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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第八話



 深夜12時を過ぎても眠ることのない街。

 星の瞬きもかき消すネオンの明かりに照らされて、駅に向かう大通りを行き交う人々。


「…………」


「(ど、どうしよう……犬飼君の勢いに押されて付いて来ちゃったけど……)」


 己の手を引いて、足早に前を歩く無言の彰良の背中。

 その背中に微かな怒りを感じ取り、葵はどうするべきか迷う。


「(……私より、大きな手……。

 やっぱり犬飼君も男の人なんだよね……)」


 葵よりも体温の低い、大きな無骨な手。


「(…………って!

 私はこんな時に何を考えてるのっっ!!)」


 後輩としか見ていないはずの彰良を異性として意識しそうになった己の思考に葵は動揺する。


「い、犬飼君っ!

 ちょっ、ちょっと待っ、ひゃっっ?!」


「っ?!

 立花先輩っ?!」


 己の頭に浮かんだ思考を振り払うように、彰良へと声を掛けた葵だったが、動揺した影響か足元の小さな段差に気付けなかった。


「ごっ、ごごご、ごめんなさい、犬飼君?!」


 葵の声に反応して彰良が振り返った瞬間。

 転びそうになった葵の体を正面から受け止めることになった彰良。


「い、いえ……」


 体格の良い彰良よりも遥かに華奢で柔らかな葵の体の感触に、彰良は微かに頬を染めて動揺する。

 慌てた様子で腕を突き出し、彰良から離れた葵を引き寄せかけた手を理性で押さえ込んだ。


「じ、ぶんも、すみませんでした……。

 自分が早く歩き過ぎたせいで……すみません……」


「い、犬飼君のせいじゃないから……!

 私がその……不注意だっただけで……」


「「…………」」


 お互いに謝り合う展開に、顔をしばし見合わせてどちらともなく笑ってしまう。


「犬飼君」


「はい?」


「その……怒ってますか?」


「っ……」


 ひとしきり笑い合った二人は、ゆっくりと駅に向けて歩き出す。

 近くて遠い二人の距離感に、何となくお互いに気恥ずかしさを覚えながら歩くなか、葵がおずおずと切り出した。


「…………そうですね」


「……そう、ですよね……」


「自分から罠に飛び込んだ先輩に少しだけ怒っています。

 だけどそれ以上に……先輩の性格を考えれば予測できたはずなのに、一瞬でも目を離してしまった自分に怒りを覚えています。」


「え……?」


 少し話せますか?、と駅前のベンチに葵を促す彰良。


「……先輩は、仕事でも周囲の様子を窺いながら必要な時に必要なだけのフォローが出来る人です。

 周囲に興味がないように見えて、一番周囲を見回している。

 ……自分が多少損をしても、後回しになっても、不満すら抱かない。」


「……私は、そんなに出来た人間では……」


「自分の業務を二の次、三の次にしても、嫌な顔をせずに後輩のフォローをする人は立花先輩くらいですよ。」


「……私のことを褒め過ぎではありませんか?

 (え?どこの優しい立花先輩のこと?

 それ、絶対に私じゃない。)」


 彰良のあまりにも過剰な評価に、葵は微妙な表情を浮かべてしまう。


「……あのね、犬飼君。

 私は優しくありませんよ。

 何時だって自分のことで精一杯ですから……」


「……だったら、尚更に周囲の人間を頼るべきではないでしょうか?

 少なくとも、今回の一件は一人で抱え込むには酷すぎる案件だったと自分は思います。」


「……そう、でしょうか……?」


 視線を地面に向け、拳を握って語る彰良に葵は微笑む。

 ……その微笑みは、諦めにも似た色を宿した切ないものだった。


「……助けなんて……来ません、よ……。

 (そう……助けなんて、助けてくれる人なんていない。)」


 もともと人付き合いが苦手な葵。


 小中高、どの学生時代もその他大勢の友達枠になれても、距離の近い友達なんていなかった。


 そう……広く浅く喋れる人はいても、葵は何時も一人だった。


「助けを求めるだけ……無駄ですよ。

 その、助けを求めた事実すら……笑うネタにされる……。

 (……家族に恵まれていることだけが救いだった。)」


「……立花先輩……?」


「地味で……真面目なことだけが取り柄の……私は、一人でも生きていけるように……強くなるしかないんです……。

 (……ああ……でも、うん……)」


 アルコール度数の高いカクテルを何杯も飲んだ影響か、急速な眠気に襲われ、葵は思考が途切れ始める。


「……あ、りがと……犬飼、くん……うれし、かった……なぁ……」


「えっ?!

 ちょっ、立花先輩っ?!」


 ゆっくりと彰良に向けて倒れ込んできた葵の頭。


「立花先輩っ!先輩っ!

 眠ってはいけません!

 自分は先輩の家を知らないんですよっ!」


 己の肩にもたれ掛かるように眠ってしまった葵に、彰良は慌てた様子で起こそうとする。


「…………んぅ……」


 しかし、彰良の努力虚しくアルコールの力も手伝って深い眠りに入ってしまった葵は目を覚まさない。


「…………どうしろというんだ……」


 深夜の駅前のベンチで一人?

 いや、二人ではあるものの、安心したように眠る葵に彰良は頭を抱えるのだった。

 

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