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ライン鉱山

――ライン鉱山 入り口


「はぇー、でかいなぁ。」


カインが間抜けな声を出す。


「確かにでかいな。」


悠仁も賛同する、確かに大きい。本当に山一つ分を使っているようだ。

加えて、列車を中に入れるわけではないのに入り口はその辺の家よりも高く開いている。


「前からこうだったからなんでかはわからないけど、確かにどうみても大きいわね…」


ミーナもそれに続く。


「まぁ大丈夫ですよ、入り口が大きくても相手はそんなに凶悪ではなかったはずですし。」


Aliceはあっけらかんとしている。さすがの余裕である。


「それじゃあ行こうか、みんなカンテラの燃料はちゃんとあるか?もちろんAliceもだ。」


Aliceは光の呪文が使えるだろうが、そんなことではMP消費が激しく、いざというときに魔法の使用ができなくなる場合があるため、節約できるところは節約すべきである。


「はい、大丈夫です。しっかりと補充してあります。」


「私は…、あー!半分以下しかない…。」


ミーナは準備を忘れがちなようだ。


「大丈夫だミーナの嬢ちゃん。俺の燃料分けてやるよ。ちょっと貸してみ。」


「はいぃ…ありがとうございます…。私リアルでもこうなんだよなぁ…。」


現実世界でもおっちょこちょいなのか、ミーナがぼやく。


「あんまりリアルのことに口出しするつもりはないが、そういうところは気をつけないと…ここでは命も危ないから…」


「わかってるんですけどぉ…」


悠仁がアドバイスをするとミーナは項垂れる。


「ミーナちゃんは前から変わってないね。」


Aliceがくすくすと笑う。


「もう!Aliceまで!」


「ま、女の子は少しぐらい抜けてたほうが可愛げがあるってもんだ。…っと、補充終わったぞ、ほれ。」


燃料の移し変えが終わったカインがミーナにカンテラを受け渡す。


「ありがとうございますぅ…、これじゃちゃんづけはしばらく直りそうにないなぁ…」


「まぁまぁミーナちゃん、次気をつければいいと思うよ。」


「Aliceの言う通りだ。過ぎたことは仕方がない。次の対策を考えるのが大切だ。」


「なぁんかリアルでも同じようなこと言われた気がする…。」


今回みたいなミスは問題ないが、ミーナの周りの人間は苦労していそうだ。


「ミーナの周りの人間は苦労しそうだな…」


つい口から思ったことが漏れてしまう。


「もー!それってどういうことですかー!」


「はっはっはっ。」


(Aliceが来たときもそうだったが、パーティーに新しいメンバーが入ると空気ががらりと変わるもんだな。)


「さて、準備も済んだところで、行こうか。」


「おう!」


「はい!」


「はい、行きましょう。」


4人はライン鉱山へ足を踏み入れる。入り口をくぐった途端、外の音が遠のき、ひんやりと湿った空気が頬に触れた。


カンテラの灯りが四つ、岩壁に順々に灯る。足元の砂利は湿り気で締まっていて、踏むたびに硬い音が壁に反響した。振り返ると入り口の光はもう白い四角形に縮んでいる。あれだけ大きな穴だったのに、外の世界との繋ぎ目というのは、中から見ると案外あっけない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――ライン鉱山 上層


「うへぇ…、暗いのは覚悟してたけどこの湿気はすごいな…。」


「前からだったんだけど、雨が上から漏れてきてるみたいなんだよね…です。」


「なるほど、洞窟独特の湿度もあるだろうが、雨漏りみたいになってるんだな。」


(ということはどこか天井に亀裂でも走ってるのか?)


洞窟の崩落、そんなことが頭をよぎったが以前からこの調子だということで、その考えは頭の片隅に追いやる。


それでも歩きながら、天井から落ちる雫の数を無意識に数えている自分がいた。心配性は損な性分だが、この世界では損のまま終わらないことも多い。数えるだけならタダである。


「そういえばAlice、ここのモンスターはどういったやつがいるんだ?」


「そうですね、ジャイアントバットとか、ジャイアントラットなんかが多いですね。中層の階段付近になるとゴブリンなんかも出てきます。」


「名前を聞く限り大丈夫そうだな。よかったぜ、つえーやつが出てきたらどうしようかと思ってたんだ。」


「ただ、ジャイアントラットの方は経験値はそこそこ入るんですけど、アイテムが落ちないんですよね…。もちろん獣の骨とかは落ちるんですけど…」


「ドロップアイテムに期待はできそうに無いな。」


「それにあいつら臭いんだよねー、ドブネズミみたいな臭いがするのよー…です。」


「さっきから気になってたんだがミーナ、なんだその語尾は…。」


「いえ、丁寧語ってリアルだと平気なんですけどゲームの中だとなんだか上手に使えなくて…。」


(なるほど、そんなことでも悩むものか。)


「口調は好きにしてもらって構わない、さすがに礼儀が欠けてたら不快に感じるかもしれないが、それ以外だったら気にしない。そういえばAliceも好きにしてもらっていい。気が回らなくてすまなかった。」


「そう…ですか…、じゃなくて、そう?じゃあこっちで話させてもらうわ、ずっと丁寧語を話すのは肩がこっちゃって!はー、なんか身体が軽くなった気がするわ!これからは敬称はなしで呼ぶわね!Yuji!」


「すごい変わりようだな、いいんだが。」


「私これでも社会人なのよ?」


「えぇ!ホントかよ!…学生だと思ってたぜ…。」


カインが驚きの声を上げる。


(確かに、俺も学生だと思っていたけど…、まさか社会人だったのか…。もしや俺より年上なのか…?)


「褒め言葉として受け取っておくわ。」


「私は、これが通常運転ですのでこのままで。」


「そうか、好きにしてくれ。別に不快に思ったことなんてないしな。」


「えー、私のことは不快に思った事があるってこ…、ちょっと待って。」


笑っていたミーナの顔が真剣な表情になる。


「…どうした。」


「音が、聞こえる。前方から地面を走る音。2から3体だと思う。」


「へぇ、なるほど。」


カインが盾を構える。


「くるよ!」


闇の中から大きな影が飛び出してくる。カンテラの明かりで目が赤く光っているように見える。


「キィイイイイイイイ!」


「うぉぉおおお!」


盾がガキン!と音を立てて最初の攻撃を防ぎきる。


「ひゃー、でけーなおい、しかも…」


「くっさ…」


「この臭いは慣れませんねぇ…」


何年も浚ってない排水溝のような臭いが充満する。


鼻の奥に張り付くような臭気で、口で呼吸をしてもわずかに味がする気さえする。カンテラの灯りの外では複数の気配が床を擦り、爪の音が岩に響いた。臭いと音と闇。視覚に頼れない戦場というものが、これほど神経を削るものだとは思っていなかった。


「状態異常はないが、これだけでデバフがかかりそうだ…。」


臭いを嗅いでクラクラしているうちに続けて2体が闇の向こうから飛び出してくる。


「敵さんがお出ましのようだ。防御は任せとけ、攻撃は頼むぞ!」


「おう、気をつけろよ!」


ニカッといつものように後ろに笑いかけ


「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」


咆哮でヘイトを自身に集める。


「うひゃぁ、戦士の咆哮は誰がやってもすごい声なのね、でもこれで…!」


ミーナは背中に背負った弓を取り出し、素早く構える。そのまま弦を引き絞り。


「…ふっ!」


見事ジャイアントラットの前脚を地面に縫いつける。


「よっしゃぁああああ!うぉらぁあああ!」


豪快な横薙ぎでジャイアントラットを切りつける。


「ギィィイイ!」


搾り出すような声を出してジャイアントラットの体が洞窟側面に向かって吹き飛ぶ。


岩壁にぶつかる鈍い音が、狭い空間では体の芯まで響いてくる。草原の風の中で狼と戦うのとは違う、質量と密度の戦いだった。


「あれ?切れ味わりぃなぁ。」


「お前のは切るというより叩き付けるが正しいだろ…。西洋の剣にはそういった使い方もあったみたいだけどな。」


「へぇ、Yujiお前物知りだなぁ。」


「ちょっと聞きかじっただけだよ。それよりお前!」


「カインさん!左前方です!」


Aliceの指示が飛ぶ。


ギィン!という鈍い音が響き渡る。


「おっ…とぉ!あぶねぇ、助かったぜAliceちゃん!」


「いえ、よかったです。…!またきます!」


(ひやひやしたが、防御は3体程度なら問題なさそうだな。)


カインの様子を見て安心した悠仁は攻撃に移る。


「炎よ…」


「ファイヤーボール!」


洞窟に住み着いているネズミには見覚えがないものなのか、火の玉が迫ってくるにも関わらず棒立ちをしている。


「ギィイイイイイイイイイイ!」


そんな相手にクリーンヒットするのは必然だった。ジャイアントラットが焼け焦げる。


「くっさ!おいYuji!他の魔法はないのかよ!」


「そうはいってもこれが一番使いやすいんだよ!」


こっちがごたごたしている隙に仲間2体がやられたのをみて最後の1体が洞窟の奥のほうへ走り出した。


「あ!逃げた!!」


「あ、くそ!まて!」


最後のモンスターを仕留めようとカインが走り出す。


「待てカイン!深追いはするな!」


悠仁が走り出そうとしたカインを制止する。


「っと、そうだな。つい欲張っちまったぜ。すまねぇすまねぇ。」


後ろではAliceがほっと胸を撫でおろす。


「…にしても。」


「どうした?」


「いや、意外といけるもんだなぁ、と。防御も初めは怖かったんだけどよ。確かにワイルドウルフよりは体重があるのか重い感じはしたけど3体を目の前にしても防ぎきれないとは思わなかったからさ。」


「それはですね、しっかりじっくり防御スキルが上がったからですよ。」


Aliceが補足をする。


「ゲーム内ではそのステータスに応じて各行動に補正がつき、それこそ人間にはできないような動きができるようになりますが、カインさんの場合、ステータス以外にも慣れの影響が強いと思われます。」


「慣れ?そんな数値があるのか?」


「いや、そうじゃないのよ。」


ミーナが横から参加してくる。


「そもそもこのHOPEは現実世界でのその人の思考能力や身体能力を如実に反映するわ。私も特にスキルはないけど…」


ミーナは、するり、すたっ、と滑らかなバク転を決めてみせる。


カンテラの灯りの中で見るその動きには、余分な力みが一つもなかった。踏み切りから着地まで、音がほとんどしない。何年もかけて体に教え込まれた者の動きで、こういうものはステータスの数字では買えない。


「こんな感じで回避のステータスを故意的に上げなくても回避行動がスムーズに取れるわ。ちなみに私は学生の頃新体操をやってたの。」


「へぇー見事なもんだな。ということは、俺は逆にゲーム内でずーっと防御に専念してたことでステータス以外の慣れが生まれたって事か?」


「そういうことになりますね。ゲーム内でステータス補助のおかげで曲芸師のような動きができるようになって、それをしているうちに現実世界でも多少アクロバットができるようになる、ってこともあるみたいです。もちろんカインさんの場合には防御性能のステータスもかなり上がっているとは思いますが。」


「俺達二人だと結局防御はカインに任せっぱなしだったからな。1年半くらいずっと防御任せてたことになるし…」


「あー、そんなになってたか、俺ステータス確認とかめったにしねぇからな!はっはっはっ!」


「そこはしっかり確認してきなさいよ…、よくそんなんで新しいエリアに来られたわね…」


「ま、勝てたんだからいいじゃねぇか!細かいことは気にすんなよ、ミーナの嬢ちゃん!」


「それと!ずっと我慢してたけど、私もう嬢ちゃんって呼ばれるような歳じゃないから呼び方変えてほしいんだけど!」


「そんなこと気にするかねぇ…、じゃあなんて呼んでほしいんだ?」


「普通にミーナでいいわよ、Yujiみたいに。」


「おう!じゃあそう呼ばせてもらうぜミーナちゃん!」


「ちゃんって…まぁいいわ…。」


「ま、悪気はないんだ、気にしないでやってくれ。」


「なんとなく分かってたわよ…。」


「ミーナちゃんがお二人と仲良くなれてよかったです。」


くすくすと笑いながらAliceがやりとりをみている。


戦闘の余熱がまだ体に残っているうちから、卓を囲んでいるような軽口が飛び交う。二人きりの頃の戦闘後といえば、荒い息を整えながら黙々と剥ぎ取りをして、互いの無事を横目で確かめて終わりだった。同じ勝利でも、四人だと勝利の味が長持ちする。カンテラの灯りが岩壁に四人分の影を揺らしていて、悠仁はその数をなんとなく目で数えた。四つ。当たり前の数字が、まだ少しだけ新しい。


「さて、ライン鉱山初戦闘はとりあえず白星だったが、これから何があるか分からないからな、気を引き締めていこう。」


「「「おー!」」」


元気な号令をして4人はもう少し先へ進んでいくのであった。

「ジャイアントラット」(モンスター)

ライン鉱山を含め、ジメジメしていて暗い場所には大抵生息しているモンスター。長い門歯を持っており、牙と爪で攻撃をしてくる。生息している場所によっては爪に毒が含まれている場合があるので、注意が必要。鼻を突く悪臭も特性で、鼻栓をする冒険者も居るくらいである。ただ、臭いだけで状態異常になるわけではないので対策は鼻栓位しかないのが実情である。1匹~3匹程の個体で行動することが多い。

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