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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第五十九話

此処まで読んで頂き、心より感謝を申し上げます。

お陰さまで無事に完結を致しました。


今後は、恋人になってからの葵と彰良の物語、「その恋、賭けですよね?〜愛しているので、もう逃がしません〜」を綴っていこうと思っております。

本当にありがとうございました。



 愛する女を力の限り抱き締める。


 その腕を離したが最後、泡になって消え去ってしまうかもしれない女。


「頼む……お願いだから、俺の言葉を聞いてください……!」


「……犬飼くん?」


 ポタポタと、落ちてくる熱い雫。


 敬語も何もかも、混ざった余裕のない喋り方。


「葵先輩………ごめんなさい」


「え……?」


「俺、は……貴女を傷付けました。」


 グッと奥歯を噛み締める。


「慣れる練習とか……全部、建前なんです。

 本当は……俺が、葵先輩に触れたくて堪らなくて……俺、だけを見て欲しくて……!」


「…………それ、は……?」


「葵先輩……俺は、ずっと……葵先輩のことを女性として見ています。」


「…………う、そ……」


 目を瞬かせる。


 質の悪い嘘か、葵をからかっている?


 だが……彰良はそんなことをする男ではない。


「嘘ではありません。

 土曜日の夜……本当は、あのまま葵先輩に触りたかった。

 男の裸は見慣れてると言ったことに嫉妬しました。」


「まっ……い、いぬかい、くん……まって……」


「お断りします。」


「ひゃっ……?!」


 彰良の腕の中に収まる細い体。


 彰良から目を逸らさないように。


 本気の気持ちが伝わるように。


 顎を掬い上げ、瞳を合わせて固定する。


「……葵先輩を、大切にしたくて……怖がらせたくなくて。

 独り善がりに守ろうとして、距離を置きました。

 ……距離を置かなければ……泣いて嫌がる葵先輩を組み敷いて、全部奪ってしまいそうだった……!」


「っ……」


 ひゅっと喉が鳴る。


 隠すことのない彰良の激情に、葵の身体がこわばる。


「俺の頭の中は、葵先輩のことで一杯なんです。

 ドロドロに甘やかして、俺無しではいられなくしてやりたい……!」


「なっ……?!」


 彰良の瞳の奥で蠢く熱。


 葵という女を欲して止まない欲を孕んだ瞳。


「……傷付けたくなかったから、距離を置きました。

 でも、それで貴女を傷付けたら……意味がない。」


「…………犬飼くん……」


「葵先輩…………もう、俺のことを彰良って呼んでくれませんか……?

 俺のこと…………こんな情けない男……もう、嫌いになりましたか……?」


 懇願するような声音。


 だが……葵を抱き締める腕の力は緩まない。


「…………犬飼、くん……」


「っ…………」


 腕の力が強まる。


 逞しい胸板に顔を押し付けられる。


 息が詰まりそうになる。


「……離して」


「…………いやだ」


「……顔、みえない、し……息、くるしい……」


「っ……?!

 す、すみません!

 しなっ! 死なないでくださいっっ!!」


 葵の言葉に慌てて頭に添えていた手を離す。


 しかし、葵の腰に回った手は緩まない。


「ふはっ…………ふぅ……くるし、かった……」


「あ、その……ど、どうすれば……のみもの、いや……だが、離すのは……いやだ……」


 理性的な後輩の仮面をかなぐり捨てて、狼狽える彰良。


「(……よく見れば……ワイシャツもシワだらけだし……髪もグジャグジャで、汗でオデコがベタついてる……)」


 職場でも、自宅でも……彰良の服装が乱れた姿など見たこともない。


 世間一般的に見れば、折角の色男が台無しの情けない姿と人は言うだろう。


 だが、葵にとってその姿は……誰よりも、何よりも、格好良く……そして、愛しいと感じたのだ。


「……すき、です……」


「っ……葵、先輩……?」


 不安げに揺れる瞳。


 器用なのに、不器用で。


 お互いに言葉も、気持ちも、伝え合うことが苦手な自分達。


「……私は、犬飼く……彰良、くんが……大好き、愛してます。」


 捕まってもいい。


 全部を奪われてもいい。


 情けない姿を、余裕のない姿を晒してでも…………葵を求めてくれる、この男になら。


「あお、い……せんぱ……」


「……私の全部……もらってくれる……?」


「っ……ください!

 欲しいです……葵先輩の全部を、俺だけにくださいっ……!」


 格好悪い。

 

 必死過ぎて、情けない。


 それでも、葵が手に入るなら…………どこの誰に嘲笑われても構いはしない。


「彰良くん」


「葵先輩」


 名前を呼び合う。


 額を重ねる。


 微笑み合う。


「葵先輩……葵先輩が、最初に寝落ちした朝のことを覚えていますか?」


「……覚えているけど……?」


 重なっていた額を離し、彰良は照れくさそうに顔を横に向ける。


「あの時、約束……しましたよね?

 その……頼みごとを一つだけ、請負ってくれる、と。」


「うん……覚えているけど……?」


 迷った様子の彰良。


 決して離されることのない腕の中で、葵は首を傾げる。


「ちょっとだけ……俺に、格好つけさせてくれませんか?」


「彰良くんに……?」


「……薔薇の花束も、洒落たレストランも……女性が喜びそうな物は何一つ……準備出来ていない、情けない男ですが……」


 己の腕の中に閉じ込めた最愛の女性、葵。


 必死に走って、絶望して、やっとの思いで手に入れた彰良の掌中の玉。


「立花 葵さん、俺は貴女を愛しています。

 こんな俺ですが、死ぬまで貴女を大切にします。

 だから……どうか、結婚を前提にお付き合いをしてくれませんか……?」


「っ……」


 息を呑む。


 不安に揺れる瞳に、葵の心が吸い込まれる。


「はいっ……不束者ですが、末永く……よろしくお願いします……!」


「っ……ありがとう、ございます……!

 葵、先輩……一生を掛けて、貴女を幸せにしてみせます……!」


 固く、固く抱きしめ合った二人。


 柔らかく、優しい月の光だけが二人を包み込む。



 ――この物語は、それぞれの"恋"を賭けた物語です――


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