炎を思わせる色の瞳。ボロボロの青年を「直して」と語尾にハートでもついていそうな声音で押し付けてきたレオお兄様には流石にドン引きだった。あれ、たぶん「治して」じゃなくておもちゃの故障の様な「直して」だった。そういうところが怖いんですよ黒幕系従兄弟…。
希望も何もないというようなハイライトの消えた目の青年を年下の従姉妹に押し付けてきたレオお兄様は、お父様が帰宅した際にとても怒られていた。そりゃそうですよね。
そう思いながら「この世に希望なんてない」みたいな顔の青年の怪我を一応治しておいた。どこかで顔を見たことがある気がしたけれど、気のせいだと思う。私ってば引きこもりなので。
「どうして……」
「いえ、痛いのはお嫌でしょう?」
治したのにどうしてとは。
うーん。でも、恩着せて何かさせられるって思っているのかしら。クリスと結婚したいのでその辺り、勘繰られるような事はごめんですしね。しませんよ。
お説教が終わったのか、げっそりしているレオお兄様に「彼はどうするのですか?」と尋ねると、指を顎に当てて考える素振りを見せた。
「魔王にでもしようかと奴隷商から買ったんだけど、もう要らないからあげる」
「レオナール。責任持ってどうにかするとさっき言ったばかりではなかったか?」
「げ。叔父上」
リズベットが「懲りませんね、あのお方も」と溜息を吐く。魔王にでもしようとって何を考えておられるのか。
……そういえば、ゲーム内の魔王がこんな容姿だったような?けれど魔王、肌がもう少し黒かった気がします。別人かしら。
「うーん。でももう要らないしなぁ」
「お前は人間として必要なものをどこに置いてきた」
「母上の中?ほら、その分ガイが善良でしょう?」
なかなかクレイジーな発言ばかりするレオお兄様。それにしても、もう要らないってことは魔王関連の研究やめたのかしら。平和になって良いことです。
「魔王関連アイテムはクレイ家が封印しちゃったらしいし、どん詰まりだからもういいんだけど……」
「好奇心で国を滅ぼそうとするな」
「代わりに別の研究結果が得られたけど」
満足そうな顔なのでレオお兄様は満足のいく結果だったようですが、人の命を買って飽きたから捨てるみたいなやり方どうかと思います。
「お父様」
「フィン。すまない、嫌なことばかり聞かせて」
「レオお兄様はきっと、反省はなさらないと思います。この間、孤児院の子供達を教育して仕事を与える事業のお話し合いをしていたでしょう?その第一弾の子達と一緒に職業訓練をしていただいてはいかが?」
「……それしかないか。レオナール」
「わーい、叔父上太っ腹!」
「“兄上”には私からきっちりと話をつけておく」
笑顔を見せるお父様のその目は冷たい。レオお兄様は笑顔が固まった。
「父上?あはは、やだなぁ……え。本気ですか?何て言うおつもりですか無理」
「レイ」
アルヴィンお兄様の声がしたと思えば、お兄様の侍従がレオお兄様を拘束していた。
「兄上にも、一度しっかりと話をつけねばと思っていた。丁度よかったな、レオナール」