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「やあ、アン。それに……それ以外の三人」


 四人が行き着いた、執務室の扉。そこには一人の男が立っていた。男は銃を片手に持ち、どこまでも冷たい雰囲気と、それに反する朗らかな笑顔で四人を迎えて来ている。

 名前を呼ばれたアンは、それが知人であると気づくのに数秒の時間を要した。だが、すぐに男と似た朗らかな笑顔を浮かべて、アンは挨拶を返す。


「やっ、トニーさん。どうしたの? 随分と、嫌な雰囲気だけど」


 挨拶の後で、アンは内心、深刻な気持ちで男---トニーの普段とは似ても似つかない雰囲気の正体を探る事にした。


「……あー、まあ……色々あるんだ」


 トニーは頭を困った様に掻きながら、歯切れの悪い口調でアンの声に答えてみせる。アンはもう少し詳しく聞こうと口を開いたが、その前に隣の三人が喋りだしていた。


「僕には恭助っていう名前があるんだけどなぁ……」

「まあ、私はその他扱いでも問題は無いが」

「私も、その他大勢扱いで問題はありませんね。むしろその方が……」

「……気になってるの僕だけ? うーん、それは悲しい」


 まるでトニーとアンの会話には興味がないと言いたげに二人は話し、残るミアは少し気になるのかアンの方へ何度か目をやっていた。

 その姿に、アンは思わず苦笑する。深刻に考えていた自分が何やら馬鹿の様に思えて、アンは肩の力を抜いて息を吐く。


「うん、トニーさんから深くは聞かないよ」

「はは、そりゃ助かる。詳しい所はダンプの旦那から聞いて欲しいしな」


 本当に助かるのだろう。トニーは先程までとは違い、安堵が籠もった表情をしていた。

 それがまた少し気になったが、アンは聞かない事を決めた。


「ところで、執務室って此処であってる?」

「ああ、合ってるよ。だが、それにしても大人数だな……正直、ボスの娘、いやミアさんと一緒なのは驚いたよ」


 トニーの返事に、アンは照れくさそうな表情を浮かべつつもミアの肩を抱き、引き寄せる。それくらいの事を真顔で出来るくらいには、二人の仲は良い物だった。

 思ったよりも強い力だった為にミアは少しふらついたが、すぐに姿勢を正してトニーへ一礼した。


「多分、初めまして。ミアです、その……アンとは多分、友達です」

「トニーです、多分はじめましてで合ってると思うっす……いやぁ、それにしてもアンの友達、か……」


 その言葉を聞いたトニーは意外そうに、だが嬉しそうに二人へ笑いかける。それはまるで、娘に初めての友達ができた親の様な表情だった。

 それはミアとアンにも伝わったのだろう、ミアは嬉しそうにクスクスと笑い、アンは恥ずかしそうだが言葉自体は嬉しそうに受け取っていた。


「はじめての、友達ですから……まさか、こんなに深い関わりのある相手だとは思っていなかったのですが」

「あたしは、『もしかしたらそうかもしれない』は程度には考えてたかな……」

「まあ、そうなのですか? いえ、私もそれ程度には……」

「へぇ……じゃあそういう所も一緒か……ははは……」

「ふふふ……」


 やがて、二人は自分の世界に入り込む様に笑い声を上げる。その姿を、それ以外の三人は三者三様の表情で見守っていた。


「あー……なんていえばいいか……ああ、本当に仲良いんっすね、二人とも」

「なんか、魂の部分で惹かれ合ってる感じだよね」


 何故かミアに複雑そうな表情を向けるトニーの独り言に、恭助が楽しそうな表情で合いの手を入れる。

 声を聞いたトニーはすぐに恭助の顔を見て、相手を遥かに年上を扱うような敬意が籠もった表情で礼をした。


「アンを連れてきてくれて本当に、本当に助かりました」

「いやいや、僕は僕のしたいようにしただけだから。気にしなくていいんだよ? 楽しかったしね」


 トニーの奇妙な態度がさも当然であるかのように、恭助は笑って返事をする。

 その姿を、カミラは不思議そうに眺めていた。


「……ミアとアンはともかく、仲が良いのは君達も同じに見えるんだがな」


 『まるで、互いの事を初めから知っていた様だ』カミラは、頭の中でそう考えた。

 だが、恭助とトニーは距離的に聞こえている筈のカミラの声をまるで聞かなかったかのように無視し、話を続けた。


「ところでさ、ダンプさんが言ってた教えたい事って、何?」

「いやそれは……本人から聞いてください」

「むぅ、教えてくれないの?」

「すみません」


 敬意が籠もっていたが、同時にきっぱりとした拒絶の意図が混じった声だった。恭助は残念そうな顔をしたが、すぐに悪戯っぽい顔になって微笑んだ。


「ふーん、ま、いいよ。本人から聞くからさ」


 恭助の言葉を聞いたトニーは少しすまなそうに笑い、アンとミアが居る方へ顔を向ける。

 やはり、トニーがミアへ向けるのは複雑な目だ。その事に恭助は首を傾げたが、すぐに何かを理解したのか楽しそうな顔で黙り込んだ。

 それには気づかず、トニーは何故か見つめ合っている二人へ声をかけた。


「さて……アンとボスの娘さん……いや、ミアさんの話は終わったっすか?」

「……っ、あ、何? トニーさん」

「……あ、ええっと、何ですか?」


 二人の顔は友情や愛情の様な物や、それ以外の複雑な感情が混ざり合った物で、困った様な雰囲気が強く伝わってくる。

 トニーは二人が何を考えていたのか疑問に思ったが、その理由はすぐに分かった。


「あー……そんなに二人とも、相手の生まれとか立場とか、気になるんっすか?」

「気にならないわけ無いじゃない。ある意味同一人物なんだから……」


 アンの言葉が全てを表していた。それとは別に、アンには何かに迷う様な気持ちが見て取れたが、トニーはあえて触れない事にした。

 そんな中、ミアはアンの言葉に同意しながらも微笑みを浮かべてアンの手を握る。


「でも私は……アンの事、好きですよ?」

「まぁね、あたしも、ミアの事は好きだよ」


 それまでの迷いが消えた様に、アンはミアの手を握り返して微笑みも返した。


「……あの人も、こんな感じだったなぁ」


 カミラがその姿を微笑ましそうに眺め、同時に懐かしそうな顔で呟いていた。その言葉にトニーは少し反応を見せたが、カミラの顔を見てすぐに目を逸らす。

 代わりに、恭助がカミラの顔を覗き込んで、不思議そうな顔をする。


「あの二人の事、もしかして昔から知ってたり?」

「いいや、『二人の事は知らなかったな』」


 それが誤魔化しだと、恭助はすぐに気づいた。

 だが、聞いても答える気がないという事を悟った恭助はあっさりとその話題を切り上げる事を決めて、少しだけ真剣な様子になるとトニーへ話しかけた。


「ところで、さ。そろそろ僕達……この部屋に入らなきゃいけないんじゃないかな?」


 それを聞いたアンとミアは今気づいたという表情で恭助の顔を見た。

 『ああ、忘れてたんだな』トニーはそんな事を考えたが口にする事はせず、話しを進める。


「まあ、俺としても再会を喜びたい所だが……ダンプの旦那が、アンを待ってるからな」


 ため息混じりで、だがまた冷たい雰囲気を纏ったトニーは複雑な表情でミアを一瞥すると、アンに笑みを向ける。

 今日初めて見たトニーのそんな表情をアンは不思議に思った。だが、同時に---ダンプとトニーが『何か』を知った事を理解した。

 そんなアンの隣で、恭助が楽しそうにトニーへ話しかけていた。


「僕も勿論付いていくけど、いいよね」

「……それは」


 トニーは目に見えて難色を示した。だが、それを予想していたのであろう恭助は瞬時にトニーの耳元に口を近づけ、笑った。


「じゃあ、今から言う事を聞けば、すぐに僕が付いていく事のメリットが分かるよ?」


 周囲に聞こえたのはそこまでだった。

 何故かカミラの聴力を持ってしても聞こえないその音がトニーへ届いたかと思うと、トニーは居住まいを正して一礼する。


「勿論、アンをよろしく頼みます」

「よし、任されたー!」


 外見は明らかに年上の相手がした礼に、恭助は得意げな表情で胸に手をやった。それはまさしく子供そのもので、だが頼もしかった。


「私も、入って良いのですか?」


 恭助に続いて、ミアもトニーへ質問をする。

 トニーはミアへ複雑な表情を向けたまま、アンと手を繋ぎ続けているミアに一度だけ頷いた。


「ええ、『あなたには直接関係のある事』ですから」

「私に、関係のある事なのですか?」


 ミアはそれを疑問に思い、トニーへ問いかける。

 だが、トニーは曖昧に笑ってそれを流し、手を繋ぐアンとミアと、恭助を先へ進ませようとしているのか、扉の前から身を退いた。


「では、私も……」

「おっと、あんたはダメだ」


 しかし、カミラが扉へ近づこうとするとトニーは一歩前に出て、カミラの進行方向を塞いだ。

 突然の行動にカミラは眉を顰め、トニーの腕を掴んで、凶悪な雰囲気で微笑んだ。だが、冷や汗をかきながらもトニーの目はカミラを睨みつけている。


「あの、トニーさん? 止めた方が良いんじゃない?」


 アンの心配そうな声がトニーの耳に届く。それでもトニーは不敵な笑みを浮かべて、カミラの進行方向を遮り続けている。


「ええっと、トニー、さん……ですよね? あの、出来ればその方も通していただきたいのですが……」


 少し困った様な表情になったカミラを見て、ミアがトニーへ話しかけていた。言葉自体は紛れもなく本音だったが、その奥にある心配そうな色がトニーの身も心配している事を表している。

 そんなミアの意志が伝わったのだろう、トニーは本当に困った表情でミアを見て、ため息を吐いた。


「あぁー……その、コイツが居ると多分、ダンプの旦那は本当の事を喋らないと思うっす」

「の、割には恭助は通しても良いんだな?」


 カミラの鋭い声がトニーに突き刺さっていた。

 トニーは怯んだが、首を一度振って何かを覚悟した顔になって笑った。


「……彼はまあ、大丈夫なので」

「へぇ……そうなのか、分かったよ」


 納得したような声を上げているカミラだが、凶悪な気配がその言葉を嘘だとその場の全員に感じさせている。

 その瞬間からカミラはトニーをただ眺めていた。負けじとトニーも睨み返すが、カミラは動じた様子も無くただただトニーを見つめ続けている。


「あの二人……どうして」

「多分、カミラさんは彼の言葉の意味を考えてるんだと思うよ」

「トニーさんは、ああ……ああいうのをビビってるって言うんだろうね。どうしてあんな怖そうな人を止めようとしてるのかは分からないけどね」


 ミアはカミラが実力行使に出ない事を不思議に思ったが、いつの間にか隣に居た恭助と変わらず手を繋ぐアンがその答えを呟いている。

 その中でも、トニーは緊張感を漂わせながらカミラを睨み続ける。

 そんな時だった----扉の向こうから銃声が聞こえたのは。


「っ! 悪いが通らせて貰う」

「だが、行かせない!」


 銃声にいち早く反応したカミラが前に出ようとして、トニーはカミラの腕を掴んで何とか先に進めない様にと妨害する。だが---

 ゴキリ、その様な音と共にトニーは弾き飛ぶ様な動きでカミラから一歩程度の距離を取り、自分の腕を見てしかめ面を晒した。


「ぐっ……! お前はっ!」


 腕が、曲がる筈のない方向に曲がっていた。

 それを確認したトニーは舌打ち混じりの呻き声を上げて、殺気を放つ。

 勿論、カミラにはまったくもって「どうでもいい物」と冷え冷えとした目を向けられているが、トニーは構わなかった。

 その瞬間、やっと状況を認識したアンとミアが目を見開いてトニーを見つめた。


「トニーさん!」

「構うな、アン! 銃声が気になるならさっさと行け!」


 心配そうなアンの声を、トニーは罵声の様な声で返す。その中にある照れる様な色に気づいた恭助が面白がる様な顔をしていたが、誰も気づく事はない。

 アンは、普段とは全く違う様子のトニーに思わず首を傾げた。だが、困惑する彼女を置いて話は進んでいく。


「さて、通して……くれるよなあ?」


 カミラはトニーの腕をへし折った事に何の感情も見せず、ただ凶悪な気配を発してトニーの目の前に立って見せた。

 凶悪極まるその気配と、少しでも抵抗すればもう片方の腕と足をへし折るであろう腕が近づいてきたが、トニーはそれでも不敵な笑みを浮かべて殺気を飛ばした。


「悪いな、通せない」


 片腕が妙な方向に曲がった事による痛みで眉は顰められていたが、その言葉の意志ははっきりとしていた。

 カミラの脳裏に、『強行突破』という単語が頭に浮かんだが、すぐに消えた。トニーの目からは強い意志が感じられるのだ。下手をすると、強行突破出来無そうなくらいに。

 少しだけ、恭助を見た。彼が此処に居なければ、トニーがどんな顔をしていようと無理矢理ミアに付いていく所なのだが----


「はぁ……分かったよ。分かった分かった、三人ともさっさと行けよもう。私はお前をボロボロにしてから行くからさ」


 カミラは、恭助を信じていた。例えこの宇宙が無くなろうとも、彼が居れば最低でも二人は無事だと。

 何せ彼は----


「ニルさんの、同類か……」

「ん?」

「いや、何でもない。さっさと行け」


 覗き込む様な恭助の視線を鬱陶しそうに受け取ったカミラは、その恭助の背中を叩いて前に進めさせた。


「うわっ! もうっ、乱暴だなぁ!」

「まあ、二人も先に行っておいてくれ」


 カミラは朗らかな調子でミアとアンへ声をかけた。凶悪な雰囲気はその瞬間に四散し、何やら懐かしそうな物だけがそこに残る。

 アンはカミラの変化した態度に安堵の息を吐いた。それが自分に向けられていなくても、カミラが発していたのは背筋が凍りそうな雰囲気だったのだ。

 だが、それが今はない。それを好機と見たアンは出来るだけ心の底から声を出す為に息を吸い、強制力でも発生させようとしているかのような雰囲気で口を開いた。


「トニーさんを、あまり酷い目に遭わせないで欲しいです」


 意外な一面にミアは驚いた表情を浮かべたが、すぐに口からカミラの行動を制限する言葉が出ていた。


「……私からも、お願いします。アンの親代わりをあなたが傷つける何て考えたくありません」


 ミアの言葉は、アンのそれよりさらに強烈だった。人を引きつける彼女本来の才能と、何よりカミラの胸に響く声が彼女の行動を制限させようとする。



---私なんかより、コイツ等は余程凄いじゃないか



 カミラは、自分がこの二人には勝てない事を理解した。


「……そうだな、うん。他でもない君らの頼みだ、善処するよ」


 先ほどまでカミラが放っていた凶悪な雰囲気に、不吉な未来を感じざるを得なかったのだろう。二人の顔が目に見えて明るくなった。


「ありがとうございます、カミラさん」


 明るい顔をしたミアが、カミラに礼を言って扉へ歩いていく。

 アンはミアが先に歩こうとしている事を理解して、繋いだ手を離さないように付いていった。だが、扉の目の前まで来た時にふと振り返り、トニーに向かって不敵な笑みを浮かべた。


「……どうしてこの人を止めるのかとか、詳しい事は聞かないでおくから」

「助かる。実は、あんまり君らには聞かせたくなくてね。困ってたんだ」


 苦笑混じりに帰ってきたトニーの声を背に、アンとミア、そして恭助は扉の向こうへ飛び込んでいった。


+


 アンとミアが居なくなった事を確認したカミラはまた凶悪な、だが同時に懐かしさの混じった顔でトニーを見た。


「で? 本当の所、私を此処に留めた理由は何だい、『トニー君』?」


 わざとらしい気取ったような礼をして、カミラは楽しそうにトニーを見つめている。

 自分の折れた腕を眉を顰めながら見ていたトニーはその声を聞いて意外さと『懐かしさ』を感じさせる表情になり、大げさにため息を吐いた。


「……覚えてやがったのか。っていうか、覚えてて俺の腕をへし折りやがったのか。すげえ痛かったぞ」

「最後に会ったのは二十年以上前だし、私は君に邪魔される謂われを作った覚えは無いからね。つまりあれだ、知った事じゃない」

「相変わらず勝手な野郎だ……」

「はは、私は野郎じゃない。勝手なのは、まあ、お前の友達よりはマシだと思って諦めろ」


 二人はまるで旧知の人物を相手にするような態度で----いや、この二人は実際に旧知の相手なのだ。

 そう、二人は相手の事を知っている。二十年以上前、『ミアによく似た人』と関わった、昔の知人として。


「お前は私の事を覚えていたらしい。それがどういう形であってもな。あいつはどうだ?」

「ダンプの旦那は昨日の事ですら覚えてるか定かじゃねえくらい今しか見てない。だから多分、覚えてねえよ」

「ははっ。あいつは相変わらずバカで、お前は相変わらず振り回されているか。安心したよ」


 懐かしそうな声でカミラは笑う。確かに、トニーという男は子供の頃からダンプに振り回される人生を送っていた。それを思い出したトニーは肩を竦め、苦笑した。

 朗らかな空気が両者の間を通っていた。だが、唐突にカミラは楽しそうな表情を消し、真剣な様子でトニーを見る。


「ところで……お前はどうして此処に居る? マーカスの側なんだろう?」


 告げられた内容に、トニーは驚愕のあまり目を見開く。

 カミラの言う事は全面的に正しかった、つまり、それは『トニーがマーカスの部下の一人である』事への肯定に等しかった。

 トニーは慌てた雰囲気でカミラの顔を見た。もう真剣な様子は無く、そこにはただ正解した事への楽しさのみを浮かべる物があった。


「どうしてそれを知ってる?」

「何、ちょっとした鎌かけさ。恭助と呼ばれるモノは外見上はただのガキ。そんな奴に敬意のある口調で話す。つまり、『アレ』がお前等、いやマーカスが敬愛するアレに連なるモノだと知っている。そうだろう?」

「……まいったな、全部当たってる」


 矢継ぎ早に告げられたカミラの言葉は、トニーにとってはため息を吐くほどに『当たっていたのだ』。

 そう、トニーはマーカスの部下だ。それと同時に、ダンプの部下でもあるのだが。


「それで、もう一度聞きたいんだが。お前はどうして此処に居る?」


 カミラは苦笑混じりにため息を吐いているトニーへ話を続ける。聞きながらもその理由が分かっているかのような表情だった。


「あー、まあ、アンの為かね。どうしても、我慢出来なかったのさ。組織人としては致命的だと、俺も思う」


 自嘲気味だが、はっきりとした意志を感じさせる声だった。その一言でカミラは自分の予想が当たっていた事を確信し、ニヤリと笑ってみせる。


「ははぁ、なるほど。やっぱりお前等、年相応に落ち着くのは無理か。……いや? もしかすると、お前等は年相応だからこそ、あのアンって子に関わっているのか」

「さあな……いや、ダンプの旦那は間違いなく年相応じゃねえや」


 思い直したかのようにトニーは呟いた。


「あのミアって奴がどうも、ダンプの旦那は気に食わないらしい」

「何故だ? あいつ程あの人に似てる奴も居ないと思うんだが……いや、あいつはあの人の事も忘れてるか?」


 ミアの事を語る時、トニー自身も複雑な意志を見せていた。

 カミラはその態度に首を傾げる。そう、彼女の言う通り、トニーやカミラが覚えている女性とミアは人格や仕草に至るまで、それはよく似ている。

 だからこそ、カミラはミアに手を貸したのだ。それだけにトニーの態度は最初から不可解だった。


「俺はアンのオリジナルだからと思っていたが、ああぁ……それは、今日で終わりだ」

「それは?」


 意味ありげなトニーの言葉に興味を持ったカミラが顔を近づける。トニーは恐怖混じりの表情で彼女から一歩後ずさりをして、一度息を吐いた。

 そして、何を思ったのかトニーはカミラの耳元に口を近づけ、カミラ以外の誰にも聞こえない様な声量で囁いた。


「なあ、カミラ。俺はな----」


 カミラの耳にその言葉が届いた時、彼女は思いきり不敵な笑みを浮かべた。


「へぇ……それは、安心出来るな」

「だろう? 俺の思考もまだまだ捨てた物じゃない」


 クスクスと笑うカミラへ、トニーは何故か得意げな顔をした。

 そして、そのままカミラからまた一歩遠ざかって笑った。


「ああ。そういう訳でだな、ここからどうなるのか……聞きたくないか?」



2012/8/28

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