≪本論・シルカ平原攻略戦・起7≫
レイドリーダーとして我々の前に現れたホリエケンは、神経質な顔付きをした、評判通りの真面目そうな40絡みの中年男性であった。
そして我々の不安は外れる事となった。
良い意味で、ではなく、悪い意味で、である。
彼は我々の予想を大きく下回る真面目な人物だったのである。
ホリエケンは我々に対して、
「私が現れたら、どんなに忙しくとも、例え急な用事があろうと、必ず私に挨拶するように」
と命じてきたのである。
我々はその命令に従ったのだが、彼は挨拶をされても返事をせず、無視するのである。
その反応に不快感を覚え、ホリエケンが現れても気づかない振りをし、挨拶をしなくなる者達が続出したのだが、彼はそうした者達をわざわざ後ほど呼び出して、挨拶が無い事を真面目に注意するのである。
「これは上層部からの命令なのだ。私は挨拶しないが、お前たちは私にちゃんと挨拶をする。こうする事によって上下関係をわからせているのだ」
というのである。
上からの命とはいえ、リーダーのその態度に、現場の冒険者達のモチベーションはダウンした。
ホリエケンは、
「上層部からの命令だ」
と言って、合理性に欠ける指示を真面目に出してくるのである。
その内容というのが、
「最前線の塹壕内に絶えず居続けるようにしろ」
というものであった。
塹壕を掘り進める作業を行っている時は無論、最前線に居なければならないが、そうでない時は居ても無意味に魔物の脅威に晒され被害を受けるだけなので退避すべきなのが当然である。
だというのに彼は、
「一歩も下がるな」
と真面目に命じてくるのであった。
「どこのソ連国防人民委員令第227号だよ」
オウタは異世界ネタと思しきコメントをしていた。
しかもこの不合理な指示を、先の挨拶の件に関して反抗的だった者達にだけ真面目に強いてくるのである。
「これも上層部からの命令だ。反発する者は罰として冷遇せよとの事だ」
上からの命とはいえ、リーダーのその理不尽さと不公平さに、現場の冒険者達のモチベーションはダウンした。
ホリエケンは何があろうと決して危険な前線に出てくる事は無かった。
安全な後方にテントを張り、そこに椅子と机を置いて真面目に座っているだけなのである。
「上層部からの命令だ。私の身に万が一があってはならないとの事だ」
上からの命とはいえ、リーダーのその保身振りに、現場の冒険者達のモチベーションはダウンした。
ホリエケンは、どれだけ犠牲者が出ても、その事に関して無頓着であった。
「上層部からの命令だ。目的のためなら、いくら犠牲を出しても構わないとの事だ」
と真面目に言うのである。
上からの命とはいえ、リーダーのその無情さに、現場の冒険者達のモチベーションはダウンした。
ホリエケンは周囲からの諫言に対して全く聞く耳を持たなかった。
「上層部からの命令は絶対だ」
と、何を言っても頭ごなしに真面目に拒否するのである。
上からの命とはいえ、リーダーのその頑迷さに、現場の冒険者達のモチベーションはダウンした。
以上のようにホリエケンという人物は、一切の融通を利かせようとせず、ただひたすらに上層部からの命令を遂行していくだけの真面目だったのである。
ホリエケンが冒険者達に与えた影響から、彼にはある渾名が付けられた。
モチベ下男[もちべさげお]である。
冒険者の完全国営化の失敗事例からもわかるように、冒険者にとってモチベーションは特に大事であるにもかかわらず、上からの命とはいえモチベ下男は、それを真面目に下げて下げて下げて、下げまくったのである。
結果、ホリエケンというリーダーへの不信感が爆発し、それが深刻なストレッサーとなって、有無種だけが他種族より戦闘ストレス反応が酷くなってしまったのであった。




