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≪本論・シルカ平原攻略戦・承2≫

本国はメガネがもたらしてくる覚醒効果によって、前線の冒険者達の戦闘ストレス反応は解消し、その上、戦意も高揚して、シルカ平原の攻略は大いに捗る、と考えていた。


だがしかし、その結果は惨憺たるものであった。


メガネの効果は利点だけではなかった。


副作用があり、それが致命的であった。


メガネをキメると、強烈な興奮作用によって理性が喪失し、自身の犠牲をまるで気にしなくなってしまうのである。


シルカ平原攻略は塹壕戦なので、塹壕を掘り進めて行けばいいのだが、メガネをキメた者が急に塹壕から飛び出して突撃してしまうという事件が相次いだのである。


塹壕の外はトーチカ群による爆炎弾雨の世界である。


飛び出した者の末路は何の意味もない死であった。


メガネによって多くの無駄死にが出てしまったのである。



非戦闘時以外においてもメガネの副作用は大問題となった。


効果が切れた後、異常な発汗・動悸・震えに見舞われたり、記憶障害を起こしたり、幻覚・幻聴に襲われて錯乱し、自傷他害に及ぶ者が頻出してしまったのである。



こうしたトラブルが発生した事から、前線の冒険者達は皆、メガネの使用を直ちに止めればいいのだが、そうはならなかったのである。


理由は、依存、であった。


先に述べた覚醒剤の効果であるが詰まる所、全能感・無敵感、そして多幸感という、快楽、を味わえるという事なのである。


ゆえにメガネを一度でもキメた者は脳が壊れてしまい、再びあの快楽を得たいという渇望に襲われ、メガネ中毒者〈ジャンキー〉となっていたのであった。



以上のように本国が行ったメガネの配給という政策は、前線の状況をより悪化させるだけに終わってしまったのである。


直ちにメガネの使用を禁止し、戦場からすべてのメガネを排除する必要があった。


けれども、それを指示できる立場のレイドリーダーは、あのホリエケンである。


メガネは本国の意向によってもたらされた物なので、上からの命令絶対遵守の真面目男である彼が、それを否定するような真似ができるとは到底思えなかった。


実際、メガネによる惨状をホリエケンは既に把握しているのに、何もしないでいる。


ゆえに現場の冒険者達は皆、匙を投げてしまった。


しかし一人だけ行動を起こす者がいたのである。


イェンであった。

彼は、


「メガネ排斥すべし」


とホリエケンに直談判したのである。


そうしたところ、後日、イェンはホリエケンから呼び出しを受けたのであった。


(メガネの件を善処してくれる事になったのか。ダメ元だったけど掛け合ってみてよかった)


イェンが喜び勇んでホリエケンの元へ向かうと、彼は、


「君のパーティ名だが、何で人数が10人じゃないのに十傑集なのだ。過去にも10人になった事がないそうじゃないか。紛らわしいから直ちに変更するように。これは上層部からの命令だ」


と、真面目に言ってきたのである。


確かに十傑集は結成してから今までメンバー数がぴったり10人になった事が無かった。

ベストペンギニストに選ばれた後、加入希望者が大いに増えたのだが、イェンの無差別仲間収集癖や、マクシアのダメコンが、


「付いていけない」


「どうかしてる」


「人間のする事じゃない」


「生理的に無理」


との事で、脱退していく者も多く、10人に満たなかったりオーバーしたりを繰り返していたのである。



「話は以上だ」


ホリエケンの用向きはそれで終わりであった。


メガネの件については何も無かったのである。


イェンは唖然としてしまった。


後ほど、その話を聞いた私とオウタも唖然となってしまった。

そして三人とも同じ意見を出したのである。


「これは絶対おかしい」


と。


我々現場の冒険者達のこれまでの認識は、上層部が無能であり、ホリエケンはその命令を愚直に遂行するだけの真面目男、であった。


しかし上層部がどれほど無能だとしても、戦場が大変な事態に陥っているこのタイミングで、パーティ名を変えさせろ、などという、無意味でくだらな過ぎる指示を出してくる訳が無い。


私達はこの出来事を他の冒険者達にも情報共有して、相談をし、ある決断をした。


その決断とは、組織のタブーを破る事にしたのである。


具体的には、頭越しの相談、をする事にしたのであった。


頭越しの相談とは、直属の上司であるレイドリーダーのホリエケンをすっ飛ばして、上層部に直接掛け合おうというのである。


頭越しの相談は、リーダーの面子を潰し、組織の上下関係を乱し、現場に混乱を招くため、禁じ手とされているのだが、緊急事態なので、もはやそんな事を気にしている場合ではないのであった。


頭越しの相談だからという理由で、けんもほろろに突っぱねられてしまわないよう、こちらの話をちゃんと聞いてもらえるよう、我々は上層部と縁のある冒険者を探して、その者に対応を依頼したのである。


そして、その結果を待っている間、我々は手をこまねいてはいなかった。


メガネによる甚大な被害は、更なる悪化の一途を辿っている。

可及的速やかに対処しなければならなかった。

そこで我々は、ホリエケンという人物はもはやいないものとし、彼への報連相は放棄して、前線の冒険者達だけで独自にメガネを撲滅するための運動を開始したのであった。


すなわち我々は、大魔王討滅戦争〈ワイルドハント〉の最中に


【覚醒材討滅戦争〈メガネハント〉】


という、もう一つの戦争を発動させたのである。


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