第一章0 『鉄格子越しの少女』
――これはまずいことになったな。
固く冷たい床は、俺の体温によって熱を帯びている。
重い手枷をつけられている両手には、まったくと言っていいほど力が入らない。
特に、この青紫色に変色した右腕。
激しく、強く、ドクドクと脈打つように痛む。
――あの子を、助けただけじゃないか。
そう呟きたくても、猿ぐつわをされているため声は出ない。
投獄するにしても、せめて独り言くらい呟かせてくれよ。
脳を蹂躙するような痛みとあの綺麗な横顔が、俺の思考を支配する。
声すら出ないため、薄暗い牢獄の中に俺の荒い鼻息だけが反響している。
――痛い、痛い、痛い。
とうとう我慢ができなくなり、俺は猿ぐつわ越しに叫び声を上げる。
こもった俺の叫び声は、無機質な石の壁にぶつかって床へと落ちる。
助けを呼ぼうにも、こんな大きさの声では外に届くはずがない。
……というかそもそも、俺が悪いとされて投獄されたのだ。
声が届いたとしても、誰も助けてくれやしないだろう。
ただ女の子を助けただけなのに、捕らえられて投獄された。
まして、殴った瞬間に俺の右腕は粉々に砕けてしまった。
撃退したのをちゃんと見てもいなかったくせに、生じた衝撃波と轟音だけで俺を『化け物』だと判断しやがったんだ。
理由なんてなかった。
気づいたら、体が動いてたんだ。
それで、考える前に殴っていた。
ああ。
俺はこれから、どうなってしまうのだろうか。
このまま、一生ここで過ごすことになるのか。
それとも、お偉いさんに首を落とされてお陀仏か。
どちらにせよ、満足な生活は送れないのか。
これはきっと夢だ。
俺が昨晩体を預けたベッドは、こんなに冷たく、固くなんてなかった。
俺はどうしてこんな牢獄なんかに――、
「――生きてる?」
「――」
ふとそんな声で我に返った俺の目の前。
透き通るようなプラチナブロンドの長髪に、アイスブルーのつり上がった瞳。
雪のように白い肌の大部分をローブで覆い、細い手でフードを上げた。
――俺があの時助けた少女が、鉄格子越しに俺の前に立っていた。




